上 下
20 / 90
ローレシアン王国編

メイドたち

しおりを挟む
崖を降り切った俺たちは、暗くなっていく中
がけ下の平野を西側に歩いていく。
馬に乗ったルーナムに先導され
ライオネルに乗ったミーシャ、徒歩の俺と元盗賊団たち
そしてライガスが寝かされている馬車をパナスが御者をして進ませる。
薄暗闇の目前に城を中心にした巨大都市が見える。
「うむ。いい感じに暗くなってきました」
馬上のルーナムが、前を見ながら頷く。
「多少、北東側に逸れましょう。
 そのまま街に入り、さらに歩けば、城の裏門側につくはずです」
「了解ですぜ。ルーナムさんに俺たちはついてくぜぇ」
徒歩のザルガスが調子を合わせて、俺の顔を見て頷く。
そのまま俺たち十七人とルーナムは進み続け。
日が西の空へと完全に沈み、辺りが暗くなると思いきや
巨大都市ホワイトリールの街の灯が周囲を照らした。
「昼間みたいに明るいね」
ミーシャが不思議そうな顔をしている。馬のライオネルもどこか怪訝そうだ。
「ローレシアンの主要都市は皆こんな感じですよ」
とルーナムが馬上から微笑む。
俺たちは、麦や野菜が生い茂る、穀倉地帯をぬけて
ホワイトリールの裏街へと入っていく。
「ここが裏街なのか……」
元盗賊団の面々が口々に驚きを口にする。
綺麗なレンガや、石壁で造られた家々はどれも汚れておらず
道行く人々も小奇麗で皆幸せそうな顔をしている。
数々の戦闘や旅で薄汚れている俺たちの方が浮いている感じだ。
「一ダール(時間)くらい歩けば城門にたどり着きます。
 迎えの者も待たせておりますよ」
ルーナムは自らの旅装の埃を掃い、手ぐしで髪を整える。
「兄さん、世界って広いんだねぇ……」
ミーシャは煌々とした街灯に
照らされた店や家々を物珍しげにキョロキョロと見回す。
「妹様は、ドレスなど着られますか?」
ルーナムが馬を寄せて、不意にミーシャに訊く。
「わっ、わたし!?きっきっ着たことないよ!」
ミーシャが被っているバンダナをずらしながら
両腕を必死に振って否定する。
「ふーむ。謁見の時のため、この城で慣れてもらいますか……」
ルーナムは馬上で考え込んでいる。
裏町の中心部を通り過ぎるときに

巨大な鎧を着て、長槍を槍投げの態勢で持った
精悍な石像が建っていた。

それに通り過ぎる人々が次々に手を合わせて頭を下たり、花を捧げたりしているのを
見かけた俺は妙に気になってルーナムに
「あれは?神様の像?それとも英雄か?」
と尋ねる。ルーナムは一瞬慌てた顔をすぐに消して
「……英雄様ですね。数十ラグヌス(年)前に我が国の危機を救ったお方です」
そのやりとりを目ざとく見ていたらしいザルガスが
「知識のモーラ!!あの像は何だ!!」
と後方の元盗賊団たちに叫ぶ。
すぐに猫背で頭巾のモーラが前方に出てきて
「ううむ……」
と唸ると、素早く石像の方へと走っていく。
そして立ち止まった俺たちのところへとすぐに帰ってくると
「御頭、少しお話があります」
とザルガスと何やら歩きながら話し込みだした。
「わかった。戻っていい。助かった」
話が終わるとモーラは一礼してから後方へと戻っていく。
「ルーナムさん……あとで旦那と三人で、ちょっといいか?」
ザルガスが馬上のルーナムを見上げながら声をかけ。
「わかりました。城内でゆっくりとお話しましょう」
とルーナムは仕方無さそうに頷く。

さらに歩き続けると、水の張られたお掘りに囲まれた巨大な城門が見えてくる。
「うむ。皆来ておるな」
ルーナムは城門前のお堀にかかった大きなつり橋にかがり火に照らされて
ズラッと横に並んだメイドたちに目を緩ませる。
「ザルガス殿、皆大事な我が部下達です。
 お体へのご奉仕がお入れ用ならば、他でご用意させますので、大事にお扱いください」
「……ぶっ、がっはっは!!うちの部下は山賊なんてやってたわりに
 変わりもんばかりでな。
 そういうのより、本人たちの希望を訊いて
 本やら、珍品、それに旨いもんを沢山用意させてやってくれ!」
意外な忠告に噴出したザルガスに、ルーナムはほっとした表情で
「助かります」
と呟いた。
俺たちが近づいていくと、一列に並んだメイドたちの中で
「みんな、いくよーっ!!せーのっ!!」
青い髪でショートヘアーの少女が声掛けをして

