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第9章 未来のために
閑話:里帰り(5)
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side:エニス
「あらあらあらエニスくんもウーガくんもドーガくんも立派になっちゃって! 何年振り……っ、えっ、え⁈ 待って待って待って、まさか今日なの⁈」
俺たちがいるということはバルドルも一緒。
そこから連想される事実に気付いたのか、バルドルの母親は自分が着ているものを見下ろしながら両手を慌ただしく動かす。
そんな彼女に笑いながら、ウーガ。
「おばちゃん、大丈夫だよ。バルドルがクルト連れて帰って来るのはおばちゃんたちの都合が良い日にするって」
「え」
「これ、バルドルから預かってきました」
宿で預かった手紙を手渡すと、彼女は慌ててそれを確認する。
目の動きを見るに2度繰り返し読み終えた後でやっと安心したらしい。
「はあぁ……びっくりした。あの子もいつの間にか気遣い出来るようになったのねぇ」
「おばちゃんに気ぃ遣ったって言うより、クルトのことしか考えてないって方が正しい気がするけど」
「はい黙る」
余計なことういうウーガを、ドーガが後ろからどつく。
バルドルの母親は楽しそうに笑っていた。
「あらいいじゃない。本当に大事にしたい番と巡り合えたってことでしょ。嬉しいわ」
「バルドルたちは風鈴荘に部屋を取っているんで、会える日が決まったらそっちに知らせに行くか、俺たちに言ってくれれば伝えに行くんで」
「そうね。旦那にも話してから決めたいし、こっちで何とかするわ」
「了解です」
「あなたたち、同じパーティなんでしょ? クルトくんの好きなもの、苦手なものって判る?」
「んー、甘いの好きだよ」
「苦いのは苦手かも」
「魚よりは肉派」
「辛いのもダメかも」
「ナッツ系好きだと思う。特に硬くてカリカリするやつ」
「リス科だからね」
「あ、あとプレッシャーには弱い!」
「さっきも緊張し過ぎて顔色悪くなってた」
交互に言う兄弟に吹き出しそうになり、慌てて咳払いで誤魔化した。
間違ってはいないが後半その情報は必要だろうか。
バルドルの母親も笑っている。
「あなた達は家族に顔見せたの? これから?」
「これから。ケイティには門のところで会ったけどね」
「ああ、ケイティちゃん警備隊に入ったものね。ふふっ、みんな会えるのを楽しみにしていたのよ」
「ん。夜は宴会だろうなって思ってる。バルドルとクルトは来ないだろうけど、おばちゃんたちはもしよかったら参加してよ」
「ありがとう」
そんな遣り取りを最後にバルドルの実家を後にしたところでバルドルからメッセンジャーが飛んで来た。
『ギルドへの滞在登録はこっちでしておく。あと明日、実家の都合次第だが墓参りに行かないか』
「へぇ。色ボケしているかと思ったけどリーダーの義務は覚えてたんだ」
揶揄うような笑いを交えてウーガが言う。
金級冒険者はその所在を常に明らかにしておかなければならない。金級と銀級の力量差は明らかで、滅多に金級冒険者が滞在しない町村なら尚の事、この機会に頼みたいことがあるかもしれない。
更には、もし近くのダンジョンで申告期限を過ぎても戻らないパーティがあれば捜索隊が必要になる。最寄りの街に金級冒険者がいるかどうかで捜索隊派遣までの期間が大幅に短縮出来るのだ。
最寄りの「サンコティオン」を踏破していない自分たちにどれだけ価値があるかは不明だが告知義務を怠る理由にはならない。
「墓参りだってさ」
兄弟に言えば、二人の目には複雑な感情が滲んで見えたが否やは無い。
「墓参りはもちろん行くよ」
「俺も。特に予定ないしそっちに合わせるって伝えて」
自分も同意見だったから、今度は俺の魔力で手に止まっているメッセンジャーに声を録音する。
「おばさんに手紙は渡した。そっちの予定が決まったら墓参りの時間を知らせてくれ。こっちが合わせる」
録音し終えて、メッセンジャーに飛べと指示を出すべく手を上に弾いた。
羽を広げて飛んでいく魔物の姿に少なからず周りの視線が集まったが、この魔導具は既に登録済みだし魔石に自分の魔力を注ぐことで従順な魔物が顕現することもそれなりに知られて来た。
騒がれたとしても最初だけだ。
「はあ。じゃあ俺らも帰るか」
「だねぇ……んんー、やっぱりレンも一緒に連れて来たかったなぁ」
「それバルドルも言ってた。レンが一緒ならクルトももう少し元気だったのにって」
「結局クルトのことしか考えてないね」
兄弟が楽しそうに笑い合うのを見てホッとする。
