白の贄女と四人の魔女

レオパのレ

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IEWⅢ DISC‐1

65 盲信

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 リース達が三つの像が置かれている広場に辿り着いた時、三つの像が持つトーチには火がともされ、クリスタルの光は雪の結晶を描いていた。

「兄さん…」

 それを見て自分の兄が放火魔であると悟り肩を大きく落とすロークに、ルルリアナが慰めるように寄り添う。ロークは自分の肩に置かれたルルリアナの手をそっと握りしめるのだった。

「ローク!ワインズに洞窟内で火は使用禁止だということも教えたの?」

「あぁ…。君が俺に教えてくれたことはすべて兄に教えてしまった。こんあ、こんなことになるとは思っていなかったんだ…」

「過ぎてしまったことは仕方ない。あなたは本気でお兄さんを信じていたんだから。急ぎましょう。今ならまだ、ワインズを止められるかもしれない」

 リースは洞窟にを走りながら後悔していた。アインスのゲートで雪木の場所まで飛んで行ってもらえばよかったんだ。そうすれば、先回りすることができたかもしれないのに。

「そらでけへんで」

 リースの考えをまるで読んだかのようにチャーリーが話しかける。

「ちょっと、何を言ってるのよ」

「今、ここにアインがおったらええ思たやろう?やけど、アインスのゲートで雪木があるとこまでは飛べへん。なんでなら、雪木はロクシティリア神の聖域やさかいね。魔法での侵入は許されてへん。聖域に入るには、正規のルートを通らな」

「チャーリー、貴方もしかして人の考えがわかるの?」

「…あんたの顔を見れば大抵わかる。あんたはわかりやすい。気ぃ付けてや」

 にやりと笑うチャーリーを後ろからフィーアが蹴りつける。チャーリーは鼻から地面に転んでしまったのだった。

「この変態野郎!」

 リースはそういい捨てて、痛みでもがき苦しむチャーリーを残して雪木目指して走り続けたのだった。



―❅・――❅―・――❅―・―



 リースが雪木のある洞窟内の広場に辿り着いた時、辺りは炎に包まれていた。

 雪木の前には黒いローブで全身を隠した人物が立っていた。その人物は雪木に向かって強力な四重の魔法陣を展開させている。

その魔法陣からは怒れる火竜が次々と雪木に襲い掛かっている。しかし、十数匹近い火竜はルルリアナが施した結界にはじかれ、雪木を攻撃することができない。

黒いローブの人物が指を鳴らすと飛竜は大きな一匹の大きな龍になった。小さな火竜が一匹になっただけで、洞窟内の温度が急激に上がる。

空気が通る食道から火傷しそうな熱気に、リース達は無駄だと知りつつも無意識に命を守るために手で口を覆わざるを得なかった。

 大きな火竜は、ルルリアナの結界にとぐろを巻くようにぐるぐるとゆっくりと動く。竜が声なき声で天に鳴いたかと思うと、ルルリアナの結界を物凄い力で締め付けに入ったのだった。

「ワインズ!」

 リースが叫ぶと、ローブを被った人物はにやりと微笑む。

「やはり、君には私の正体がバレていると思ったよ」

 勿体ぶってローブを降ろした男は、やはりワインズだった。ロークに似た美しい顔は狂気に満ちていて、とても魔女のいとこで会ったワインズと同一人物だと思えなかった。

 緋の髪に、本来なら金色のワインズの瞳は炎を映し出し赤く揺らめいている。炎の中に立つワインズは、彼こそが火の大精霊のようだった。

「…お前、誰だ?」

 信じられない言葉に、リースは声の主であるロークを見つめる。

「ローク?どういうこと?彼はワインズでしょ?」

「違う!お前は俺の兄貴じゃない!」

 ロークは残酷な現実を目の前にして、頭がおかしくなってしまったのだろうか?「アイス・エンド・ワールド」のシリーズスリーのラスボスは間違いなくワインズで、火の大精霊の封印を解くのも間違いなくロークの兄であるワインズなんだから。

