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第8章 金級ダンジョン攻略
246.隠された村
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マーヘ大陸は獄鬼に侵食された月日の中で異常気象にも見舞われていて、雑草の一本も生えないひび割れた乾燥地帯が大きく広がってしまった。
そこには人どころか魔獣も住めなくなっている。
王都や、それなりの規模の町村がいまも機能しているのは、大陸そのものが魔力を失ったわけではないから。
この世界に魔力を供給するためのダンジョンの傍に人が集まって暮らしているからに他ならない。
そういう意味で金級ダンジョン「トラントゥトロワ」からそれほど離れていない場所に森が広がっているのは、特に不思議ではないのだけど。
「ここが村なんですか……?」
この大陸では初めて見るような密度の濃い森だ。
空は真っ青、とても良い天気なのに森の中が真っ暗に見える。まるで幻惑系の魔法でも掛かっていそうだ。
「人って、自分の視界より上にはなかなか目が向かないものなのよ」
「上」
アッシュさんに言われて目線を上げる。
と。
「ぁ……ツリーハウス!」
ツリーハウスって単語自体は皆には通じなくて説明を求められたが、森の木々の上、地面から3メートルくらい離れた枝上に、床と思しき板の並びが幾つも確認出来た。
そうか、森の中が暗く見えたのはこれのせいもあるんだ。
「上の方に梯子を掛けていたんだろう跡があった。村を捨てる時にそれだけは外していったんだろうな」
「これだけの木材を処分しようと思ったらかなりの手間が掛かるし、ヘタしたら向こうの町に気付かれるだろうから梯子だけはってとこか」
「上ったのか?」
「手前4つは確認済みだ。此処を見つけるのに手間取ったせいで昨日は時間がなかった」
「これを発見しただけでお手柄だろう。よく見つけたな」
「たまたまだ。そこで飯を食おうって話になってな。全員が終わるのを待っている間、横になってあれを見つけた」
レイナルドさんが手前の床板を指差す。
確かに運もあっただろうが、何か隠すにしても「住める場所」だろうと予想してここら一帯を探索していたのは彼らの判断が正しかったからだ。
「手前4つからは何も見つからなかったのか」
「どれも2~4人も入れば手狭になるだろう小屋だった。低級魔物の、使い物にならない素材が幾つか転がっていたくらいだ」
「ふぅん」
「それと」
レイナルドさんは一息吐いてから続ける。
「微かにだが、カンヨンで嗅いだあの妙な匂いが残ってる」
「火薬の?」
思わず聞き返したら頷かれる。
え。
ってことは……。
「まさかその、火薬、の設計図が出たのがトラントゥトロワか?」
「可能性は高い」
「マジかー」
「またややこしいことに……」
皆が眉を顰めるのも無理はない。
カンヨン国で、ほとんどの建物を灰燼に帰し、多くの命を奪った威力を、あの場にいた誰もが忘れていない。
「それを知っていたら他の大陸もトラントゥトロワの所有権を欲しただろうな」
「未攻略のダンジョンの方が魅力的だろ」
「どうかなぁ」
思い思いに発言しつつも皆の本音は一緒だ。
「何にせよ、トラントゥトロワをプラーントゥ大陸が所有することにして正解だっただろ。うちの国王陛下なら悪用はしない」
「だな」
イヌ科は番への愛が重いとか、執着がすごいと言われるけれど、それだけ強い感情を向ける相手が番ではなく「主」となれば、その忠誠は揺るぎないものとなる。
プラーントゥ大陸に3つある国の王が主と戴くのは千年の昔から変わることがない。
主神様だ。
界渡りによってロテュスに来たすべての命が手を取り合って生きること――そんな願いをずっと変わらずに守ろうと努力しているのはプラーントゥ大陸、次いでキクノ大陸だと教えてくれたのは主神様ことリーデン様だ。
レイナルドさん、ゲンジャルさん、ウォーカーさん、ミッシェルさん、アッシュさん、今日は一緒に来ていないけど、ヴァンさんも。
国の上層部に近い人たちはそれをまるで疑っていない。
グランツェさんたちも、バルドルさんたちも。
こういうとき、生粋のこの世界人じゃない俺は疎外感みたいなものを感じてしまうのだけど、リーデン様の願いを叶えようとしてくれているんだと思うと「ありがとう」って感謝の気持ちが膨らむんだ。
自分に出来ることをする!
