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ローレシアン王国鎮圧編

事前準備

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「というわけで、まずはクラーゴン司令から、サーニャさんとバグラムの機械槍を借りましょう」
「……次は……大老ミイから……月影貰い……王家の宝物庫……開けて貰う……」
二人は作戦会議の最後に、必要な二つのことを念押ししてくる。
月影とは女王ミサキの部屋の前にあった刀だ。
「サーニャと槍は南部の第二王子領。宝物庫は、王都中央城だよな」
「確認したところ、クラーゴン司令は第二王子領から動いては居ないようです」
「……タカユキ様……待ってる……」
そうか。クラーゴンも俺が単に居なくなったわけではないと見抜いていたのか。
いやしかし、ちょっと今思ったんだが……。
「マガルヴァナを探しに行くとは、伝えていたよな?
 地獄とか黄泉が、時間の流れ違うって言うのは、王族でも知らないの?」
アルデハイトはフッと笑い。王都の方角を見ながら
「人間どもは、無駄に信心深いですからね。近寄りもしませんよ。
 きちんと調査したのは、人間関係者では、スガ様が初めてじゃないですかね」
アルデハイトの人間を心底バカにした含み笑い、久しぶりに見たな……。
と思いながら、マイカを見てさらに意見を求める。
「……娘である……大老ミイ……は……知っている……はず……でも……」
「あえて言わなかったのか」
「……そう……これ……トップシークレット……」
「隠している意味が分からんのだが」
「……あの世……身近にある……その事実……秩序乱す……」
まあ確かに、死んだらまとめて、あんな分け分からん世界に送られるとか
一生知らない方がいいような気がする。
「あの山だけじゃありませんよ。冥界への入り口は世界各地にあります。
 場所や入り口の形態は様々ですが、たどり着くところは同じです」
「……他種族用の……穴も……かなりある……」
「死んだら、魂がそれらの穴に吸い込まれます」
アルデハイトはそれだけ言うと、虹色のレインコートを羽織り始めた。
マイカは残して行く仲間たちへの書き置きを素早く書き始めている。
喋るより書いているスピードの方が速いんだな。
俺も着込んだり彗星剣を腰に携えながら、チラチラ見ていると
「……よし……できた……ミーシャたち……ここ……居る方がいい」
「そうだな。ラングラールと本気で戦うからな。
 結婚前の妹を怪我させるのは嫌だ」
ゲームで例えるなら、レベルの高く破壊力のあるメンバーだけ
揃えた状態で今回は挑むらしい。
マイカは物理的破壊力はさっぱり無いが
間違いなく知識と発想力だけはピカ一である。
いつのまにかアルデハイトとダブルで俺の指南役みたいな位置に納まっている。
時々、俺はこいつが人間というか生き物ですらないような気がしてくる。
……気のせいだとは思うが。

準備が出来た俺たちは、女将に「数日間出てきます」と断り
村はずれの人けが無いところまで歩いてから
アルデハイトの身体に、マイカと俺を縄で括りつけて、粉雪の中を飛び立つ。
俺はいつものように手と手を括りつけていて、今回はマイカは背中だ。
「南東に向かいます。まずはクラーゴン司令に挨拶から始めましょう」
「了解。しかし一面雪景色だな」
「……南下すると……薄れて行く……北部……雪……多い」
第四王子領の一面雪景色の山々や平野を眼下に見ながら俺たちは飛んでいく。
「しかし、分かってはいましたが、人間とは愚かなものです」
アルデハイトが呟く。妙に悟ったような雰囲気があるのは気のせいか。
そう思いながら
「間抜けだから、楽しくていいんじゃないか?
 それに周りに修正する人が居れば、愚かでもいつか賢くなるだろ」
バカなガキなりの青臭い意見かもしれないが
みんな、そうであってほしい。
「……タカユキ様……がんばれ……喝入れろ……」
「ふふっ。お優しいのですね」
「間違ったって、何度でもやり直したらいいじゃないか」
俺は中学の野球部監督の恩師にはそう教わってきた。
「そうですね。ラングラール様の過ちを正しに行きますか」
アルデハイトは微笑みながら、第二王子領へとスピードを速めて飛び始める。
俺は不意に山根鏡歌のことを思いだす。
もし、少し前にこんな気持ちになれていたら
俺は山口と協力して、学校であいつを救ってやれたのかな。
いろんな人に会って、色んなものを見て
自分で少しだとしても考えて選んで、生きてみて
最近何か、こんな気持ちが出てきた。
死とか、過去とか、どうにもならんことがあるからこそ
未来に他人にできることがあれば、やってやりたいような……。
いや、わかんねぇや。どう考えてもかっこつけてるよな……。
田舎のガキが何考えてんのかな……はは、まぁ、やれることをやろう。

