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2章

黄色+緑色の調16

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「村にはここのように院などありませんからね。
 捨てられた家の子となったようです。
 でも、私は、産んでくれた親にも感謝をしているんですよ。
 助かってほしいから、誰かに託したのです。
 もし、親が何も思っていなかったら、今頃、このように大きく成長はしていないでしょう。
 どこかに捨てられて誰にも気づかれることなく、死んでいたでしょう」
―・・・氷河は、紬の様子を見る。
じっと、話を聞いている紬は、俯いて座っている。

「自分には、どうして親がいないのかって思ったことは、ありませんか?」
俯いたまま、紬はたずねる。
「私には、産んでくれた親はいません。
 知りません。
 ですが、育ててくれた親がいます。

 紬さんには、親が欲しいのですか?」
ミルの問いに、複雑な表情の紬が顔を上げる。
「親・・・が、欲しいのかなぁ・・・?
 どうだろう。
 聞かれてみると、よくわかりません」
ミルは、うん、うんと頷き、話を聞く。
「では、あなたのことを、心配したり、怒ってくれたりする人はだれかいますか?」
ミルの問いに、紬はまっすぐ、答える。
「います。
 氷河さんも院にいる、人。
 あと・・・ミル様も・・・龍様も・・・」
そう言いながら、最後は上目遣いで龍をちらっと見る。
「そうですね。
 いいですか、紬さん。
 親はいなくても、親のように心配したり怒ったりしてくれる人がいる。
 そう、思うと、少し考え方も変わりますよ?」
話を聞き、紬は、下を向く。
「・・・それでも。・・・それでも、時々、甘えたいのです・・・
 でもっ誰に?・・・・・・?!」
思いっきり、感情を抑えることができずに紬は、顔を上げる。
!!!!
龍、ミル、氷河が手を広げている。
・・・・?
「えっ・・・・」
戸惑う紬に、傍にいた氷河は
「紬っ!
 お前、可愛いなぁ!」
そう言いながら、思いっきり抱きしめる。
龍も傍に行き、紬の目線まで低くなる。
「話したように、私の子どもは孤児院にいる子どもだ。
 ・・・・私は、この顔だ・・・
 近づくと泣かれるのは、辛いからあまり傍にはいかない。
 だが、甘えたいと思う子どもには、甘えて欲しい。
 ・・・泣かれるのは、困るが・・・」
そう言って、紬の頭を撫でる。

様子をみていたミルも、そっと立ち上がり、紬の手を取る。
「私も、龍のように関りが深い訳ではありません。
 編み方を教えた子どもとして、あなたを子どものように思いますよ。

 そして、その子どもは、また自分の子どもに編み方を教えるのです。
 今度は、紬さんが、親になる番ですよ。
 たくさん、教えてくださいね。
 そして、子沢山になってください」
両手を握り、気持ちを込める。

紬は、思わずその言葉に涙を流す。
氷河も、ミルに言われて、涙を流す。
「親になれるんですね・・・
 親のいない自分でも・・・親に・・・・」
―・・・・親がいない。
そのことが、どこか胸に引っかかり棘となっていたのだろう。

ミルも、自分の生い立ちが、普通ではないのは、理解している。
ただ、自分には父と母、そして祖母など、恵まれていた。

同じ歳で、捨て子は自分だけ。
でも、それは負い目でも引け目でもない。
拾ってもらった幸福な子どもと思う。

真っ赤になった鼻を氷河も、紬も気にせず
「ミル様、親になれるようお願いしますっ」
向き合う姿勢が違う姿をみて、ミルはホッとした。

自分にも、できることがあるのだと。

氷河たちが、その日の作業を終え、龍とミルは2人で部屋にいる。
もう、顔を隠す必要がないので、視界も良好である。
ミルは、窓から荒れる海を見つめている。
「・・・・ミル様は捨てられた子どもだったのですね」
龍の問いに、ミルは彼の方を向く。

「そうだよ。
 でも、忘れているときの方が多いかな・・・
 よく、わがままを言って母親を困らせたよ。
 母も、真剣に怒ってくれるんだ。
 間違っていることは、間違っているって。
 自分では、幸せな子どもだと思っているんだけど、フランには、ふさわしくない・・・かな?」

