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エングラントの槍編

迷路を抜けろ

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「このフロアはどうやら小さな部屋が連続して並んでいるようだな」
 いくつかドアをくぐり抜けて次から次へと部屋を通ってきた時シュタインが言った。
 各ドアには何かしら罠が施されていて、その都度シュタインが細かい作業をしていた。
「師匠は何でも出来るんですね」
「僕は基本的に一人で行動するタイプなんだ。だから一通りのことは身についてるよ」
 五百年も生きてればそれもそうかとミカは納得した。
 とある部屋には下に向かう階段があった。シュタインはミカに地図を確認するように言った。その階段が下のフロアと繋がっているか確認するためだ。
「師匠。この階段は下のフロアの空白部分に繋がっているようです」
 オークの部屋の先は探索していないし、それ以外にも全てを探索したわけでは無い。まだ下のフロアに未探索の場所があるのだ。
「シュタイン様。下へ行っても意味がないのでは? バオホは上にいるのですよね?」
(それもそうだが……)
 シュタインは少し引っかかったが先を進む事にした。正面のドアを調べると中に入っていった。
 下に向かう階段は他にも1つあった。これもまた空白部分に繋がっていた。その階段もスルーして更に先を進むと行き止まりの部屋に着いた。部屋の端に上りの階段がある。今までの階段よりも幅が広く、角度も急で、その割にステップの高さが小さく昇りにくそうだ。
「ここで一旦休憩しよう。しかしあまり広がらないで入り口付近で休むんだ」
 シュタインは部屋の中を細かく探索した。今までの部屋もそうだが家具の類や武器、防具の類は何にも置いてない。
 床を細かく調べる。特に変わったところはない。
 しかしやはり今までの階段とは違う作りのそれが気になる。階段の下は特に怪しい仕掛けはなかった。シュタインは階段のステップを見やった。
 一人の兵士が近づいてきて言った。
「ここを昇ったら九階ですね。バオホは何階にいるのでしょうか?」
「探究者は最上階にいるものさ。エングラントの槍は十階建てだよ」
「え? まだワンフロアもあるんですか」
 兵士はあからさまに疲れたように言って、階段に腰を下ろした。
「あ、不用意に腰を下すな!」
 しかし遅かった。
 兵士が座ったステップが沈み、ゴゴゴと言う地響きが聞こえてきた。
「横にかわせ!」
 兵士はびっくりして動けない。すると階段の上から巨大な岩が顔を出して転がり落ちてきた。
 シュタインはその兵士の腕を引っ張り横へ飛んだが一瞬遅かった。転がってきた巨大な岩はその兵士の左足首を下敷きにして転がって行った。
「いてー!」
 兵士は足の骨を折ってしまった。
「怪我の場所を見せてみろ……大怪我だな。しかし死ぬような怪我じゃない」
 他の兵士たちが駆け寄ってきた。慌てて当て布をして包帯を巻く。
「当て木になるようなものはない。すまんが任務が終わるまで耐えてくれ」
「いや、自分の不注意で済みません」
 見ると階段は岩が転がったことでボロボロに崩れてしまっている。
「これじゃ上には行けない……済みません」
 その怪我をした兵士が申し訳なさそうに呟いた。
「いや、大丈夫だよ。元からこの階段を昇る気はなかった」
「え? どういうことですか?」
 シュタインはバオホの性格をよく知っていた。バオホの事だ。まっすぐ素直に道を作ってはいまい。
「つまり上に昇るだけではダメってことさ。下に降りる階段もあっただろう?」
「はあ……?」
「しかしその怪我で歩けるか?」
「剣を杖代わりに歩きます。しかし申し訳ありませんが戦闘には参加できません」
「大丈夫だよ。ここで戦闘不能な者が八名とは、逆にいい成績だ」
 しかし裏を返せば戦闘できる兵士はたった二人だ。これはシュタインが本格的に戦闘に参加しなければならない事を意味する。
「下に降りる階段は二つあったよね。どっちが正解なんだろうか」
 シュタインはもし一般的な冒険者がこの塔を攻略するとしたらと考えた。数々のモンスターと戦い罠を切り抜け、この階段まで来て岩で階段が崩れたとする。と言う事は相当に疲労している事だろう。
「ならば、この部屋から近い方の階段を降りたくなるよなぁ……」
 その先に罠が仕掛けられているとは分からずに。
「うん。最初に見つけた方の下り階段を行こう」
 一行は来た道を戻り、最初に見つけた方の下り階段までやって来た。シュタインは躊躇わずに階段を降りていく。
「し、師匠! 罠があったらどうするんですか!」
「大丈夫。この階段は他の階段と同じ構造だよ」
 シュタインの言う通りその階段には何も仕掛けはなかった。一行は七階に降りて行った。
 下は小さな部屋で、四方を壁に囲まれているだけの部屋だった。扉らしきものはない。
「師匠。ここには何もありませんよ」
 しかしシュタインは壁を丹念に調べ始めた。
「いや、僕はここが正解だと確信してるよ。こんな分かりやすい部屋はない」
 するとシュタインは壁の一部に極々僅かな隙間があるのを見つけた。息を吹きかけてみると隙間に溜まっていた埃が飛ばされて更に隙間がはっきりと見えるようになった。シュタインは隙間に沿って息を吹きかけていった。
「師匠、これは?」
 全て息を吹きかけ終わるとそれはドアのような形をしていた。しかし窓もドアノブもない。
「隠し扉さ。しかし押してみても動かない」
「隠し扉……でもドアノブもないのにどうやって?」
「押しても動かないって事は何かしらのロックが掛けられているのさ」
 するとシュタインは徐ろに魔法の詠唱に入った。
「リンラグ ムンライ ディ ムライシャドゥ 開け ブッケン」
 ミカが見る限り何かが変わったようには見えなかった。しかしシュタインは再びドアを押してみた。
 するとドアは重くゆっくりと後ろへ動いた。
 ドアを抜けるとそこは通路になっていた。
「それにしても重たいドアだ」
 道は一本だった。別れ道もドアもない単調な道がまっすぐ伸びていた。塔の外壁に当たり右へ折れると長い階段があった。どうやら二フロア分上に昇る階段のようだ。
「こっちが正解だったみたいだね」
 シュタインはみんなにそう言うと休憩をするように伝えた。そして自分は再び階段に仕掛けがないか調べてみるのだった。
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