上 下
311 / 335
第9章 未来のために

閑話:里帰り(5)

しおりを挟む
 side:エニス


「あらあらあらエニスくんもウーガくんもドーガくんも立派になっちゃって! 何年振り……っ、えっ、え⁈ 待って待って待って、まさか今日なの⁈」

 俺たちがいるということはバルドルも一緒。
 そこから連想される事実に気付いたのか、バルドルの母親は自分が着ているものを見下ろしながら両手を慌ただしく動かす。
 そんな彼女に笑いながら、ウーガ。

「おばちゃん、大丈夫だよ。バルドルがクルト連れて帰って来るのはおばちゃんたちの都合が良い日にするって」
「え」
「これ、バルドルから預かってきました」

 宿で預かった手紙を手渡すと、彼女は慌ててそれを確認する。
 目の動きを見るに2度繰り返し読み終えた後でやっと安心したらしい。

「はあぁ……びっくりした。あの子もいつの間にか気遣い出来るようになったのねぇ」
「おばちゃんに気ぃ遣ったって言うより、クルトのことしか考えてないって方が正しい気がするけど」
「はい黙る」

 余計なことういうウーガを、ドーガが後ろからどつく。
 バルドルの母親は楽しそうに笑っていた。

「あらいいじゃない。本当に大事にしたい番と巡り合えたってことでしょ。嬉しいわ」
「バルドルたちは風鈴荘に部屋を取っているんで、会える日が決まったらそっちに知らせに行くか、俺たちに言ってくれれば伝えに行くんで」
「そうね。旦那にも話してから決めたいし、こっちで何とかするわ」
「了解です」
「あなたたち、同じパーティなんでしょ? クルトくんの好きなもの、苦手なものって判る?」
「んー、甘いの好きだよ」
「苦いのは苦手かも」
「魚よりは肉派」
「辛いのもダメかも」
「ナッツ系好きだと思う。特に硬くてカリカリするやつ」
リス科エキュルイユだからね」
「あ、あとプレッシャーには弱い!」
「さっきも緊張し過ぎて顔色悪くなってた」

 交互に言う兄弟に吹き出しそうになり、慌てて咳払いで誤魔化した。
 間違ってはいないが後半その情報は必要だろうか。
 バルドルの母親も笑っている。

「あなた達は家族に顔見せたの? これから?」
「これから。ケイティには門のところで会ったけどね」
「ああ、ケイティちゃん警備隊に入ったものね。ふふっ、みんな会えるのを楽しみにしていたのよ」
「ん。夜は宴会だろうなって思ってる。バルドルとクルトは来ないだろうけど、おばちゃんたちはもしよかったら参加してよ」
「ありがとう」

 そんな遣り取りを最後にバルドルの実家を後にしたところでバルドルからメッセンジャーが飛んで来た。

『ギルドへの滞在登録はこっちでしておく。あと明日、実家の都合次第だが墓参りに行かないか』
「へぇ。色ボケしているかと思ったけどリーダーの義務は覚えてたんだ」

 揶揄うような笑いを交えてウーガが言う。
 金級オーァル冒険者はその所在を常に明らかにしておかなければならない。金級オーァル銀級アルジョンの力量差は明らかで、滅多に金級オーァル冒険者が滞在しない町村なら尚の事、この機会に頼みたいことがあるかもしれない。
 更には、もし近くのダンジョンで申告期限を過ぎても戻らないパーティがあれば捜索隊が必要になる。最寄りの街に金級オーァル冒険者がいるかどうかで捜索隊派遣までの期間が大幅に短縮出来るのだ。
 最寄りの「サンコティオン」を踏破していない自分たちにどれだけ価値があるかは不明だが告知義務を怠る理由にはならない。

「墓参りだってさ」

 兄弟に言えば、二人の目には複雑な感情が滲んで見えたが否やは無い。

「墓参りはもちろん行くよ」
「俺も。特に予定ないしそっちに合わせるって伝えて」

 自分も同意見だったから、今度は俺の魔力で手に止まっているメッセンジャーに声を録音する。

「おばさんに手紙は渡した。そっちの予定が決まったら墓参りの時間を知らせてくれ。こっちが合わせる」

 録音し終えて、メッセンジャーに飛べと指示を出すべく手を上に弾いた。
 羽を広げて飛んでいく魔物の姿に少なからず周りの視線が集まったが、この魔導具は既に登録済みだし魔石に自分の魔力を注ぐことで従順な魔物が顕現することもそれなりに知られて来た。
 騒がれたとしても最初だけだ。

「はあ。じゃあ俺らも帰るか」
「だねぇ……んんー、やっぱりレンも一緒に連れて来たかったなぁ」
「それバルドルも言ってた。レンが一緒ならクルトももう少し元気だったのにって」
「結局クルトのことしか考えてないね」

 兄弟が楽しそうに笑い合うのを見てホッとする。
 そこから家が近いのは俺の実家だったがこいつらを家に送らないことには安心出来なさそうだったんで、先にそちらへ向かったところ、案の定、今夜は宴会だと大騒ぎになった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

嫌われ者の僕が学園を去る話

おこげ茶
BL
嫌われ者の男の子が学園を去って生活していく話です。 一旦ものすごく不幸にしたかったのですがあんまなってないかもです…。 最終的にはハピエンの予定です。 Rは書けるかわからなくて入れるか迷っているので今のところなしにしておきます。 ↓↓↓ 微妙なやつのタイトルに※つけておくので苦手な方は自衛お願いします。 設定ガバガバです。なんでも許せる方向け。 不定期更新です。(目標週1) 勝手もわかっていない超初心者が書いた拙い文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。 誤字などがありましたらふわふわ言葉で教えて欲しいです。爆速で修正します。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

一日だけの魔法

うりぼう
BL
一日だけの魔法をかけた。 彼が自分を好きになってくれる魔法。 禁忌とされている、たった一日しか持たない魔法。 彼は魔法にかかり、自分に夢中になってくれた。 俺の名を呼び、俺に微笑みかけ、俺だけを好きだと言ってくれる。 嬉しいはずなのに、これを望んでいたはずなのに…… ※いきなり始まりいきなり終わる ※エセファンタジー ※エセ魔法 ※二重人格もどき ※細かいツッコミはなしで

処理中です...