「ようこそっ!!ホワイトリール城へ!!」

と二十人ほどの元気の良さそうなメイドたちが一斉に笑顔で頭を下げる。
「おお!!女だ!!活きの良さそうな女たちの声だ!!」
衰弱していたはずのピンクモヒカンのライガスが
馬車の中からいきなり起き上がって飛び降りて
メイドたちの方へと全力で走っていく。
「すまん、ルーナムさん。あいつだけは例外だったわ……」
「……一人なら何とかなるでしょう」
ルーナムは手を広げながらため息をついた。

結局、駆け寄ったライガスは一番体格の良い
女子プロレスラーのような筋肉質な二人のメイドに瞬時に捕まり
両腕を掴まれて嘆きながら城の中へと連れていかれていった。
ザルガスや、元盗賊団の皆にもそれぞれ、一人ずつ
担当のメイドがついたようだ。
最初に声掛けをした青髪の少女メイドが
「タジマさまー、タジマタカユキさまはどこですかーっ」
と俺を探して、ライオネルから素早く降りたミーシャが
「タジマさまはいませーんっ!」
と俺の前に闘争心むき出しで立ちふさがる。
それを見かねたルーナムが
「ミーシャさんすいません、タジマ様はここだ。くれぐれも失礼のないように」
と一言告げて、元盗賊団たちをメイドたちと共に城内へと誘う。
「がるるるるっ」
何故か俺の前で、戦闘態勢をとり、
威嚇するように唸っているミーシャに困惑しながら
その少女はミーシャの頭越しに名前を告げた。
「アルナと申します。身の回りのお世話するようにルーナム様から申し付けられました」
「兄さんのお世話は私がするからいりませーんっ」
「そうは言われましても……」
困惑している。アルナの後ろに立つ何かに気付いたライオネルが
「バヒヒッ」
と大きく嘶く、良く見ると隣にボーっとした
長い黒髪でアルナとまったく同じメイド服の、眉の太い小柄な少女が
ライオネルを見上げながら立っていた。
「うま……いいな……うま……のりたい」
「マイカ!!失礼でしょ。すいません!この子、トロくて」
マイカの隣に並んだアルナは、マイカの頭を抑えて無理やり俺たちに
頭を下げさせ、自分も必死に下げる。
「……ふーっ、いいよいいよ。たぶん、おない年くらいでしょ?」
マイカの異常にスローな態度に、
すっかり毒気を抜かれたミーシャが近寄って優しく尋ねる。
「あなたが私の担当なの?」
「ミーシャ・タジマさま……担当……きさま……か……」
いきなり貴様呼ばわりされたミーシャが面喰いながら
「そ、そうだよ……わ、わたしだよっ……ミーシャです……」
「ミーシャさま……ご、案内します……」
「よ……よろしくぅ……」
肩を落としたミーシャが、マイカと二人でライオネルに乗って
つり橋を渡り、城内へと消えていく。
周りを見回すと、俺とアルナだけになった。
アルナも周囲を見回して、自分たちだけが遅れたのに気付き
焦った様子で喋る。
「タジマさま!!ごっご案内、い、いたしましゅ!!」
緊張しすぎてかんだらしいその少女に、俺は余裕をもって
「気楽に行こうよ。ゆっくりでいいよ俺は」
穏やかに返してあげる。ここまで動き詰めだ、安全なところについたようだし
そろそろ休みたい。
「すいません……初めてのお世話が……まさか、
 流れ人様担当だなんて思わなくって」
そして少女はつい漏れたらしいその言葉に気付くと、必死に口に両手を当て
「あっ、あっ、今のはなんでもないですっ」
と慌てふためき、一人で城の方へと駆け出す。
「おーい……案内はー……」
置いていかれた俺の方へと、真っ赤になったアルナは再び駆けて戻ってきた。
「すっ、すいませ……」
今度は俺の腕を掴んで足早に城内へと歩き出す。
俺は、ずいぶん強引かつ、漫画の中でしか見たことのない極端なドジッ子ぷりに
呆れていいのか、面白がっていいのか困惑しつつも
目前の高い城壁と高い塔が幾つもそびえる
巨大なホワイトリール城を、見上げながら、その中へと入っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜

和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。 与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。 だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。 地道に進む予定です。

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...