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第6話 小汚いガキ アイザック視点
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俺の名前はアイザック・モルド。
一応A級の冒険者だなんて大層な肩書きが付いてるが、要は他人が手をつけねえ厄介な依頼を専門に受ける便利屋みてえなもんだ。
今回1ヶ月に亘る地下迷宮の監視なんて面倒な依頼を終えた俺は、その足でモルデンの冒険者ギルドの扉を潜ったんだが────。
「臭えな……」
ギルドに一歩足を踏み入れて気が付いたのは、一言で言えば不快な匂いだった。
このやたらと甘ったるい気持ち悪い匂いは……鼻をならして記憶を辿った俺が思い出したのは、マンマダンゴ蟲だった。
マンマダンゴ蟲は媚薬や麻酔薬の材料になる魔物だ。
標的を噛んで麻痺させてから毒針でたっぷり媚薬効果のある毒を注入し、獲物を生きたまま捕食する。
こいつが厄介なのは普通の虫と同じに気配が察知しにくいのと、群で行動するところだ。
お陰で気がついたらうっかり群に囲まれてる、なんてことになりかねない。しかもこいつの媚薬効果は強力で、鼻のいい奴なら匂いだけで当てられる。
誰だって蟲に媚薬を盛られてアソコをおっ勃てたまま喰われたくはない。
だから慣れた冒険者は、蟲を見つけるとすぐさまその一帯を火で焼き尽くす。
ったくこっちは1ヶ月もご無沙汰で女の肌に飢えてるってのによ。一体どこのどいつだ、そんな厄介なモンを持ち込んだのは。
眉を顰め匂いの源を探すと、古びたマントを頭から被ったやたら小せぇガキが目に入った。
フードを目深に被り顔は見えねえが、どうせ冒険者になりたてのガキが調子に乗って蟲を取って来たってところだろう。
だがあいつ、匂いのせいで自分がここにいる連中にどんな目で見られてんのか全くわかってねえようだ。
「おい見ろよ」
「なんだあのガキ、わざと誘ってんのか?」
「よく見りゃあ顔は悪くねえな。お前声かけてみろよ」
野郎どもの下種な話し声と品定めするあからさまな視線。あれに気が付かねえとは全くおめでたい奴だ。
「……クソが」
俺は大きく溜息を吐いた。これが普通の男だったら間違いなく放っておく。ギルドに出入りする冒険者なんざ、自分のケツくらい自分でなんとかするもんだ。
……だがあいつ、どう見てもまだ子供だよなあ。このまま見殺しにすんのも気分が悪いか。
「おいお前、ちょっと待て」
余計なお節介とは思ったが、一言注意してやろうと俺はガキに声をかけた。
だが警戒してるのか碌に人の話を聞きやしねえし、挙句の果ては平気でそのまま外へ出て行きやがる。呆れて踵を返したところで、カウンターから声がかかった。
「アイザック、ちょっと」
「ああん? なんだサリーナか。今日はもう依頼の手続きはしねえぞ」
「そうじゃなくてさっき話してた子、あなたの知り合い?」
「……なんかあるのか?」
モルデン冒険者ギルドの名物職員サリーナは、元々優秀な冒険者だった。だがパートナーが大怪我をした時に冒険者を引退、以来ギルドを支える裏方にまわったという経緯がある。
そんなサリーナが目をつけてるってことは、あいつ何か訳ありか? ……ったく面倒だな。
思い切り眉を顰める俺に、サリーナは首を振った。
「今日の採集品にマンマダンゴ蟲があったから気になって。ねえ悪いんだけどあの子の様子を見てあげてくれない? すごく嫌な予感がするの」
「はあ? なんだそれ。なんで俺がわざわざそんなこと……」
「あの子は……ギルマスもあの子のことは気にしてるの。なんなら依頼にしてもいいから、お願い」
