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中等部一年

誕生日会

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 七夕の日は雨が多い印象だったけど、三つ子の誕生日である今日は晴天で初夏の日差しがじりじりとむき出しの肌を焼いている。

 祥子奥様が選んだ星空のドレスは、ノースリーブタイプの透けるふわふわしたロングドレスだったが、ミモレ丈のビスチェを中に来ているので露出はかなり抑えられている。動くたびに裾がヒラヒラしてとても可愛い。胸元に銀の三日月のブローチをつけて、同じく銀のハイヒールで武装する。

 水平線が一望できるテラスと自然豊かな広大な庭を持つ結婚式場は海外の別荘のような雰囲気を持っていた。

BBQができるメインガーデンにはプールもあって、ゲストが泳げるように様々な水着が用意されていた。百人は収容できる白い大きな吹き抜けのテントにはゆったり座れるソファが数個置かれてた。

バンケットにグランドピアノが置かれていて、天窓からは明るい日差しが程よく差し込み、ヴィラリゾートスタイルのインテリアを照らしていた。

二階にある控室で着替えを終えた私は、次々と訪れるゲストたちをこっそりと覗いていた。

中学生ながら高級ブランドに身を包んだ子供たちは、大人の縮小版のように堂々としており一流のものに慣れていることが態度でわかる。

今日の私の髪形はプロのスタイリストの手によって複雑に編み込まれていた。崩れないように少しきつめに編み込まれていて、きっとそのうち頭痛が引き起こされそうだ。

慣れないプロの化粧でデコレーションされた私は二、三歳年上に見える。

スーツを着こなした笙真くんがやってきて、いつものように私の全身をチェックする。

やっぱり思った通り、濃すぎる口紅を笙真くんはウェットティッシュで優しくふき取り優しい淡いピンクの口紅を塗っていく。

満足げに微笑んだ笙真くんはイケてるスーツを着ているからか、眩しさが数百倍増している。

「これでよし」

 笙真くんに手を引かれ、私は誕生日という戦場へ乗り込む。

 実は、今日この誕生日は私のお披露目の前哨戦でもあった。

 最近になってようやく養子縁組が成立し、私は晴れて磐井一族の仲間入りを果たしていた。それまでは、磐井家の里子だったため正式な一族の場への参加は許されていなかった。

 壮権様とほんの少し打ち解けたことが大きかったのかもしれない。

 壮権様は私の養子縁組を反対していた一人でもあるからだ。

 遺産相続とかそういったドロドロした思惑が渦巻いており、私の養子縁組の話はなかなか進まなかったのだ。

 笙真くんに連れられて、壮権様の周囲に集まる磐井一族の中に向かう私を人々の好奇な目が見つめる。

 大人たちが少ない誕生日会ですら、こんなに注目されるなら本番の磐井グループのクリスマス会はどうなってしまうのかと頭を痛める。

 そんな私の緊張は、侑大くんの一言で雲散霧消となる。

「おい、紫音!ケーキ取ってきてやったぞ!」

 侑大くんが座るテーブルの上には一口サイズの十数種類のケーキがあった。

「ケーキの前にご飯食べなきゃダメでしょ?」

「でも、ケーキが一番おいしそうだったよ」

「侑大くん、ここに来る前に何か食べたでしょ?」

 侑大くんがおいしそうなローフトビーフやBBQ会場で焼かれている大きな肉の塊に飛びつかないわけがないのだ。

 侑大くんが視線を明後日の方向に彷徨わせる。

「侑大、高速のパーキングに寄った時なにか食べてたな」

 一緒の車で会場に来た聡介くんがつぶやく。

お坊ちゃんには高級料理より高速のパーキングのB級グルメの方が食べたいらしい。まぁ、おいしいもんね。

 雅臣くんと笙真くんと一緒にバイキングビュッフェを見て回る。

 BBQコンロで大きな肉の塊をさらに載せられた笙真くんは少し困り顔だった。

 断り切れずさらに載せられたお肉を雅臣くんが黙って自分の皿へと乗せる。そのため、雅臣くんのお皿のほとんどがお肉で埋まってしまっていた。

 申し訳なくて雅臣くんがよく食べているカボチャのサラダを小皿によそって、テーブルに座った時にそっと差し出した。

 驚いたように目を大きくする雅臣くんに尋ねる。

「キライだった?」

「いや…よく私が好きだってわかったね」

「なんとなく」

 それ以上詮索せずカボチャのサラダを食べる雅臣くんがとても可愛かった。

 グレーのスーツにチェックのベストにノータイの雅臣くんはとても素敵だ。メガネも学校で使っているものと違ってスクエアのテンブルにおしゃれな柄が入っている。

 ご飯を食べ終え、侑大くんがとっておいてくれたケーキを食べ始める。クリームが生暖かくなっていても十分に美味しかった。新鮮な状態で食べたかったな…。

 食事を食べ終えると克之くんが人数分の短冊を持って合流する。

「七夕の短冊書いた?」

 メイン会場には大きな竹が用意されていて、ゲストたちが書いた色とりどりの短冊が飾られており、竹の近くにいるスタッフが受け取った短冊を今も取り付けていた。

 金箔が入った和紙は日本の伝統模様が薄く描かれている。

 私は桃色の扇柄の短冊と筆ペンを受け取り、何を書こうかと吟味する。

 悩んでいる私を聡介くんがずっと見ており、なかなか落ち着かない。

「何?なんでずっと見るの?」

「キミを誘惑しようと思って」

 聡介くんは流し目で私を見つめてくる。

 藍色のウィンドウ・ペンチャックのスーツに身を包んでいる聡介くんはいつもより色っぽい。中学生でこの色気は恐ろしい。大人になったらむせかえるほどのフェロモンをまき散らすことを私は知っている。

 若葉が知っている聡介さんは、自分は神から女性たちに与えられたプレゼントだと思っている節があり、女であればだれでも口説いていた。それも軽い気持ちで。

 聡介くんをそんな大人に育てたくなくて、私はムッとして睨む。

「そういうのは、本当に好きな人だけにしてください。女性だからと見境なく誘惑するのは失礼ですよ。その綺麗な顔を持っていなかったら変態だって思われちゃいますからね」

「俺の顔、綺麗って思ってくれてるんだ」

 呆れた顔をすれば、プゥっと笑われた。

「紫音ちゃんは三つ子になんのプレゼントをあげたの?」

「秘密です」

「七夕のお願いは」

「もちろん秘密です」
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