上 下
305 / 335
第9章 未来のために

278.セーズ(15)

しおりを挟む
 モーリパーティは「これ以上迷惑を掛けられない!」って頑なに反対していたけど、俺とエニスさんが風神・雷神に騎乗して第15階層まで駆けるのも、チルルを置いてバルドルさんたちと別行動を取るのも、こちら側としてはこれ以上ない安全策だ。

「あんたたちだって13階層まで来たのに捜索隊の派遣でダメになるのは悔しいだろう」

 バルドルさんが言う。

「俺たちがここまで順調に来られたのは、先に入場していたあんたたちが魔物を倒してくれていたからでもある。違うか?」
「……確かに魔物の群れとは連日遭遇していたが」

 ダンジョンの魔物の数が一定かどうかは不明だが、少なくとも生まれてからの日数で強さが増していくことはこれまでの事から判明している。モーリパーティが強い魔物と連戦して来たことは間違いない。

「だったら、これはその礼だと思ってくれ」
「しかし……」
「僧侶と剣士の二人で2階層も移動するなんて……」
「大丈夫ですよ」

 俺は風神と雷神の背を撫でながら伝える。

「この子たちは魔豹ゲパールです。魔物が襲ってきても逃げ切れます」
「え……魔豹ゲパール⁈」
「こんな真っ白じゃねぇだろ!」
「……確かに黒い斑はそれっぽいが……えぇ⁇ デカ過ぎねぇ……?」

 彼らもダンジョンの魔物から獲得した魔石に人の魔力を込めれば、魔力の主に忠実な魔物が生まれるという情報は持っていたし、試したこともあるそうだが、戦闘の助けになりそうな魔物を顕現するには魔力を限界まで持っていかれたそうだ。それでは自分が役立たずになってしまって意味がない、と。
 これには師匠が意味深に笑っていた。

「レンたちが戻って来るまでの間、ゆっくり休むだけじゃ勿体ないからいろいろと教えてあげるわ。此処まで私たちに先駆けて魔物を倒してくれていたお礼だものね?」

 にこりと微笑みかけられたバルドルさんは苦笑。

「まぁ良いんじゃないか。ってことでエニス、レンのこと頼んだ」
「おう」
「行ってきます」

 テントはそのまま。
 登録していない人が中を覗いたら見た目相応の空っぽの空間がそこにあるようにしか見えない仕様だから、中のキッチンを使わないようにすればたぶん問題ない。
 一度、神具『住居兼用移動車両』Ex.に戻ってリーデン様に1日か2日は帰って来られないことを伝え、風神と雷神には乗り易いよう少し縮んでもらい、出発した。




 魔豹ゲパールは速かった。
 さすが金級オーァルの魔物を含めてもトップクラスの脚力を恐れられているだけあって乗っているだけの俺たちの方が疲労困憊。人の足なら3日は掛かっただろう道程を、休憩含めて15時間余りで駆け抜けられたことでモーリパーティの捜索隊派遣は止められたのは良かったが、俺とエニスさんはグロッキー。
 もう絶対にこんなことしない。
 二度とやるもんか。
 監視員のための小屋の床で横にならせてもらいながら唸っていたら、風神たちに申し訳なさそうな顔をさせてしまった。久々の全力疾走に大興奮していたような気もするが……彼らは頑張ってくれただけなのでお礼に魔力を多めにあげて、俺はしばらく反省である。

「あ……すみません。トゥルヌソルのグランツェパーティはダンジョンに来ましたか?」
「少々お待ちください」

 監視員は事務机に移動すると手元でいろいろと調べてから戻って来た。

「まだいらしていません」
「そうですか、ありがとうございます……すみませんが窓か、ドアを、開けてもらえますか? メッセンジャーを飛ばしたいので」
「承知いたしました」

 俺たちが入場した時とは違う監視員さんは、とても丁寧な対応でメッセンジャーが飛んだあとは窓を閉めてくれた。しかも返事が来たらまた窓を開けるから声を掛けて、と。
 感謝していたら、隣でへばっていたエニスさんが。

