白の贄女と四人の魔女

レオパのレ

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在処のはじまり

44 事故

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 リースたちは翌日、ルードヴィクの家の改装を開始した。

 専門の大工に依頼してもよかったが、根っからのケチなリースは自分たちで家とカフェの改装をうることにしたのだった。

 すぐに後悔する羽目になろうとも知らずに。

 DIYに憧れを抱いていたリースはいかにDIYが難しいかを身をもって体験する羽目になったのだった。

 2回の壁紙の色でアインスとツヴァイが喧嘩し、仲裁に入ったルルリアナがペンキの入った缶を盛大にぶちまけてしまったのだ。

 マーカスは長さも図らず壁に穴をあけ、壁はいらない穴がいくつも空いている。

 極めつけがルードヴィクだった。ルードヴィクが出来ると豪語した2階の浴室作りは、パイプ管から盛大に水漏れし2回丸ごと水漏れしてしまったのだ。しかもペンキと混ざり合いぐちゃぐちゃだ。

「もう!みんな、何してるのよ!」

「そういうリースだって、棚が歪んでいるわよ」

 アインスの言うとおり、リースが作った棚はなぜか歪んでいて、ものが簡単に落ちてしまいそうに見える。

 ルードヴィクが耳障りなため息を吐く。

「やはり最初からプロに任せた方がいいと私は言ったんだ」

「良く言うよ。ヴックだって自分にまかせておけば、配管工事なんて簡単だって言ってたでしょ?」

 リースのもっともな突っ込みに、ルードヴィクは珍しく後ろめたそうにしている。

「でも、大工さんに任せるにしてもここを片付けないことには始まりませんよね」

 二階から一階にかけて様々な色に染まってしまった木の床を、七人は絶望の眼差しで見つめる。

「もしかしたらこれは余計にお金がかかるかもしれないってことだろう?」

 マーカスの言葉がリースに止めを刺した瞬間だった。

「大丈夫。これくらいの家を何度でも改装できるほどの隠し財産はあるからね」

「でも…ヴィク、様?そのお金はヴィク様が王国を取りも同時に必要なお金なんでは?」

 ツヴァイがしおらしくルードヴィクに尋ね、その様子をみたアインスの目元がぴくぴくと動いている。

「彼女、一体どうなっちゃったの?本当にルードヴィクに恋してるのかしら?」

 フンと鼻を鳴らし、アインスがリースの問いに答える。

「彼はロクストシティリにそっくり。瓜二つと言ってもいいわ。ロクストシティリの血を引いているエギザベリアの王族よりも彼にそっくりなんてなんて皮肉なのかしらね」

 確かにアインスの言ったとおり、教会でちらりと見たロクストシティリ神の石像にそっくりだった。

「失った恋にうつつを抜かしているだけだから気にしない方がいいわよ。あれは一時の流行り病みたいなものだから。彼は顔はそっくりでもロクストシティリじゃないとすぐに気が付くわよ」

 リースの口から乾いた笑いが漏れる。

「恋を流行り病だなんて、アインスは愛を信じていないの?」

 少しの間、アインスは過去を思い出すようなまなざしを見せ、リースの目を見て答える。

「信じているわ。でも永遠の愛なんてこの世界には存在しないの。あるのはすぐに治る病みたいなものだけ。治れば人は簡単に忘れるのよ。人を愛していたなんてことはね」

「私と夫の愛は永遠だと思うけど?」

「夫?」

 リースはニコリと笑う。

「えぇ、私にも夫がいたの。世界で一番ステキな夫がね」

「でも、死んだんでしょ?あなたを残して」

「えぇ、そうね」

「ホラ、永遠の愛なんてないでしょ?待って」アインスは話そうとしたリースを手で制する。「思い出の中に愛は生き残ってるというのは聞き飽きたからね。そういうのは紙に記して終わりにしてくれない?おして宝箱にでも厳重にしまっておいて」

「宝箱!」

 突然叫んだリースにアインスは一歩後ろに下がる。

「何よ、突然!」

「私にはあの宝箱があったわ!」

 そう叫んだリースを部屋の中にいた六人はきょとんとした顔でただ見つめていて、リースだけが一人ハイテンションであった。

 ハイテンションなリースはゲームの中のあるアイテムの存在を思い出していた。

 それは、「アイス・エンド・ワールド」のスマホ版に登場した巻物で、好きなように部屋を改装できるといったアイテムだった。

 その巻物があれば、現実世界でも好きにインテリアを変えることができるに違いない。

 巻物は北西のリーネア陸地にあるコロッセオに保管され、強力な守護者によって守られている。

 しかしこちらにも蒼し魔女と赫き魔女が存在するのだ。きっとその守護者など簡単に倒せるに違いないのだ。

 巻物を手に入れれば、簡単に失敗することなく理想の家とカフェを手に入れることができる。

 リースの頭の中は家とカフェをどのようなものにするかという空想でいっぱいになったのだった。

 巻物を手にする代わりに、魔女たちとの関係を破滅に追いやる爆弾を抱えることになるとも知らずに。

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