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苦手克服を失敗しちゃった6
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でも、その前に、倉一は俺の傍に来て、俺の顔をしっかりと見つめてくる。
「どうなんだ?」
グッ
と戸惑うのは、たぶん、まだ…目の前の男に自分の気持ちを誤魔化せると思っているからだ。
「…好き…」
伝えることはないと思っていたその一言を、こんな姿で言っている自分を可哀想だと思った。
悔しい…
止まりかけていた涙が再び出てきて俺は、奴の顔を睨みながら泣いていた。
「もう、離せよっ!
それとも、やっぱりこんな姿じゃないと、俺と向き合えないのかっ!?」
鼻で大きくため息をついた奴は、静かに手と足の拘束を緩める。
ドンっ!
と、俺は、奴の身体を突き放した。
「俺の事をみてたんじゃないのかっ!?
だったら、こんな格好させんなよっ!!
女装は、姉貴どもの趣味だ。
俺だって、酷い目に遭わないように、その場を乗り切るスキルぐらい…
身につけてるっての…」
俺の姿では、倉一は好いてくれないのか?
俺の女装だと、好いてくれるのか?
…・
そう考えたら…悲しくなった。
好きな奴に、こんなことをされるなんて…
俺…、生まれる前に何か悪いことでもしたのか…?
「ハハっ!
滑稽だなっ…」
俺は、恥ずかしさの欠片も持たずに、身につけていた物を脱ぎ、散らばった俺の服を着る。
「…今日は…帰ってくれ…」
俺の最大の譲歩だ。
今ならまだ、親友に戻れる。
俺の兄になったのなら、それでいい。
俺はそれ以上を求めてもいないし、望んでいない。
だから、今日の事はなかったことにすればいい。
そう思ってたのに…
ガシッ
と、背後から抱きしめてきた。
「…ごめん」
倉一が俺より背が高いから、俺の耳元に唇を置くのがわかる。
俺は、その行為が、嬉しいんだけど…信じたいんだけれど…
照れてしまった。
「やめろよっ…耳なんかにするなっ」
そう言って、俺はゆっくりと倉一の方を見る。
抱きしめている手をそのままにしているから、今まで経験したことのない他人の体温をすぐ近くで感じている。
あっ…
初めてではない…
高校の時、無理やり先輩に倉庫の中に閉じ込められて、殴られたんだっけ…
それで、気付いたら、俺…先輩に覆い被さられて…キスされそうになって…
抵抗したら、顔を叩かれて身体を目いっぱい縮こませて必死に抵抗をしてたんだっけ…
誰か助けてと言っても、その時は、下校時刻が過ぎていて、校内にはほとんどいないと知っていたから無駄だと察していた。
少しでも、自分を守ろうと、必死に抵抗していたんだけど…やっぱり悔しくて、泣き出したんだっけ…
そしたら、先輩が怒り出して、それに気づいた倉一が倉庫に飛び込んできてくれて…
助けてくれた。
「怖かったな」「もう、大丈夫だ」「俺がずっとそばにいる」
って大きな体で抱きしめてくれたっけ…
想い出した…
俺は、倉一を見上げた。
「…ずっと、傍にいてくれてたんだな…」
俺は、さっきまでの怒りやら反抗心やらは一瞬で消えてしまった。
そして今、俺の中にあるのは、ただ一つ。
嬉しさでいっぱいだ。
「…あの時も、こうやって抱きしめてくれた…」
俺の言葉に、倉一も気づいたようだ。
「あぁ。
本当は、もっとたくさん抱きしめたかった。
お前が傷つくたびに、弱っていくたびに、凹んでいるたびに俺はこうしてやりたかった」
そんな甘いセリフを言っている倉一の顔はどこまでも嬉しそうだ。
「…やっと、この手の中に入れることができた」
―それって…
「俺は、別にお前の女装を見たかっただけ。
今のお前でも俺は十分すぎる。
知ってるか?
お前の家や俺の家で泊まったとき、俺、お前の寝顔を毎回撮ってんだぜ。
もう、アルバム何冊もできるぐらいある」
―!?
え?
「…なに?
まさか、その写真を使って俺をオカズにでもしてたわけ?」
俺の雰囲気の無い言葉も、この男には許せるらしい。
ニヤリと笑い
「もちろん」
――――!!!
