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第8章 金級ダンジョン攻略

243.ゼスという男

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 はあああ?
 複数の声が重なって、同じタイミングで声が出た面々は思わずといった様子で口を閉ざした。特にヒユナさんがヤバいって顔しながら口元を隠しているがちょっと可愛い。
 いや、でもそういう反応になるだろう。
 だって「自分の番になるなら魔法武器を手に入れさせてやる」だよ?
 何様!

「あのゼスって人、そんな……あ、ギルド職員じゃなくてダンジョンの管理人だったとか?」
「ぶふっ」

 思ったことをつい声に出してしまったら、ウーガさんが吹き出す。

「なにダンジョンの管理人って」
「だって自分の気持ち一つで魔剣や魔弓が手に入るんでしょう? そんなのダンジョンの全部を把握して管理でもしてないと無理じゃないですか」
「確かに魔法武器はダンジョンの当たりだが、入手方法がダンジョンだけってわけじゃないぞ」

 こちらも笑いを含ませながらエニスさんが教えてくれた。

「ダンジョンで入手しても自分に必要のない武器種だと売りに出すこともあるし、冒険者を引退した後で店を開く奴もいる」

 言われてみると、納得だ。
 確かに何が出るかは判らないし、ダンジョンで得た素材なんかを売って稼ぐのが冒険者だ。自分に必要のない魔法武器なら手元に残す意味はない。

「まぁでもアイツのあの言い方だと、そういう正規のルートで集めた武器の中から選べって感じじゃなかったけど」

 忌々しそうに言うのはドーガさん。

「正規じゃないルートって……?」

 判らなくて聞いたら、目が合ったバルドルさんは言い難そうにしつつも教えてくれる。

「持ってる奴から盗むのが一番手っ取り早いだろうな」

 ダンジョンの中、野営で起きているメンバーが少数のところで近付いたり。
 町の宿や、酒場などで油断しているところを狙ったり。

「金貨10枚の報酬で盗ませた武器を金貨100枚で売ればぼろ儲けだろ」

 だろ、って。
 そりゃそうだけど。

「けどあの人、ウーガさんたちがレイナルドさんたちと同じパーティだって判ってますよね?」
「ふふっ」

 笑ったのはミッシェルさん。

「レン、プラーントゥ大陸内ならともかく、金級オーァル冒険者程度じゃ他大陸での知名度なんて無いも同然。レイナルドにそれ以外の力があると知っているのは上の人たちだけで、下っ端ほどなぁんにも知らないの」
「え……」
「ケヴィンは此処のギルドのサブリーダーだから把握していたみたいだし、実際レイナルドとも情報交換しているが、他の職員にとってはその他大勢の冒険者の中の一人だろうな」
「ベテラン冒険者にこき使われてるようにでも見えたんでしょ」
「なんせこの見た目だしねぇ」
 
 ウーガさんが自慢気に言うのは、男にしては華奢というか、つまり性欲のはけ口的な数合わせだとでも思われたんだろう、っていう。そういえばゼスさんの耳って人族ヒューロンだったっけ……うわぁ。
 やっぱり人族ヒューロンにも一目で「この人たちが番同士」って判る何かが必要だと思います!
 そしてケヴィンさんがここのサブマスターだなんて聞いてません。

「とりあえずそのゼスって男との今日のやり取りは後で全員で共有。レイナルドたちがいま調べている案件のこともあるし……戻って来たら、一度全員で集まりましょ」
「はい」
「りょーかい」
「じゃあ……この後どうする? あいつがいると思ったらもう町に出る気にもならないし」

 両腕両足を伸ばしてソファにだらけるウーガさん。
 階下や庭は工事中だし、このフロアにしても階段の向こうは未完成で危ないから入らないよう言われている。となるとあとはこの部屋で過ごすしかないわけで……。

「みんなでパンか、お菓子を作りますか?」
「へ?」
「次のダンジョン攻略のときのための作り置きもしたいので、手伝ってもらえたら助かります」

 沈黙は僅か一瞬。

「「「やる!」」」

 複数の声が重なって、今日これからの予定が決まった。
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