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第5章 マーへ大陸の陰謀
閑話:冒険者の視点から『ギァリッグ大陸』
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プラーントゥ大陸の北東に位置するギァリッグ大陸はネコ科の獣人族が多く、大陸の大きさもさることながら、祖先の時代には百獣の王と呼ばれたリオンの血を引く者が統治する世界最大の国フォレは、その顔色を他大陸の王達も伺うほど影響力が強い。
というのもネコ科には戦場で本領を発揮する者が多く、国に所属しながら他大陸に派遣可能な冒険者として雇われる戦士が大勢いるからだが、滅多なことでは戦争など起きないロテュスにおいて他大陸の戦士を雇いたい理由――それはもちろん、ダンジョンだ。
世界に99カ所あるダンジョンのうち、未踏破は神銀級が3カ所。
白金級が7カ所。
そして金級が5カ所。
踏破することで国に齎す利益はダンジョンのランクが上がるほど何倍にも膨れ上がるから、各大陸は早く自分のところの未踏破ダンジョンをクリアし、その恩恵にあずかりたい。
踏破までの道筋を見つけてもらえるなら、それが余所者であっても構わないのだ。
ただし神銀級ダンジョンに入場出来るのは神銀級冒険者だけ。そのため現時点では世界に6人しかいないため、いくらフォレ国の戦士が屈強でも手が出せない。
そのため、彼らの主な戦場は7カ所ある未踏破の白金級ダンジョンであり、いまはマーヘ大陸の白金級ダンジョンに30名の大所帯で挑戦中である。
さて、そんなフォレ国を擁するギァリッグ大陸には全部で14カ所のダンジョンがあり、未踏破は1つ。それがフォレ国の王都に近い金級ダンジョンだ。
単純な戦闘力だけなら踏破することは容易だったはずが全60階層の11階層で挑戦者たちは全員が足止めを喰らってしまった。
理由は単純にそれより先に進めなくなってしまったから。
彼らの進路を――土地と土地を、巨大な海が割ってしまっていたからである。
「船を持ち込むわけにもいかず、なんの手立ても見つからないまま何十年も経ってしまったが、まさか魔石から従順な魔物が顕現出来るとは……」
オセアンとプラーントゥ、2大陸が手を取り合ってギァリッグ大陸を訪れフォレ国の王との面会を求めて来た時には何事かと国中が警戒したものだが、話を聞いてみるとマーヘ大陸の複数の国がよりによって獄鬼と手を組んで他大陸への侵略を目論んでいること。
マーヘ大陸の各国の状況がひどく悪くなっていること。
彼らの狙いが次に移る前に各大陸が協力し合って対応すべきではないかという、マーヘ大陸に白金級冒険者を30人も派遣しているフォレ国にとっては、非常に判断に苦しむ内容だった。
「即答は出来ない」
そう返したところ、オセアンとプラーントゥからの使者は「それも当然だ」と頷き、驚くべき複数の魔導具という手札を切って見せた。
『獄鬼除け』
『メッセンジャー』
その効果たるや驚くなんて言葉ではとても足りない。
前者は使用している素材は開発者の保護が云々で謎のまま、一つを分解して調べてみてもさっぱり見当がつかなかったが、流通しているどんな素材とも比べ物にならない稀少なものであることは間違いなく、また、獄鬼に対する効果は覿面だった。
後者の魔導具もこれまでの通信手段を大きく変えるだろう画期的なもので、しかしフォレの冒険者を驚かせたのはそれそのものではなかった。
魔石から、魔力を込めた者に忠実な魔物が顕現する、なんて。
「……なんで気付かなかったんだって話だよな……」
その話しを聞かされた時、その場にいた全員が頭を抱えたと言っても過言ではない。
日常生活で当たり前に使っている魔石。
魔導具。
術式を刻んで魔力を流し、生活を楽にして来たけれど、まさか術式を刻む前の魔石に魔力を込めてみようなんて……どうして今まで誰も試そうとしなかったのか……!
