上 下
20 / 50
二度目の人生

第20話 温もりを下さい

しおりを挟む
 リーチェが看守によって連れ出され、牢屋はまた静寂を取り戻した。すると。

「随分な騒動でしたね」

 監獄を後にしたと思っていたのに、どこに潜んでいたのか、シメオン様が現れた。彼はまた扉を開けて中に入って来る。

「シメオン様……。いらっしゃったの?」
「ええ。あなたの勇姿をしっかり拝見しました」

 くすくすと笑うシメオン様に頬が熱くなる。はしたない姿を見られた。

「隠れて覗き見だなんて趣味が悪いですわ」
「あなたが身を隠してとおっしゃったのですよ。また後で来ますとも申しました」
「うっ。それは……そうですが」

 言葉に詰まる私を見て、小さく笑ったシメオン様が私の頬に手を当てた。
 ちくりと痛みが走る。

「――大丈夫ですか? 引っかき傷が」

 気付かなかったが、どうやらリーチェに引っかかれていたらしい。

「ええ。これくらいの傷は大丈夫です」

 私はシメオン様の温かい手に自分の手を重ねると目を伏せる。けれどその甘い時間は、他でもない彼の声によって破られた。

「……アリシア様。お尋ねしたいことがあります」

 私は目を開けるとシメオン様を仰ぎ見る。

「監獄に入ってから、あなたに情報は与えられていないはずです。なぜアリシア様は、リーチェ侯爵令嬢が今日ここに来ると知っていたのですか? なぜ、ミラディア王女殿下のカップに毒が入れられていたと知っていたのですか? あなたはずっと侍女がお茶を淹れる姿を厳しい目で見守っていたと言います。まるで何かが起きることを知っていたかのように。なぜ彼女を見守って、いえ、監視していたのですか? なぜあなたは以前、そう呼んだことがあるかのように私を――名で呼んだのですか」
「っ!」

 揺るぎない彼の黒い瞳に見つめられ、私は動揺を隠せなかった。

「アリシア様。私はあなたの味方です。どうか私に事情を話していただけませんか。それとも私が信じられませんか?」
「いいえ! いいえ、いいえ。そんなことはありません。そんなことは絶対ありません」

 シメオン様は私を促すことはしない。私が話し始めるのをただ静かに待つだけだ。

「実は……」

 私は重い口を開いた。


 私はこれまでのことを全てシメオン様に打ち明けた。

「信じられないかもしれません。わたくしも信じられないくらいですし」
「いいえ。私はアリシア様を信じます」

 シメオン様は即座に信じると言ってくれた。

「しかし、では私はアリシア様を助けられなかったということですね」
「ですが、またここで会えました。神様の気まぐれかもしれません。けれどわたくしたちは確かにまたここで会うことができたのです」
「……っ、アリシア様」

 私はシメオン様に抱かれ、大きな温もりに包まれる。今度こそは監獄を出て、この温もりの中に戻りたい。

「――さあ。シメオン様、もう行ってください」

 そっとシメオン様の胸を押し返すが、力強い腕で引き戻される。

「いいえ。離したくありません」
「わたくしも離れたくありません。ですが、ここにいては何もできないのです。分かってくださいますね?」
「……ええ。そうですね。申し訳ありません。私が必ずアリシア様の無実を証明してみせます」
「はい。お待ちしております。ただ」

 私はシメオン様に近付くと自分から彼に口づけをした。そしてすぐに離れる。

「前回は最後、シメオン様の温もりを頂けないまま、二度と触れ合えなかったのです。だから今回は、次に会うまでこの温もりを唇に残しておきたいのです」
「アリシア様……。ええ。必ずまたあなたをこうして抱きしめます。それまでどうか私の温もりを覚えていてください」

 そう言ってシメオン様が約束とばかりに私に熱く口づけしてくれた。

 ――けれど。
 今回もその約束は果たされそうになかった。数日後、殿下とリーチェが来たからだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

