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第9章 未来のために
278.セーズ(15)
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モーリパーティは「これ以上迷惑を掛けられない!」って頑なに反対していたけど、俺とエニスさんが風神・雷神に騎乗して第15階層まで駆けるのも、チルルを置いてバルドルさんたちと別行動を取るのも、こちら側としてはこれ以上ない安全策だ。
「あんたたちだって13階層まで来たのに捜索隊の派遣でダメになるのは悔しいだろう」
バルドルさんが言う。
「俺たちがここまで順調に来られたのは、先に入場していたあんたたちが魔物を倒してくれていたからでもある。違うか?」
「……確かに魔物の群れとは連日遭遇していたが」
ダンジョンの魔物の数が一定かどうかは不明だが、少なくとも生まれてからの日数で強さが増していくことはこれまでの事から判明している。モーリパーティが強い魔物と連戦して来たことは間違いない。
「だったら、これはその礼だと思ってくれ」
「しかし……」
「僧侶と剣士の二人で2階層も移動するなんて……」
「大丈夫ですよ」
俺は風神と雷神の背を撫でながら伝える。
「この子たちは魔豹です。魔物が襲ってきても逃げ切れます」
「え……魔豹⁈」
「こんな真っ白じゃねぇだろ!」
「……確かに黒い斑はそれっぽいが……えぇ⁇ デカ過ぎねぇ……?」
彼らもダンジョンの魔物から獲得した魔石に人の魔力を込めれば、魔力の主に忠実な魔物が生まれるという情報は持っていたし、試したこともあるそうだが、戦闘の助けになりそうな魔物を顕現するには魔力を限界まで持っていかれたそうだ。それでは自分が役立たずになってしまって意味がない、と。
これには師匠が意味深に笑っていた。
「レンたちが戻って来るまでの間、ゆっくり休むだけじゃ勿体ないからいろいろと教えてあげるわ。此処まで私たちに先駆けて魔物を倒してくれていたお礼だものね?」
にこりと微笑みかけられたバルドルさんは苦笑。
「まぁ良いんじゃないか。ってことでエニス、レンのこと頼んだ」
「おう」
「行ってきます」
テントはそのまま。
登録していない人が中を覗いたら見た目相応の空っぽの空間がそこにあるようにしか見えない仕様だから、中のキッチンを使わないようにすればたぶん問題ない。
一度、神具『住居兼用移動車両』Ex.に戻ってリーデン様に1日か2日は帰って来られないことを伝え、風神と雷神には乗り易いよう少し縮んでもらい、出発した。
魔豹は速かった。
さすが金級の魔物を含めてもトップクラスの脚力を恐れられているだけあって乗っているだけの俺たちの方が疲労困憊。人の足なら3日は掛かっただろう道程を、休憩含めて15時間余りで駆け抜けられたことでモーリパーティの捜索隊派遣は止められたのは良かったが、俺とエニスさんはグロッキー。
もう絶対にこんなことしない。
二度とやるもんか。
監視員のための小屋の床で横にならせてもらいながら唸っていたら、風神たちに申し訳なさそうな顔をさせてしまった。久々の全力疾走に大興奮していたような気もするが……彼らは頑張ってくれただけなのでお礼に魔力を多めにあげて、俺はしばらく反省である。
「あ……すみません。トゥルヌソルのグランツェパーティはダンジョンに来ましたか?」
「少々お待ちください」
監視員は事務机に移動すると手元でいろいろと調べてから戻って来た。
「まだいらしていません」
「そうですか、ありがとうございます……すみませんが窓か、ドアを、開けてもらえますか? メッセンジャーを飛ばしたいので」
「承知いたしました」
俺たちが入場した時とは違う監視員さんは、とても丁寧な対応でメッセンジャーが飛んだあとは窓を閉めてくれた。しかも返事が来たらまた窓を開けるから声を掛けて、と。
感謝していたら、隣でへばっていたエニスさんが。
「……よくそれだけ頭が働くな……助かるけど……」
「若さですかね?」
「言ってくれる……」
苦笑するエニスさんはかなりしんどそう。
中身の年齢はそう変わらないが、やっぱりこういう場合に物を言うのは体の年齢ってことだろう。
「出発は明るくなってからですから、それまで休ませてもらいましょう」
「ああ……けど、またアレなんだよな……」
「ふはっ。今度は時間制限がないのでゆっくり進めば良いと思います」
「そうか……それなら、今度はゆっくり……うっ」
うん、まずはゆっくり休ませてもらいましょう。
エニスさんが休んでいる間、俺はグランツェさんとメッセンジャーで複数回遣り取りし、5日後に此処で待ち合わせることにした。
明日は俺とエニスさんが第15階層の転移陣に戻って、第13階層に戻る。
バルドルさんたちと合流したら改めて第15階層を目指す。
5日後に合わせて外へ出て、俺とヒユナさんはグランツェさん達と一緒に再びセーズへ。
バルドルさんたちは里帰り。