三時間ほどで、第二王子領南端のマルガ城までたどり着いた。
さすがにローレシアン最南端なので、
雪は微塵も無いが、真っ青に晴れているのに微妙に寒い。
感覚が自動調整される流れ人の俺が感じるということは
大したことないのだろうが寒いのは嫌だ。
冥界にいくまでは夏前だったのに、真冬である。
戦乱とライグァークに壊された城は復興が進んでいるようで
破壊された城壁なども修復がされつつある。
「下から行くと色々と面倒なので、執務室に直接入りますね」
アルデハイトが城の中心部の上階で開いている窓を指差して言う。
マイカは先ほどからアルデハイトの背中で寝息をたてている。
「いいよ。窓割らないでくれよ」
「もちろんです」
アルデハイトは注意深くホバリングしながら城の高層へとに近寄って行き
窓を大きく開けると、俺をまずは中へと入れ
それから身体を上手く折り曲げて、マイかごと入って行く。
「居ませんね」
「そうだな。ここだよな」
俺は見回す。重厚な家具が置かれていて
重そうな古びたデスクがあり、荒涼とした風景画が飾られている。
黒皮のソファにマイカを寝かせて、俺とアルデハイトもそれぞれその両端に座り
クラーゴンが来るのを待つ。
「この城はのんびりしてますね。さすがクラーゴン司令と言うべきか」
「確かに兵士たちも殺気だってはいないな」
「タカユキ様が自分を頼ってくる所まで、読んでいるのですよ」
「そうかなぁ」
アルデハイトは執務室の扉を見つめだした。
外からドタドタと鎧のすれる音がして、いきなり扉が蹴り開けられる。
「何者だ!!!」「名を名乗れ!!」
槍をこちらに向ける物々しい重装兵たちの向こうで
背伸びしてこっちを見ている
軍帽を被った眼鏡のクラーゴンの顔が見えたので、
俺たちはそっちを見て、手を振った。
すぐに気付いたクラーゴンが重装兵たちを廊下へと引かせ
執務室の扉を閉めると、こちらへと駆け寄ってくる。

ソファから力強く抱き上げられた俺は持ち上げられ抱きしめられる。
「よかったぁ……私の読みはまちがってなかったわぁ」
このオネェ言葉も久々だなぁ。と思いながら
俺は髭剃り跡がジョリジョリしている頬で
頬ずりしてくるクラーゴンの為すがままにされている。
半年行方不明になっていたわけだから、まぁ、このくらいはしかたないわな。

そのまましばらく再開の喜びを強い抱擁で表したクラーゴンに付き合った後に
落ち着いたところで俺たちはソファに座り話し始めることにした。
マイカはまだスヤスヤと寝ている。疲れていたようだ。
「黄泉でしょ?」
とクラーゴンは開口一番、アルデハイトに向かって言う。
「そうですね。なので半ラグヌス(年)かかりました」
アルデハイトは微笑みながら答える。
クラーゴンが話をするに足る相手なのが嬉しいようだ。
「よかったぁ……当たってたわ。ほら、上は情報寄こさないじゃない」
「ふふっ」
アルデハイトは何も答えずに微笑み返す。
「黄泉のこと知ってるのは、サーニャちゃんと私だけよ」
「それは助かります。彼女と機械槍をお借りしてよいですか?」
「いいわよ。サーニャちゃんには持たさないでね」
「勿論です。タカユキ様が使います」
「両方やっちゃうの?」
「はい。できるだけ短い時間で終わらせたいと思います」
アルデハイトとクラーゴンは予め分かっていたように
スムーズに会話を進めていく。
二人とも有能だなぁ。黙っていたほうがいいな。
と思いながら俺は見ているだけである。
「王子二人はあなた達なら楽勝だけど、魔族の方が厄介でしょ?
 モルシュタイン閣下が出てきたという噂よ」
「モル様ですか……」
俺が誰だそれ、という顔をしていると
クラーゴンが説明してくれる。
「戦闘の達人です。我が国の国防軍大将ですね」
「何かやばそうな感じはするな」
魔族の軍人の元締めか……どんだけ強いんだろうか……。
「七千の屈強な魔族兵と共に
 元第一王子領と国王領との国境線ギリギリで、攻め込む機を窺っているわ。
 スガ様にコテンパンにやられたのを、まだ根に持っているという噂よ」
「でしょうねぇ……お身体の傷をわざと治されないくらいですから」
アルデハイトはさもありなんと言った顔をする。
うむ。心に留めておこう。舐めたらやばそうだ。
「おそらく、タカユキ様が帰ってきたのが伝わると
 私にも本国から帰還命令が出ると思います」
「帰還命令?」
「ええ。この仕事を請け負った時の契約で
 こういう事態に陥った時は、帰還するように決められています」
「そうなのか」
「できれば、その前に事態を収拾したいですね。
 善良な魔族国市民としては、国から帰還命令が出たら、やはり従わざるえませんから」
アルデハイトは微妙な言いまわしで、心情をクラーゴンに明かす。
善良かどうかはわりと異論があるが
ちゃんとした大人であろうとしているんだなと俺は思う。
「大変よね。民主主義社会っていうんでしょ?」
「我々は権利を保障されている代わりに、
 国家のためにある程度の責務も果たさねばならぬのです。
 もちろん強制ではありませんが、故に誇り高いということでもあります」
アルデハイトは自らの不安を打ち消すように胸を張った。
それを見たクラーゴンは眼鏡のずれを直し、しばらく考えてから
「サーニャちゃんはクァーク要塞に待機させているわよ。機械槍もそこにあるわ」
「分かりました。では、向かいますね」
会話を打ち切ったアルデハイトは起きないマイカを背負い
俺がマイカを縄で素早くその背中に括りつけ終わると
差し出した俺の手を自らの左腕に器用に括って
クラーゴンに一礼してから翼を広げ、再び、執務室の窓から飛び立とうとした。
「飛べるって便利ねぇ……私も魔族とお友達になろうかしら……」
と羨ましくしているクラーゴンに
「いつか良い人を紹介しますよ」
アルデハイトは微笑んで言ってから、俺の手を握ったまま
窓から飛び降りて、翼を広げて晴れた冬空へと上昇して行く。
「北の要塞へと向かいます」
俺は空いた手でマフラーを巻きなおして
アルデハイトからぶら下げられながら、北へと向かう。
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