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闇狩の血を継ぐ者
十六
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「!!」
「なっ…空知さん、今のは……?!」
四城市の結界強化、闇の討伐に加わり狩人の力を振るっていた彼らは、何の前触れもなく全身に駆け抜けた戦慄に顔色を失った。
空知敬之―十君・蒼月も、白河純―十君・白鳥も日本刀を模った闇狩の力を握る手を止め、目を大きく見開いて背後の空を凝視した。
「河夕様……っ?」
二人の青年の不安を音にし、言葉に出したのは同じく四城市の守護にあたっていた十君・紅葉。
厚い灰色の雲に覆われた空の一点を見据え、驚愕の声を押し出した。
闇狩十君に名を連ねる彼らを襲った衝撃。
彼らだけじゃない、闇狩一族であれば誰もがこの異変を感じ取れただろう。が、影見河夕という総帥影主に生涯の忠誠を誓った彼らだからこそ感じ取った異常事態。
突然の圧力の中、一つの絶対的存在が消えていこうとしていた。
「河夕様の力が……、消える……?」
「そんな馬鹿な…っ!!」
蒼月が声を張り上げ、手の中の刀を消して動き出す。
「一度本部に戻る! こんなのは…こんなのは何かの間違いだ!!」
「空知さん!」
本部と四城市をつなぐ鏡を求めて駆け出した蒼月を白鳥が追い、後を紅葉が追う。
その途中、河夕直々の命令を受けて四城市の守護にあたっていた狩人数名に今の衝撃は何かと問われたが、紅葉はそのたびに今すぐ確認して報告すると早口に言い放って先を行く二人の青年を追いかけた。
進路を妨害する闇の卵を力で吹き飛ばし、時には八つ当たりにも似た態度で容赦なく切り伏せた。
そうして数分、目的の等身大鏡の前にたどり着こうとしていた三人に、その近隣を守護していた梅雨が顔色を変えて駆け寄った。
「紅葉っ、本部との道が開かないの!」
「なに?!」
「どういうこと?!」
「判らないわ! 影主に何かあったと感じて本部への道をつなげようとしたら…いきなり鏡の内部が爆発して……っ」
「爆発?!」
「何度やっても駄目なのよ! でも本部以外への道は開くの! 私の力がどうかしてるわけでも鏡に不備があるわけでもないわ! 本部にだけ道がつながらないのよ!!」
「クソッ、なんでだ!!」
梅雨に言われて、それでもあきらめられずに二度、三度、間違いのない正確な呪いを繰り返した空知は鏡に向かって怒鳴りつける。
「なぜ本部への道が開かないんだ!!」
「術は間違いないのに……っ」
不安と、焦りと、…そして恐怖。
彼らを襲った衝撃は彼らの落ち着きを奪うには充分すぎた。
こうしている間にも河夕の力が弱まっていく。
あんなにも強く感じられてきた王の存在感が時を追うごとに薄れていく。
「河夕様……!」
狩人の術によって鏡は黒く染まり目的地への道を開くのに、今は砂嵐のような映像が映るだけで本部に導く通路を作り出そうとはしなかった。
いったい何がどうなっているのか。
誰が何をしたと言うのか。
どうしたらいいのか判らず、何をしたら河夕の安否だけでも知ることが出来るのか悩み、それでも彼らに出来ることはなかった。
――そうしているうちに、追い討ちをかけるかのごとく遠方から届いた急激な力の暴発。
「?!」
「なっ…これは緑君か……?!」
「…深緑一人じゃないわ…」
顔面蒼白、全身を恐れに震わせて紅葉が呟く。
「この波動は……」
吐き気に頭痛、目眩までが誘発され、呼吸することすら厭いたくなる不快な風。
狩人が闇に憑かれた際の、心の拒否反応が起こすもの。
「――! 紫紺か……!!」
「あぁ…、彼が憑かれたんだよ、闇に……」
魔物と重なりつつある狩人の力は、常に河夕と彼の弟妹を軽侮し、非難し続けてきた男のものに違いなく、それが紫紺だと分かった彼らは今まで以上の不安を抱いた。