師匠もこっちかな? 後で要確認だ。
そして、グランツェパーティが第15階層から帰還するのがいつになるかで、その後のことも決めようってことになった。
レイナルドさんたちとの合流までに俺たちも第30階層まで行けるかどうか、……今はまだ判らない。
「あんたたちだって13階層まで来たのに捜索隊の派遣でダメになるのは悔しいだろう」
バルドルさんが言う。
「俺たちがここまで順調に来られたのは、先に入場していたあんたたちが魔物を倒してくれていたからでもある。違うか?」
「……確かに魔物の群れとは連日遭遇していたが」
ダンジョンの魔物の数が一定かどうかは不明だが、少なくとも生まれてからの日数で強さが増していくことはこれまでの事から判明している。モーリパーティが強い魔物と連戦して来たことは間違いない。
「だったら、これはその礼だと思ってくれ」
「しかし……」
「僧侶と剣士の二人で2階層も移動するなんて……」
「大丈夫ですよ」
俺は風神と雷神の背を撫でながら伝える。
「この子たちは魔豹です。魔物が襲ってきても逃げ切れます」
「え……魔豹⁈」
「こんな真っ白じゃねぇだろ!」
「……確かに黒い斑はそれっぽいが……えぇ⁇ デカ過ぎねぇ……?」
彼らもダンジョンの魔物から獲得した魔石に人の魔力を込めれば、魔力の主に忠実な魔物が生まれるという情報は持っていたし、試したこともあるそうだが、戦闘の助けになりそうな魔物を顕現するには魔力を限界まで持っていかれたそうだ。それでは自分が役立たずになってしまって意味がない、と。
これには師匠が意味深に笑っていた。
「レンたちが戻って来るまでの間、ゆっくり休むだけじゃ勿体ないからいろいろと教えてあげるわ。此処まで私たちに先駆けて魔物を倒してくれていたお礼だものね?」
にこりと微笑みかけられたバルドルさんは苦笑。
「まぁ良いんじゃないか。ってことでエニス、レンのこと頼んだ」
「おう」
「行ってきます」
テントはそのまま。
登録していない人が中を覗いたら見た目相応の空っぽの空間がそこにあるようにしか見えない仕様だから、中のキッチンを使わないようにすればたぶん問題ない。
一度、神具『住居兼用移動車両』Ex.に戻ってリーデン様に1日か2日は帰って来られないことを伝え、風神と雷神には乗り易いよう少し縮んでもらい、出発した。
魔豹は速かった。
さすが金級の魔物を含めてもトップクラスの脚力を恐れられているだけあって乗っているだけの俺たちの方が疲労困憊。人の足なら3日は掛かっただろう道程を、休憩含めて15時間余りで駆け抜けられたことでモーリパーティの捜索隊派遣は止められたのは良かったが、俺とエニスさんはグロッキー。
もう絶対にこんなことしない。
二度とやるもんか。
監視員のための小屋の床で横にならせてもらいながら唸っていたら、風神たちに申し訳なさそうな顔をさせてしまった。久々の全力疾走に大興奮していたような気もするが……彼らは頑張ってくれただけなのでお礼に魔力を多めにあげて、俺はしばらく反省である。
「あ……すみません。トゥルヌソルのグランツェパーティはダンジョンに来ましたか?」
「少々お待ちください」
監視員は事務机に移動すると手元でいろいろと調べてから戻って来た。
「まだいらしていません」
「そうですか、ありがとうございます……すみませんが窓か、ドアを、開けてもらえますか? メッセンジャーを飛ばしたいので」
「承知いたしました」
俺たちが入場した時とは違う監視員さんは、とても丁寧な対応でメッセンジャーが飛んだあとは窓を閉めてくれた。しかも返事が来たらまた窓を開けるから声を掛けて、と。
感謝していたら、隣でへばっていたエニスさんが。
「……よくそれだけ頭が働くな……助かるけど……」
「若さですかね?」
「言ってくれる……」
苦笑するエニスさんはかなりしんどそう。
中身の年齢はそう変わらないが、やっぱりこういう場合に物を言うのは体の年齢ってことだろう。
「出発は明るくなってからですから、それまで休ませてもらいましょう」
「ああ……けど、またアレなんだよな……」
「ふはっ。今度は時間制限がないのでゆっくり進めば良いと思います」
「そうか……それなら、今度はゆっくり……うっ」
うん、まずはゆっくり休ませてもらいましょう。
エニスさんが休んでいる間、俺はグランツェさんとメッセンジャーで複数回遣り取りし、5日後に此処で待ち合わせることにした。
明日は俺とエニスさんが第15階層の転移陣に戻って、第13階層に戻る。
バルドルさんたちと合流したら改めて第15階層を目指す。
5日後に合わせて外へ出て、俺とヒユナさんはグランツェさん達と一緒に再びセーズへ。
バルドルさんたちは里帰り。
師匠もこっちかな? 後で要確認だ。
そして、グランツェパーティが第15階層から帰還するのがいつになるかで、その後のことも決めようってことになった。
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