「嘘ッ!?!」
「どうなんだ?」
グッ
と戸惑うのは、たぶん、まだ…目の前の男に自分の気持ちを誤魔化せると思っているからだ。
「…好き…」
伝えることはないと思っていたその一言を、こんな姿で言っている自分を可哀想だと思った。
悔しい…
止まりかけていた涙が再び出てきて俺は、奴の顔を睨みながら泣いていた。
「もう、離せよっ!
それとも、やっぱりこんな姿じゃないと、俺と向き合えないのかっ!?」
鼻で大きくため息をついた奴は、静かに手と足の拘束を緩める。
ドンっ!
と、俺は、奴の身体を突き放した。
「俺の事をみてたんじゃないのかっ!?
だったら、こんな格好させんなよっ!!
女装は、姉貴どもの趣味だ。
俺だって、酷い目に遭わないように、その場を乗り切るスキルぐらい…
身につけてるっての…」
俺の姿では、倉一は好いてくれないのか?
俺の女装だと、好いてくれるのか?
…・
そう考えたら…悲しくなった。
好きな奴に、こんなことをされるなんて…
俺…、生まれる前に何か悪いことでもしたのか…?
「ハハっ!
滑稽だなっ…」
俺は、恥ずかしさの欠片も持たずに、身につけていた物を脱ぎ、散らばった俺の服を着る。
「…今日は…帰ってくれ…」
俺の最大の譲歩だ。
今ならまだ、親友に戻れる。
俺の兄になったのなら、それでいい。
俺はそれ以上を求めてもいないし、望んでいない。
だから、今日の事はなかったことにすればいい。
そう思ってたのに…
ガシッ
と、背後から抱きしめてきた。
「…ごめん」
倉一が俺より背が高いから、俺の耳元に唇を置くのがわかる。
俺は、その行為が、嬉しいんだけど…信じたいんだけれど…
照れてしまった。
「やめろよっ…耳なんかにするなっ」
そう言って、俺はゆっくりと倉一の方を見る。
抱きしめている手をそのままにしているから、今まで経験したことのない他人の体温をすぐ近くで感じている。
あっ…
初めてではない…
高校の時、無理やり先輩に倉庫の中に閉じ込められて、殴られたんだっけ…
それで、気付いたら、俺…先輩に覆い被さられて…キスされそうになって…
抵抗したら、顔を叩かれて身体を目いっぱい縮こませて必死に抵抗をしてたんだっけ…
誰か助けてと言っても、その時は、下校時刻が過ぎていて、校内にはほとんどいないと知っていたから無駄だと察していた。
少しでも、自分を守ろうと、必死に抵抗していたんだけど…やっぱり悔しくて、泣き出したんだっけ…
そしたら、先輩が怒り出して、それに気づいた倉一が倉庫に飛び込んできてくれて…
助けてくれた。
「怖かったな」「もう、大丈夫だ」「俺がずっとそばにいる」
って大きな体で抱きしめてくれたっけ…
想い出した…
俺は、倉一を見上げた。
「…ずっと、傍にいてくれてたんだな…」
俺は、さっきまでの怒りやら反抗心やらは一瞬で消えてしまった。
そして今、俺の中にあるのは、ただ一つ。
嬉しさでいっぱいだ。
「…あの時も、こうやって抱きしめてくれた…」
俺の言葉に、倉一も気づいたようだ。
「あぁ。
本当は、もっとたくさん抱きしめたかった。
お前が傷つくたびに、弱っていくたびに、凹んでいるたびに俺はこうしてやりたかった」
そんな甘いセリフを言っている倉一の顔はどこまでも嬉しそうだ。
「…やっと、この手の中に入れることができた」
―それって…
「俺は、別にお前の女装を見たかっただけ。
今のお前でも俺は十分すぎる。
知ってるか?
お前の家や俺の家で泊まったとき、俺、お前の寝顔を毎回撮ってんだぜ。
もう、アルバム何冊もできるぐらいある」
―!?
え?
「…なに?
まさか、その写真を使って俺をオカズにでもしてたわけ?」
俺の雰囲気の無い言葉も、この男には許せるらしい。
ニヤリと笑い
「もちろん」
――――!!!
「嘘ッ!?!」
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