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第9章 未来のために
閑話:里帰り(15)
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side:バルドル
ウーガが急な体調不良で依頼に参加出来ないと言って来た。
ドーガを見たら「エニスに聞いた方がいいよ」と一言。
だからエニスに聞いたら「我慢の限界で」って。
「おまえまさかと思うが……」
「してない。嫌がらせ程度だ」
「嫌がらせ?」
なんで好きな相手にわざわざ嫌われるような真似をするんだ。
さっぱり意味が判らず、改めてドーガに視線を向けたら「そういう匂いはしてないから一線は越えてない」そうでそれもどうかと思う。
「エニス」
「……そろそろ意識して欲しいな、と」
「帰って来たときパンツ一枚だったんだけど」
「エニス?」
「それはあいつが悪い。バカみたいに飲んで吐き散らかして服から床から酷かったんだぞ」
「悪いのはウーガだ」
「悪いのは兄貴で決まりー」
「つまり二日酔いで体調不良ってこと?」
聞いているだけだったクルトがズバリ言う。
「レンくんからそれ用の薬も預かっているけど、いる?」
「いやー。そのまま反省させとけばいんじゃない」
ドーガが若干突き放し気味に言う。
こいつも兄貴の鈍感さ……というよりはいつまでも過去に縛られたままの生き方に思うところがあって、心情的にエニスの味方なのは傍目にも判っていた。
俺自身、どちらかと言えばエニスを応援したい。
……しかしである。
「こっちは5人で依頼遂行のための作戦なり計画を立てているんだ。今回はバカな飲み方したウーガが悪いのは判ったが、依頼の前にそんな飲み方をさせるな」
「悪かった」
存外素直に謝ったエニスは思ったより冷静だ。
たぶん既に吹っ切った……いや、開き直ったんだろうな。
「森の魔獣退治はどうする? 延期するか?」
「正確な数次第だな。ウーガとドーガに遠距離から先制してもらうつもりだったし、想定以上の数で群れて来られるとヤバい」
「なら今日は偵察に留めるか。期限まで時間あるし」
「ああ」
「念のためレンの治療薬を一人3本ずつ持っていこう。必要な時は迷わず使うように」
危険な魔獣が森に巣を作っている。
倒すには金級以上の実力者が必要――依頼書にあったのはそんな文章だけで、そもそも巣に何匹いるかは調査が必要だった。
事前に調べられる情報としては、冬は高地で冬眠、今時期は子育ての真っ最中、家族単位で巣をつくるから多くても親獣2頭と子獣3頭前後。いまはまだ畑の作物などの被害で済んでいるが、冬が近づき高地への移動時期になると魔力の高い獣人族や人族を襲い始める。いまのところ期限が切られることなく金級以上の冒険者を待っていたのは人を襲うには時期が早いからで、これが秋以降ならすぐに指名依頼なり緊急依頼として対応されていただろう。
「ウーガがいないんで、今日の索敵はドーガがメインだ」
「了解」
「臭い消しはレンがくれた鞄に入ってたか」
「あるよ」
クルトがすかさず鞄から小さな瓶を4つ取り出した。
警戒心が強い魔獣は自分のテリトリーに他人が入るとすぐに気付く場合が多い。臭い消しは人の気配を消してくれるからこういう依頼の時には重宝するのだ。
本人がいなくても俺たちの戦力になるレンは本当に規格外だ。
その日は変更した予定通りに偵察に留め、魔獣は4匹だと確認して帰宅したらうちの玄関でウーガが土下座していた。
戸を開けたら其処に居たんでマジでビビった。
クルトもどう反応したらいいのか判らなくて固まっている。
「今日は迷惑かけてごめんなさい」
頭を下げたまま告げる声音が普段と違って至極真面目な調子だというだけで許してしまいそうになるから複雑だ。
「家にはきちんと言って来たのか?」
「ん。ケイティに此処来るって」
「なら良い。飯は?」
「今日はちょっと……二日酔いで気持ち悪いし」
「レンくん特製の酔い覚ましいる?」
クルトがそう声を掛けたら、ウーガは少し悩んで「もらいたい」と。
さっさと体調戻して、しっかり食って、明日は魔獣討伐に参加してもらわないとならないしな。
ウーガを立たせて中に促すと、当然、ウーガを家に入れた両親が苦笑いの表情で出迎えた。
「おかえりなさい。あなた達は夕飯は?」
「まだ。俺たちの分もある?」
「もちろん。座って待ってて」
「あ、手伝います」
薬が詰まった鞄に手を突っ込んでいたクルトが慌てて言う。
それでも間違った薬を渡さないようしっかりと確認しているから大したもんだ。
荷物を置いている間にウーガは薬を飲み干し、居間のテーブルを一緒に囲む。
「ドーガとエニスも呼ぶか? ドーガなら呼ばなくても来そうだが」
「あー……来ちゃったら仕方ないけど呼ぶのは……」
「どうせ明日には顔を合わせるぞ」
「今日じゃないのが大事なの!」
さっぱり判らん。
そう思っていたら、うちの親父。
「なんだ、エニスの奴ようやく腹括ったか?」って。
ウーガは目を限界まで見開いて驚いているが、気付いていなかった……いや、あいつが気付かせないようにしていたんだから誰のせいってことはないんだが。