「……よくそれだけ頭が働くな……助かるけど……」
「若さですかね?」
「言ってくれる……」

 苦笑するエニスさんはかなりしんどそう。
 中身の年齢はそう変わらないが、やっぱりこういう場合に物を言うのは体の年齢ってことだろう。

「出発は明るくなってからですから、それまで休ませてもらいましょう」
「ああ……けど、またアレなんだよな……」
「ふはっ。今度は時間制限がないのでゆっくり進めば良いと思います」
「そうか……それなら、今度はゆっくり……うっ」

 うん、まずはゆっくり休ませてもらいましょう。
 エニスさんが休んでいる間、俺はグランツェさんとメッセンジャーで複数回遣り取りし、5日後に此処で待ち合わせることにした。
 明日は俺とエニスさんが第15階層の転移陣に戻って、第13階層に戻る。
 バルドルさんたちと合流したら改めて第15階層を目指す。
 5日後に合わせて外へ出て、俺とヒユナさんはグランツェさん達と一緒に再びセーズへ。
 バルドルさんたちは里帰り。
 師匠もこっちかな? 後で要確認だ。
 そして、グランツェパーティが第15階層から帰還するのがいつになるかで、その後のことも決めようってことになった。
 レイナルドさんたちとの合流までに俺たちも第30階層まで行けるかどうか、……今はまだ判らない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

学生時代

Me-ya
BL
これは僕-隼人と治夫、そして寧音との三角関係の話。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所を忘れてしまいました…😨 ので、新しく書き直します。

会えないままな軍神夫からの約束された溺愛

待鳥園子
恋愛
ーーお前ごとこの国を、死に物狂いで守って来たーー 数年前に母が亡くなり、後妻と連れ子に虐げられていた伯爵令嬢ブランシュ。有名な将軍アーロン・キーブルグからの縁談を受け実家に売られるように結婚することになったが、会えないままに彼は出征してしまった! それからすぐに訃報が届きいきなり未亡人になったブランシュは、懸命に家を守ろうとするものの、夫の弟から再婚を迫られ妊娠中の夫の愛人を名乗る女に押しかけられ、喪明けすぐに家を出るため再婚しようと決意。 夫の喪が明け「今度こそ素敵な男性と再婚して幸せになるわ!」と、出会いを求め夜会に出れば、なんと一年前に亡くなったはずの夫が帰って来て?! 努力家なのに何をしても報われない薄幸未亡人が、死ぬ気で国ごと妻を守り切る頼れる軍神夫に溺愛されて幸せになる話。 ※完結まで毎日投稿です。

ヘタレな師団長様は麗しの花をひっそり愛でる

野犬 猫兄
BL
本編完結しました。 お読みくださりありがとうございます! 番外編は本編よりも文字数が多くなっていたため、取り下げ中です。 番外編へ戻すか別の話でたてるか検討中。こちらで、また改めてご連絡いたします。 第9回BL小説大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございました_(._.)_ 【本編】 ある男を麗しの花と呼び、ひっそりと想いを育てていた。ある時は愛しいあまり心の中で悶え、ある時は不甲斐なさに葛藤したり、愛しい男の姿を見ては明日も頑張ろうと思う、ヘタレ男の牛のような歩み寄りと天然を炸裂させる男に相手も満更でもない様子で進むほのぼの?コメディ話。 ヘタレ真面目タイプの師団長×ツンデレタイプの師団長 2022.10.28ご連絡:2022.10.30に番外編を修正するため下げさせていただきますm(_ _;)m 2022.10.30ご連絡:番外編を引き下げました。 【取り下げ中】 【番外編】は、視点が基本ルーゼウスになります。ジーク×ルーゼ ルーゼウス・バロル7歳。剣と魔法のある世界、アンシェント王国という小さな国に住んでいた。しかし、ある時召喚という形で、日本の大学生をしていた頃の記憶を思い出してしまう。精霊の愛し子というチートな恩恵も隠していたのに『精霊司令局』という機械音声や、残念なイケメンたちに囲まれながら、アンシェント王国や、隣国のゼネラ帝国も巻き込んで一大騒動に発展していくコメディ?なお話。 ※誤字脱字は気づいたらちょこちょこ修正してます。“(. .*)

男鹿一樹は愛を知らないユニコーン騎士団団長に運命の愛を指南する?

