白の贄女と四人の魔女

レオパのレ

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IEWⅡ DISC‐1

32 起床

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 この世界「アイス・エンド・ワールド」というゲームは、シリーズセブンまで発売された昭和十年代の人気RPGゲームだった。

 ルルリアナがラスボスの生贄になる話は、「ラスト・エンド・ワールド」の最後のシリーズで、ストーリーも最後に相応しく今までのシリーズの内容やキャラクターが関わってくる。

 ルルリアナが生贄にされるラスボスは「冥界の王」という悪魔で、アイスクリスタ大陸の人間の負の想いを糧に蘇るという設定だった。

そのため、「冥界の王」を蘇らせる基盤となる人間の負の感情を減らせれば、「冥界の王」が蘇らないのではとリースは考えていたのだった。これから六つの陸地で繰り広げられるシリーズの話に介入し、できるだけ人身の被害を少なくすることが必要なのだ。

 つまり世界の平和を守り、時には世界のバランスを変える必要があるのだ。

 「アイス・エンド・ワールド」のシリーズツーはこれから向かうヘクサゴーヌム陸地がゲームの舞台となるのだ。

 リースが大まかに覚えているストーリーはヘクサゴーヌム陸地にある大国アモミカ王国のクーデターから始まる。国王が妻である王妃とともに亡くなり、主人公の兄である皇太子も戴冠式でのパレード中に暗殺されてしまうのである。主人公も命からがらアモミカ王国から亡命する。市井に紛れ主人公は逃亡生活の送ることになるのだ。二年後、皇太子の婚約者にアモミカ王国の王族として圧政に苦しむ民のために立ち上がれと励まされ、やっと王位の奪還を志すといった話だった。

 クーデターを起こしたのは皇太子の婚約者の父親であるルッペンツェルト公爵で、ルッペンツェルト公爵は悪政を行い、王族を慕う民を次から次へと殺害していくのである。主人公が無事、アモミカ王国を取り戻した際には、なんと驚くことにアモミカ王国の人口の三分の一がルッペンツェルト公爵によって殺害されていたのである。

 先日、アモミカ王国の国王夫妻が暗殺され、シリーズツーの舞台が徐々に整い始めている。

 リースは皇太子暗殺を阻止するために、「鈍の狼」ととともにヘクサゴーヌム陸地へと渡りアモミカ王国へと向かうつもりだった。

 そのため、昨夜ケイントにヘクサゴーヌム陸地まで一緒に同行したいと告げたのだった。

 ケイントからの返事は「俺は構わないが、ほかの奴らも納得したらな」というどっちつかずの返事であった。

 早朝に出発する鈍の狼に合わせて、リースはアインスとツヴァイを叩き起こす。

 アインスは無理やりたたき起こされたからか不機嫌な声で反抗する。

「アモミカ王国なって私のゲートを使えば一瞬で行けるのに、どうしてこんな早くに起きて長距離を旅しにと行けないわけ?これ以上日に焼けてそばかすが広がるのは嫌だわ」

 確かにすっぴんのアインスの頬には可愛らしいそばかすが散っている。しかし、化粧で完璧にそばかすを隠したアインスよりも、リースはどこかあどけないアインスの方が好きだった。こっちの顔の方がアインスらしいと思うからだ。

「そうしたいのはやまやまだけど、アインスのゲートは始まりの村か王都しか行けないでしょ?」

「失礼ね!この教会にも行けるようになったわよ」

 確かに、この教会を訪れてからアインスのゲートはこの教会にも一瞬で来れるようになった。

 どうやらアインスの行ったことがある場所にゲートは繋げられる仕組みになっているようだ。そして、先日のマキシミリオンに協力してもらいソルティキア公爵家を訪れた経験から言うと、その場所に行ったことがある人の記憶を覗けばその場所にも行けるとのことだった。

 それならアインスだっていろいろな場所の記憶があるはずなのだが、アインスが封印されたのは遥か昔で、アインスの記憶と現在の街がかけ離れていることに原因があると推察できたのだった。

 どれほど長い間、三人の魔女が封印されていたのかはわからなかった。アインスもツヴァイも封印されたときの記憶があいまいで、フィーアに至ってはいまだに一言も話していない。

