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IEWⅡ DISC‐1
42 始動
しおりを挟むリースはサラのいるソテリア教会で、作ったエッグベネディクト風アボカドエッグのサンドウィッチを齧りながら、自分の暗殺記事を読む心境はどんなだろうと想像する。
半熟卵が口に垂れ、舌でその卵を舐めていると、新聞から顔を上げた美青年ルードヴィクがリースに向かってニコリと微笑む。
マーカス、ルルリアナ、アインス、ツヴァイ、フィーアはまだ布団の中だ。リース、ルードヴィク、サラだけが食堂で朝食を食べていた。
そう、アモミカ王国の国王兄弟は生きているのである。
爆発する寸前、アインスがゲートを開きソテリア教会まで飛ばしたのである。
ルードヴィクは見たこともないほど優雅な仕草でリースが淹れたコーヒーを飲んでいる。
「このコーヒーは誰が淹れたんだ?城で飲んでいたコーヒーがまるで泥水のように感じるくらいここのコーヒーは美味しいな」
豆はなんだ?と問うルードヴィクにサラが写真で拝顔したことのあるルードヴィク国王におどおどと話しかける。
「そんな種類のコーヒー豆聞いたことがないが?それはどこの特産品だ?」
リースとサラは困ったように視線を合わせる。それはそうだろう、なぜならソテリア教会のコーヒー豆は量産店で売られている安物なのだ。
しかし安物の豆でも、世界規模で展開しているコーヒーチェーンの珈琲講座を何度も受講した里紗がいれると格段に美味しくなるのだ。
「この見たこともないパンも美味しいな。リース、君が作ったのか?」
暗殺された事実を忘れたかのようなルードヴィクの態度に、リースはほんの少し不安になる。
「あの…ルードヴィク陛下?」
「陛下はいらない。今の私はただのルードヴィクにすぎないのだから。そうだな、私の事はこれからヴィクと呼んでくれ」
「……ヴィク、さん。これからどうするのですか?国を取り返しに行きますか?」
「君の話から推察するに、ルッペンツェルトは軍を掌握している。アモミカ国軍に対抗できる軍はエギザベリア神国などの大国の軍しかない。しかし、死んだとされる私に軍を貸してくれる国はないに等しい」
「でも、レオザルト殿下なら」
「レオザルト皇太子殿下は確かに私の親しい友人だが、エギザベリア神国の国王の健康が芳しくない今、戦争をしたがらないだろう」
「国王陛下が?」
「レオザルト皇太子殿下がなぜ私の戴冠式に出席したと思っているんだ?臥せっている国王の代行として参加したんだ」
その言葉にリースは「アイス・エンド・ワールド」のシリーズセブンの始まりが近いことを悟る。つまり、ルルリアナが生贄となる運命が近づいているということだ。早く、この世界の運命を変えないと。
ルードヴィクが読む新聞の片隅に、ペンタゴーヌム大陸で頻発している森林火山につていの記事が載っている。
「アイス・エンド・ワールド」のゲームは徐々に始まっているのである。ゲームの舞台が着々と整っているのだ。
「はぁ、世界を救うためには七つの陸地に目を向ける必要があるのに。私が情報を仕入れる手段が新聞ただ一つなんて…」
「世界を救うとはなんだ?」
ルードヴィクの急な質問に口に含んでいたアボカドが噴き出される。
「何でもないの、私の事は気にしないで」
「…私に隠さなくてもいい。君は予知夢を見るのだろう?」
「予知夢?」
「予知夢ではないかもしれないが、何らかの形でこれからこの世界に起こる出来事を知ることができるのだろう?」
まるで天気の話をするかのようにルードヴィクが確信をつく。
「時々…いるのだ。魔女の血が濃いと特殊な能力を授かる者が。…私の弟もその一人だ。弟は何キロ先もの音を聞くことができる。君もそのうちの一人だ」
「どうしてそう思ったんですか?」
「君は魔女と一緒にいる。少なくともツヴァイ、アインス、フィーアは魔女なのだろう?それに雪の華様も魔女に近しい存在だ。神の花嫁」
「神の花嫁?」
「これを言うとエギザベリア神国では怒られるかもしれないが、アモミカ王国では雪の華様のことをそう呼んでいる。神が結婚を望むが、人界にはいない神は雪の華様と結婚できないから子孫と言われるエギザベリア神国国王と結婚させるのだと」
「アモミカ王国ではそんな風にルルリアナは思われているのね」
「大陸によって雪の華様に対する解釈は違うと聞いたことがある」
「そうなのですね…」
繊細なレースのバラの刺繍で胸が隠されただけのスケスケのテディに身を包んだアインスが眠気眼で食堂へと現れる。
そんなアインスに慌ててサラがパッチワークでできたブランケットをかぶせる。
継ぎ接ぎの拙いブランケットは孤児院の子供たちが作ったものだろう。
げぇっと顔を歪めたアインスだったがサラに見つめられ、諦めたようにしっかりとブランケットを被り、体を隠す。
リースは挨拶を交わし、アインスにもサーバーに入ったコーヒーをマグカップに入れて差し出す。
「さっき、七つの陸地を見張りたいって話していたけど、私のゲートを使えば同時に七つの陸地に家を構えることが可能よ」
アインスもさりげなく重要なことを口にするため、リースは頭が痛くなる。
「どういうこと?」
「あなたに見せたゲートの能力はほんの一部部分なの。私のゲートは本当に便利な魔法でしてよ?」
アインスが詳しくゲートに付いて説明する。
アインスの説明によると家の玄関先を鈴の音一つでいろいろな場所に設定できるとのことだった。アインスの今の能力からすると出口に指定できる場所は八か所くらいだそうだ。
「でも、同時に七か所に家を構えても情報収集するには街中を駆け巡らないといけないでしょ?」
「そんなことはない」
ルードヴィクがリースの疑問に答える。
「私はあまり王城の外に出たことはなかったが、国中の情報を知ることができた」
「自分が暗殺されるとは知らなかった人にいわれてもね」
アインスがコーヒーを飲みながらルードヴィクの話を奪う。
「ゴホン。話を続けてもいいかな?」
アインスはコーヒーカップを片手に優雅に頷く。
「そうか!自分で駆け巡らなくても人々が情報を持ってやってくるのね!」
ルードヴィクが話そうとした瞬間、リースがルードヴィクが言いたかったことを全部話してしまう。
「でも、どうやって人を集めたらいいの?」
カチカチカチという時計の針の音だけが聞こえる。
「カフェを開いたらいい」
ルードヴィクがリースにコーヒーのお代わりを催促し、ニコリと微笑む。
「カフェ?」
「食堂でもいいと思うわよ」
アインスもルードヴィクの話に乗っかる。
「どうしてカフェ?食堂?」
「だってリースのご飯本当に美味しいもの。体重が増えちゃわ」
アインスに同意するようにサラも頭を振る。
「それにコーヒーも」
ルードヴィクだ。
「美味しいと評判のカフェには自然と人が集まる。そして、情報が欲しいと思う人々が集まっている地域にカフェを開けばいい」
「そんなの無理だよ…」
そう言いつつもリースの頭の中はカフェの計画で埋め尽くされていた。
デザートには王都で売っていたあのアイスがあればいいかもしれない。
お詫び
物語の進行状、登場人物たちが集まる場などが必要でカフェにしました。
が、カフェ経営などのほっこりは少しだけです。すみません。
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