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誓い抱きし者達
十一
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「! っ…」
「? どうしたの、雷牙君」
「…いや、是羅のアホの残留思念っつーかこぉ…嫌な感じのがさ」
「それは相当嫌な感じなんでしょうね」
憎々しげに言う雪子に雷牙は苦笑し、チラと背後を振り返った。
そして終わったな、と悟った。
魔物が引き離された光は、人として死んでいける。
彼が彼として死ねる形を整えることが、裕幸と竜騎に実現できる唯一可能な奇跡だった。
自分達が駆け付けた時には、もう手遅れだったのだ。裕幸と、自分と、里界の力でなんとか命を繋ぎとめていたけれど、…雪子の前でだけは死なせちゃいけないと必死になっていたけれど、あの体はとうに死んでいたのだから。
闇狩が自分から闇を呼び込むなんて馬鹿だと思った。
いくら好いた女を守るためといったって、それで自分が死んだらただの馬鹿だ。守られた女にだって負担にしかならない。いいことなんか一つもない。
なのに…、そう思っていたのに、あの体で雪子に微笑って見せた光を見たとき、スゲェなと思った。
純粋に感動した。
そんなに好きだったのかなと思ったら、光がカッコよく見えて、雪子が可哀想だなと、泣きたくなった。
「…」
雷牙は案内人だ。
雪子を、光を迎えに来た狩人と引き合わせて、帰すだけ。
雷牙の役目はそれだけだ。
(泣いたり喚いたり…同情したり。それは俺の仕事じゃねーよ)
戻ったら、きっと裕幸は泣いている。
竜騎も不機嫌になっているだろう。
そんな時に雷牙まで取り乱していたら、誰が瑞乃の夕飯を作るんだ?
「俺はただの案内人だ…」
「え?」
ぽつりとこぼした独り言に雪子が再び振り返った、そのとき。
「きゃあっ!」
「雪子様?!」
いきなりの突風と切羽詰った男の声。
「っ、何者だ!」と、雪子を背後に引き隠して、すかさず雷牙に対し戦闘体勢を取ったのは大柄で取っ付きにくそうな印象を受ける男。
闇狩十君の蒼月は警戒心露に雷牙を見据えたが、闇狩の力の波動を感じさせるこの男が光と雪子を迎えに来た狩人だろうと判る雷牙は平然と構えていた。
そのうち、背後に庇われた雪子が蒼月の背を叩く。
「ち、違うの蒼月さん、その人は敵じゃないの! 私達を助けてくれたのよ」
「…助けた?」
「おぅ。敵対するつもりはこれっぽっちもないぜ」
胸を張って、今までと変わりない口調のまま。
「おたくら闇狩一族だって、是羅の他に敵作るつもりなんかないだろ? 大体ここに来たのは光を迎えに来たんだろうし」
「っ、緑は無事なのか?!」
「…、さぁ?」
ふと声の調子が変わった。
奇妙な間が蒼月の、そして雪子の脳裏に嫌な予感を沸き起こさせる。
「ねぇ…、私、蒼月さんを緑君のところに案内するために来たんでしょ?」
「ああ」
「緑君は大丈夫って言ったでしょ?!」
「言ったな。だってそうでも言わなきゃおまえがあいつから離れなかったろ」
「――!!」
一気に全身から血の気が引いたような気がした。
体が急速に冷えていく。
手足が、震えている。
「そんな…っ」
雪子が蒼月の背後から抜け出し、来た道を駆け戻ろうとするのを、雷牙は腕一本で阻んだ。
「何なの嘘つき! 緑君…っ、行かせたくないなら緑君どうなったのか教えなさいよ!!」
「雪子様から手を放せ」
叫ぶ雪子と、雷牙に向けて狩人の刃を構える蒼月。
