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第3話 聖女のお仕事

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「ご、ごめんなさい、勝手に触っちゃって……」
 
「聖女様、その、大丈夫なのですか?」
 
「え? 大丈夫って何が? それよりこれ、私が解いちゃっていいですか?」
 
「ほ、解く!?」

「もしや聖女様にはこの水晶を覆う呪いが見えているのですか?」


 突然私とおじいちゃんの前に出てきたのは、やたらめったら整った顔をした髪の長い男の人。
 エルフの聖人だというマティアスさんが言うには、この不気味な黒い玉はカーディナルを守護すると言われる大切な神具で、聖なる水晶と呼ばれているそうだ。
 建国以来ずっとこの神殿で大切に祀られていたのにある日突然水晶が曇り、それと同じ頃空に瘴気が現れ始めたんだって。
 だから女神様が言う『呪い』はこの水晶の曇りのことなのでは、ってゴーンおじいちゃんとマティアスさんは考えていたそうだ。


「うーん、呪いとか曇ってるとか私にはよく分からないんですけど、黒い鎖が絡まってますよね? これ、このままにしててもいいんですか?」


 もしかしたらこの黒い鎖は水晶の飾りなのかもしれないけど、こんなにぐるぐる巻きにしちゃったら折角の水晶が見えないよね。大切な物らしいのに、それって勿体なくない?
 するとマティアスさんは困ったように眉を下げた。


「それは……私達はこの水晶に触れる事すらできないのです。だからと言って何も手をこまねいていた訳では……」
 
「あー、確かにここまで絡まってたらちょっと厄介ですよね。うーん、時間がかかってもいいんなら、私が解いてみますけど……」


 絡まった鎖を解く達人と呼ばれる私は、鎖の絡まりが複雑で難易度が高ければ高いほどやる気が上がる。
 正直に言っちゃうとこの時私は、絡まった鎖を前に一刻も早く触ってみたくてうずうずしていたのだ。


「ですが聖女様、本当によろしいのですか? もう少し色々と調べてからの方が……」
 
「うんまあ、難しそうだけど出来ない事はないと思うし……。あ! でもそういえば私元の世界ではどうなってるの? いきなり行方不明とか死んだことになってるとすごく困るんだけど、私、ちゃんと日本に帰れるんですよね?」
 
「それは御心配には及びません。女神様がおっしゃるには、水晶の呪いが解けると聖女様は元の世界にお帰りになってしまわれるのだそうです。それにもし万が一の事があったとしても、我々は聖女様を命を賭けてお守りすることを約束いたします」

「えー、命をかけてとか重いからいらない……」


 それから色々話してて分かったんだけど、どうやらこの黒い鎖は私にしか見えていないらしい。
 ゴーンおじいちゃんやマティアスさんには単に水晶が曇っているよう見えていて、しかも普通の人は水晶に触る事も近づく事も、この聖堂に入ることすらできないんだって。

 正直言って私は呪いがどうとかわからないし、聖女が何をする人なのかも知らない。
 でももし黒い鎖が呪いなんだとして、私しか鎖を解ける人がいないなら、それは私がやるしかないんじゃないかって思ったんだよね。
 どうせ呪いが解けないと私は日本に帰れないんだ。じゃあダメでもともと、やってみようじゃないかって。

 こうして私宮前あかりは、このカーディナルという世界で期間限定の聖女をすることになったのである。


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