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第6章 変遷する世界
160.魔物の氾濫(7)※戦闘有り
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この戦闘に参加した冒険者達が、後に口を揃えて「あれはヒドかった」と語った銀級ダンジョン『ソワサント』第42階層における後半戦は、見方を変えると魔物が哀れに思えるような内容だった。
12人の魔法使いが特級の火魔法で森を焼き、大地を焦がし、そもそも火に弱い植物系の魔物は冒険者達の目に触れる事無く消失して魔石だけを転がしたし、辛うじて生き延びた千に及ぶ獣系の魔物も火災を避けて飛び出したところを片っ端から狙われて、斬られていく。
魔物同士にも敵味方の区分があるのかは俺達には判らないけど、冒険者と共闘する魔豹や、殺人猿にはあちらも相当驚いたのではないだろうか。
「ガゥアアアッ!!」
「――ッキシャアアアアア!!」
魔豹が全身から放つ殺気に、接近してきた魔物たちが牙を剥いて飛び掛かって来る。
瞬間。
「拘禁!」
地上から飛び出した魔力の鎖が絡みつき動きを阻害。
「ギャウッ!」
怒りに満ちた悲鳴は、しかし直後に一閃した刃がその胴を切り裂いた。
「拘禁!」
「ガゥッ!」
「ギャギャッ!」
拘禁の間に合わない魔物は、その喉笛に魔豹達が食らいつき、吹っ飛ばし、大地を転がる。
「はあああああ!!」
「―――っ!!」
「拘禁!」
次。
そして、次。
手足をもがれ巨大な顔がごろりと傾き、叫ぶ。
「―――― ッ!!」
甲高く、音もなく空気を震わせた絶叫が人の正気を犯し、頭を、腹を、心臓を刺すような痛みと恐怖。
「ああああああっ」
「黙っとけ!!」
体を折り蹲る仲間を庇い、巨大な顔の眉間を刺し貫く。
止まる。
かと思えば他方。
「―――― ッ!!」
終わらない。
繰り返す。
「その口を閉じろおおおぉぉぉ!!」
穿つ。
刺す。
殴る。
飛ばす。
「状態異常解除!!」
成功は五分五分。
二度に一度は成功するなら、いまは薬品を投げまくるよりずっと早くて効率的だ。俺は神力を広げて「治れ」と祈りながら回復属性の上級魔法を放った。
「っ……」
最優先は自分の仲間。
だからって、他のパーティの人たちを見て見ぬフリするつもりなんかこれっぽっちもなかった。
「耳栓してない奴! 耐性の低い奴は下がれ!!」
レイナルドさんの声が辺り一帯に響く。
魔法使いたちの火魔法のおかげで相対した時点で既に手負いの魔物たちだ。厄介な魔物はスピード勝負、対応出来る者達が斬って走る。
「あああああ魔剣が欲しい!」
「同じく!」
「運が良ければここのボスで手に入るぞ!」
「運!」
「手に入る気がしねぇ!」
「全員魔力回復ポーション飲んで!!」
余裕なのか自棄なのか、大声で応酬する彼らに注意を促す。
銀級ダンジョン以降は物理攻撃が効かない魔物が増えるため、魔力を通す武器を持っていない面々は、外部から自分の属性攻撃魔法で与えた傷口を武器で拡げるといった方法を使うしかない。
それは魔力の消費が非常に重く、体への負担も大きい。
だからこそ。
喋れば余計に疲れると判っていても、彼らは声を掛け合う。
内容はともかく「まだまだいける」と仲間に伝えるために。
勝つという気持ちを前面に出すために。
「完全治癒――!」
だから俺も、全力で援護する。
その疲労が少しでも誤魔化せるように。
体が軽くなるように。
回復属性の超級魔法の成功率は半分より下回るけれど、それでも、仲間のために。
戦って、戦って、そして、戦って。
魔物の気配が消え、戦闘の荒々しい音が止み、代わりにみんなの荒い息遣いがやけにはっきりと聞こえて来るようになった頃には空は薄っすらと暗くなり始めていた。
「……終わったな?」
「……終わりました、ね?」
「……っ」
ワッ、て。
歓声が上がった。
***
さすがにその日は後方支援のギルド職員から支給された夕飯でお腹を満たした後は、見張りのためだけにダンジョンに控えていた冒険者達に夜の番を任せて俺達は各自のテントで朝まで休んだ。
あれだけ派手にやったのだから夜間に襲ってくるような魔物もなく、翌朝には改めて42階層の討滅戦完了が宣言されて一応の任務完了を実感したが、問題はまだ終わらない。
その日の内に43階層の様子を見に行った金級冒険者が、42階層ほどではないが其処にも魔物の群れが複数あることを確認。
一日の休息日を経て、俺たちは再び討滅戦に参加し3日間掛けて攻略した。
44階層も同様で、こちらには4日間を掛けた。
大変だった。
それはもう、疲れたさね!