真剣な顔で、真っ青になって光の身を案じる二人に、雷牙は深く嘆息した。
「ったく…、まぁ待てって。もう一人来るから」
「もう一人…?」
聞き返す間に、大きな力が周囲を吹き抜けた。
「松橋!」
光の気配がまったく感じられず、雪子の気配を頼りにここまで辿り着いた河夕は、蒼月が刃を向け、雪子を束縛する少年を一瞬で敵とみなした。
「貴様…っ」
「ちょ…冗談だろ?!」
これにはさすがの雷牙も顔色を変え、雪子を放して背後に飛ぶ。
「蒼月、松橋を頼むぞ!」
「ちょっと待てって! 俺は戦うつもりなんかこれっぽちも……!」
「松橋を攫っておいて言い訳か!!」
焦りより怒り、理性よりも本能で敵に向かう河夕の力は通常の比ではなかった。
本気で相手を倒そうとしていて、雪子の「待って」の声も聞こえない。
「だあっ!」
必死に河夕の攻撃をかわしていた雷牙はたまらず叫ぶ。
「だから違うっつってんだろ?! なんでこぉ闇狩の連中は血気盛んなんだよ! あんな馬鹿やらかした光がおとなしく見えるじゃねーか!!」
「なに?!」
「光に会いたいならその刀しまえよ刀ぁ!!」
光の名前を出されて手を止めた河夕、その手が持つ刀の刃先間近に、ゼーゼーいいながらかろうじて逃げ切った雷牙の顔がある。
「ったく…、マジで死ぬかと思ったじゃねーか!」
「…おまえ、誰だ」
「っ、最初に聞けそういうことは! このウスラトンチキがっ!!」
「影見君!」
ほんの数秒とはいえ、本気で相手を倒そうとしていた河夕と、少なからず距離が出来てしまった雪子は、ようやく静まった河夕に慌てて駆け寄ってくる。
「影見君っ、待ってって…、なんで聞いてくれないの?」
走ったせいで息を切らしながらも、雪子は早口に続ける。
「その人は私達を助けてくれたのっ、敵じゃないのよ、一応は!」
「一応ってなんだよ」
「だって嘘ついたじゃない!」
口を挟んだ雷牙に、雪子は容赦なく言い放つ。
「緑君は大丈夫って言ったじゃない! 心配だから早く蒼月さん迎えに行って帰ってこようって、そう言ってくれたじゃない! なのになんであんな言い方するの?!」
「光はどこだ?!」
「だから少し落ち着けってんだ! 闇狩ってのは皆そうなのか?!」
「私は闇狩じゃないわよ!」
「判った、そこまでにしよう」
手を叩き、言い合う二人の間に入ったのは蒼月。
「河夕様も雪子様も、彼の言うとおり少し落ち着かれた方がいい。それに彼が居場所を教えなくても、雪子様も知っているんだろう?」
「あ、そっか。私が二人を連れて行けばいいんだ!」
「無理だね」
ようやく冷静に考えてみて、雪子も光の居場所を知っていることに気づいた彼らだったが、それを雷牙が一蹴する。
「光は白夜の結界の中だ。どこにいるかは判っても、そこから中には入れない。俺が連れて行かなきゃあんたらは光に会えないぜ」
「だったらさっさと連れて行きなさいよ!」
「嫌だね」
「おまえ…っ」
雷牙の返答が再び河夕の額に青筋を浮かべさせるが、今回は雷牙の方が怯まなかった。
「あんた、一族の影主だろ。そっちの蒼月だっけ? あんたも闇狩の十君名乗るんだったら、自分から闇を呼び込んだあいつがどんな姿で死んでいくか想像つくよな」
「死ぬなんて言わないで!」
「いいや、あいつは死ぬぜ」
「雷牙君!」
「嘘つかれたくないんだろうが」
冷ややかに返し、河夕に向き直る雷牙。
「解ってンだろ、光がどうなったか」
「…っ」