「プラーントゥ大陸には発想の豊かな研究者がいるのだな」
フォレの王族は素直に感心した。
メッセンジャーの開発者一覧に記された名前は、基本的に「***」が並ぶばかりでプラーントゥ大陸を拠点としているメンバーだということしか判らない。
引き抜きや勧誘されることを考えれば名を伏せるのは当然で、あとは彼らを保護するプラーントゥ大陸が知っていればいい情報だ。
優秀な研究者はフォレ国も「欲しい」とは思うけれど、いまはこの情報を齎してくれただけで充分。
「海を渡る魔物と言えばやはりオセアン大陸のダンジョンか」
そう。
いまフォレ国に必要なのは優秀な研究者ではなく冒険者を乗せて海を渡れる魔物だ。
何なら空を飛ぶ魔物でも良いのかもしれないが、各ダンジョンに存在する魔物の情報と、銀級ダンジョンの魔石でも顕現出来る冒険者は限られるという情報を合わせれば、人を乗せて飛べる魔物よりも海を渡る魔物の方が狩る難易度が低かったからだ。
だからこそオセアン大陸のメール国、海岸沿いに入り口を持つ銀級ダンジョン『ソワサント』を選び、そこに彼らを――フレデリックパーティを送った。
最下層のボス。
巨大な海の魔物の魔石を手に入れるために。
「……それがしばらく入場禁止とは」
メールの帝都にある冒険者ギルドに公示された緊急の知らせにフレデリックパーティはがっかりと肩を落とす。
ダンジョン内で魔物の異常行動が頻発し、行方不明になる冒険者が続出しているためしばらくは一切の立ち入りを禁じるというのだ。
禁止が解けるのがいつになるかは未定。
現在、限られた金級冒険者達が内部の調査を行っているという一文に、ふと思い出したのは自分達を20階層まで送り届けてくれた冒険者達だった。
「彼らは無事なのかな」
「さて……主に俺達と接していたバルドルは銀級冒険者だと言っていたが、一緒に金級がいたんだから無事に戻ってきているんじゃないか?」
「そう、かな」
だったらいいのだけど……と、魔法使いのロジェは少しだけ表情を曇らせた。
あの子も元気かなと不安になりながら思い浮かべるのは、とても成人しているとは思えない華奢な人族、僧侶のレンと言う名の少年だ。
一緒にフライパンで焼いたパンを食べ、スープを温めた。
あんなに華奢なのに、たまにとても大人びた言動をする。
子どもみたいな顔で笑うのに、たまにものすごい色気を醸し出す、とても不思議な少年だった。
「殿下?」
「っ、え……」
声を掛けられて、ロジェは我に返る。
「……なんでもないよ。行こう……っていうか、ここで殿下は止めてよ」
「あ、すみません」
小声で言い合い、フレデリックパーティはギルドを後にして――……。
というのもネコ科には戦場で本領を発揮する者が多く、国に所属しながら他大陸に派遣可能な冒険者として雇われる戦士が大勢いるからだが、滅多なことでは戦争など起きないロテュスにおいて他大陸の戦士を雇いたい理由――それはもちろん、ダンジョンだ。
世界に99カ所あるダンジョンのうち、未踏破は神銀級が3カ所。
白金級が7カ所。
そして金級が5カ所。
踏破することで国に齎す利益はダンジョンのランクが上がるほど何倍にも膨れ上がるから、各大陸は早く自分のところの未踏破ダンジョンをクリアし、その恩恵にあずかりたい。
踏破までの道筋を見つけてもらえるなら、それが余所者であっても構わないのだ。
ただし神銀級ダンジョンに入場出来るのは神銀級冒険者だけ。そのため現時点では世界に6人しかいないため、いくらフォレ国の戦士が屈強でも手が出せない。
そのため、彼らの主な戦場は7カ所ある未踏破の白金級ダンジョンであり、いまはマーヘ大陸の白金級ダンジョンに30名の大所帯で挑戦中である。
さて、そんなフォレ国を擁するギァリッグ大陸には全部で14カ所のダンジョンがあり、未踏破は1つ。それがフォレ国の王都に近い金級ダンジョンだ。
単純な戦闘力だけなら踏破することは容易だったはずが全60階層の11階層で挑戦者たちは全員が足止めを喰らってしまった。
理由は単純にそれより先に進めなくなってしまったから。
彼らの進路を――土地と土地を、巨大な海が割ってしまっていたからである。
「船を持ち込むわけにもいかず、なんの手立ても見つからないまま何十年も経ってしまったが、まさか魔石から従順な魔物が顕現出来るとは……」