龍は驚いてすぐに反論する。
「そんなこと、ありません。
 それでしたら、私も同じです。
 私の場合、院ではなく、病院の前でしたから・・・」
・・・・
龍も・・・・

龍は、感じた正直な気持ちを伝える。
「ミル様が、紬になぜ、あのように触れられたくないことを聞くのか、わかりませんでした。
 でも、話を進めていくと、自分の抱えていることに、自分自身が気づくんですね。
 勉強になりました」
ミルは、龍を見て、苦笑いをする。
「僕は、何もしていないよ。
 ただ、境遇が似ていただけ・・・」
そう言って、再び、窓の外を見る。
・・・フラン・・・
 今日の僕は、少し自分でも大人だなって思ったよ・・・
手の平の中にある黄色と緑色の石の髪飾り。
・・・フラン・・・・・
目の前の海を見るのだった。


紬と氷河が大泣きをした日の翌日。
ミルは、2人の変わり様に驚く。
「すごいっ!!きれいにできてます。
 これなら、2人とも次に進めれます。
 いいですか、今、気を付けていること。
 このことが、これから学ぶことでも基礎になります。
 それをよく憶えておきましょう」
2人は、ゆっくりと時間をかけ、そして自信できる物を作り上げていった。

それからは、徐々に難度を高めて、いくのだった。
その間、ミルはだいたいの形を作り上げた。

初級編は、基礎をベースに作った物。
龍に作った髪紐を。
太さを変えて、腰ひもに。

中級は糸の色をあえて気にせずに使用する。
使う糸の配色によっては、徐々に色が変わるので、頭に巻く物など、大判の物でも幅広く作れるだろう。

上級は、初級と中級を加えた物で、一部、編まない場所を作った。
あえて空けることで、糸だけの模様ではなく、編まないという技法を使う。
これは、作る方も気をつかうが、取り扱う方も、神経を使う。

試作を龍や氷河たちに見てもらう。
「―・・・おぉぉぉ・・・」
上級の物は、細かい技法も取り入れているだけあって、難しそうである。
紬は、難しそうで見ただけで、嫌な顔をしている。
「紬さんは、上級を覚えるより、中級までをしっかりできるようになりましょう。
 いいですか?
 これは、無理だからしないのではありません」

一瞬、紬は、取り残されたっ!と、思った。
だが、
「初級、中級を覚えるまでが大切なのです。
 それをしっかり覚えて何回も作りましょう。
 それが、上級に生かされるのです」
教わることは無駄なことではない。
自分とミルを信じ、紬は自分のできることを行う。

「氷河さん。
 上級ですが、気を付けなければならない場所がたくさんあります。
 そして、少しでも、飛ばしてしまうと完成できません。
 気が遠くなります。
 私も、手が痛くなったり、肩や目が痛くなりました。
 それでも、完成したものを見た時は、なんとも言えない気持ちになります。

 できますか?」
氷河は、ミルの逃げることができないような言い方を聞いて、断れない。
自分だけ、高度な技術を・・・
「もし、完成させたら・・・
 それからはあなたの物です。
 私が教えた知識を、どう使おうとあなたの物です」

手に取って、自分ができるか己自身と向きあう。
その様子をミルも龍も、そして紬も見守っていた。

ミルが、外を見るために、窓の近くに行き、海を見る。
空は曇天。風は強く、波も荒い。

ただ、氷河の心を待つだけだった。

あまりにもミルから望まれている要求は、高度で早急すぎる。
氷河の決断が付かないのも、わかる。
だが、ずっと幼いころから、孤児院で糸を生み出すための努力をみんなで行った。
その努力が実り、この特殊な糸を作ることができた。
ただ、糸を活用するのには、確かに限界はあった。
ただ単に、布に加工するのは、簡単だ。
その価値もあるのだろう。
でも、みんなで生み出した努力を、もっと活かしてみたい。
そう思って、龍が、自ら選んで氷河を指名した。

