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第6章 変遷する世界

189.大陸奪還戦(5)

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「そういえばミッシェルさんてああいう系統が苦手なんですか? ダンジョンのラララ相手にも上級魔法で殲滅してましたよね」

 見た目こそ違うけど小型で群れを無し襲ってくる敵という点では共通している。
 俺個人の認識ではどちらも鼠だし。

「苦手……まぁそうだ。今日は我慢できた方かもな」

 ゲンジャルさんが疲れたように答えてくれた。
 ミッシェルさんの上級魔法でラモンリスを焼き払った後も何度か魔獣との戦闘を繰り返し、昼休憩を取る予定だった地点まで進んでの現在。
 休憩と見張りの分担制で、たまたまゲンジャルさんの隣に座れたので聞いてみたら、ミッシェルさんは昔からああいうタイプの魔獣や魔物には容赦がないと話してくれる。
 ちなみに今日のお昼は船の厨房スタッフが一人一人に手渡してくれたお弁当。初日くらいはって昨日の夜から準備してくれていたんだって。最初の発案が俺だったこともあり中身はおにぎりと卵焼き、林檎ポム丸ごと一個。おにぎりは紫蘇に似た風味の薬草を塩漬けしたものを刻んで混ぜたのと、甘辛く煮込んだお肉をほぐして詰めたものの2種類。船でもよく出ていたメニューだから皆も美味しそうに食べている。

「はぁ……不安なのはこれからだ」
「え?」
あいつはな、ラモンリスやラララより、他の何より、虫系の魔獣がとにかくダメなんだ」
「……出るんですか?」
「出る。海から離れるほど遭遇率が上がる。ついでに言うとトゥルヌソル周辺で見るそれよりでかい」
「でか……」

 そういえばインセクツ大陸の人たちってそれを食べるんだっけ、と以前に聞いた話を思い出した。見た目で言うならマーヘ大陸の人たちも食べそうだけど……うーん、なるべく目をそらそうと内心で決意する。
 同時に、こっちの世界だと虫も鳥も獣も、人以外の生き物は全部ひっくるめて「魔獣」や「魔物」と呼ぶから最初の頃は違和感が酷かったのを思い出した。いまこうして当たり前に喋っているのを自覚すると、ロテュスに馴染んでいるのを実感して嬉しくなってしまった。

「レン?」
「ぁー……えっと、よく一年以上も潜伏出来たなって思って」
「本当にな。何度あいつの暴走に巻き込まれそうになったか」

 案の定、怪訝な顔をされたので慌てて誤魔化したけど、ゲンジャルさんは疑うでもなくそんなふうに返してくる。スルーしてくれたことへの感謝と、思い出したせいで心なしか老けて見えることへの労いを込めてお茶のおかわりを空のコップに注ぐ。

「お疲れさまでした」
「おう。今回はおまえたちにも協力してもらうけどなっ」

 確定事項のように断言されて、ちょっとだけ意識が遠のいた。




 その後、全員が昼食を取り終えて再出発。
 道中は相変わらず魔獣との戦闘がひっきりなしに起きたが怪我人は俺とヒユナさんで治癒ソワンするし、レイナルドさんの指揮のもと、船で半年近く一緒に訓練して来た騎士団と冒険者パーティの連携は巧くいっていて苦戦することはなかった。
 夜は、テントこそ別々でこちらは神具『野営用テント』で寝泊まりしていても、ある程度の事情を察している騎士団相手に隠し過ぎる必要はなかったから、食事はパーティメンバーにも手伝ってもらってテントのキッチンで準備。
 匂いが強いと魔獣を呼び寄せてしまうんじゃないかという不安は、大人数で相手の縄張りに入った時点で手遅れだと言われたため開き直ることにした。
 初日のバーベキュー、二日目の焼きそば&お好み焼きもどき、そして三日目のバーベキュー。
 大人数でお腹いっぱい食べたいと思ったら思いつくのがそれくらいで、しかもイヌ科シアンの人たちはお肉が好きだし、って勘違いしてくれているので、持参した金網、薪と、土魔法を使える騎士さん達が大活躍だ。


 そして何気に楽しみなのが不定期に飛んでくるメッセンジャー。
 キクノ大陸の白金級プラティヌダンジョンで入手したという、とんでもない量の魔力が顕現には必要ながらも、獄鬼ヘルネル除けの魔導具を持ち運べるくらいの力持ちな魔物・暴風鷲トルナードエグル氷雪鷹ネージュフォコンがレイナルドさんの腕に止まるたびに、実はかなり興奮していた。
 何せ鷲も鷹も綺麗なんだ!
 名前が表すように暴風鷲トルナードエグルは風属性で、羽一枚一枚の外周はエメラルドっぽい透明な鉱石で縁取られている。この翼を魔力と一緒に動かすと暴風が吹き荒れて敵をぶっ飛ばすというのが攻撃手段だと教えてもらったが、それより翼を広げた時の勇壮さといい、陽に透けた時のエメラルドの輝き方と言い、無意識にため息が出るくらい綺麗なのだ。
 そして氷雪鷹ネージュフォコン
 別名を『氷雪の華』と言い、この子が飛翔した軌跡には雪が積もる。攻撃としての暴風雪は敵を内部から凍らせて身体を割り砕いてくるため僧侶の治癒ソワンでも助けられないと言われているが、メッセンジャーとして飛んで来る氷雪鷹ネージュフォコンが、雪の結晶を舞い踊らせながら降り立つ姿はひたすらに美しかった。
 
「魔物って怖いだけじゃないんですよね……」

 腰ポシェットにしまってある魔豹ゲパールの魔石を布の上から撫でつつ言うと、ウーガさんやクルトさんが「確かにね」って。

暴風鷲トルナードエグル氷雪鷹ネージュフォコンもそうだけど、鳥型ならフェニックス、獣型ならトネールリオン、ドラゴンなんかの幻獣種も綺麗だって聞くよ」
「ドラゴン!」
「実際に出たって聞いたのはグロット大陸の白金級プラティヌダンジョンだったかな……幻獣種で言ったらペガサスなんかも入ったはず」
「ペガサスもいるんですかっ」
「ダンジョンの中だよ、ダンジョンの」

 外にはいないと念を押される。
 ちなみにトネールリオンは雷魔法で攻撃して来るライオンに似た魔物だ。ギァリッグ大陸の金級オーァルダンジョンの最終ボスなんだって。
 ペガサス、フェニックス、ドラゴンはあっちの世界でいう天馬、不死鳥、竜の認識で間違いないと思う。

「つーか魔物云々って話なら、レンが神力で顕現させたときにどう変化するのかが気になるな」

 バルドルさんが言うと、ヒユナさんも。

魔豹ゲパールが白く巨大化しましたもんね。他の子がどうなるか、確かに興味あります」
「それ目的にダンジョンを巡るのも良いかもな」
「魔石集め?」
「どうせキクノ大陸には行かないとならんし」
「特例で金級冒険者になるための書類に署名してもらっちゃいましたもんね……」

 うんうんと頷き合って笑う。
 もう間もなく国境を越えるところまで来ると、そんな雑談が出来る程度には魔獣の襲撃が落ち着いていた。
 獄鬼ヘルネルの支配地域に近付いていることを考えれば襲撃が増えそうなものなのに、実際にはその逆で。

「いやな予感がするな……」

 港を出発してから三日後。
 俺達は予定通りにスィンコ国に入ろうとしていた。
 見張りの一人もいない国境を越えて。
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