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第6章 変遷する世界

155.魔物の氾濫(2)

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 白金級冒険者5名、金級冒険者34名、銀級冒険者111名、それからギァリッグ大陸からオセアン大陸に国際会議のため出席している重鎮の護衛のため同行していた白金級冒険者10名と、後方支援のためのギルド職員(ランクは銀級)が10名。
 合計170名が、41階層と42階層の境目に集合した。
 見えない扉を潜った先には魔物の氾濫シャルム・イノンダシオンと呼んでも過言ではない脅威が蠢いている。

「傾聴!」

 拡声魔法を使ったその声は、今回の魔物討伐鯛の総指揮を執ることになったオセアン大陸出身の金級パーティのリーダ―さん。
 一昨日まで42階層で魔物の動向を監視していた彼らだ。

「今日ここに集まってくれた皆は、これから始まる魔物との戦闘がどれほど危険なものなのかは承知してくれていると思う! このダンジョンの最下層にいるボスと同等の強さを得た魔物が千以上もいる、そう聞かされてなお戦うことを決意してくれた君達に、オセアンを代表する者の一人として心から感謝する!」

 俺も周囲をゆっくりと見渡しながら、ここに集まっている冒険者達の雰囲気が昨日までに退去勧告を伝えて来た彼らとは全然違うことを実感していた。
 装備も質からして全然違うけど、それだけじゃなくて……何だろう。
 纏う空気が清々しいのかな。

「今回の作戦だが、この41階層と42階層の境目を中心とし、二つの階層を巧く使って可能な限り犠牲を少なくしたいと思う! まず後方支援は41階層に。また交代要員も此方側に待機。9名の僧侶は3交代で41階層と42階層に分かれ、銀級冒険者のうち強敵との戦闘が困難な者は重傷者の避難誘導に専念してもらいたい! それから――」

 言うリーダーさんの視線が向けられたので、俺は一つ頷くと腕を高く上げる。

「彼も僧侶だが、9名の内には含まれていない、10人目の僧侶になる。応援領域持ちクラウージュだ」

 ざわりと皆が騒いだのは、トゥルヌソルの街の初日に獄鬼ヘルネルと戦闘したあの時と同じ理由。たとえ効果は対獄鬼ヘルネルに比べれば微々たるものでも普段より少し体が軽いだけで疲労は抑えられるし、腕力が上がれば攻撃力も上がる。

「それから、今回の戦闘では敵を倒せば倒すほど味方が増える! 倒した魔物から取り出した魔石に魔力を込めると主人に忠実な魔物が顕現することは、オセアンの者ならば既に知っているだろう!」

 デモンストレーション。
 口頭で説明するより実際に見せた方が早いので、早々に魔豹ゲパールに顕現してもらうと再びざわめきが起きた。
 初めて見る人も当然たくさんいたんだろう。

「魔力量の少ない者には顕現出来ないが、各パーティの魔法使いをはじめ魔力に余裕のある者は積極的に試してみてくれ! 魔力回復ポーションも充分に用意してある! 必要な者は遠慮せず求めるように!」

 それからリーダーさんは今回の戦闘における班分けを伝え、俺たち3つのパーティは当然のことながら1グループとして戦場に立つし、出番は一番最初。何故かと言ったら最初に味方を増やすため――レイナルドさん達が狩った魔物を俺が片っ端から顕現するためだ。
 ただしヒユナさんと、さすがに今回ばかりはと参戦してくれた師匠セルリー、僧侶二人はそちらの三交代制に組み込まれている。

「戦闘が始まれば、距離が離れていた別の群れも気付いて合流する可能性は充分に考えられる……正直、今回の討滅戦は何がどうなるかまったく予測が付かない。だが、勝つぞ!」
「おう!」
「全員で勝利の祝宴を!」
「おおっ!!」

 あまりこういうスピーチは慣れていないのか、初々しささえ感じさせるリーダーさんに、緊迫していた空気が僅かに和む。
 うん、緊張し過ぎるよりずっといい。
 それから各パーティごとに集まっての最終確認。

「さて……ミッシェル、オクティバ、ドーガ」

 各パーティの魔法使いの名がレイナルドさんに呼ばれる。

「群れが見えた時点で最大火力で一発かませ。クルト、バルドル、エニスは魔石を回収してレンに届けろ。おまえ達の動線は俺達が絶対に守る」
「「「はい」」」
「レンは魔石を受け取ったら順次顕現。ただし神力100%は無しだ」
「はい」
「だが、まぁ……万が一の時には自分で判断すればいい。騒ぎになったらその時だ。ほとぼりが冷めるまでトゥルヌソルに帰るか、他所の大陸に移動だ」

 ふふって笑いが起きる。

「ウォーカー、アッシュ、ウーガは魔法使いたちの護衛」
「了解」

 言って、レイナルドさんは一人一人の顔を順に見ていく。

「全員で生きて戻るぞ」
「当然」

 円陣を組み、手を重ねる。
 勝つ。
 絶対。
 ……絶対に誰一人死なせない。
 心の奥底から湧いて来る力。
 祈り。
 願い。

「レイナルド」

 総指揮のリーダーさんに呼ばれて、移動する。

「気を付けて」
「無茶しないでくださいね……!」

 師匠セルリーとヒユナさんに声を掛けられて「大丈夫だよ」「また後でな」って笑顔で応じるグランツェさん達。


 さぁ、討滅戦の始まりだ。
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