ルルリアナは、フィーアは記憶が失われていると推測していた。

だが、リースはそうとは素直に思えなかった。なぜなら、時折ぼんやりとしているフィーアの目に知性の光が垣間見えるからだ。フィーアは記憶喪失のふりをしているというのがリースの考えだった。

 アインスは布団の中から恨みがましくリースを睨みつけている。

「でも、アモミカ王国には行けないでしょ!私たちはアモミカ王国に行く必要があるの!そして、アモミカ王国の皇太子の暗殺を阻止しないと!」

「どうしてそれがわかる?」

 歯を磨きながらツヴァイがリースに問う。

 こういう時、素直にリースの言うことを聞いてくれるのは意外なことにツヴァイの方だった。もしかしたら、ただ単に道中で強い魔物と戦えるのを期待しているだけかもしれないが。

「…私にはわかるの」

 ツンとリースはツヴァイに答える。

「前々から思っていたんだが、リースはどうして指輪で私たちを制御できると知っていたんだ?そのことはロクストシティリしか知らないはずだったのに」

「そ、それは…ただの偶然よ!あなた達の指に嵌められていた指輪がとっても素敵で、絶対に手に入れなきゃって思ったの!そして、指輪はまるで魔法の様に私の指にピッタリになったから、この指輪はなんかあるぞって思ったわけよ!いや~ラッキーだったな~」

 シャコシャコと歯磨きを続けながら、ツヴァイが疑うようにリースを見つめている。

 その視線に耐えられず、リースはまだ寝ているアインスの掛布団を引きはがしにかかる。

「私たちはアモミカ王国までの道のりを知らないんだから、鈍の狼に置いていかれるわけにはいかないの!アインスも早く、準備して!」

「もう!」

 アインスがガバリと起き上がる。

「そんなに日に焼けるのが嫌なら、旅の途中でケイントに記憶を読ませてもらえばいいでしょ?でも、ケイントがそれを許してくれるとは思わないけど」

「別に許してもらえなくても、触れさえすれば勝手に記憶を読み取ることくらいできるわよ」

「……それもどうかと思うけどね」

「わかったわ!こうとなったら私はケイントの記憶を盗み見るわ。ケイントはS級の冒険者ですものね、きっといろいろな街を訪れているはずだわ。そうすれば、困った主が急にどこかに行きたいとわがまま言っても、私の白い肌は守られるものね。そしてもう二度と役立たずなんて言わせないんだから!」

 だぁっと両足を上げ、その反動でアインスは起き上がる。

 その顔は狙った獲物を見つけた狩人の顔をしており、リースはアインスがケイントに失礼なことをいなければいいがと不安になるのだった。

「ねぇ、私はアインスのことを役立たずなんて言ってないと思うけど?」

「あなたのその目、その目が私を役立たずだといっていたのよ」

 リースはさっと手で自分の目を隠す。

「それは、それはすみませんでした」

 リースの頭にアインスが投げた枕がぶつかる。

「痛っ!」

「ツヴァイが投げたのよ」

 うがいをしながらツヴァイが違うと叫ぶ。

 喧嘩になる前にリースは支度を終えたツヴァイを部屋から追い出し、アインスに歯磨き粉を付けた歯ブラシを渡す。

「早く着替えないと、あなたのお気に入りの青いワンピースを私が着ちゃうからね!それで、油料理をたくさん作ってやるんだから!」

 リースは部屋からさっと出ると、アインスが投げた枕がぶつかる前に扉を閉める。そして、扉から顔だけだしアインスに舌を出す。

「早くしないと本当に実行するからね!」

 階下でみんなの分のお弁当を作っていると、お気に入りの青いワンピースを着たアインスが降りてくる。化粧も髪形もばっちりで、よくあんな短い時間でこれほど完璧に支度ができるのかと思うほどだ。

「お弁当作り終えてから起こしてくれても良かったんじゃなくて?」

「ほぅ…。つまり、このお弁当はいらないということ?」

「そうは言ってないわよ!リースは意地悪だわ!」

 アインスのふくれっ面を見て、アインスのお弁当に一つだけ多くから揚げを入れる。それを見て、アインスは機嫌をほんの少しだけ直したのだった。

 そしてアインスはケイントの記憶を盗むべく、ケイントへの接触を試みる。しかし、ケイントはいつもひらりとアインスの魔の手から逃れてしまい、アインスがケイントの記憶を読むことができたのはかなり後のことだった。

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