「あいつがどんな姿になって死んでいくか…、それをあいつ自身が覚悟してて、そこの女にそーゆー姿を見せたいと思うかよ。白夜はそれが解ってたから俺に雪子を外へ連れ出せって言ったんだ。これでもまだ文句あるか?」
「っ…」
言い返そうにも言葉が出てこなかった。
光の気持ちが解る以上、雷牙の言葉を否定出来るはずがない。
「あいつは白夜と黒天獅が弔う。二人とも光のことホント大事にしてるから悪いようにはしない。本人が見られたくないと思ってるもンを見ようとするな」
雷牙の台詞に、顔を見ないで欲しいと告げた光の声が重なって、雪子は口元を手で覆った。
「光は死んだ。あんた達が知るのはそれで充分だろ」
短くも、間違いのないたった一つの真実。
これ以上言えることも、聞くこともなかった。
光が死ぬのは、彼と闇の力が合わさった時から一族の者達には見えていた結末だ。
いまさら驚くこともない。
彼が自ら闇を呼び込んだのなら、これは光自身が望んだ結果ということになる。
「…あいつは…光は、死んだんだな……」
「ああ」
雷牙の躊躇いのない返答に、河夕も、蒼月も、…そして雪子も言葉がなかった。
少し離れた先で一つの結界が解かれた時。
浄化されて金粉となった魔物の成れの果てが世界に散っていくのを感じた。
人の気配が三つ在った。
だがそこに狩人のものは、なかった。
――おまえは松橋を守ると誓った、俺はそれを信じた、だから話した……
光は河夕の気持ちを理解した。
先代の想いも、五百年前の王の想いも、その胸に刻まれた。
――死んじゃイヤ…死なないで……っ!
叫ぶように訴えた彼女の涙の温もりが、しがみつかれた腕に今も残る。
それがどんな意味であれ、彼女に必要とされたあの一瞬がひどく嬉しかった。
彼女を守れて満足だった。
裕幸と竜騎と、そして二度と会えるはずのない“彼女”の忘れ形見に見守られて死ねる自分は、なんて幸福だっただろう。
「…お兄ちゃん、ねむっちゃったの?」
静かで穏やかな少女の声。
心音が最後の一つを跳ねたとき、光は静かに微笑っていた―――。
「? どうしたの、雷牙君」
「…いや、是羅のアホの残留思念っつーかこぉ…嫌な感じのがさ」
「それは相当嫌な感じなんでしょうね」
憎々しげに言う雪子に雷牙は苦笑し、チラと背後を振り返った。
そして終わったな、と悟った。
魔物が引き離された光は、人として死んでいける。
彼が彼として死ねる形を整えることが、裕幸と竜騎に実現できる唯一可能な奇跡だった。
自分達が駆け付けた時には、もう手遅れだったのだ。裕幸と、自分と、里界の力でなんとか命を繋ぎとめていたけれど、…雪子の前でだけは死なせちゃいけないと必死になっていたけれど、あの体はとうに死んでいたのだから。
闇狩が自分から闇を呼び込むなんて馬鹿だと思った。
いくら好いた女を守るためといったって、それで自分が死んだらただの馬鹿だ。守られた女にだって負担にしかならない。いいことなんか一つもない。
なのに…、そう思っていたのに、あの体で雪子に微笑って見せた光を見たとき、スゲェなと思った。
純粋に感動した。
そんなに好きだったのかなと思ったら、光がカッコよく見えて、雪子が可哀想だなと、泣きたくなった。
「…」
雷牙は案内人だ。
雪子を、光を迎えに来た狩人と引き合わせて、帰すだけ。
雷牙の役目はそれだけだ。
(泣いたり喚いたり…同情したり。それは俺の仕事じゃねーよ)
戻ったら、きっと裕幸は泣いている。
竜騎も不機嫌になっているだろう。
そんな時に雷牙まで取り乱していたら、誰が瑞乃の夕飯を作るんだ?
