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ぱちぱちぱち
焚火で火が燃える音がする。その近くで簡易のまな板とナイフで調理をする女性を見かけてグリフィスは足を止めた。そして彼女のもとへと行き先を変えた。
「リーア、夕食の準備、一人でやってるの?俺も手伝うよ」
「え、グリフィス。さっきまで武器の手入れしていたでしょ?」
「ああ、それは終わった。あ、そうだ破けたローブ繕い終えたよ、はい。」
手渡されたローブを受け取った巫女のリーアは無言でそれを見下ろす。
丁寧に繕われたローブはリーアが繕うより何倍も仕上がりがいい。
手を動かす作業を止めていたらいつの間にかリーアの使っていたナイフはグリフィスの手に収まりリーア以上の手さばきで肉をさばき、夕食の準備をしていく。
その手際にリーアは感銘を受ける。
「すごいわ、グリフィスってなんでもできるのね」
「はは、ただの器用貧乏。おれ貧乏な家の出だからね。こういうの慣れてるだけ」
リーアにとっては率直な誉め言葉だったのだが、グリフィスには伝わらなかったらしく
彼はちっとも喜ばず、それどころか恥じ入るように苦笑を浮かべた。
「リーアは疲れてるんだからこういう雑事は俺がやるから、気軽に言って」
「疲れているって、それはグリフィスも一緒でしょ?」
「…、俺はいいんだ。…少しでもみんなの役に立たないと、な。」
「グリフィス。…それは。」
リーアが何か言いかけたが、それを遮るようにグリフィスが手をぱんぱんと叩いた。
「ほい、夕食の準備完了。あとは煮込めば完成。」
用事を終えたグリフィスは立ち上がると現れた時と同様に立ち止まらずに
すぐさまどこかへあるいて去って行ってしまった。
グリフィスは今、魔王を倒す旅をする勇者一行の中のメンバーにいる。
勇者のメンバーはどれも強力で異種族も多く、能力の高いものが多い。
その中でグリフィスは古参の一人で、メンバーの信頼も厚い。
そして数少ない勇者と同じ人間だ。
そんなグリフィスが本領を発揮するのは悲しきかな
戦闘ではなく、その戦いが終わった後の野宿の際だ。
彼は慣れた手つきでテントを張っていき、火をおこし水を貯め
料理をし、風呂を沸かし、時には音楽さえも奏でメンバーを労わる。
戦闘で疲れ切った後、さり気なく癒してくれるグリフィスは
密かに勇者のパーティーで勇者と同じくらい慕われている存在だった。
「はあ、今日も雑用はだいたいおわったかな。」
パーティーの野宿場所も決めて準備に歩き回っていたグリフィスは息を吐くと
肩をもみ、満天の星の輝く空を見上げた。
『…おれはあと、一体なにができるだろう。』
夜の月は優しく平等に万人を見下ろしていた。
ぱちぱちぱち
焚火で火が燃える音がする。その近くで簡易のまな板とナイフで調理をする女性を見かけてグリフィスは足を止めた。そして彼女のもとへと行き先を変えた。
「リーア、夕食の準備、一人でやってるの?俺も手伝うよ」
「え、グリフィス。さっきまで武器の手入れしていたでしょ?」
「ああ、それは終わった。あ、そうだ破けたローブ繕い終えたよ、はい。」
手渡されたローブを受け取った巫女のリーアは無言でそれを見下ろす。
丁寧に繕われたローブはリーアが繕うより何倍も仕上がりがいい。
手を動かす作業を止めていたらいつの間にかリーアの使っていたナイフはグリフィスの手に収まりリーア以上の手さばきで肉をさばき、夕食の準備をしていく。
その手際にリーアは感銘を受ける。
「すごいわ、グリフィスってなんでもできるのね」
「はは、ただの器用貧乏。おれ貧乏な家の出だからね。こういうの慣れてるだけ」
リーアにとっては率直な誉め言葉だったのだが、グリフィスには伝わらなかったらしく
彼はちっとも喜ばず、それどころか恥じ入るように苦笑を浮かべた。
「リーアは疲れてるんだからこういう雑事は俺がやるから、気軽に言って」
「疲れているって、それはグリフィスも一緒でしょ?」
「…、俺はいいんだ。…少しでもみんなの役に立たないと、な。」
「グリフィス。…それは。」
リーアが何か言いかけたが、それを遮るようにグリフィスが手をぱんぱんと叩いた。
「ほい、夕食の準備完了。あとは煮込めば完成。」
用事を終えたグリフィスは立ち上がると現れた時と同様に立ち止まらずに
すぐさまどこかへあるいて去って行ってしまった。
グリフィスは今、魔王を倒す旅をする勇者一行の中のメンバーにいる。
勇者のメンバーはどれも強力で異種族も多く、能力の高いものが多い。
その中でグリフィスは古参の一人で、メンバーの信頼も厚い。
そして数少ない勇者と同じ人間だ。
そんなグリフィスが本領を発揮するのは悲しきかな
戦闘ではなく、その戦いが終わった後の野宿の際だ。
彼は慣れた手つきでテントを張っていき、火をおこし水を貯め
料理をし、風呂を沸かし、時には音楽さえも奏でメンバーを労わる。
戦闘で疲れ切った後、さり気なく癒してくれるグリフィスは
密かに勇者のパーティーで勇者と同じくらい慕われている存在だった。
「はあ、今日も雑用はだいたいおわったかな。」
パーティーの野宿場所も決めて準備に歩き回っていたグリフィスは息を吐くと
肩をもみ、満天の星の輝く空を見上げた。
『…おれはあと、一体なにができるだろう。』
夜の月は優しく平等に万人を見下ろしていた。
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