新しい自分への勇気、そして自信をもつための勇気。

「途中で、心が折れるかもしれません。
 それでも、挑戦してみたいと思う自分がいます。
 やります」

ミルはその言葉を聞いた。

そして、氷河に応えた。
「では、一緒に、やりましょう。
 いきなりは誰でも、難しい物です。
 頑張りましょう」

龍も、氷河の様子をみてホッとした。
こちらの国に向かう船の中で、フランの弟である煌雅と恋人だと教えてもらった。
ただ、2人でいる様子も、遠慮しているところがあり、昔の氷河とどこか違う様子だった。
孤児院で育ち、親がいないということを抱えて棘のように自分を追い込んでいたのかもしれない。
なら、その棘を取り除けるようにしてやりたい。
そう思って、少しでも誇れる自分を見つけてもらえるようにこの場に参加させた。

あと、もう少し乗り越えて欲しい・・
子どもの成長を静かに見守る親の心境・・・
龍は、隣国に残した愛する者に会いたくなった。
一緒に立ち上げた孤児院の子どもが、こんなにも逞しく成長したのだと話をしたくなった。



氷河が少しずつ作品の技を身につけていく中、海の様子は少しずつ、改善されていった。
曇天だった空は、穏やかな雲も混ざり、風も強く吹くときもあれば、穏やかな時もある。
窓から見える海は穏やかさを取り戻してきてるのだった。
ミルは、その様子に気付いた。
龍も気づいた。
だが、ミルは、外を見つめたまま、何も言わない。
龍は、尋ねた。
「穏やかになってきましたので、フラン様にも、連絡をとれるようになります。
 すぐに、知らせを出しましょうか?」

ミルは、静かに首を横に振る。
「龍の気持ちも分かります。
 でも、今はまだ、この国に留まります。」
「どうしてですか?もう、氷河も力をつけてます。
 もう、いいではないですか?」
それでも、ミルは首を横に振り、否定する。
「私が、待ちたいのです。
 氷河さんが、完成させるのを・・・
 フランには、こちらが落ち着いたら戻ると知らせてください」

龍は、自分がミルに頼んだことで、フランとミルが会えることが遅くなると思うと、胸が痛んだ。

龍の様子をミルは気が付いた。
この人は、すぐに自分を責めるクセがあるように思う・・・
「龍さん、責めないでください。
 私は、嬉しいんです。氷河さんも、紬さんも、私の子どもですから・・・っ」
そう言って、ミルは外を眺めるのだった。





海が普段の穏やかな様子を取り戻し始めた頃、フランにミルからの手紙が届く。
「早く会いたい。
 でも、今は、帰れない。
  待っていて・・・・って・・・これだけ?」
フランは、心配し始める。
何かあったのではないか・・・・
フランは、私室で手紙を読んで、心配で、部屋の中を歩き回る。
コンコン・・・
『入りますよ』
扉が開き、国王代理である父、陸が部屋に入ってくる。

「ミル殿から、手紙は届きましたか?」
立ち止まり、フランは父の顔を見る。
―・・・どうして・・・・・
陸は、手に持っている紙面を見せる。
「龍からも手紙がきましたよ。
 龍が、あちらで作った孤児院の事で、ミル殿が力になっているようです。
 ・・・・心配していたのでしょう・・・・
 安心していいですよ。
 迎えに行きたいのもわかりますが、あなたは妊婦です。
 龍の話では、煌雅が船を出してくれるそうです。
 ふふふ。
 帰ったら、たくさん話を聞きましょうね。
 龍が興味深い話を持って帰ってくるみたいです」
フランは、言われて眉間に皺を寄せる。
身重でなければ、自分で迎えに行くのに・・・
でも、ミルの子どもは大切だ。
フランは、まだ膨らみのない腹部をそっと手で撫でるのだった。

フランが今か今かとミルの帰国を待っている頃、ミルは焦っていた。

紬と氷河の作業に一生懸命になっていたあまりに、フランへの贈り物を作るのを後回しになっていたのだ。

髪紐・・・いや。
真剣に悩んでいる姿のミルを龍は心配する。
「どうされたのですか?」
ミルは、気まずそうに答える。
「フランに何を作ろうかと・・・」
龍は少し考え、
「ミル様、作っていただきたいものがあります。
 これは、フラン様に必要な物です。
 それなら、いいでしょうか?」
―・・・?
「何に使うかわからないけど、教えてくれたら作るよ」
龍は、何かを頭に浮かべているようで
「優しい肌触りの物で、大切にしたいものを包むときに使おうとおもっています」

