白の贄女と四人の魔女

レオパのレ

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IEWⅢ DISC‐1

66 動機

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「ゼオルグ!どうしてお前が」

 ロークは激痛で朦朧とする頭を懸命に働かせゲオルグがこんなことをする理由を懸命に考える。しかし、どんなに考えても答えなど思い浮かばない。しかし、貰えたと答えは嘲笑のみだった。

「どうして?」

可愛らしくゼオルグが首を傾げる。その姿は本当に可愛らしくて、とても人々の命をごみのように燃え尽くす山火事を起こした犯人とは思えなかった。

「ロークさんの頭は本当に飾りなんだね。その見た目の良さの少しでも頭に回してもらえば良かったのに。ロクシティリア神は本当に残酷だ」

 ロークはかっとなり、水しぶきでゲオルグを弾き飛ばす。辺り一面水浸しとなり、岩でできた洞窟内に大きな水たまりができる。

 壁に叩きつけられたゲオルグは全くダメージを受けていないかのように、にやりと微笑む。

「なかなかやるじゃん♪少しはボクの役に立つみたいんだね」

 ゼオルグが離れたことでルルリアナが魔法でロークの火傷を癒す。ただれた皮膚はゆっくりと再生されていく。

 ゼオルグを牽制するように、リースはロークの前に立ち、いつでも攻撃できるように刃をゼオルグに向ける。

「兄さんはどこにいる?」

「ワインズさんにはボクの役にたってもらったよ。とてもね。この意味が分かる?」

 ゼオルグの合図をきっかけに洞窟の奥に火がともされ、磔にされたワインズが照らされる。ワインズは死んだようにぐったりとしていて、大量の血を失ったかのように蒼白い。とても、生きているとは思えなかった。

「兄さん!」

 ワインズへと駆け寄ろうとしたロークに、再び炎の壁が行く手を阻む。

 ロークも水魔法で炎を消そうとするが激しく火花が散るだけで、一向に炎の勢いは消えそうにない。ロークはワインズが心配のあまり、半ばやけくそになって水を掛けて続けている

 生きているかわからないワインズを見て、リースはゼオルグに問いかける。

「どうして?どうしてゼオルグが悪役なの?」

 奮闘しているロークを興味深く眺めていたゼオルグは、リースの言葉を聞くなりリースへと意識を向ける。ゼオルグの表情は、まるで物覚えの悪い生徒を見ている教師の様な忍耐強さが浮かんでいた。

「ボクが悪役?ボクは悪役ではないよ、カフェの店長さん。ボクのしていることは正義なんだ。ワインズも言ってたでしょ?雪木に閉じ込めれた火の大精霊を開放することは、この歪んだ世界を正す唯一の方法なんだよ」

「世界を正す方法?」

「…店長さんはこの世界がどうしようもないほど歪んでいると思わない?」

 ゼオルグの言葉にリースはそっとルルリアナへと目を向ける。その様子をゼオルグは興味津々といった様子で見つめる。

「どうやら店長さんもボクの仲間みたいだね。だったら、ボクの邪魔するのを止めてもらえない?ねぇ、お願い!」

 可愛らしくおねだりをするゼオルグはあまりに無邪気で、自分がしていることを本当に悪いことだと思っていないようだった。

 その姿を見て、むせかえるように熱い洞窟内だというのにリースは鳥肌が立つ。純粋な悪意があるとしたら今、自分の目の前にいる存在こそがそうだろう。

「確かにこの世界はどうしようもないほど歪んでいると思うけど、だからと言って犯罪に手を染めようとは思わない!」

「やれやれ…。店長さんの頭もロークさんと同じくらい救いようがないな。まぁ、店長さんも皆もそのうち理解できるよ。ボクのしていることが正義だと」

「人を傷付けるあなたの行為が正義ですって?私が知っている正義とあなたが思い込んでいる正義はずいぶん違うようだけど?さっきから残念な生き物を見るような目で、私を見ているけれど教えてくれないかしら?これがどうして正義だと言い張るのか」

