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第9章 未来のために

閑話:サンコティオン(5)

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 side:ウーガ


 突然の火魔法による攻撃は強烈な熱波と轟音になって襲い掛かって来た。そのせいで耳や目が一時的に使い物にならなくなったんだと思う。
 気付いたら俺は後ろから羽交い絞めにされたまま運ばれていた。

「なんでそいつ連れて来たんだ!」
「魔法武器を持ってんだよ!」
「けどあの金級オーァルのパーティだろ⁈ 魔物の魔道具で居場所がバレる!」
「クソッ!」
「うぐっ」

 急に地面に叩きつけられて息が詰まる。
 肺が痛い。

「寄越せ!」
「っ……」

 弓を引っ張られる。
 誰が渡すかバカじゃねぇの! ここで足止めしてれば絶対にバルドルたちが来る。仲間を裏切って盗みをするような連中、野放しにするわけないだろうが!

「クソ! クソッ!!」

 蹴られる。
 踏みつけられる。

「ぐふっ……!」

 血を吐いた。

「さっさと魔弓を寄越せ! 寄越せ!!」
「……っ」
「急げアイツらが追って来る!」
「けど魔弓が」
「諦めろ! 捕まったらそれこそ終わりだぞ⁈」
「けどノルマに全然足りてねぇ!」
「捕まるっつってんだ!!」
「っ……クソが!!」
「がはっ」

 腹を強く蹴られ、吹っ飛ばされた。
 それでも弓を手放さなかったら羽交い絞めにしてた奴が無様に叫ぶ。まるで発狂したような迫力で、オレとしちゃ満足だ。
 バァカ、オレは誰との間にもメッセンジャー持ってないから追跡なんて出来ないんだぜ。
 だけどそういう魔道具を作っちゃうヤツと同じパーティにいるんだから他の連中より思い付く方法は多いんだ。

「急げ!」

 最後に舌打ち、唾まで吐き捨てて走り去っていく背中が霞んだ視界にぼやける。

「……ハッ。ざまぁ……」

 痛い。
 息をするだけでも激痛が走るのは骨がどうにかなっているせいかもしれない。それでもいい。オレはウエストポーチに入れてあった、サンコティオンで倒した魔物の石を取り出す。
 全部で3つ。
 今回の捜索にあたってメッセンジャーにもした狂えるカラスファティコルネイユだ。
 魔力を流し込んで魔石からオレに忠実な狂えるカラスファティコルネイユを顕現させたら、1羽目と2羽目には連中を追わせる。
 メッセンジャーに使える魔石だから消費魔力はそこまで多くないけど、負傷した体にはなかなかキツイ負担だった。それでも3羽目をバルドルたちに飛ばす。ちゃんと伝わったかはわからないけど「オレの匂いか魔力を追えば合流できる?」と訊いたら頷いていたんだから、たぶん大丈夫だろう。
 たぶんな!
 3羽を飛ばした後は、とてつもなく体が重かった。
 今にも意識が途切れそうだけど、そうもいかないから必死で腕を動かす。
 もう一度ウエストポーチに手を突っ込んで、レンが作ってくれた治療用のポーションを取り出そうとするけど、どれがどれだか判らない。
 しかも掴みそこなったものがぼろぼろ地面に落ちていく。

「っ痛……このまま此処にいても魔物の餌じゃん……」

 なんとしてでも仲間のところに帰らないと。
 また「サンコティオン」でパーティメンバーが死んだりなんかしたら、あいつらもう二度と立ち直れないかも。ドーガ、バルドル、それからエニスがどんな顔をするか想像したら、ちょっと笑えた。
 クルトとレンもしんどいだろうな。

「帰らないと……」

 これか、と思って掴んだポーションは魔力回復薬。
 いま必要な薬の一つだけど体の中身が傷ついている状態でも回復すんのかな。というより蓋が開けられるんだろうか。



 それから5分くらいだと思う。
 痛みに耐えながら蓋と悪戦苦闘していたら「ウーガ!」って声が聞こえて来た。
 バルドルだ。

「……っは……思ったより早かったな……」

 ホッとしたら力が抜けて、せっかく掴んだ薬瓶が手から落ちて転がる。

「ウーガ!」
「兄貴!」

 足音と一緒に低い視界を覆った仲間の膝。
 同時にバサリと羽音がして地面に狂えるカラスファティコルネイユが降り立った。

「ウーガしっかりしろ!」
「ウーガ!」
「っ痛!」
「あ……」

 抱き起こされそうになるも全身に激痛が走り思わず悲鳴を上げてしまった。
 そしたらクルトが手早く治療用のポーションを開け、ドーガが俺の上着を破くようにして開いていく。

「ひでぇ傷……」
「まずは治療だ」

 わなわなと震えた声は怒りのせいだろうか。
 バルドルが治療を優先しろと言い、クルトが痛いところにポーションを掛けてくれる。しばらくしてゆっくりと痛みが引いていくのが判った。

「エニス、顔お願い」
「ああ」
「ウーガ、辛いところ悪いが連中がどっちに行ったか判るか?」
「ん……いま狂えるカラスファティコルネイユに後を付けさせてる」
狂えるカラスファティコルネイユ? 俺たちを呼んだこいつか」
「魔石持ってて……向こうには2羽飛ばしたから、1羽呼び戻せば追えると思うけど」
「ああ……」

 オレの答えに、バルドルはしばらく考え込むかと思ったけど、割と早く結論を出したみたいで「一度戻るぞ」と言って来た。
 本気かって聞き返したくなったけど、追い駆けてきたのがパーティのメンバーだけってことは、もしかしたらさっきの場所で他にも何かあったのかもしれない。

「ウーガ立てそう?」
「……ん、なんとか」

 みんなの手を借りてなんとか立ち上がったら、ドーガが魔法使いのローブをオレに掛けてくれた。治療のためとはいえ、いまちょっとセクシーな恰好になっていたから助かる。

「生きてて良かった」
「ホントにな!」

 まだあっちこっち痛むけど、ともあれ無事に仲間と合流出来てオレは心底ホッとしていた。
 まさかさっきまでいたあの場所に、更に遺体が増えているなんて思いもしなかったんだ。
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