説明された物をだいたい頭の中で想像し、作り始める。
折角の、珍しい糸があるのでこれを使って作る。

ミルの瞳の色の緑色。そして、フランの瞳の黄色。
その2色のある糸を使って作る。

部屋には、紬、氷河、ミルの三人が、黙々と作業を進めるのだった。


作業が終わり、氷河と紬は2人、住まいの孤児院に戻るため、道を歩いていた。
横を通った乗り物が先で停まり、中から煌雅が顔を出す。
「氷河!」
こんな場所で、恋人である煌雅がいるとは思わなかったので氷河は、驚いている。
「・・・・煌雅様・・・」
氷河が、顔を赤らめている様子をみて横にいた紬は、気を利かせようと
「氷河さん、僕、ここから一人で帰れます」
氷河は、紬を見て、その後、煌雅を見る。
そして、ニコリと紬を見て
「気にしなくていい。
 一緒に、帰ろう。
 ハイっ」

氷河は紬に手を出している。

「?氷河さん、この手はなんですか?」
紬の問いに氷河は
「手を繋いで帰るんだよっ」
そう言って、氷河は紬の手を握る。
―!!!!!
「はっ離してくださいっ!」
繋いでいる手を紬はブンブンと振るが、無理な足掻きだ。
「離しませ~ん」
そう言って、歩みを進める。
煌雅の横で立ち止まると、
「用があるなら、院で待っていてください」
そう言って、紬を引っ張って歩いていく。

その様子を見て、煌雅は見送るが、心中は複雑だ。
煌雅より年が下の子どもを連れて歩くのだ。
時に、院の子どもがうらやましい・・・
院の子どもには、笑顔を、煌雅には、冷たい表情を・・・
どうして、こんなにも差があるのか・・・

ただ、大人げないことを言って、氷河を困らせるのは嫌だ。
折角、恋人になったのだ。
余裕を見せておかなければ、嫌われてしまう。

煌雅は、仕事が休みで、氷河の時間が空きそうな時を狙ってきたのだが、院で先回りして待つことにした。

「本当にいいんですか?
 煌雅様、氷河さんに会いに来たんですよね?」
紬の問いに、氷河は少し苦笑いを浮かべ、
「いいんです。
 約束はしていないから・・・」
そう言いながら、走っていく煌雅の乗り物の姿を目で追う。

紬も、それ以上何も言わず、ただ、繋いだ手を握り、独り占めしている時間に照れを感じていたのだった。


院に着いた頃、辺りは薄暗くなっていた。
紬は院の辺りで一人で先に戻っていった。
「おかえり」
煌雅の出迎えで氷河は驚く。
道で分かれて1時間はたっている。
「待っていたんですか?」
氷河の問いに
「用があるなら待つようにって・・・」
確かに言ったが、それをわざわざ守って待つなんて・・・
氷河は小さくため息をつき、
「あと、少しだけ待っていてください。
 急いで片付けてきます」
―・・・・
そう言って、氷河は院の中に入っていった。
相変わらず、仕事を優先させる氷河に、煌雅も慣れている。
そうでなければ、恋人にはなれなかっただろう。

煌雅が初めて氷河に会ったのは、養子となった宰相の視察に一緒に行っていた時だ。
子どもたちの中で、物語を読んでいる姿をみて、心を奪われた。
視線に合わせるために屈んでいる姿は、友愛に包まれているように見えた。

勇気を出して声をかけた。
返ってきたのは、
「何ですか?」
冷たい温度の言葉だった。
自分も、目の前にいる子どもと変わらない歳なのに・・・

それでも、視察以外にも顔を出し、子どもには絵本をと、毎回、話をする機会を作るために通った。
「いい加減、飽きてきましたか?」
ある日、そう尋ねられ煌雅は意味がよくわからなかった。
意味を尋ねると
「煌雅様は珍しい物があると興味を持たれるのでしょう。
 ・・・なら、私に関わるのも、そろそろ飽きるでしょう」

