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福猫

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第1話

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水晶の中で眠り続けるタケルの姿を心配そうな顔で和人(かずと)が見つめているとタケルの兄、ルタが近づいてきた。

「和人」

「ルタ様、なぜタケル様は目覚めないのですか?」

「百合(ゆり)の呪いでタケルは眠り続けている、百合の呪いが解ければタケルは目覚めるはず」

「百合を倒せばタケル様は目覚める」

そう言って和人が行こうとしたその時、振り向きルタが口を開いた。

「お前の力で百合に勝てると思っているのか」

「勝てないかもしれないけど、俺は百合に戦いを挑みます」

「お前1人じゃ無理だ、人間界に行ってある男に会え」

「ある男って誰ですか?」

「小松茉莉(こまつまり)という男だ」

「小松茉莉…」

「和人、小松茉莉という男に会ったら俺の名前を言ってこの薬を飲ませろ」

「……」

差し出された小さな薬を受け取ると和人が口を開いた。

「必ず小松茉莉という男に渡します」

「俺が人間界に送ってやる」

そう言ってルタが左右の手を広げ力を込めその後、左右の手を合わせると和人はその場から姿を消しその後、森林の中に姿を現した。

「人間界に着いたのかな」

森林の中を歩きだし2時間後、森林を出た和人は道端で走る車を見て驚いた。

「何だあれは」

不思議そうな顔で走る車を見つめていると1台の車が和人の前で止まった。

「……」

和人が見つめると運転席のドアが開き小松茉莉が現れた。

「もしかしてルタの仲間の人?」

「どうしてルタ様のことを…もしかしてあなたが小松茉莉…」

「はい、小松茉莉です」

「これをあなたに飲ませろと」

和人が薬を差し出すと「車の中で話をしましょう」と言って小松茉莉は運転席に乗り込みドアを閉めその後、助手席のドアが開いた。

「どうぞ」

「……」

和人が無言で助手席に乗り込みドアを閉めると小松茉莉が手を差し出しながら口を開いた。

「薬を貰いましょうか」

「……」

差し出された手のひらの上に薬を置くと小松茉莉は薬を口に含み一気に飲んだ。

「……」

5秒後、小松茉莉は目を閉じ眠りについた。

「大丈夫ですか?」

「……」

「どうしょう返事をしない」

「……」

心配そうな顔で和人が見つめていると小松茉莉が目を覚ました。

その後、小松茉莉は和人に「ルタに会わせて」と口にした。

和人は困った。

どうしてルタの元に行けば良いのか和人は困った。

その姿を見て小松茉莉が口を開いた。

「あなた魔法が使えないの?」

「…すみません…」

「怒ってる訳じゃないから謝らないで良いよ」

「聞いても良いですか」

「何?」

「ルタ様と小松茉莉さんはどういう関係なんですか?」

「茉莉で良いよ」

「茉莉さん」

「ルタの元恋人…かな…」

「元恋人って茉莉さん、あなたはいったい」

「話はおしまい、ルタの元に行こうか」

そう言って茉莉が車を走らせると和人は真正面に現れた空間に驚きそのまま車が空間の中に入るとその後、車は空間を出て城の前に止まった。

その後、茉莉と和人は車からおりドアを閉め茉莉は和人に近づき現れたルタを見つめた。

「茉莉」

「久しぶり」

「久しぶり」

優しい顔で見つめ合うルタと茉莉の姿を見て和人は口を開いた。

「俺、タケル様の様子を見てきます」

「あぁ…」

「……」

ルタにお辞儀をすると和人は城の中に入りルタと茉莉は歩きだし城から離れた。

「タケルは百合にはっきり言わなかったのか」

「他に好きな人がいるって言ったと思うけど」

「百合が受け入れなかった、だからタケルは百合に呪いをかけられ水晶の中で眠りについた」

「ルタはタケルの好きな人わかる?」

「俺達が別れた理由わかるか?」

「お前が別れよって言ったんじゃないか」

そう言って茉莉は立ち止まりルタに目線を向けると百合が現れた。

「久しぶりね、茉莉」

「……」

「百合!」

茉莉とルタが同時に目線を向けると百合が口を開いた。

「茉莉、タケルが心配で来たの?」

「当たり前だろ、タケルは大事な友達だ」

「大事な友達?」

「……」

「男の茉莉に女の私が負けるなんてあり得ない…茉莉、許せない」

そう言って百合が手に力を込め光線を放つとルタは茉莉の前に立ち光線を受けそのまま茉莉とルタは倒れた。

茉莉は身体を起こし「ルタ…ルタ…」とルタの身体を抱き起こしながら声をかけた。

「茉莉…逃げろ…茉莉…」

「ルターー」

目を閉じたルタに向かって茉莉が叫んだその時、タケルが現れた。

茉莉と百合は同時に驚いた。

「水晶の中で眠ってるはずじゃ」

茉莉の問いにタケルは微笑みその後、百合に目線を向けるとそのまま近づき一瞬で百合の姿が消えた。

ルタの身体を抱き起こしながら茉莉が驚くと振り向きタケルが口を開いた。

「せっかく人間界で幸せに暮らしてたのに俺のせいでゴメンな」

「……」

ルタの身体を寝かせ立ち上がると茉莉はタケルに近づき抱きしめた。

茉莉は驚きタケルから離れると口を開いた。

「水晶で眠り続けてるはずなのに何でここに」

「俺の本体は水晶の中で眠ってる、茉莉の前にいる俺は分身だ」

「分身…」

「茉莉、俺は…」

言いかけたその時、タケルの分身は消え本体の中に戻った。

「タケル様」

水晶の中で眠り続けるタケルの姿を和人が見つめているとルタの身体を支えながら茉莉が現れた。

「ルタの傷の手当てをしたいんだけど部屋はあるかな」

「ルタ様!」

「部屋はあるかな」

「あります、こちらへ」

先に和人が歩き出すと茉莉はルタの身体を支えながら和人についていきルタの部屋に向かった。

その後、茉莉はルタをベッドの上にうつ伏せで寝かせ上服を脱がせると傷を見た。

「傷は酷くないな、手当てをすればすぐ治るだろ」

「傷の手当ては俺に任せてください、茉莉さんはタケル様をお願いします」

「俺が見てもタケルの呪いは解けないよ、呪いはかけた百合が解かないと」

「それでもタケル様をお願いします」

「わかった」

そう言って茉莉が部屋を出てドアを閉めると和人はベッドに近づき右手を向け傷の治療を始めた。

部屋を出た茉莉は広い部屋の中央で水晶の中で眠り続けるタケルに近づき見つめた。

「…タケル…」

「……」

眠り続けているタケルが茉莉の声に反応し手を動かすとそれに築き茉莉は何度も声をかけた。

「タケル…俺の声が聞こえるなら目を覚まして…タケル…」

「…茉…莉…」

「タケル…」

眠っているタケルの声に築き茉莉が声をかけると眠っているタケルが目を覚ました。

「……」

「……」

タケルと茉莉は見つめ合い手と手を合わせた。

「茉莉…」

「呪いは解けたのか?」

「呪いは解けてない」

「なら何で目を覚まし話が」

「お前の力で俺は呪われても目が覚めたのかも」

「俺にそんな力は」

「茉莉…」

「タケル…」

手と手を合わせながらタケルと茉莉は見つめ合いその後、互いの名を口にしそのまま顔を近づけ水晶越しに唇を重ねた。

その時、「認めない」と百合の声が聞こえタケルが苦しみだした。
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