恋を再び

Rj
恋愛
政略結婚した妻のヘザーから恋人と一緒になりたいからと離婚を切りだされたリオ。妻に政略結婚の相手以外の感情はもっていないが離婚するのは面倒くさい。幼馴染みに妻へのあてつけにと押しつけられた偽の恋人役のカレンと出会い、リオは二度と人を好きにならないと捨てた心をとりもどしていく。 本編十二話+番外編三話。

かつて番に婚約者を奪われた公爵令嬢は『運命の番』なんてお断りです。なのに獣人国の王が『お前が運命の番だ』と求婚して来ます

神崎 ルナ
恋愛
「運命の番に出会ったからローズ、君との婚約は解消する」  ローズ・ファラント公爵令嬢は婚約者のエドモンド・ザックランド公爵令息にそう言われて婚約を解消されてしまう。  ローズの居るマトアニア王国は獣人国シュガルトと隣接しているため、数は少ないがそういった可能性はあった。  だが、今回の婚約は幼い頃から決められた政略結婚である。  当然契約違反をしたエドモンド側が違約金を支払うと思われたが――。 「違約金? 何のことだい? お互いのうちどちらかがもし『運命の番』に出会ったら円満に解消すること、って書いてあるじゃないか」  確かにエドモンドの言葉通りその文面はあったが、タイミングが良すぎた。  ここ数年、ザックランド公爵家の領地では不作が続き、ファラント公爵家が援助をしていたのである。  その領地が持ち直したところでこの『運命の番』騒動である。  だが、一応理には適っているため、ローズは婚約解消に応じることとなる。  そして――。  とあることを切っ掛けに、ローズはファラント公爵領の中でもまだ発展途上の領地の領地代理として忙しく日々を送っていた。  そして半年が過ぎようとしていた頃。  拙いところはあるが、少しずつ治める側としての知識や社交術を身に付けつつあったローズの前に一人の獣人が現れた。  その獣人はいきなりローズのことを『お前が運命の番だ』と言ってきて。        ※『運命の番』に関する独自解釈がありますm(__)m

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

それは報われない恋のはずだった

ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう? 私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。 それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。 忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。 「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」 主人公 カミラ・フォーテール 異母妹 リリア・フォーテール

【完結】名ばかり婚約者だった王子様、実は私の事を愛していたらしい ~全て奪われ何もかも失って死に戻ってみたら~

Rohdea
恋愛
───私は名前も居場所も全てを奪われ失い、そして、死んだはず……なのに!? 公爵令嬢のドロレスは、両親から愛され幸せな生活を送っていた。 そんなドロレスのたった一つの不満は婚約者の王子様。 王家と家の約束で生まれた時から婚約が決定していたその王子、アレクサンドルは、 人前にも現れない、ドロレスと会わない、何もしてくれない名ばかり婚約者となっていた。 そんなある日、両親が事故で帰らぬ人となり、 父の弟、叔父一家が公爵家にやって来た事でドロレスの生活は一変し、最期は殺されてしまう。 ───しかし、死んだはずのドロレスが目を覚ますと、何故か殺される前の過去に戻っていた。 (残された時間は少ないけれど、今度は殺されたりなんかしない!) 過去に戻ったドロレスは、 両親が親しみを込めて呼んでくれていた愛称“ローラ”を名乗り、 未来を変えて今度は殺されたりしないよう生きていく事を決意する。 そして、そんなドロレス改め“ローラ”を助けてくれたのは、名ばかり婚約者だった王子アレクサンドル……!?

婚約白紙?上等です!ローゼリアはみんなが思うほど弱くない!

志波 連
恋愛
伯爵令嬢として生まれたローゼリア・ワンドは婚約者であり同じ家で暮らしてきたひとつ年上のアランと隣国から留学してきた王女が恋をしていることを知る。信じ切っていたアランとの未来に決別したローゼリアは、友人たちの支えによって、自分の道をみつけて自立していくのだった。 親たちが子供のためを思い敷いた人生のレールは、子供の自由を奪い苦しめてしまうこともあります。自分を見つめ直し、悩み傷つきながらも自らの手で人生を切り開いていく少女の成長物語です。 本作は小説家になろう及びツギクルにも投稿しています。

処理中です...