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第8章 金級ダンジョン攻略
253.幸せを呼ぶ鳥
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食堂で今後のスケジュールについて確認し合った後は全員でデッキに上がった。
もちろん3頭の魔豹も一緒だ。
普段は訓練所になっている広いスペース。
上を向けば遮るものが何一つない真っ青な空が広がっていて、風と、波の音が絶えず耳を打つ。
「……これだけ広いんだから遠慮しなくていいよね」
周りには頼りになる仲間が勢揃いしているという現状も俺の背中を押した。
試すは神力100%。
完全に魔力を遮断して神力だけを勢いよく魔石に流し込んだ、途端。
「!!」
ズゥゥゥ……ン
船が揺れた。
ちょっとパニック。誰も想定していなくて体幹鍛えまくっているだろう面々がバランス崩して尻もちをつくような揺れだったから操舵室や見張り台の方でも大慌て。
護衛の騎士たちも慌てて飛び出して来た。
「何事で――」
でも状況確認のための言葉はそれきり途切れ、俺たちも含め全員が絶句して目の前に現れたそれを凝視した。
手から落ちるようにして魔石から顕現した巨大な怪鳥がデッキに鎮座していた。
体高は、俺3人分くらい?
見上げても顔が見えない。
近過ぎるのもあるんだろうけど。
しかも幅が、翼を広げれば優に3倍以上になるんだろうけど、翼を閉じていても、腹が。胸から腹までが真ん丸で、もっふもふで、その幅3メートル以上の。
これは、あれだ。
冬のシマエナガ。
超巨大なもっふもふのシマエナガ!
顔まで見えないんだけども!
「え、っと……!」
無意識に伸ばした手が羽毛に沈む。
「……!!!!」
ご・く・じょ・う!
「ぁ……やばい、これ……あぁっ……」
「変な声を出すな」
ベシッ、容赦なく後頭部を叩かれた。
レイナルドさんだ。
「だってこの手触り! 肌触り! レイナルドさんも触れば判ります!!」
「だからっておまえ……ん? んん……?」
最初はピンと腕を伸ばして触っていたレイナルドさんだけど、心なしかどんどん距離が縮まっているし終いには両手で触り出した。
肘から下がぴったりくっついてる。
飛び込まないのは強靭な理性ゆえか。
オセアン大陸・メール帝国の王城客室のベッドでさえ比べるのも烏滸がましいだろう心地良さ。これは寝れる。3秒で寝れる!
「ちょっとちょっと?」
「皆さんもぜひっ。ぜひ!」
これは実際に触ってみないと判らない。
俺は何とかその場を他の人に譲ると、顔が見たくてもふもふから離れた。
魔豹は神力100&で顕現させてもヒョウ柄はそのまま、最初は巨大なだけでユキヒョウと変わりなかった。
それでいくと今回のこの子も巨大なだけの白梟のはずだったんだけど。
「全身真っ白……」
そういう色味の梟もいるだろうことは判るが、ダンジョンで最下層を守っていた死を齎す怪鳥には翼や顔、体に黒や茶色があった。
なのにこの子は全身真っ白。
近いと影になってしまって気付かなかったけど。
離れてみるとよく判る。
一夜かけて降り積もった新雪が朝日に輝くような、目が眩みそうな、光の中の白。
「これは死を齎す怪鳥とはもう別物だな」
俺と同じように他のメンバーに場所を譲ったレイナルドさんが隣に来て言うから、素直に頷いた。
「どちらかというと笑顔を運んでくれそうな見た目です」
梟なのは間違いないけど、いかにもっていう顔より毛に埋もれて目と鼻筋が辛うじて見えるくらいだから間抜けに……げふげふ。
愛嬌があると思いマス。はい。
「幸せを呼ぶ鳥か」
ぽつりとレイナルドさんが零した呟き。
その声音がどこか遠くに向けられているようで聞き返すことが出来なかったから、黙って彼を見上げた。しばらくして視線に気付いたらしいレイナルドさんは苦笑いだ。
「まえにシューが言ってた。子ども向けの絵本らしいし、白じゃなくて青い鳥だが」
「青い鳥……」
それは元の世界で有名なあの絵本のことだろうか。
ダンジョンから設計図が出て来るくらいだから絵本があってもおかしくないような気はする。
「それって幸せは案外身近にあるよーって話ですか?」
「知ってるのか」
「向こうにも似た童話があったんです」
「そうか」
レイナルドさんは短く答えた後で唐突に頭をくしゃりと撫でて来た。
「おまえは身近な幸せを大切にしてそうだな」
急に何を、と思った。
でもレイナルドさんの顔を見て言葉が消えた。どんな思いで俺にその言葉を掛けたのか、彼の真意は判らない。……判らないけどとても真摯に伝えられていることは理解出来た。
「そのまま大事にしろよ。自分のことも、相手のことも」
だから。
「……あの羽毛に包まれたらきっと幸せだと思います」
「ふっ」
「抜け毛で布団とか作りますか?」
「そりゃ完成まで時間が掛かりそうだな」
ははっと笑ってくれたことにホッとする。
俺の幸せにはレイナルドさんの笑顔も込みだからね。
「羽毛布団もいいが、名前はどうするんだ?」
「そうですね……魔豹が風神と雷神だし……あぁでも日本語にこだわる必要もない……」
しばらく悩んで、決めた。
「あの子の名前はチルルです」
ネーミングセンスのない俺的には頑張って考えたと思う。
安直なんてこの世界の人は言わないしね!