「あのじじいもか? ……チッ、ったくしょうがねえな」
溜息を吐いた俺は、渋々ギルドを後にした。
一応A級の冒険者だなんて大層な肩書きが付いてるが、要は他人が手をつけねえ厄介な依頼を専門に受ける便利屋みてえなもんだ。
今回1ヶ月に亘る地下迷宮の監視なんて面倒な依頼を終えた俺は、その足でモルデンの冒険者ギルドの扉を潜ったんだが────。
「臭えな……」
ギルドに一歩足を踏み入れて気が付いたのは、一言で言えば不快な匂いだった。
このやたらと甘ったるい気持ち悪い匂いは……鼻をならして記憶を辿った俺が思い出したのは、マンマダンゴ蟲だった。
マンマダンゴ蟲は媚薬や麻酔薬の材料になる魔物だ。
標的を噛んで麻痺させてから毒針でたっぷり媚薬効果のある毒を注入し、獲物を生きたまま捕食する。
こいつが厄介なのは普通の虫と同じに気配が察知しにくいのと、群で行動するところだ。
お陰で気がついたらうっかり群に囲まれてる、なんてことになりかねない。しかもこいつの媚薬効果は強力で、鼻のいい奴なら匂いだけで当てられる。
誰だって蟲に媚薬を盛られてアソコをおっ勃てたまま喰われたくはない。
だから慣れた冒険者は、蟲を見つけるとすぐさまその一帯を火で焼き尽くす。
ったくこっちは1ヶ月もご無沙汰で女の肌に飢えてるってのによ。一体どこのどいつだ、そんな厄介なモンを持ち込んだのは。
眉を顰め匂いの源を探すと、古びたマントを頭から被ったやたら小せぇガキが目に入った。
フードを目深に被り顔は見えねえが、どうせ冒険者になりたてのガキが調子に乗って蟲を取って来たってところだろう。
だがあいつ、匂いのせいで自分がここにいる連中にどんな目で見られてんのか全くわかってねえようだ。
「おい見ろよ」
「なんだあのガキ、わざと誘ってんのか?」
「よく見りゃあ顔は悪くねえな。お前声かけてみろよ」
野郎どもの下種な話し声と品定めするあからさまな視線。あれに気が付かねえとは全くおめでたい奴だ。
「……クソが」
俺は大きく溜息を吐いた。これが普通の男だったら間違いなく放っておく。ギルドに出入りする冒険者なんざ、自分のケツくらい自分でなんとかするもんだ。
……だがあいつ、どう見てもまだ子供だよなあ。このまま見殺しにすんのも気分が悪いか。
「おいお前、ちょっと待て」
余計なお節介とは思ったが、一言注意してやろうと俺はガキに声をかけた。
だが警戒してるのか碌に人の話を聞きやしねえし、挙句の果ては平気でそのまま外へ出て行きやがる。呆れて踵を返したところで、カウンターから声がかかった。
「アイザック、ちょっと」
「ああん? なんだサリーナか。今日はもう依頼の手続きはしねえぞ」
「そうじゃなくてさっき話してた子、あなたの知り合い?」
「……なんかあるのか?」
モルデン冒険者ギルドの名物職員サリーナは、元々優秀な冒険者だった。だがパートナーが大怪我をした時に冒険者を引退、以来ギルドを支える裏方にまわったという経緯がある。
そんなサリーナが目をつけてるってことは、あいつ何か訳ありか? ……ったく面倒だな。
思い切り眉を顰める俺に、サリーナは首を振った。
「今日の採集品にマンマダンゴ蟲があったから気になって。ねえ悪いんだけどあの子の様子を見てあげてくれない? すごく嫌な予感がするの」
「はあ? なんだそれ。なんで俺がわざわざそんなこと……」
「あの子は……ギルマスもあの子のことは気にしてるの。なんなら依頼にしてもいいから、お願い」
「あのじじいもか? ……チッ、ったくしょうがねえな」
溜息を吐いた俺は、渋々ギルドを後にした。
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