 ロークの言葉を信じない周囲の人間にロークは焦った視線を向ける。

「お願いだ、俺を信じてくれ!こいつは俺の兄なんかじゃない!」

「ローク、あなたの気持ちはわかるけど目の前の事実に向き合わないと!」

 ワインズは余裕な態度で小さく笑うと、ロークに顔を向け微笑む。しかし、ワインズの目は笑っておらず、ロークに対する嘲りだけが映しだされていた。

「ローク。お前は本当に優しい弟だよ。こんな状況でも俺を信じてうんだからな?お前は私をお前の兄じゃないとまだ戯言を言っている。そこまで私を信じたいのか?お前の目標であり、憧れの兄だと」

 ゆっくり近づくワインズに、ロークは言い知れない恐怖を感じ思わず後ずさってしまう。

 ワインズはそれ以上ロークが下がれないように、直線の魔法陣で炎の壁を作り出す。日の壁はまるで花火のように激しい火花を放ち、ロークの退路を断ったのだった。

まるで味わうようにワインズはロークの名を口にする。

「ローク。私は前々からお前に言いたいことがあった。火の名家であるエスタニーナ家の産まれでありながら水の力を授かった出来損ないのお前に」

 ワインズはロークの肩に手をやり、ロークの瞳に恐怖が浮かぶと今度こそ心から楽しんでいるような微笑みを瞳に宿す。そして、ロークの肩を握りつぶさんばかりに手に力を込める。苦痛で跪くロークを見下ろしながら、ワインズは言葉を続ける。

「私は…昔からお前が大嫌いだったんだ。憎くて憎くて仕方がなかった。憧れの眼差しで私を見るお前が滑稽で、哀れで、嫌いだったんだよ」

 ロークを助けようにもワインズの炎の壁が邪魔をして近づくことができない。ルルリアナは慌てて土の魔法陣で、地面に書かれたワインズの魔法陣を消す。

 しかし、ワインズが魔法陣を展開し二匹目の火竜を繰り出したため、イースたちはなかなかローク達に近づくことができない。

 火竜はリースに真っ二つにされても、すぐにくっつき何事もなかったようにリースに襲いかかる。フィーアも細かく輪切りにしているが、瞬く間に復活する火竜に不機嫌に顔を顰めている。

 ルルリアナも魔法を使用しようとするが、魔法陣が完成する前に火竜が放つ火を交わすので精一杯で魔法陣を完成させることができなかった。

「チャーリー!あなたも魔法を使えるんでしょ?勿体ぶらずに魔法を使いなさいよ!」

 器用に火竜を避けているチャーリーに、リースは短く指示を出す。

「俺が使える魔法は営繭だけや。他の魔法は残念なことに使えへん。ほんまに残念や」

「だったらなんで、一人でロクシティリア神の宝箱を取りに行こうと思ったのよ!」

「あないな化け物がおるとは思わへんかってん」

 リースとフィーアに役立たずという眼差しで見つめられ、チャーリーの顔が恥ずかしさで赤く染まる。

「あなたが使えると思ったから連れてきたのに!今度からあなたは留守番よ!」

「そんなん言わんといや!俺を連れていけば、なんかの役に立つかもわからへんやろう?俺にチャンスをくれ!チャンスをくれたら俺の実力を君に…ぐええ!」

「うるさいっ!」

 リースに剣で着られ、チャーリーはピタッと黙る。チャーリーの右腕には紙で切ったような細い切り傷ができていた。

 洞窟内のロークの絶叫が響きたる。

 ワインズはロークの肩を握りしめるだけではなく、手のひらに炎を纏わせている。ロークを更なる激痛が襲う。

「くうぅ、お前は…俺の、兄さんなわけがない!」

「君は本当にムカつく野郎だな」

 ワインズの口調が変わる。

 ロークが苦し紛れに放った水球がワインズの顔に当たり、ワインズの顔を包ん営たッ空気がグニャグニャと歪み始める。

 ワインズが顔にかかった水を手で拭うと、そこに現れたのは女の子の様に可愛らしいゼオルグの顔だった。

「そんな…!」

 リースは自分の見たものが信じられなかった。

 リースの知る「アイス・エンド・ワールド」のシリーズスリーのラスボスは確かにワインズだったのだから。

 目の前で可愛らしく笑うゼオルグは里紗の知識のよると間違いなく、悪者であるワインズに立ち向かうロークの仲間だったのだから。


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