もちろん3頭の魔豹も一緒だ。
普段は訓練所になっている広いスペース。
上を向けば遮るものが何一つない真っ青な空が広がっていて、風と、波の音が絶えず耳を打つ。
「……これだけ広いんだから遠慮しなくていいよね」
周りには頼りになる仲間が勢揃いしているという現状も俺の背中を押した。
試すは神力100%。
完全に魔力を遮断して神力だけを勢いよく魔石に流し込んだ、途端。
「!!」
ズゥゥゥ……ン
船が揺れた。
ちょっとパニック。誰も想定していなくて体幹鍛えまくっているだろう面々がバランス崩して尻もちをつくような揺れだったから操舵室や見張り台の方でも大慌て。
護衛の騎士たちも慌てて飛び出して来た。
「何事で――」
でも状況確認のための言葉はそれきり途切れ、俺たちも含め全員が絶句して目の前に現れたそれを凝視した。
手から落ちるようにして魔石から顕現した巨大な怪鳥がデッキに鎮座していた。
体高は、俺3人分くらい?
見上げても顔が見えない。
近過ぎるのもあるんだろうけど。
しかも幅が、翼を広げれば優に3倍以上になるんだろうけど、翼を閉じていても、腹が。胸から腹までが真ん丸で、もっふもふで、その幅3メートル以上の。
これは、あれだ。
冬のシマエナガ。
超巨大なもっふもふのシマエナガ!
顔まで見えないんだけども!
「え、っと……!」
無意識に伸ばした手が羽毛に沈む。
「……!!!!」
ご・く・じょ・う!
「ぁ……やばい、これ……あぁっ……」
「変な声を出すな」
ベシッ、容赦なく後頭部を叩かれた。
レイナルドさんだ。
「だってこの手触り! 肌触り! レイナルドさんも触れば判ります!!」
「だからっておまえ……ん? んん……?」
最初はピンと腕を伸ばして触っていたレイナルドさんだけど、心なしかどんどん距離が縮まっているし終いには両手で触り出した。
肘から下がぴったりくっついてる。
飛び込まないのは強靭な理性ゆえか。
オセアン大陸・メール帝国の王城客室のベッドでさえ比べるのも烏滸がましいだろう心地良さ。これは寝れる。3秒で寝れる!
「ちょっとちょっと?」
「皆さんもぜひっ。ぜひ!」
これは実際に触ってみないと判らない。
俺は何とかその場を他の人に譲ると、顔が見たくてもふもふから離れた。
魔豹は神力100&で顕現させてもヒョウ柄はそのまま、最初は巨大なだけでユキヒョウと変わりなかった。
それでいくと今回のこの子も巨大なだけの白梟のはずだったんだけど。
「全身真っ白……」
そういう色味の梟もいるだろうことは判るが、ダンジョンで最下層を守っていた死を齎す怪鳥には翼や顔、体に黒や茶色があった。
なのにこの子は全身真っ白。
近いと影になってしまって気付かなかったけど。
離れてみるとよく判る。
一夜かけて降り積もった新雪が朝日に輝くような、目が眩みそうな、光の中の白。
「これは死を齎す怪鳥とはもう別物だな」
俺と同じように他のメンバーに場所を譲ったレイナルドさんが隣に来て言うから、素直に頷いた。
「どちらかというと笑顔を運んでくれそうな見た目です」
梟なのは間違いないけど、いかにもっていう顔より毛に埋もれて目と鼻筋が辛うじて見えるくらいだから間抜けに……げふげふ。
愛嬌があると思いマス。はい。
「幸せを呼ぶ鳥か」
ぽつりとレイナルドさんが零した呟き。
その声音がどこか遠くに向けられているようで聞き返すことが出来なかったから、黙って彼を見上げた。しばらくして視線に気付いたらしいレイナルドさんは苦笑いだ。
「まえにシューが言ってた。子ども向けの絵本らしいし、白じゃなくて青い鳥だが」
「青い鳥……」
それは元の世界で有名なあの絵本のことだろうか。
ダンジョンから設計図が出て来るくらいだから絵本があってもおかしくないような気はする。
「それって幸せは案外身近にあるよーって話ですか?」
「知ってるのか」
「向こうにも似た童話があったんです」
「そうか」
レイナルドさんは短く答えた後で唐突に頭をくしゃりと撫でて来た。
「おまえは身近な幸せを大切にしてそうだな」
急に何を、と思った。
でもレイナルドさんの顔を見て言葉が消えた。どんな思いで俺にその言葉を掛けたのか、彼の真意は判らない。……判らないけどとても真摯に伝えられていることは理解出来た。
「そのまま大事にしろよ。自分のことも、相手のことも」
だから。
「……あの羽毛に包まれたらきっと幸せだと思います」
「ふっ」
「抜け毛で布団とか作りますか?」
「そりゃ完成まで時間が掛かりそうだな」
ははっと笑ってくれたことにホッとする。
俺の幸せにはレイナルドさんの笑顔も込みだからね。
「羽毛布団もいいが、名前はどうするんだ?」
「そうですね……魔豹が風神と雷神だし……あぁでも日本語にこだわる必要もない……」
しばらく悩んで、決めた。
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ネーミングセンスのない俺的には頑張って考えたと思う。
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