決意新たに頭上を見ていると、レイナルドさん。
「本当にトラントゥトロワが火薬の設計図を出したダンジョンで、素材を得られるなら、此処が加工のための隠里だった可能性もある。それも念頭に置いて調査してくれ。床板の数は、把握している範囲では31。森の奥の方まで続いているから道に迷わないよう気を付けろ。なるべく魔力感知が出来るメンバーと一緒に行動してくれ」
「レイナルド、レン、ミッシェル、ドーガ、オクティバか」
「3~4人で組もう」
魔力感知が出来れば仲間を見失ってもその位置を把握出来る。
俺はエニスさん、ウォーカーさんと組んで、森の奥の方を担当することになった。魔力感知の範囲が一番広いからだ。あとは、奥へ行くってことは移動範囲も広がるので、もし途中で何か気付くことがあれば報告を、ってことだね。
「……奥に行けば行くほど、一軒ずつ……ポツンとあるんですね」
「だな。この辺はレイナルドたちも把握済みのようだ。昨日の足跡が残っている」
ウォーカーさんが地面を注意深く見ながら教えてくれる。
そうして歩くこと10分ほど。
「レイナルドはここで折り返しているな」
「ってことは此処までが把握している範囲ですね」
言いながら、そこから更に奥をじっと見つめる。
直感なんて意識してどうこうするものではないから自信はない。でも、この先に行きたいという気持ちは欠片も沸いて来なかった。
そこには人どころか魔獣も住めなくなっている。
王都や、それなりの規模の町村がいまも機能しているのは、大陸そのものが魔力を失ったわけではないから。
この世界に魔力を供給するためのダンジョンの傍に人が集まって暮らしているからに他ならない。
そういう意味で金級ダンジョン「トラントゥトロワ」からそれほど離れていない場所に森が広がっているのは、特に不思議ではないのだけど。
「ここが村なんですか……?」
この大陸では初めて見るような密度の濃い森だ。
空は真っ青、とても良い天気なのに森の中が真っ暗に見える。まるで幻惑系の魔法でも掛かっていそうだ。
「人って、自分の視界より上にはなかなか目が向かないものなのよ」
「上」
アッシュさんに言われて目線を上げる。
と。
「ぁ……ツリーハウス!」
ツリーハウスって単語自体は皆には通じなくて説明を求められたが、森の木々の上、地面から3メートルくらい離れた枝上に、床と思しき板の並びが幾つも確認出来た。
そうか、森の中が暗く見えたのはこれのせいもあるんだ。
「上の方に梯子を掛けていたんだろう跡があった。村を捨てる時にそれだけは外していったんだろうな」
「これだけの木材を処分しようと思ったらかなりの手間が掛かるし、ヘタしたら向こうの町に気付かれるだろうから梯子だけはってとこか」
「上ったのか?」
「手前4つは確認済みだ。此処を見つけるのに手間取ったせいで昨日は時間がなかった」
「これを発見しただけでお手柄だろう。よく見つけたな」
「たまたまだ。そこで飯を食おうって話になってな。全員が終わるのを待っている間、横になってあれを見つけた」
レイナルドさんが手前の床板を指差す。
確かに運もあっただろうが、何か隠すにしても「住める場所」だろうと予想してここら一帯を探索していたのは彼らの判断が正しかったからだ。
「手前4つからは何も見つからなかったのか」
「どれも2~4人も入れば手狭になるだろう小屋だった。低級魔物の、使い物にならない素材が幾つか転がっていたくらいだ」
「ふぅん」
「それと」
レイナルドさんは一息吐いてから続ける。
「微かにだが、カンヨンで嗅いだあの妙な匂いが残ってる」
「火薬の?」
思わず聞き返したら頷かれる。
え。
ってことは……。
「まさかその、火薬、の設計図が出たのがトラントゥトロワか?」
「可能性は高い」
「マジかー」
「またややこしいことに……」
皆が眉を顰めるのも無理はない。
カンヨン国で、ほとんどの建物を灰燼に帰し、多くの命を奪った威力を、あの場にいた誰もが忘れていない。
「それを知っていたら他の大陸もトラントゥトロワの所有権を欲しただろうな」
「未攻略のダンジョンの方が魅力的だろ」
「どうかなぁ」
思い思いに発言しつつも皆の本音は一緒だ。
「何にせよ、トラントゥトロワをプラーントゥ大陸が所有することにして正解だっただろ。うちの国王陛下なら悪用はしない」
「だな」
イヌ科は番への愛が重いとか、執着がすごいと言われるけれど、それだけ強い感情を向ける相手が番ではなく「主」となれば、その忠誠は揺るぎないものとなる。
プラーントゥ大陸に3つある国の王が主と戴くのは千年の昔から変わることがない。
主神様だ。
界渡りによってロテュスに来たすべての命が手を取り合って生きること――そんな願いをずっと変わらずに守ろうと努力しているのはプラーントゥ大陸、次いでキクノ大陸だと教えてくれたのは主神様ことリーデン様だ。
レイナルドさん、ゲンジャルさん、ウォーカーさん、ミッシェルさん、アッシュさん、今日は一緒に来ていないけど、ヴァンさんも。
国の上層部に近い人たちはそれをまるで疑っていない。
グランツェさんたちも、バルドルさんたちも。
こういうとき、生粋のこの世界人じゃない俺は疎外感みたいなものを感じてしまうのだけど、リーデン様の願いを叶えようとしてくれているんだと思うと「ありがとう」って感謝の気持ちが膨らむんだ。
自分に出来ることをする!
決意新たに頭上を見ていると、レイナルドさん。
「本当にトラントゥトロワが火薬の設計図を出したダンジョンで、素材を得られるなら、此処が加工のための隠里だった可能性もある。それも念頭に置いて調査してくれ。床板の数は、把握している範囲では31。森の奥の方まで続いているから道に迷わないよう気を付けろ。なるべく魔力感知が出来るメンバーと一緒に行動してくれ」
「レイナルド、レン、ミッシェル、ドーガ、オクティバか」
「3~4人で組もう」
魔力感知が出来れば仲間を見失ってもその位置を把握出来る。
俺はエニスさん、ウォーカーさんと組んで、森の奥の方を担当することになった。魔力感知の範囲が一番広いからだ。あとは、奥へ行くってことは移動範囲も広がるので、もし途中で何か気付くことがあれば報告を、ってことだね。
「……奥に行けば行くほど、一軒ずつ……ポツンとあるんですね」
「だな。この辺はレイナルドたちも把握済みのようだ。昨日の足跡が残っている」
ウォーカーさんが地面を注意深く見ながら教えてくれる。
そうして歩くこと10分ほど。
「レイナルドはここで折り返しているな」
「ってことは此処までが把握している範囲ですね」
言いながら、そこから更に奥をじっと見つめる。
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