「俺はただの案内人だ…」
「え?」
ぽつりとこぼした独り言に雪子が再び振り返った、そのとき。
「きゃあっ!」
「雪子様?!」
いきなりの突風と切羽詰った男の声。
「っ、何者だ!」と、雪子を背後に引き隠して、すかさず雷牙に対し戦闘体勢を取ったのは大柄で取っ付きにくそうな印象を受ける男。
闇狩十君の蒼月は警戒心露に雷牙を見据えたが、闇狩の力の波動を感じさせるこの男が光と雪子を迎えに来た狩人だろうと判る雷牙は平然と構えていた。
そのうち、背後に庇われた雪子が蒼月の背を叩く。
「ち、違うの蒼月さん、その人は敵じゃないの! 私達を助けてくれたのよ」
「…助けた?」
「おぅ。敵対するつもりはこれっぽっちもないぜ」
胸を張って、今までと変わりない口調のまま。
「おたくら闇狩一族だって、是羅の他に敵作るつもりなんかないだろ? 大体ここに来たのは光を迎えに来たんだろうし」
「っ、緑は無事なのか?!」
「…、さぁ?」
ふと声の調子が変わった。
奇妙な間が蒼月の、そして雪子の脳裏に嫌な予感を沸き起こさせる。
「ねぇ…、私、蒼月さんを緑君のところに案内するために来たんでしょ?」
「ああ」
「緑君は大丈夫って言ったでしょ?!」
「言ったな。だってそうでも言わなきゃおまえがあいつから離れなかったろ」
「――!!」
一気に全身から血の気が引いたような気がした。
体が急速に冷えていく。
手足が、震えている。
「そんな…っ」
雪子が蒼月の背後から抜け出し、来た道を駆け戻ろうとするのを、雷牙は腕一本で阻んだ。
「何なの嘘つき! 緑君…っ、行かせたくないなら緑君どうなったのか教えなさいよ!!」
「雪子様から手を放せ」
叫ぶ雪子と、雷牙に向けて狩人の刃を構える蒼月。
真剣な顔で、真っ青になって光の身を案じる二人に、雷牙は深く嘆息した。
「ったく…、まぁ待てって。もう一人来るから」
「もう一人…?」
聞き返す間に、大きな力が周囲を吹き抜けた。
「松橋!」
光の気配がまったく感じられず、雪子の気配を頼りにここまで辿り着いた河夕は、蒼月が刃を向け、雪子を束縛する少年を一瞬で敵とみなした。
「貴様…っ」
「ちょ…冗談だろ?!」
これにはさすがの雷牙も顔色を変え、雪子を放して背後に飛ぶ。
「蒼月、松橋を頼むぞ!」
「ちょっと待てって! 俺は戦うつもりなんかこれっぽちも……!」
「松橋を攫っておいて言い訳か!!」
焦りより怒り、理性よりも本能で敵に向かう河夕の力は通常の比ではなかった。
本気で相手を倒そうとしていて、雪子の「待って」の声も聞こえない。
「だあっ!」
必死に河夕の攻撃をかわしていた雷牙はたまらず叫ぶ。
「だから違うっつってんだろ?! なんでこぉ闇狩の連中は血気盛んなんだよ! あんな馬鹿やらかした光がおとなしく見えるじゃねーか!!」
「なに?!」
「光に会いたいならその刀しまえよ刀ぁ!!」
光の名前を出されて手を止めた河夕、その手が持つ刀の刃先間近に、ゼーゼーいいながらかろうじて逃げ切った雷牙の顔がある。
「ったく…、マジで死ぬかと思ったじゃねーか!」
「…おまえ、誰だ」
「っ、最初に聞けそういうことは! このウスラトンチキがっ!!」
「影見君!」
ほんの数秒とはいえ、本気で相手を倒そうとしていた河夕と、少なからず距離が出来てしまった雪子は、ようやく静まった河夕に慌てて駆け寄ってくる。
「影見君っ、待ってって…、なんで聞いてくれないの?」
走ったせいで息を切らしながらも、雪子は早口に続ける。
「その人は私達を助けてくれたのっ、敵じゃないのよ、一応は!」
「一応ってなんだよ」
「だって嘘ついたじゃない!」
口を挟んだ雷牙に、雪子は容赦なく言い放つ。