オセアンとプラーントゥ、2大陸が手を取り合ってギァリッグ大陸を訪れフォレ国の王との面会を求めて来た時には何事かと国中が警戒したものだが、話を聞いてみるとマーヘ大陸の複数の国がよりによって獄鬼と手を組んで他大陸への侵略を目論んでいること。
マーヘ大陸の各国の状況がひどく悪くなっていること。
彼らの狙いが次に移る前に各大陸が協力し合って対応すべきではないかという、マーヘ大陸に白金級冒険者を30人も派遣しているフォレ国にとっては、非常に判断に苦しむ内容だった。
「即答は出来ない」
そう返したところ、オセアンとプラーントゥからの使者は「それも当然だ」と頷き、驚くべき複数の魔導具という手札を切って見せた。
『獄鬼除け』
『メッセンジャー』
その効果たるや驚くなんて言葉ではとても足りない。
前者は使用している素材は開発者の保護が云々で謎のまま、一つを分解して調べてみてもさっぱり見当がつかなかったが、流通しているどんな素材とも比べ物にならない稀少なものであることは間違いなく、また、獄鬼に対する効果は覿面だった。
後者の魔導具もこれまでの通信手段を大きく変えるだろう画期的なもので、しかしフォレの冒険者を驚かせたのはそれそのものではなかった。
魔石から、魔力を込めた者に忠実な魔物が顕現する、なんて。
「……なんで気付かなかったんだって話だよな……」
その話しを聞かされた時、その場にいた全員が頭を抱えたと言っても過言ではない。
日常生活で当たり前に使っている魔石。
魔導具。
術式を刻んで魔力を流し、生活を楽にして来たけれど、まさか術式を刻む前の魔石に魔力を込めてみようなんて……どうして今まで誰も試そうとしなかったのか……!
「プラーントゥ大陸には発想の豊かな研究者がいるのだな」
フォレの王族は素直に感心した。
メッセンジャーの開発者一覧に記された名前は、基本的に「***」が並ぶばかりでプラーントゥ大陸を拠点としているメンバーだということしか判らない。
引き抜きや勧誘されることを考えれば名を伏せるのは当然で、あとは彼らを保護するプラーントゥ大陸が知っていればいい情報だ。
優秀な研究者はフォレ国も「欲しい」とは思うけれど、いまはこの情報を齎してくれただけで充分。
「海を渡る魔物と言えばやはりオセアン大陸のダンジョンか」
そう。
いまフォレ国に必要なのは優秀な研究者ではなく冒険者を乗せて海を渡れる魔物だ。
何なら空を飛ぶ魔物でも良いのかもしれないが、各ダンジョンに存在する魔物の情報と、銀級ダンジョンの魔石でも顕現出来る冒険者は限られるという情報を合わせれば、人を乗せて飛べる魔物よりも海を渡る魔物の方が狩る難易度が低かったからだ。
だからこそオセアン大陸のメール国、海岸沿いに入り口を持つ銀級ダンジョン『ソワサント』を選び、そこに彼らを――フレデリックパーティを送った。
最下層のボス。
巨大な海の魔物の魔石を手に入れるために。
「……それがしばらく入場禁止とは」
メールの帝都にある冒険者ギルドに公示された緊急の知らせにフレデリックパーティはがっかりと肩を落とす。
ダンジョン内で魔物の異常行動が頻発し、行方不明になる冒険者が続出しているためしばらくは一切の立ち入りを禁じるというのだ。
禁止が解けるのがいつになるかは未定。
現在、限られた金級冒険者達が内部の調査を行っているという一文に、ふと思い出したのは自分達を20階層まで送り届けてくれた冒険者達だった。
「彼らは無事なのかな」
「さて……主に俺達と接していたバルドルは銀級冒険者だと言っていたが、一緒に金級がいたんだから無事に戻ってきているんじゃないか?」
「そう、かな」
だったらいいのだけど……と、魔法使いのロジェは少しだけ表情を曇らせた。
あの子も元気かなと不安になりながら思い浮かべるのは、とても成人しているとは思えない華奢な人族、僧侶のレンと言う名の少年だ。
一緒にフライパンで焼いたパンを食べ、スープを温めた。
あんなに華奢なのに、たまにとても大人びた言動をする。
子どもみたいな顔で笑うのに、たまにものすごい色気を醸し出す、とても不思議な少年だった。
「殿下?」
「っ、え……」
声を掛けられて、ロジェは我に返る。
「……なんでもないよ。行こう……っていうか、ここで殿下は止めてよ」
「あ、すみません」
小声で言い合い、フレデリックパーティはギルドを後にして――……。
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