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第8章 金級ダンジョン攻略

240.今回の連休は

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「此処に扉を出して良いですか?」
「ああ」

 今回、一応は同室の部屋割りになった俺とレイナルドさんだけど、その実は部屋の扉横に、神具『住居兼用移動車両』Ex.への扉を設置する。テント同様、パーティメンバーにしか目視出来ないから知らない人が入って来ても問題ない。あの魔法陣があればそんなことは起きないと思うけど。

「ところで部屋の中って見せてもらっても良いですか? どう改装したのか気になります!」

 正直に言ったら、レイナルドさんは小さく笑った後で「好きにしろ」と。
 部屋は8帖くらいの洋室でシングルベッドが二台。
 南向きの大きな窓からはリビング同様に気持ちのいい陽光が差し込んできて部屋を明るくしていて、北側には水回り。

「おお。お風呂大きいですね」
「足を伸ばしてゆっくりくつろげるサイズだって聞いたが、……あぁ確かに大きいな」

 猫足バスタブとかじゃなく、俺がよく知る日本の一般家庭風の風呂場なのはこれもダンジョンから設計図が出て来たからだろうと予想している。
 しかも神具『住居兼用移動車両』Ex.同様に床を掘り下げて風呂にしているし、シャワー付きの洗い場まで確保されているから、まるで旅館の風呂みたいだ。
 きちんと壁と扉で仕切られているトイレは魔道具で、いわゆる水洗だし。
 洗面台も高性能の魔道具で水とお湯が切り替えられる。
 これが全部屋共通って、一体どれだけのお金を使っているのやら……。

金級オーァル冒険者ってどれくらいいるんですか?」
「ん?」
金級オーァル冒険者じゃないと此処に来る必要がないですよね?」
「は……あぁそうか。金級オーァル冒険者が増えるのはこれからだ」
「これから」
「今回の件でマーヘ大陸のダンジョンの所有権は他の大陸に移っただろ。いまはまだ未踏破のダンジョン含め、いずれはどんな冒険者も相応の金額を支払えば他大陸の金級オーァル白金級プラティヌのダンジョンに挑めるっていうのは、今までは絶対になかったことだ」
「はい」
「言い換えれば、マーヘ大陸のダンジョンを踏破出来るようになったことで、白金級プラティヌ冒険者への道も拓けた」

 それは解る。
 何せ冒険者ランクを上げるのに必要な条件はダンジョンの攻略数。いままで金級オーァル以上のダンジョンは各国によって厳重に管理、入場を制限されていたから、余所者はまず入れなかった。他大陸の金級オーァルダンジョンに挑めなければ、それ以上の昇級は実質不可能だったんだ。

「おまけに各大陸からマーヘ大陸への船が頻繁に往復し、マーヘ大陸からは各国への船が出ている。移動費もこれまでに比べたら格安。金級オーァルでさえ重宝されるのに、白金級プラティヌ冒険者となればそれ以上……場合によっては神銀級ヴレィ・アルジョン冒険者になるべく国の支援を受けられる立場にもなれる」

 そっか、と。
 急にストンと納得してしまった。
 この世界の人たちは最難関ダンジョン神銀級ヴレィ・アルジョンにあるだろう、今はまだ誰も見たことが無い「宝」を求めている。
 マーヘ大陸の陥落は他大陸の好機。
 船での移動費が抑えられれば銀級アルジョンから金級オーァルへの昇級だって難易度が下がるだろうし、この建物を改装した後に利用するのは、なにもプラーントゥ大陸出身者だけとは限らないってことだ。

「じゃあ町の方で工房やお店が活気付いていたのも、これから冒険者が増えると見越して手を回したから、ですか」
「冒険者が来るようになってから動き出すのでは遅いからな。まぁその前に一つ解決しないとならない問題があるんだが」

 レイナルドさんは肩を竦めて息を吐く。
 俺は「よしっ」と気を取り直す。

「じゃあお弁当作ってきますね」
「ああ。手間を掛けるが頼む」

 美味しくて、しっかり満足感のあるお弁当を作ろう。
 俺たちとは違って国のあれこれに巻き込まれるレイナルドさん達が少しでも英気を養えるようにね!




 金級オーァルダンジョン「トラントゥトロワ」を第30階層まで攻略して戻って来た最寄りの町。
 近々この町にも新しい名前を付けるから何か考えておいてくれと言い置いて、レイナルドさん、アッシュさん、ヴァンさんが出掛けて行った。
 もちろん弁当も持って。

「これだけ人が出入りしていると俺らがいなくなるのはマズいな」

 3人を見送ったのち、階段の上から階下の様子を眺めていたゲンジャルさんのセリフには他の面々も納得で、今回の移動は夜間だけになりそうだ。

「人目が増えれば制限が増えるのは当たり前なんですけど残念ですね……」
「なに言ってんだ。仕事となれば年単位で会えないのが当然だったんだぞ。夜会えるだけでも充分過ぎる」
「お兄ちゃんの言う通り! レンが悲しむことないわ」
「うむ」

 ミッシェルさん、ウォーカーさんにも説得されてものすごく複雑な気持ちになってしまった。
 大人だからなのか、たぶん貴族だから、なのか。
 シンプルな言い方をすると「良い人」なんだよ、此処にいる人たち皆。

「お昼ご飯と、夕ご飯。とびきり美味しいの用意しますね」
「そりゃ愉しみだ」
「あ、じゃあオレ買い出し行ってくる。お酒欲しいし、おやつも足しときたい」
「だったら付き合うわ。前回はすぐ向こうに行ったから町はろくに見てないもの」
「俺たちも付き合おう」

 ミッシェルさんやグランツェさんたちが一緒に行くなら何の問題もない。
 そう思って一緒に町に行かなかったことを、俺はしばらくしてとても後悔することになる――。 
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