上 下
271 / 335
第8章 金級ダンジョン攻略

246.隠された村

しおりを挟む
 マーヘ大陸は獄鬼ヘルネルに侵食された月日の中で異常気象にも見舞われていて、雑草の一本も生えないひび割れた乾燥地帯が大きく広がってしまった。
 そこには人どころか魔獣も住めなくなっている。
 王都や、それなりの規模の町村がいまも機能しているのは、大陸そのものが魔力を失ったわけではないから。
 この世界に魔力を供給するためのダンジョンの傍に人が集まって暮らしているからに他ならない。
 そういう意味で金級オーァルダンジョン「トラントゥトロワ」からそれほど離れていない場所に森が広がっているのは、特に不思議ではないのだけど。

「ここが村なんですか……?」

 この大陸では初めて見るような密度の濃い森だ。
 空は真っ青、とても良い天気なのに森の中が真っ暗に見える。まるで幻惑系の魔法でも掛かっていそうだ。

「人って、自分の視界より上にはなかなか目が向かないものなのよ」
「上」

 アッシュさんに言われて目線を上げる。
 と。

「ぁ……ツリーハウス!」

 ツリーハウスって単語自体は皆には通じなくて説明を求められたが、森の木々の上、地面から3メートルくらい離れた枝上に、床と思しき板の並びが幾つも確認出来た。
 そうか、森の中が暗く見えたのはこれのせいもあるんだ。

「上の方に梯子を掛けていたんだろう跡があった。村を捨てる時にそれだけは外していったんだろうな」
「これだけの木材を処分しようと思ったらかなりの手間が掛かるし、ヘタしたら向こうの町に気付かれるだろうから梯子だけはってとこか」
「上ったのか?」
「手前4つは確認済みだ。此処を見つけるのに手間取ったせいで昨日は時間がなかった」
「これを発見しただけでお手柄だろう。よく見つけたな」
「たまたまだ。そこで飯を食おうって話になってな。全員が終わるのを待っている間、横になってあれを見つけた」

 レイナルドさんが手前の床板を指差す。
 確かに運もあっただろうが、何か隠すにしても「住める場所」だろうと予想してここら一帯を探索していたのは彼らの判断が正しかったからだ。

「手前4つからは何も見つからなかったのか」
「どれも2~4人も入れば手狭になるだろう小屋だった。低級魔物の、使い物にならない素材が幾つか転がっていたくらいだ」
「ふぅん」
「それと」