「正義を貫くには犠牲も必要でしょ?でも、それ以上の命をボクは救うんだよ?亡くなった人は本当に残念だけど、引き算をすれば誰もが納得するよね。だって、ボクがすることは大勢の命を救うことになるんだからさ」

「あなたは一体、何をしようとしているの?」

 リースはワインズの動機なら知っていた。火の大精霊を手に入れて、エギザベリア神国に反旗を翻るのだ。しかし、ゼオルグがどうして悪に手を染めたのかわからない。

「ペンタゴーヌム陸地は慢性的な水不足に苦しんでいることは店長さんも知ってるでしょ?干ばつから人々は常に餓えに悩まされていて、砂漠化が人々は住む土地を奪われる。山火事だって年々勢いを増している。でも、エギザベリア神国は偉ぶっているだけで何もしない。マザーアイスに働きかけてボクたちを救おうともしない。エギザベリア神国にとって僕たちはただのごみにしか過ぎないんだよ」

「それは違います!エギザベリア神国はあなた達の命をとても大切に考えています!」

「うるさい黙れ!」

 ルルリアナに向け、ゼオルグは炎の弾を放つ。しかし、ロークが素早く水の壁を展開させ、炎の弾はあっという間に水蒸気となり蒸発した。

「ボクたちの命が大切だって?奴らが本当にそう思っていると思ってるのか?笑わせないでくれる?」

「本当です。今の王には細かくマザーアイスを操る才能がないだけなんです。でも、次代の王であるレオザルト殿下なら…」

 バン!と火の玉が張れる音が響いたかと思ったら、風圧でルルリアナは壁へと叩きつけられる。

「今にも死にそうな人々に同じセリフが言えるのか?次代の王になるまで待って、って。君って優しそうに見えて、ボクよりも残酷な人間なんだね」

「ルルリアナ!こいつの言うことは気にしないで!」

 物分かりが悪いなぁと言わんばかりのゼオルグの表情に、リースはますますイライラを募らせる。

「そんな出来損ないの王様ならボクが殺して文句はないよね?それにもうすぐ雪木は破壊される」

 ゼオルグの視線を追いかけたリースは、ルルリアナの結界に纏わりついていた火竜がぎゅうぎゅうに結界を締め付けている姿を目にする。竜の体の隙間からはパンパンに膨れ上がった結界が飛び出いている。きつく締め付けられた風船のような姿に、リースは結界が破裂してしまうのではないかと心配になる。

 フィーアが結界に近づこうとするが、火竜の六本の手と鋭い尻尾が激しくフィーアに襲い掛かる。そのため、フィーアはなかなか雪木にも結界にも近づくことができなかった。

「ルルリアナ!」

「大丈夫です。まだまだ結界には余裕があります。それにあれくらいの力では、絶対に結界は破けません」

「本当にそうかな?」

 パチンと指が鳴らされ、火竜が結界を締め付ける力を強くする。しかし、結界はルルリアナの言うとおりにびくともしなかった。

「諦めたらどうなの?あなたの魔法ではルルリアナの結界を破ることはできないわ」

「ふむ…。それでは別の方法を考えるとしよう」

 ゼオルグが再び指を鳴らすと、火竜は一層きつく結界を締め付ける。さらに、火竜の体を覆っていた火の勢いが激しさを増した。

 結界内の空気が急激に温められて行き、結界内の映像が歪みだす。結界内にはロークが放った水たまりができている。更に熱せられた空気は火竜によって圧縮されているのだ。

 リースは学校での理科の実験を思い出していた。閉じ込められた空間で、急激に熱せられた水が水蒸気となり高温高圧下で爆発を起こす実験だ。

「ルルリアナ!急いで結界を解いて!」

 リースがそう叫んだ瞬間、結界内の空気が急激に膨張し水蒸気爆発を起こしたのだった。



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