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第6章 変遷する世界

187.大陸奪還戦(3)

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 マーヘ大陸東部セイス国の海岸で、共に着港した騎士や冒険者が三方向に分かれてそれぞれの役目を果たすべく移動を開始した。
 俺達レイナルドパーティ……まだ慣れないけどバルドルパーティとは合併したから、レイナルドパーティって言ったらリーダーのレイナルドさん、サブリーダーのバルドルさん(出世!)、ゲンジャルさん、ミッシェルさん、アッシュさん、ウォーカーさん、エニスさん、ドーガさん、ウーガさん、クルトさん、それから俺の、全部で11人と、グランツェパーティの5人――グランツェさん、モーガンさん、ディゼルさん、オクティバさん、ヒユナさん。
 それから、船で一緒に過ごしていた48人の騎士さん達。
 合わせて59人がセイス国を最短で抜けて既に獄鬼ヘルネルに支配されていると聞かされた隣国スィンコを目指すことになる。
 移動手段は、基本的には徒歩。
 騎士団の皆も鎧装備に比べれたら随分と軽装で、だけど防具はマントを含めて全員がお揃いだから国軍なのは丸判り。そして容量が拡張された鞄を支給されているおかげで、しっかりと長距離移動に備えられている。
 隣国の中心地に着くのは三日後の予定だ。


「……見られてますね」

 港を出て、街の外を目指して歩き始めたところで周囲を見渡すと、こんな言い方をするのはダメなんだろうけど、二足歩行のカエルや、イモリ、それからカメレオンやヘビだろう見た目の人たちがこちらを警戒して遠巻きに見ていた。
 事前に聞いてはいたけどプラーントゥ大陸やオセアン大陸では普通だった、耳だけもふもふの獣人族ビーストは一人もいない。

「外部から、マーヘ大陸じゃ『悪』だって言われる見た目の獣人族ビーストが大勢乗り込んで来たんだ。そりゃあ気になるだろう」
「だよなぁ」
「レンはしっかりフードを被っておきなさい。人族ヒューロンだと思われると面倒事に巻き込まれるからね」
「はい……」

 ミッシェルさんに念を押され、俺は耳を隠すようにフードの両端を掴む。
 絶対に一人で行動するな、とも何度も言い聞かされている。
 とりあえず街を出るまでは歩くのを最優先にってことなので皆が一様に無言でずんずん歩いてく団体は、確かに地元の人々から見れば異様で恐ろしかっただろう。

 でも、それにしたって……空気が、悲しい……?

 静かすぎる。
 活気がない。
 突然の異邦人に怯えているという理由で、ここまで寂れるだろうか。息を殺すように、自分の存在を出来る限り気取られないように、小さくなって。

「そういえば」

 ふとクルトさんが声を上げる。

「インセクツ大陸じゃ金級冒険者のタグを見せれば証紋照合が必要ないって聞いて驚いたのに、此処に着いてから一度もそれらしい確認をしていないね」
「あ……」
「国の要請だから必要ないのかと思ったが」

 エニスさんが言うと「そんなわけないね」ってグランツェさん。

「他の国なら例え国の要請による派遣だったとしても下船前に相手国の確認が入るさ」
「じゃあ……事前連絡も届いてなくて、突然だったから準備し忘れたとか」
「普通は有り得ないな」

 ディゼルさんも断言。
 答えを教えてくれたのはレイナルドさんだった。

「証紋照合具はロテュスの紋が刻まれた、主神様によって齎された魔導具だ。主神様が罪だと定めている事項を犯せば罪人だと記載される。国の方針として罪でないことまで罪になるなら使う必要はないってのがマーヘ大陸の判断なんだろう」
「おかげで俺たちも1年以上バレずに潜伏出来たんだぞ」

 なるほど、そう聞くと納得しかないし、ロテュスの紋が刻まれていて、主神様にしか造れない魔導具ってことはまるで神具みたいだなって思う。
 ……いや、神具だ。
 あとでリーデン様に確認してみよう。

「さすがに港持ちで王城を擁する街まで出入り自由ってことは無いと思うが、出ていく分には問題ないだろう。証紋の照合がない分だけ外に出られるのも早いさ」
 

 実際に街の外に出る時分になってレイナルドさんの言葉が正しかったことを知る。
 最初こそ「お待ちください」「城に問い合わせます」なんて焦っていた門番さんも、ものすごく目立っている俺たちが港から真っ直ぐ此処に来ていること、街を出る側であること、ついでに大臣さんにメッセンジャーを送ったらすぐに返事が来て「行っていいよ、気を付けてな」なんて魔の鴎ムエダグットが喋るのを見たら驚き過ぎて固まってしまった。
 情報が遅い。
 本当に、何も伝わっていないのがよく判る反応だった。

「詳細は後で自分のところの上司から聞いてくれ。悪いが時間がない、行かせてもらうぞ」
「ぇ、あ、はいっ」

 勢いに呑まれて敬礼してしまう門番さんが、ちょっとだけ気の毒に思えた。
 が、そんな気持ちは外に出てすぐに忘れてしまった。

「なに、これ……」
「前回立ち寄った時よりも酷いな」

 門を出て、隣国に向かうための道は今までも利用されているからそれと判る状態だった。二月で、冬だから草木が枯れているのも当たり前ではあるだろう。
 だけどいま目の前に広がっている光景はそういう自然の変化では有り得ない。
 まるで山火事を消し止めた後のように黒ずんだ大地に、触れれば崩れ落ちそうなぼろぼろの立ち木。時折り風に乗って来る異臭はどこからのもので、原因は何なのか。

「この調子だと魔獣被害が頻発していそうだな」

 ダンジョンで戦う魔物とは異なり、魔石を持たず、魔力ではなく個々の繁殖力で数を増やしていく生態はあっちの世界の獣と変わらないが、魔法を使って攻撃して来る種も多いのでやはり違う。
 それでも話を聞けば山や森にエサがなくなって人里を襲う魔獣の心境はあちらの世界と同じ気がした。

獄鬼ヘルネルは山や森を枯らすんですか?」
「厳密に言うと枯らすとは違うな」

 曰く、獄鬼ヘルネルが人に憑く際は条件があるけれど、憑く前の状態であったとしても神力に圧倒的に弱くて魔力に強いのは変わらない。
 そう、魔力には強いから、魔力に溢れたロテュスの大地の均衡を狂わせるのはとても得意。

「作物を育てたいなら言うことを聞けって脅すだけでも効果的だろ」
「……つまりカンヨン国の王様とか偉い人がそういうことを言っちゃうと、あいつムカつくってなった人の心に獄鬼ヘルネルも住み易くなる……」
「そ。最悪の悪循環が連中にとっちゃ垂涎ものの大好物だ」

 ほんとロクな存在じゃない。

「ただし神力にはクソ弱いからさ。獄鬼ヘルネルを寄せ付けないだけでも自然は魔力を吸収して再生すると思うぞ」
獄鬼ヘルネル除けを設置しますか?」
「それは別動隊の役目だ。俺たちには急ぐ理由があるだろ」
「……そうでした」

 何でも自分でしなくて良いのだと気付かされて反省する。
 そのために三つに分かれて動いでいるんだ。

「急ぐぞ」
「はい!」

 作戦は始まったばかりで、いまが一番体力も精神力も満ちているんだから進めるだけ進んでしまいたい。そう思って力強く答えたんだけど、……獄鬼ヘルネルのせいで起きている環境の悪化が相当だったせいで、俺たちはこの後で幾度となく魔獣と戦うことになる。
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