上 下
7 / 9

苦手克服を失敗しちゃった7

しおりを挟む
俺の知らない間に、そんなことをしているなんて、ずるい…
俺だって、欲しいのに…
「…じゃぁ、俺の秘密も…」
そう言って俺は倉一に抱き着いたまま暴露する。
「…お前が寝ているときの寝顔を何度か写真に撮ってる。
 毎回ってほどではないけど…俺もしている…うわっ!?」
いきなり身体が浮いた。
俺は咄嗟に、倉一にしがみついた。
「なんでそういう可愛いことを言うかなぁっ!!」
困っているように言っているセリフのわりに、顔は嬉しそうなんだけど…
抱き上げられて奥の寝室に運ばれている。
―!?
「…なんでこの部屋に?」
俺の問いに、
「両想いの恋人が今、することは?」
ここで答えをワザと間違えていいんだけど…
「…セックス?」
首をコテンと、倒して聞いてみる。
意外と、女子っぽい返しをすると、倉一はプルプルしていて面白い。
「…そうだけど…お前、経験は…ないか‥」
当たり前のように言われると、腹が立ってくる。
「そんなことないっ!」
―嘘おっしゃいっ!!
ここで、どうして強く出るんだっ!!
「…何?」
―!!!?
腹の底から出す魔王のような声…
「え?いや、冗談っ!うそですっ!
 初めてですっ!」
英雄の顔が、魔王のような顔になってたよ…
じっと俺の顔を見ている倉一。
「俺は、お前に会う前に童貞切ってんだけど…男を相手にするのは、初めてだ」
そう言って、ベッドに降ろして見上げている俺の顔にキスを落とす。
「ちょっと、聴いていいか…」
倉一のどこか真面目な顔に、俺も、頷く。
「…助けたあの時…キスされたのか?」
―どうして今ごろ…
―!
ずっと、聴けなかったんだ…
俺が思い出さないようにしてくれていたんだ。
「一応、奴はホラを吹いている傾向があるから誰も信じてはいなかったんだが、本当はどうだったんだ」
それは、聞いておきたいってことかな…
「…もう、時間が経ってるから、気分は悪くならないけど、キスはされそうになったけど、していない。
 だけど、あの時、タバコの匂いが強烈過ぎて、今もトラウマになってる」
キスを守った代わりに顔を叩かれたけれど、それも過去の話だ。
俺は、倉一の服を握りしめる。
「…いつも花に水をやってただろう?
 始めは職員がしてんのかなって思ったら、倉一が育ててるって知って、どんな奴だろうって思った。
 やっとお前だってわかった後…」
想い出さないようにしてきたから、大切な物まで閉じ込めていたのだ。
「…ありがとう」
倉一を見て、せめてお礼にと、キスをした。
チュッ
「へへ…
 今頃、初めてのキスを済ませてやんのっ!」
恥ずかしさで、誤魔化そうと言っていると、
「初めてではない」
真顔の倉一が訂正する。

????
―!!!!!
「お、お、お、おまえっ!まさかっ!」
そう問い詰めようとしたら、涼し気な顔で
「だって、我慢できなかったんだもん」
と、あっさり激白してくれる。
いつだ?
わからないっ!
だって、寝顔を撮られていることすら気づいてないんだから、キスなんてしらない。
―うううううぅ
「いいか?
 キスというのは、一方的するのは、フェアじゃないっ!わかった…ンンっ!!」
話の途中でキスをしてくるなんて、どこまでも自分勝手な男だ。
でも、俺はそんなところも好きだから、重症だな。
初めて気持ちを交わしてのキスは、俺等の年齢なりの成長を見せていた。
俺も、逃げることもしないし、されるだけじゃない。

ハァ、ハァと荒い息を整えようとしていると、
「…なんで俺の夜のアイテムがあるんだ?!」
ゴソゴソと、俺のベッドの周りに勝手知ったように物のありかを知っている倉一。
え?
って、質問をしている俺が、誤解をしているのかと思ってしまうけど、違う。
どうして、俺の一人で楽しむ道具が、ベッドの上にあるんだと言っているんだ。
「お前、お姉さんに全部見られているぞ?」
!!
え?
俺は、自分の部屋を見まわす。
特に、カメラらしき物なんかないのだが…
どうして倉一が知っているんだ?
「お姉さんからの伝達。
 就職祝いで渡したぬいぐるみを捨てなさいって。」
俺は、ベッドから飛び降りて、該当するぬいぐるみを掴む。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

薬師は語る、その・・・

香野ジャスミン
BL
微かに香る薬草の匂い、息が乱れ、体の奥が熱くなる。人は死が近づくとこのようになるのだと、頭のどこかで理解しそのまま、身体の力は抜け、もう、なにもできなくなっていました。 目を閉じ、かすかに聞こえる兄の声、母の声、 そして多くの民の怒号。 最後に映るものが美しいものであったなら、最後に聞こえるものが、心を動かす音ならば・・・ 私の人生は幸せだったのかもしれません。※「ムーンライトノベルズ」で公開中

仮面の兵士と出来損ない王子

天使の輪っか
BL
姫として隣国へ嫁ぐことになった出来損ないの王子。 王子には、仮面をつけた兵士が護衛を務めていた。兵士は自ら志願して王子の護衛をしていたが、それにはある理由があった。 王子は姫として男だとばれぬように振舞うことにしようと決心した。 美しい見た目を最大限に使い結婚式に挑むが、相手の姿を見て驚愕する。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

闇を照らす愛

モカ
BL
いつも満たされていなかった。僕の中身は空っぽだ。 与えられていないから、与えることもできなくて。結局いつまで経っても満たされないまま。 どれほど渇望しても手に入らないから、手に入れることを諦めた。 抜け殻のままでも生きていけてしまう。…こんな意味のない人生は、早く終わらないかなぁ。

嫌われものと爽やか君

黒猫鈴
BL
みんなに好かれた転校生をいじめたら、自分が嫌われていた。 よくある王道学園の親衛隊長のお話です。 別サイトから移動してきてます。

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

処理中です...