プルートの逆襲

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五. 2310年 アステロイドベルト

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 地球の外側隣の惑星である火星軌道と更にその外側隣にある木星軌道の間には、地球と太陽との距離にして2~3倍の空間帯域があって、そこには通常の惑星は存在しない。
 しかし、質量にして最大でも地球質量の1/5000以下、大きさにして半径500km以下のいわゆる小惑星が多数存在し、確認されているものだけでも1万個以上に達する。その総数は10万個~100万個とも推定されていた。その帯域は、小惑星の帯、すなわちアステロイドベルトと呼ばれていた。
 主なものはその発見順に、セレス、パラス、ジュノ、ベスタなどであるが、最大のセレスでも、直径900km強、平均密度は2~3g/cm3程度であった。
太陽系ができる時に、おそらく木星の強大な重力圏による摂動と呼ばれる星と星との相互作用の結果、微小な惑星の集積過程の途中のままの原始惑星ないしその分裂破片になったと見られている。
 火星と木星の間にあるアステロイドベルトは、人類による宇宙進出にとってかけがえのない大きな存在であった。
というのは、人類が安定して生活できる条件として、重力が地球とほぼ同等であるということが必要条件となる。地球以外の惑星や衛星の重力が地球と同じということはほとんど考えられないので、宇宙空間で生活するには遠心力で作り出す人工の重力を制御できるスペースコロニーの存在が不可欠であった。
 そのスペースコロニーを建設しやすいのが惑星とその天然衛星との重力バランスがとれたラグランジェポイントである。そのポイントへ、建築資材を運ぶのに天然の惑星や天然の衛星からだと常にその重力を突破して運搬しなくてはならない。
 そこで、広範囲ではあるが重力を無視できる10万~100万個も存在する小さな小惑星から原材料を運搬するのであればほとんど重力の抵抗なく利用することができるからである。
 宇宙空間では、遠い距離であっても、最初の一押しさえできれば、どんな重いものも、最初のスピードで動き続けることができるので、最初の一押しをしっかり計算して行えば、案外目的地に物資を運ぶことは簡単にできる。もっとも、物資の最初の一押しと目的地での停止操作には、原子力などの量子エネルギーを使う必要はあった。
 例えば、怪力の人がいて、宇宙空間で本当に物資を一押しすると、その怪力の人は、作用反作用で反対方向へ動いて行ってしまうからであった。

 2300年代に入って、アステロイドベルトを拠点とする運送、郵便、宅急便、行商なども着手されはいじめていた。そして、アステロイドベルトでのビジネスが活発化してくれば、そこでのスペースコロニー建設も活発化し、人工衛星ならぬ人工惑星型スペースコロニー建設ラッシュもはじまった。人類のふるさとは太陽系でのアステロイドベルト内と定義される日も近づきつつあった。

 2310年9月25日、今後人類の生活圏が小惑星帯へ拡大されていくにあたり、7人の政治家とその取り巻きの一団が小惑星帯の研究所を中心に視察のハシゴを行なった。
 その視察団は、宇宙船でのハシゴの最後に、小惑星ユーフロシーネに着陸し、その鉱山を視察していた。その時、突然惑星の一部が吹き飛ぶような大爆発が発生し、7人の政治家とその取り巻きの一団のほとんどの人々の命が失われた。反国連統治派組織によるテロによる犯行声明が報じられた。
 国連のスペースパトロール隊もテロに対して懸命の捜査を遂行したが、犯人を捕まえることはできなかった。政治家の中には、次期国連事務総長有力候補者と対立する政党の主力2人も含まれていた。
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