少なくとも5年前から俺らのことを知っていてエニスの気持ちに気付いてなかったのはおまえだけだぞウーガ。
ウーガが急な体調不良で依頼に参加出来ないと言って来た。
ドーガを見たら「エニスに聞いた方がいいよ」と一言。
だからエニスに聞いたら「我慢の限界で」って。
「おまえまさかと思うが……」
「してない。嫌がらせ程度だ」
「嫌がらせ?」
なんで好きな相手にわざわざ嫌われるような真似をするんだ。
さっぱり意味が判らず、改めてドーガに視線を向けたら「そういう匂いはしてないから一線は越えてない」そうでそれもどうかと思う。
「エニス」
「……そろそろ意識して欲しいな、と」
「帰って来たときパンツ一枚だったんだけど」
「エニス?」
「それはあいつが悪い。バカみたいに飲んで吐き散らかして服から床から酷かったんだぞ」
「悪いのはウーガだ」
「悪いのは兄貴で決まりー」
「つまり二日酔いで体調不良ってこと?」
聞いているだけだったクルトがズバリ言う。
「レンくんからそれ用の薬も預かっているけど、いる?」
「いやー。そのまま反省させとけばいんじゃない」
ドーガが若干突き放し気味に言う。
こいつも兄貴の鈍感さ……というよりはいつまでも過去に縛られたままの生き方に思うところがあって、心情的にエニスの味方なのは傍目にも判っていた。
俺自身、どちらかと言えばエニスを応援したい。
……しかしである。
「こっちは5人で依頼遂行のための作戦なり計画を立てているんだ。今回はバカな飲み方したウーガが悪いのは判ったが、依頼の前にそんな飲み方をさせるな」
「悪かった」
存外素直に謝ったエニスは思ったより冷静だ。
たぶん既に吹っ切った……いや、開き直ったんだろうな。
「森の魔獣退治はどうする? 延期するか?」
「正確な数次第だな。ウーガとドーガに遠距離から先制してもらうつもりだったし、想定以上の数で群れて来られるとヤバい」
「なら今日は偵察に留めるか。期限まで時間あるし」
「ああ」
「念のためレンの治療薬を一人3本ずつ持っていこう。必要な時は迷わず使うように」
危険な魔獣が森に巣を作っている。
倒すには金級以上の実力者が必要――依頼書にあったのはそんな文章だけで、そもそも巣に何匹いるかは調査が必要だった。
事前に調べられる情報としては、冬は高地で冬眠、今時期は子育ての真っ最中、家族単位で巣をつくるから多くても親獣2頭と子獣3頭前後。いまはまだ畑の作物などの被害で済んでいるが、冬が近づき高地への移動時期になると魔力の高い獣人族や人族を襲い始める。いまのところ期限が切られることなく金級以上の冒険者を待っていたのは人を襲うには時期が早いからで、これが秋以降ならすぐに指名依頼なり緊急依頼として対応されていただろう。
「ウーガがいないんで、今日の索敵はドーガがメインだ」
「了解」
「臭い消しはレンがくれた鞄に入ってたか」
「あるよ」
クルトがすかさず鞄から小さな瓶を4つ取り出した。
警戒心が強い魔獣は自分のテリトリーに他人が入るとすぐに気付く場合が多い。臭い消しは人の気配を消してくれるからこういう依頼の時には重宝するのだ。
本人がいなくても俺たちの戦力になるレンは本当に規格外だ。
その日は変更した予定通りに偵察に留め、魔獣は4匹だと確認して帰宅したらうちの玄関でウーガが土下座していた。
戸を開けたら其処に居たんでマジでビビった。
クルトもどう反応したらいいのか判らなくて固まっている。
「今日は迷惑かけてごめんなさい」
頭を下げたまま告げる声音が普段と違って至極真面目な調子だというだけで許してしまいそうになるから複雑だ。
「家にはきちんと言って来たのか?」
「ん。ケイティに此処来るって」
「なら良い。飯は?」
「今日はちょっと……二日酔いで気持ち悪いし」
「レンくん特製の酔い覚ましいる?」
クルトがそう声を掛けたら、ウーガは少し悩んで「もらいたい」と。
さっさと体調戻して、しっかり食って、明日は魔獣討伐に参加してもらわないとならないしな。
ウーガを立たせて中に促すと、当然、ウーガを家に入れた両親が苦笑いの表情で出迎えた。
「おかえりなさい。あなた達は夕飯は?」
「まだ。俺たちの分もある?」
「もちろん。座って待ってて」
「あ、手伝います」
薬が詰まった鞄に手を突っ込んでいたクルトが慌てて言う。
それでも間違った薬を渡さないようしっかりと確認しているから大したもんだ。
荷物を置いている間にウーガは薬を飲み干し、居間のテーブルを一緒に囲む。
「ドーガとエニスも呼ぶか? ドーガなら呼ばなくても来そうだが」
「あー……来ちゃったら仕方ないけど呼ぶのは……」
「どうせ明日には顔を合わせるぞ」
「今日じゃないのが大事なの!」
さっぱり判らん。
そう思っていたら、うちの親父。
「なんだ、エニスの奴ようやく腹括ったか?」って。
ウーガは目を限界まで見開いて驚いているが、気付いていなかった……いや、あいつが気付かせないようにしていたんだから誰のせいってことはないんだが。
少なくとも5年前から俺らのことを知っていてエニスの気持ちに気付いてなかったのはおまえだけだぞウーガ。
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