 レイナルドさんは一息吐いてから続ける。

「微かにだが、カンヨンで嗅いだあの妙な匂いが残ってる」
「火薬の?」

 思わず聞き返したら頷かれる。
 え。
 ってことは……。

「まさかその、火薬、の設計図が出たのがトラントゥトロワか?」
「可能性は高い」
「マジかー」
「またややこしいことに……」

 皆が眉を顰めるのも無理はない。
 カンヨン国で、ほとんどの建物を灰燼に帰し、多くの命を奪った威力を、あの場にいた誰もが忘れていない。

「それを知っていたら他の大陸もトラントゥトロワの所有権を欲しただろうな」
「未攻略のダンジョンの方が魅力的だろ」
「どうかなぁ」

 思い思いに発言しつつも皆の本音は一緒だ。

「何にせよ、トラントゥトロワをプラーントゥ大陸が所有することにして正解だっただろ。うちの国王陛下なら悪用はしない」
「だな」

 イヌ科シアンは番への愛が重いとか、執着がすごいと言われるけれど、それだけ強い感情を向ける相手が番ではなく「主」となれば、その忠誠は揺るぎないものとなる。
 プラーントゥ大陸に3つある国の王が主と戴くのは千年の昔から変わることがない。
 主神様だ。
 界渡りによってロテュスに来たすべての命が手を取り合って生きること――そんな願いをずっと変わらずに守ろうと努力しているのはプラーントゥ大陸、次いでキクノ大陸だと教えてくれたのは主神様ことリーデン様だ。
 レイナルドさん、ゲンジャルさん、ウォーカーさん、ミッシェルさん、アッシュさん、今日は一緒に来ていないけど、ヴァンさんも。
 国の上層部に近い人たちはそれをまるで疑っていない。
 グランツェさんたちも、バルドルさんたちも。
 こういうとき、生粋のこの世界人じゃない俺は疎外感みたいなものを感じてしまうのだけど、リーデン様の願いを叶えようとしてくれているんだと思うと「ありがとう」って感謝の気持ちが膨らむんだ。
 自分に出来ることをする!
 決意新たに頭上を見ていると、レイナルドさん。

「本当にトラントゥトロワが火薬の設計図を出したダンジョンで、素材を得られるなら、此処が加工のための隠里だった可能性もある。それも念頭に置いて調査してくれ。床板の数は、把握している範囲では31。森の奥の方まで続いているから道に迷わないよう気を付けろ。なるべく魔力感知が出来るメンバーと一緒に行動してくれ」
「レイナルド、レン、ミッシェル、ドーガ、オクティバか」
「3~4人で組もう」

 魔力感知が出来れば仲間を見失ってもその位置を把握出来る。
 俺はエニスさん、ウォーカーさんと組んで、森の奥の方を担当することになった。魔力感知の範囲が一番広いからだ。あとは、奥へ行くってことは移動範囲も広がるので、もし途中で何か気付くことがあれば報告を、ってことだね。

「……奥に行けば行くほど、一軒ずつ……ポツンとあるんですね」
「だな。この辺はレイナルドたちも把握済みのようだ。昨日の足跡が残っている」

 ウォーカーさんが地面を注意深く見ながら教えてくれる。
 そうして歩くこと10分ほど。

「レイナルドはここで折り返しているな」
「ってことは此処までが把握している範囲ですね」

 言いながら、そこから更に奥をじっと見つめる。
 直感なんて意識してどうこうするものではないから自信はない。でも、この先に行きたいという気持ちは欠片も沸いて来なかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

明日もいい日でありますように。~異世界で新しい家族ができました~

葉山 登木
BL
『明日もいい日でありますように。~異世界で新しい家族ができました~』 書籍化することが決定致しました! アース・スター ルナ様より、今秋2024年10月1日(火)に発売予定です。 Webで更新している内容に手を加え、書き下ろしにユイトの母親視点のお話を収録しております。 これも、作品を応援してくれている皆様のおかげです。 更新頻度はまた下がっていて申し訳ないのですが、ユイトたちの物語を書き切るまでお付き合い頂ければ幸いです。 これからもどうぞ、よろしくお願い致します。  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 祖母と母が亡くなり、別居中の父に引き取られた幼い三兄弟。 暴力に怯えながら暮らす毎日に疲れ果てた頃、アパートが土砂に飲み込まれ…。 目を覚ませばそこは日本ではなく剣や魔法が溢れる異世界で…!? 強面だけど優しい冒険者のトーマスに引き取られ、三兄弟は村の人や冒険者たちに見守られながらたくさんの愛情を受け成長していきます。 主人公の長男ユイト(14)に、しっかりしてきた次男ハルト(5)と甘えん坊の三男ユウマ(3)の、のんびり・ほのぼのな日常を紡いでいけるお話を考えています。 ※ボーイズラブ・ガールズラブ要素を含める展開は98話からです。 苦手な方はご注意ください。

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

会社を辞めて騎士団長を拾う

あかべこ
BL
社会生活に疲れて早期リタイアした元社畜は、亡き祖父から譲り受けた一軒家に引っ越した。 その新生活一日目、自宅の前に現れたのは足の引きちぎれた自称・帝国の騎士団長だった……!え、この人俺が面倒見るんですか? 女装趣味のギリギリFIREおじさん×ガチムチ元騎士団長、になるはず。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

処理中です...