濃子
BL
おれは男鹿一樹(おじかいつき)、現在告白した数99人、振られた数も99人のちょっと痛い男だ。 そんなおれは、今日センター試験の会場の扉を開けたら、なぜか変な所に入ってしまった。何だ?ここ、と思っていると変なモノから変わった頼み事をされてしまう。断ろうと思ったおれだが、センター試験の合格と交換条件(せこいね☆)で、『ある男に運命の愛を指南してやって欲しい』、って頼まれる。もちろん引き受けるけどね。 何でもそいつは生まれたときに、『運命の恋に落ちる』、っていう加護を入れ忘れたみたいで、恋をする事、恋人を愛するという事がわからないらしい。ちょっとややこしい物件だが、とりあえずやってみよう。 だけど、ーーあれ?思った以上にこの人やばくないか?ーー。 イツキは『ある男』に愛を指南し、無事にセンター試験を合格できるのか?とにかく笑えるお話を目指しています。どうぞ、よろしくお願い致します。

私が公爵の本当の娘ではないことを知った婚約者は、騙されたと激怒し婚約破棄を告げました。

Mayoi
恋愛
ウェスリーは婚約者のオリビアの出自を調べ、公爵の実の娘ではないことを知った。 そのようなことは婚約前に伝えられておらず、騙されたと激怒しオリビアに婚約破棄を告げた。 二人の婚約は大公が認めたものであり、一方的に非難し婚約破棄したウェスリーが無事でいられるはずがない。 自分の正しさを信じて疑わないウェスリーは自滅の道を歩む。

純情将軍は第八王子を所望します

七瀬京
BL
隣国との戦で活躍した将軍・アーセールは、戦功の報償として(手違いで)第八王子・ルーウェを所望した。 かつて、アーセールはルーウェの言葉で救われており、ずっと、ルーウェの言葉を護符のようにして過ごしてきた。 一度、話がしたかっただけ……。 けれど、虐げられて育ったルーウェは、アーセールのことなど覚えて居らず、婚礼の夜、酷く怯えて居た……。 純情将軍×虐げられ王子の癒し愛

もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、騎士見習の少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。

【完結】好色王子の悪巧みは魔女とともに

空原海
恋愛
 第二王子コーエンは物心がついた頃から、なんとなく『望まれるもの』と『望まれないもの』が見えた。  兄姉弟だけのこどもの世界はいつしか広がっていき、コーエンは好色王子と呼ばれ、魔女と名付けられた公爵令嬢ヘクセと婚約を結ぶ。 「そりゃまたヒデェ名をつけられたもんだ」 「あら。第二王子殿下は魔女がお嫌いでして?」  目のいいコーエンと鼻の利くヘクセ。  慕う人はそれぞれ別にいた。  ヘクセは連れ立つ侍従を、「最愛の者ですわ」と婚約者コーエンに紹介する。  公爵家唯一の嫡出子であるヘクセは、継母と異母姉、使用人達から虐げられていた。  実父は無関心。  亡き実母の生家はクーデターを企てた咎により、すでにない。  ある日父公爵が手を染める奴隷売買で、継母が一人の奴隷を情夫として屋敷に残した。  それがヘクセとその侍従、ニヒトとの出会いだった。 ※ ヒーロー、ヒロインは倫理観、道徳観念めちゃくちゃの共依存関係です。ヒロインがヒーロー以外と関係を持ちます。そのほかタグにご注意ください。 ※ 異世界にはありえない固有名詞などは、異世界で同等の存在とご理解いただけますと幸いです。内政等含めて設定ゆるゆる。

処理中です...