上 下
22 / 133
バルナングス共和国編

味覚の妥協点

しおりを挟む
その後、何日も俺たちは西へと進んで行く。
幾つもの街や村を通り過ぎて
ファイナの我がままにも、何とか応えながらである。
楽しい旅に満足なファイナは次第にキラキラしてきて
対照的に世話をしている俺とバムはボロボロにくすみながら
何とか、ようやくバルナングス共和国との境目にある。
ドラバディーの関所へとたどり着いた。
そうなのである、今までエルディーン王国の領地だったのだ。
良く捕まらなかったなと思う。

関所とは言え、峡谷に挟まった巨大城塞のような造りで
開きっぱなしの門には、旅人の行列が出来ている。
その最後尾に並んで、三人で待つ。
「わたくし、旅人として一流になりつつあると
 日々実感しています。これほどの経験は中々ありえませんわ」
「そうですか……」

一人で自分の話を喋りまくるファイナの話を
いつものことなのでバムと適当に聞き流していると
列が前へと進んで行く。
関所内へと入り、厳つい役人に通行証を三人分見せると
「通って良し」
とあっさり言われたときは、彼が天使に見えた。

これで俺たちは新しい国に入って
捕まることは無くなるのである。
気がずいぶん楽になった俺たちは、さらに西へと進んで行き
バルナングス共和国の首都を目指す。
このまままっすぐ西へ行けば辿り着くと
バムからは言われた。

関所を越えて歩いていると、陽が沈みだしたので
近くの村に宿を取って
そこで休むことにする。
風呂は無いので、濡れタオルで身体を拭いて
そして宿の調理場を使わせてもらって
俺たちの分と、ファイナの分の二種類の味の
作り置きを同時に作っていく。

「ああ、こっちの鍋は良い匂いなのに、こちらは……」
やはりファイナは、俺たちの味覚には中々慣れないらしい。
彼女は途中で、宿泊室へと去って行った。
「そう言えば、冷えた麦飯のおにぎりは
 ファイナは食べられたよな」
ふと思い出しので言ってみると、バムは頷いて

「鮮度が落ちていたからかもしれません。
 もしかすると、そこを突けば、案外ファイナさんと
 私たちの味覚の妥協点があるかもしれませんね」
「納豆とかどうだろうか。俺の国の食べ物なんだけど
 腐った豆なんだ。でも特殊な製法で食えるし
 慣れたらこれが美味いんだよ」

バムは考え込む。
「だとすると、腐ってても食べられる食べ物や
 冷えてても美味しいもの、その辺りを探求すれば
 私たちが美味しくて、この世界の人たちも
 納得するような料理が……」
「そういえば、チーズとかあるの、この世界は?」

「あります。あ、確かに……発酵乳食品は、味付けの無いものは……」
バムは気づいた顔をする。
「味がもしかして変わらない?」
「はい。スパイスなどで味付けが入るとダメですが
 素のままのものは、例えばお酒とかもわりと飲めますね……」

なんとなく俺たちが目指す方向性が見えてきた気がする。
発酵食品などで、二つの味覚の妥協点を探るのだ。
もう小石と生ゴミで、優勝を目指したくはない。
「料理の研究には、ファイナを使おう。あの子に食べて貰って
 確認すればいい」
「そうですね。大いに役に立ってもらいましょう!」

その後、深夜まで二人で、良い雰囲気の中、作業して
一緒にベッドインは……当然しなかった。
しかも一つしかないベッドはファイナが占有していたので
俺とバムはいつものように寝袋で寝ることになる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

アラフォー料理人が始める異世界スローライフ

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日突然、異世界転移してしまった料理人のタツマ。 わけもわからないまま、異世界で生活を送り……次第に自分のやりたいこと、したかったことを思い出す。 それは料理を通して皆を笑顔にすること、自分がしてもらったように貧しい子達にお腹いっぱいになって貰うことだった。 男は異世界にて、フェンリルや仲間たちと共に穏やかなに過ごしていく。 いずれ、最強の料理人と呼ばれるその日まで。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

知識を従え異世界へ

式田レイ
ファンタジー
何の取り柄もない嵐山コルトが本と出会い、なんの因果か事故に遭い死んでしまった。これが幸運なのか異世界に転生し、冒険の旅をしていろいろな人に合い成長する。

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

処理中です...