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第38話 フィールドワーク

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「セリ気をつけて、それじゃあ自分の指を落とすわよ。ナイフの握り方に注意して」
「はい! うわっ」
「あらあら、冒険者ともあろう人が単なる野鼠ぐらいで驚いてどうするの」
「痛っ!」
「その薬草は茎に棘があるのよ。ちゃんと書いてあったでしょう?」
「うう、はい……」

 新人冒険者講習、それは決められた場所に行き指定された薬草を採集するという実地訓練フィールドワークだった。
 朝一番に受付カウンターに行った私を待っていたのは、昨日の清楚な制服姿から一転ぴったりとした革の上下にマント姿という、いかにも冒険者といった服に身を包んだサリーナさん。
 驚く私に革のベルトとナイフ、そして何か液体の入った小さな瓶を渡したサリーナさんは、にっこりと微笑んだ。

「え? サリーナさん……?」
「ふふ、普段はギルドの職員をしているけど実は私も冒険者なの。今日の講習を担当させてもらうわ。よろしくね。じゃあ早速これを装着してちょうだい」
「あの、これは?」
「これは講習受講者に支給される基本のセットよ。小型のナイフと初級ポーション、そしてこれはナイフとポーションを収納するベルト。もう既に持ってるなら使わなくてもいいけど、セリはまだ持ってないでしょう? さあ、支度ができたら早速出発するわよ」
「は、はい! よろしくお願いします!」

 それから私たちはモルデンの街を出て2時間以上は歩いただろうか。到着したのは見晴らしのいい平原だった。

「はい、これが今日の課題です」

 渡された紙には3種類の薬草の絵が描いてあった。

「この紙に書いてある3種類の薬草は、どれも常時依頼がある『常設依頼』品です。今日はこの薬草をそれぞれ50本探してもらいます」
「へ? それぞれ50本? えっと……あの、何かヒントとかは……?」

 私は思わずぐるりと周囲を見回した。
 道の両脇はまばらに生えた木々と岩が点在する以外は、なんの目印もない見渡す限りの草原。
 ……このだだっ広い野原から、この草を見つけるの? 

「あら、その指示書に薬草の特徴はちゃあんと書いてあるでしょう? ヒントとか何甘えたことを言ってるのかしら」
「……! は、はい! 頑張ります!」

 普通の野鼠にいちいち驚き、かと思えばふわふわした外見は可愛い兎の魔物に触ろうと近寄り、薬草と毒草の区別がつかず、挙句ナイフを使わず手で薬草をちぎる私は、サリーナさんからしたらとんでもないど素人に見えたと思う。
 でも彼女はナイフの扱い方、薬草の見分け方、野生動物と魔獣の違い、それに討伐対象になっている小型魔獣の倒し方まで、根気よく丁寧に教えてくれた。
 それどころか彼女からしたら奇妙に思えるだろう質問、例えば宿はどこにあるかとか、食べ物はどこで食べてるのか、この街の物価かはどうかとか、そんな些細な私の質問も全部答えてくれた。
 そして全てが終わりヘロヘロになってギルドに戻った私は、渡された報酬に目を丸くした。

「あの、これは……?」
「これは今日セリが採取した薬草と討伐対象になってるホーンラビットの報酬、全て合わせた額よ。そしてこれがギルドが斡旋する宿『歌う椋鳥亭』への地図と紹介状。今日から泊まる宿がないんでしょう?」
「は、はあ……」
「明日から頑張ってね、セリ」

 後でわかったことだけど元冒険者が始めたという『歌う椋鳥亭』は、新人冒険者が路頭に迷わないよう利益度外視で部屋を提供する宿なんだそうだ。
 そんな宿とあの時の講習のおかげで、私はスムーズに異世界生活をスタートすることができたと言っても過言ではないと思うんだよね……。

「……おいどうした?」
「う、ううん、なんでもない。ちょっと新人の頃のこと思い出して」
「なあ、セリがその講習を受けたのって一体いつだ?」
「ちょうど一年前くらいかなあ。担当してくれたのがサリーナでね、最初はなんて鬼教官! って泣きそうだったよ」
「ああサリーナか。ああ見えてあいつBランクの冒険者だからな。何度か一緒に依頼を受けたことがあるが、まあおっかねえ女だよ。って待てよ、お前冒険者になってからまだ1年しか経ってねえのか? ランクはいくつだ?」
「ん? 言ってなかったっけ。私はEランクだよ」
「はあ? Eだと!?」

 突然アイザックは驚いたように声を上げた。

「う、うん、そうだけど。どうして……?」
「いや、冒険者になって一年じゃそんなもんか。だがしかしEか。そうか……」

 途端にガシガシと頭を掻くアイザックを不思議に思いながらも、私は見えてきたククルの屋台に心をときめかせていた。



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