そこから家が近いのは俺の実家だったがこいつらを家に送らないことには安心出来なさそうだったんで、先にそちらへ向かったところ、案の定、今夜は宴会だと大騒ぎになった。
「あらあらあらエニスくんもウーガくんもドーガくんも立派になっちゃって! 何年振り……っ、えっ、え⁈ 待って待って待って、まさか今日なの⁈」
俺たちがいるということはバルドルも一緒。
そこから連想される事実に気付いたのか、バルドルの母親は自分が着ているものを見下ろしながら両手を慌ただしく動かす。
そんな彼女に笑いながら、ウーガ。
「おばちゃん、大丈夫だよ。バルドルがクルト連れて帰って来るのはおばちゃんたちの都合が良い日にするって」
「え」
「これ、バルドルから預かってきました」
宿で預かった手紙を手渡すと、彼女は慌ててそれを確認する。
目の動きを見るに2度繰り返し読み終えた後でやっと安心したらしい。
「はあぁ……びっくりした。あの子もいつの間にか気遣い出来るようになったのねぇ」
「おばちゃんに気ぃ遣ったって言うより、クルトのことしか考えてないって方が正しい気がするけど」
「はい黙る」
余計なことういうウーガを、ドーガが後ろからどつく。
バルドルの母親は楽しそうに笑っていた。
「あらいいじゃない。本当に大事にしたい番と巡り合えたってことでしょ。嬉しいわ」
「バルドルたちは風鈴荘に部屋を取っているんで、会える日が決まったらそっちに知らせに行くか、俺たちに言ってくれれば伝えに行くんで」
「そうね。旦那にも話してから決めたいし、こっちで何とかするわ」
「了解です」
「あなたたち、同じパーティなんでしょ? クルトくんの好きなもの、苦手なものって判る?」
「んー、甘いの好きだよ」
「苦いのは苦手かも」
「魚よりは肉派」
「辛いのもダメかも」
「ナッツ系好きだと思う。特に硬くてカリカリするやつ」
「リス科だからね」
「あ、あとプレッシャーには弱い!」
「さっきも緊張し過ぎて顔色悪くなってた」
交互に言う兄弟に吹き出しそうになり、慌てて咳払いで誤魔化した。
間違ってはいないが後半その情報は必要だろうか。
バルドルの母親も笑っている。
「あなた達は家族に顔見せたの? これから?」
「これから。ケイティには門のところで会ったけどね」
「ああ、ケイティちゃん警備隊に入ったものね。ふふっ、みんな会えるのを楽しみにしていたのよ」
「ん。夜は宴会だろうなって思ってる。バルドルとクルトは来ないだろうけど、おばちゃんたちはもしよかったら参加してよ」
「ありがとう」
そんな遣り取りを最後にバルドルの実家を後にしたところでバルドルからメッセンジャーが飛んで来た。
『ギルドへの滞在登録はこっちでしておく。あと明日、実家の都合次第だが墓参りに行かないか』
「へぇ。色ボケしているかと思ったけどリーダーの義務は覚えてたんだ」
揶揄うような笑いを交えてウーガが言う。
金級冒険者はその所在を常に明らかにしておかなければならない。金級と銀級の力量差は明らかで、滅多に金級冒険者が滞在しない町村なら尚の事、この機会に頼みたいことがあるかもしれない。
更には、もし近くのダンジョンで申告期限を過ぎても戻らないパーティがあれば捜索隊が必要になる。最寄りの街に金級冒険者がいるかどうかで捜索隊派遣までの期間が大幅に短縮出来るのだ。
最寄りの「サンコティオン」を踏破していない自分たちにどれだけ価値があるかは不明だが告知義務を怠る理由にはならない。
「墓参りだってさ」
兄弟に言えば、二人の目には複雑な感情が滲んで見えたが否やは無い。
「墓参りはもちろん行くよ」
「俺も。特に予定ないしそっちに合わせるって伝えて」
自分も同意見だったから、今度は俺の魔力で手に止まっているメッセンジャーに声を録音する。
「おばさんに手紙は渡した。そっちの予定が決まったら墓参りの時間を知らせてくれ。こっちが合わせる」
録音し終えて、メッセンジャーに飛べと指示を出すべく手を上に弾いた。
羽を広げて飛んでいく魔物の姿に少なからず周りの視線が集まったが、この魔導具は既に登録済みだし魔石に自分の魔力を注ぐことで従順な魔物が顕現することもそれなりに知られて来た。
騒がれたとしても最初だけだ。
「はあ。じゃあ俺らも帰るか」
「だねぇ……んんー、やっぱりレンも一緒に連れて来たかったなぁ」
「それバルドルも言ってた。レンが一緒ならクルトももう少し元気だったのにって」
「結局クルトのことしか考えてないね」
兄弟が楽しそうに笑い合うのを見てホッとする。
そこから家が近いのは俺の実家だったがこいつらを家に送らないことには安心出来なさそうだったんで、先にそちらへ向かったところ、案の定、今夜は宴会だと大騒ぎになった。
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