それでもここまで来て40回層に戻って外に出るよりは、もう一日ダンジョンでしっかりと休養を取って第45階層――最下層のボスを斃して地上に戻ることを選んだ。
俺達だけじゃなく、このボスの魔石を欲しかったギァリッグ大陸の白金級冒険者の人たちもそうだし、他にも何組も同じようにこちらを選んだから順番待ちになったくらいだ。
ボス並に強い魔物と連戦に連戦を重ねた俺たちは、10メ―トル以上ある巨大な鯨っぽい魔物を見ても特に思う事はなく、……例えば海中戦とかだったら大変だったんだろうけど、巨大で頑丈というだけで、地上から攻撃する機会が幾らでもあったから正直に言うと拍子抜け?
ボス戦はあっさりと終わってしまった。
初回攻略報酬の宝箱は全員が銀色で、魔剣や魔弓といった武器は誰も落ちず。
「だろうと思ったよ!」
「やっぱ開発してみないかレン」
「えー……魔剣って何で出来てるんですか?」
「知らん」
「調べてから言ってくださいよ!」
そんな会話をしながら、俺たちはようやく転移陣を使って外へ出た。
久しぶりの、外。
気付けば暦は2月になっていて、国際会議もとっくに終わっていて、またひと騒動起きそうだなと思いつつも全員で手を叩き合う。
「とりあえず、お疲れ様!」
12人の魔法使いが特級の火魔法で森を焼き、大地を焦がし、そもそも火に弱い植物系の魔物は冒険者達の目に触れる事無く消失して魔石だけを転がしたし、辛うじて生き延びた千に及ぶ獣系の魔物も火災を避けて飛び出したところを片っ端から狙われて、斬られていく。
魔物同士にも敵味方の区分があるのかは俺達には判らないけど、冒険者と共闘する魔豹や、殺人猿にはあちらも相当驚いたのではないだろうか。
「ガゥアアアッ!!」
「――ッキシャアアアアア!!」
魔豹が全身から放つ殺気に、接近してきた魔物たちが牙を剥いて飛び掛かって来る。
瞬間。
「拘禁!」
地上から飛び出した魔力の鎖が絡みつき動きを阻害。
「ギャウッ!」
怒りに満ちた悲鳴は、しかし直後に一閃した刃がその胴を切り裂いた。
「拘禁!」
「ガゥッ!」
「ギャギャッ!」
拘禁の間に合わない魔物は、その喉笛に魔豹達が食らいつき、吹っ飛ばし、大地を転がる。
「はあああああ!!」
「―――っ!!」
「拘禁!」
次。
そして、次。
手足をもがれ巨大な顔がごろりと傾き、叫ぶ。
「―――― ッ!!」
甲高く、音もなく空気を震わせた絶叫が人の正気を犯し、頭を、腹を、心臓を刺すような痛みと恐怖。
「ああああああっ」
「黙っとけ!!」
体を折り蹲る仲間を庇い、巨大な顔の眉間を刺し貫く。
止まる。
かと思えば他方。
「―――― ッ!!」
終わらない。
繰り返す。
「その口を閉じろおおおぉぉぉ!!」
穿つ。
刺す。
殴る。
飛ばす。
「状態異常解除!!」
成功は五分五分。
二度に一度は成功するなら、いまは薬品を投げまくるよりずっと早くて効率的だ。俺は神力を広げて「治れ」と祈りながら回復属性の上級魔法を放った。
「っ……」
最優先は自分の仲間。
だからって、他のパーティの人たちを見て見ぬフリするつもりなんかこれっぽっちもなかった。
「耳栓してない奴! 耐性の低い奴は下がれ!!」
レイナルドさんの声が辺り一帯に響く。
魔法使いたちの火魔法のおかげで相対した時点で既に手負いの魔物たちだ。厄介な魔物はスピード勝負、対応出来る者達が斬って走る。