「孤児院の職員です。
 その中でも、私もこの院で育ちました。
 親を知らずに育った者への世間の評価はご存知でしょう。
 ・・・ですから、そろそろここには必要な時以外、来ないで頂けますか?」
―・・・・
一生懸命、自分の想いを知ってもらおうと通っていたこと。
それは、氷河にとっては、意味のない。煌雅が飽きるまで耐えていたのだ。
衝撃的だった。
今まで、自分の思い通りにしていれば、周りはその意図を酌み合わせてくれていた。
氷河も、様子を見て、受け入れてくれると思っていたのだが・・・
相手にすらされていなかった。

「私の本気を見ていてください!!」
煌雅は、宰相の父に孤児への偏見をなくすよう進言した。
煌雅の氷河への態度を見ていた父も始めは渋っていた。
だが、改善される案を煌雅自身が考え練って出してくる姿を見て、聞く耳を持ち始めた。
その間、院には視察以外、顔を出さなかった。
出せなかったのだ。
他の孤児院にも周り、偏見をなくすための啓発運動などに参加していたのだ。

徐々に改善されて、久しぶりに顔を出した時、2年がたっていた。
久しぶりの氷河は、以前と変わらず、子どもに対しては、とてもいい表情でかかわっている。
ただ、煌雅と話すと、一気に周りの温度が下がるのだ。
「どうしたのですか?
 懐かしくなりましたか?
 思い通りならなかった者の顔を見に来たんですか?」
煌雅は、じっと氷河を見ていた。
見られていることに気付いた氷河は狼狽え始めた。
「・・・あまり・・・見ないでください・・・」
そう言って、顔を背けるが、耳が真っ赤だ。
―!!!!―
それに、顔をみせただけなのに、煌雅のことを覚えてくれていた。
―・・・・嬉しい・・・
胸に一気に花の蕾が広がるように温かい気持ちになった。
すると、煌雅も顔を赤面させた。
―・・・これが、恋なのだ・・
本当に、心から人を好きになるとは、こういうことなんだ・・・
!!!!!
「氷河さんっ!私は、あなたが好きですっ!
 どうぞ、お付き合いをしてくださいっ!!」
膝をつき、氷河の手を持つ。

真面目な煌雅の姿に流石に、氷河は困惑する。
「まだ、そんなことを・・・・」
「いえ、何度でも言います。
 あなたの心が少しでも晴れるよう。
 そして院の子どもたちの将来を豊かにするよう。

 私ができることはしてみました。
 ただ、力が足りません・・・・
 私に、もっと力を与えてください」
氷河は、煌雅の顔をじっと見る。
話も静かに聞いている。
「ただの院の職員です。
 私を利用して何をするつもりですか?」
氷河の容赦ない、質問に煌雅は答える。
「利用などしません。
 もちろん、あなたが傷つけられるようなことはしません。
 ただ、私の傍にいてください。
 それだけで、私は力を出せます。
 父以上の人間になるよう、努力を惜しみません。
 どうか・・・」
最後の方は、頼んでお願いされているように思える。
氷河は応えた。
「周りの者は、私を嫌うと思いますよ」
「そんなことは、させません」
煌雅が真っすぐな目でみる。
「私は、努力する人は嫌いではありません。
 ただ、権力とかは・・・悪いことに使うのは、嫌です」
煌雅は頷く。
「振りかざすようなことはしません」
「・・・飽きたら早めに教えてくださいね」
氷河は、それでも言う。
―・・・・
「―それは、心配いりません。
 代わりに、たくさんの愛を伝えますっ!!」
氷河は、諦めたように握り返し
「では、清い恋人から・・・」
!!!!!
煌雅は、その言葉を聞き、呆然。
「今・・・なんと?」
氷河は再び返事をする。
「では、清い恋人から・・・」
その瞬間、煌雅は立ちあがり氷河と視線を合わす。
「!!!恋人ですねっ」
そうして、年数をかけてやっと恋人になったのだった。
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