「緑君は大丈夫って言ったじゃない! 心配だから早く蒼月さん迎えに行って帰ってこようって、そう言ってくれたじゃない! なのになんであんな言い方するの?!」
「光はどこだ?!」
「だから少し落ち着けってんだ! 闇狩ってのは皆そうなのか?!」
「私は闇狩じゃないわよ!」
「判った、そこまでにしよう」
手を叩き、言い合う二人の間に入ったのは蒼月。
「河夕様も雪子様も、彼の言うとおり少し落ち着かれた方がいい。それに彼が居場所を教えなくても、雪子様も知っているんだろう?」
「あ、そっか。私が二人を連れて行けばいいんだ!」
「無理だね」
ようやく冷静に考えてみて、雪子も光の居場所を知っていることに気づいた彼らだったが、それを雷牙が一蹴する。
「光は白夜の結界の中だ。どこにいるかは判っても、そこから中には入れない。俺が連れて行かなきゃあんたらは光に会えないぜ」
「だったらさっさと連れて行きなさいよ!」
「嫌だね」
「おまえ…っ」
雷牙の返答が再び河夕の額に青筋を浮かべさせるが、今回は雷牙の方が怯まなかった。
「あんた、一族の影主だろ。そっちの蒼月だっけ? あんたも闇狩の十君名乗るんだったら、自分から闇を呼び込んだあいつがどんな姿で死んでいくか想像つくよな」
「死ぬなんて言わないで!」
「いいや、あいつは死ぬぜ」
「雷牙君!」
「嘘つかれたくないんだろうが」
冷ややかに返し、河夕に向き直る雷牙。
「解ってンだろ、光がどうなったか」
「…っ」
「あいつがどんな姿になって死んでいくか…、それをあいつ自身が覚悟してて、そこの女にそーゆー姿を見せたいと思うかよ。白夜はそれが解ってたから俺に雪子を外へ連れ出せって言ったんだ。これでもまだ文句あるか?」
「っ…」
言い返そうにも言葉が出てこなかった。
光の気持ちが解る以上、雷牙の言葉を否定出来るはずがない。
「あいつは白夜と黒天獅が弔う。二人とも光のことホント大事にしてるから悪いようにはしない。本人が見られたくないと思ってるもンを見ようとするな」
雷牙の台詞に、顔を見ないで欲しいと告げた光の声が重なって、雪子は口元を手で覆った。
「光は死んだ。あんた達が知るのはそれで充分だろ」
短くも、間違いのないたった一つの真実。
これ以上言えることも、聞くこともなかった。
光が死ぬのは、彼と闇の力が合わさった時から一族の者達には見えていた結末だ。
いまさら驚くこともない。
彼が自ら闇を呼び込んだのなら、これは光自身が望んだ結果ということになる。
「…あいつは…光は、死んだんだな……」
「ああ」
雷牙の躊躇いのない返答に、河夕も、蒼月も、…そして雪子も言葉がなかった。
少し離れた先で一つの結界が解かれた時。
浄化されて金粉となった魔物の成れの果てが世界に散っていくのを感じた。
人の気配が三つ在った。
だがそこに狩人のものは、なかった。
――おまえは松橋を守ると誓った、俺はそれを信じた、だから話した……
光は河夕の気持ちを理解した。
先代の想いも、五百年前の王の想いも、その胸に刻まれた。
――死んじゃイヤ…死なないで……っ!
叫ぶように訴えた彼女の涙の温もりが、しがみつかれた腕に今も残る。
それがどんな意味であれ、彼女に必要とされたあの一瞬がひどく嬉しかった。
彼女を守れて満足だった。
裕幸と竜騎と、そして二度と会えるはずのない“彼女”の忘れ形見に見守られて死ねる自分は、なんて幸福だっただろう。
「…お兄ちゃん、ねむっちゃったの?」
静かで穏やかな少女の声。
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