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間話

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 見つけた、と。
 そう思ったのは私だったのか、彼の方だったのか。
 とても甘くて温かな匂いがした。
 この手に捕らえて自分のものにしたい衝動に駆られた。

 本能、だった。


 勇者との最終決戦となる大広間――その中心たる玉座に腰かけて目を瞑ってから、どれくらいの時間が過ぎたのだろう。
 積み重なって来た記憶が前触れもなく見えてしまうのが煩わしく、それに感情が揺さぶられるのも耐えられず、私は「無」を望んだ。
 私の役目は魔王。
 勇者に倒されて終わる魔王。
 人々の脅威として恐れられ、憎悪を向けられ、ひたすらに嫌われる、……魔王という、役割。


「……あぁ、疲れた……」


 呟かせたのは私か。
 記憶か。

「勇者はまだか」

 それは、誰の願いだったのだろうか――……。








 創造神アドは「終わりにしよう」と言ってくれた。


 これが最後だ、と。
 もう終われるから、と。

 あと少しだ、と。


 自身を慰めながら玉座で勇者の訪れを待っていたんだ。

 なのに。
 なのに。


「フォラス――命の終わりに、一度だけ人間ごっこをしてみない?」

 命の終わり。
 半年間だけの、人間ごっこ。
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