「あああああ魔剣が欲しい!」
「同じく!」
「運が良ければここのボスで手に入るぞ!」
「運!」
「手に入る気がしねぇ!」
「全員魔力回復ポーション飲んで!!」
余裕なのか自棄なのか、大声で応酬する彼らに注意を促す。
銀級ダンジョン以降は物理攻撃が効かない魔物が増えるため、魔力を通す武器を持っていない面々は、外部から自分の属性攻撃魔法で与えた傷口を武器で拡げるといった方法を使うしかない。
それは魔力の消費が非常に重く、体への負担も大きい。
だからこそ。
喋れば余計に疲れると判っていても、彼らは声を掛け合う。
内容はともかく「まだまだいける」と仲間に伝えるために。
勝つという気持ちを前面に出すために。
「完全治癒――!」
だから俺も、全力で援護する。
その疲労が少しでも誤魔化せるように。
体が軽くなるように。
回復属性の超級魔法の成功率は半分より下回るけれど、それでも、仲間のために。
戦って、戦って、そして、戦って。
魔物の気配が消え、戦闘の荒々しい音が止み、代わりにみんなの荒い息遣いがやけにはっきりと聞こえて来るようになった頃には空は薄っすらと暗くなり始めていた。
「……終わったな?」
「……終わりました、ね?」
「……っ」
ワッ、て。
歓声が上がった。
***
さすがにその日は後方支援のギルド職員から支給された夕飯でお腹を満たした後は、見張りのためだけにダンジョンに控えていた冒険者達に夜の番を任せて俺達は各自のテントで朝まで休んだ。
あれだけ派手にやったのだから夜間に襲ってくるような魔物もなく、翌朝には改めて42階層の討滅戦完了が宣言されて一応の任務完了を実感したが、問題はまだ終わらない。
その日の内に43階層の様子を見に行った金級冒険者が、42階層ほどではないが其処にも魔物の群れが複数あることを確認。
一日の休息日を経て、俺たちは再び討滅戦に参加し3日間掛けて攻略した。
44階層も同様で、こちらには4日間を掛けた。
大変だった。
それはもう、疲れたさね!
それでもここまで来て40回層に戻って外に出るよりは、もう一日ダンジョンでしっかりと休養を取って第45階層――最下層のボスを斃して地上に戻ることを選んだ。
俺達だけじゃなく、このボスの魔石を欲しかったギァリッグ大陸の白金級冒険者の人たちもそうだし、他にも何組も同じようにこちらを選んだから順番待ちになったくらいだ。
ボス並に強い魔物と連戦に連戦を重ねた俺たちは、10メ―トル以上ある巨大な鯨っぽい魔物を見ても特に思う事はなく、……例えば海中戦とかだったら大変だったんだろうけど、巨大で頑丈というだけで、地上から攻撃する機会が幾らでもあったから正直に言うと拍子抜け?
ボス戦はあっさりと終わってしまった。
初回攻略報酬の宝箱は全員が銀色で、魔剣や魔弓といった武器は誰も落ちず。
「だろうと思ったよ!」
「やっぱ開発してみないかレン」
「えー……魔剣って何で出来てるんですか?」
「知らん」
「調べてから言ってくださいよ!」
そんな会話をしながら、俺たちはようやく転移陣を使って外へ出た。
久しぶりの、外。
気付けば暦は2月になっていて、国際会議もとっくに終わっていて、またひと騒動起きそうだなと思いつつも全員で手を叩き合う。
「とりあえず、お疲れ様!」
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