紫紺が裏切った。
闇に憑かれた、おそらくは是羅の仕業。
――河夕様……っ
「なっ…空知さん、今のは……?!」
四城市の結界強化、闇の討伐に加わり狩人の力を振るっていた彼らは、何の前触れもなく全身に駆け抜けた戦慄に顔色を失った。
空知敬之―十君・蒼月も、白河純―十君・白鳥も日本刀を模った闇狩の力を握る手を止め、目を大きく見開いて背後の空を凝視した。
「河夕様……っ?」
二人の青年の不安を音にし、言葉に出したのは同じく四城市の守護にあたっていた十君・紅葉。
厚い灰色の雲に覆われた空の一点を見据え、驚愕の声を押し出した。
闇狩十君に名を連ねる彼らを襲った衝撃。
彼らだけじゃない、闇狩一族であれば誰もがこの異変を感じ取れただろう。が、影見河夕という総帥影主に生涯の忠誠を誓った彼らだからこそ感じ取った異常事態。
突然の圧力の中、一つの絶対的存在が消えていこうとしていた。
「河夕様の力が……、消える……?」
「そんな馬鹿な…っ!!」
蒼月が声を張り上げ、手の中の刀を消して動き出す。
「一度本部に戻る! こんなのは…こんなのは何かの間違いだ!!」
「空知さん!」
本部と四城市をつなぐ鏡を求めて駆け出した蒼月を白鳥が追い、後を紅葉が追う。
その途中、河夕直々の命令を受けて四城市の守護にあたっていた狩人数名に今の衝撃は何かと問われたが、紅葉はそのたびに今すぐ確認して報告すると早口に言い放って先を行く二人の青年を追いかけた。
進路を妨害する闇の卵を力で吹き飛ばし、時には八つ当たりにも似た態度で容赦なく切り伏せた。
そうして数分、目的の等身大鏡の前にたどり着こうとしていた三人に、その近隣を守護していた梅雨が顔色を変えて駆け寄った。
「紅葉っ、本部との道が開かないの!」
「なに?!」
「どういうこと?!」
「判らないわ! 影主に何かあったと感じて本部への道をつなげようとしたら…いきなり鏡の内部が爆発して……っ」
「爆発?!」
「何度やっても駄目なのよ! でも本部以外への道は開くの! 私の力がどうかしてるわけでも鏡に不備があるわけでもないわ! 本部にだけ道がつながらないのよ!!」
「クソッ、なんでだ!!」
梅雨に言われて、それでもあきらめられずに二度、三度、間違いのない正確な呪いを繰り返した空知は鏡に向かって怒鳴りつける。
「なぜ本部への道が開かないんだ!!」
「術は間違いないのに……っ」
不安と、焦りと、…そして恐怖。
彼らを襲った衝撃は彼らの落ち着きを奪うには充分すぎた。
こうしている間にも河夕の力が弱まっていく。
あんなにも強く感じられてきた王の存在感が時を追うごとに薄れていく。
「河夕様……!」
狩人の術によって鏡は黒く染まり目的地への道を開くのに、今は砂嵐のような映像が映るだけで本部に導く通路を作り出そうとはしなかった。
いったい何がどうなっているのか。
誰が何をしたと言うのか。
どうしたらいいのか判らず、何をしたら河夕の安否だけでも知ることが出来るのか悩み、それでも彼らに出来ることはなかった。
――そうしているうちに、追い討ちをかけるかのごとく遠方から届いた急激な力の暴発。
「?!」
「なっ…これは緑君か……?!」
「…深緑一人じゃないわ…」
顔面蒼白、全身を恐れに震わせて紅葉が呟く。
「この波動は……」
吐き気に頭痛、目眩までが誘発され、呼吸することすら厭いたくなる不快な風。
狩人が闇に憑かれた際の、心の拒否反応が起こすもの。
「――! 紫紺か……!!」
「あぁ…、彼が憑かれたんだよ、闇に……」
魔物と重なりつつある狩人の力は、常に河夕と彼の弟妹を軽侮し、非難し続けてきた男のものに違いなく、それが紫紺だと分かった彼らは今まで以上の不安を抱いた。
紫紺が裏切った。
闇に憑かれた、おそらくは是羅の仕業。
――河夕様……っ
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