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第5章 マーへ大陸の陰謀
144.『ソワサント』(2)※少し戦闘有り
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見張りから外れて時間が出来た俺は、明日の朝食とお弁当の仕込みをしてから夜9時前に神具『住居兼用移動車両』Ex.に帰宅。
就寝準備を済ませてリーデン様と一緒にベッドに入り、ダンジョンの感想だとかそんな雑談をしている内に寝てしまう。疚しいことは特にない。
ないったらないんです!
起床は朝5時。
隣で眠っているリーデン様を起こしてから身支度を整え、神具『住居兼用移動車両』Ex.とダンジョンを行き来しながら珈琲を淹れて配り、朝食、弁当を完成させ、7時半を目処に全員が準備を整えたら出発だ。
人為的な危険が減ると思われる第40階層を越えるまでは速度重視。なるべく魔物は避けるという意見で一致しているため、気配感知をフル活用。
700個もの魔石を持ち帰って来た人達がいるおかげで、今回はそれも必要ないからだ。
お昼は歩きながら、または丁度いい場所があれば休憩がてら済ませて、午後は引き続き前進。ダンジョン内は春でも外は12月という真冬の空なので5時を過ぎるとすっかり暗くなってしまうため、その前にテントを顕現して夕飯準備に取り掛かる。
交代で食事を取り、翌日の仕込みを終えて9時前に部屋へ……というのが、他のパーティに遭遇しなかった今日までの日課だ。
銀級ダンジョン攻略を開始してから6日目――1月の7日、第15階層で迎えた朝。
「これは、ホント……踏破まで余裕で篭っていられるわ」
昨夜は見張りがお休みでぐっすり眠れたらしいアッシュさんがダンジョンにあるまじきツヤツヤの顔で感心したように呟く。
ちなみに夜間の見張り役は夜番(9時~12時)、深夜番(12時~3時)、朝番(3時~6時)の三交代制だ。
「水魔法で体の汚れや血の匂いは落とせても、一週間もすれば体の節々が痛くなったり、地上に帰りたいって思うようになるものなのに……むしろ地上より調子が良い気がするの」
「さすがにそれは言い過ぎでしょう」
思わず笑ってしまった俺に、同じ朝食の席に付いていたウーガさんが「そうでもないよ」と。
朝番だったウーガさんとレイナルドさんは順番に朝ごはんだ。
「レンが栄養バランスがどうのこうのって、一日三食いろいろと摂らせている効果だと思う」
「それは、だって、みんな放っておいたらお肉しか食べないから」
焼いて塩胡椒で食べるのが一番楽だと真顔で言われて血の気が引いたのはもう随分前の話だ。
野菜や豆類を下拵えして持ち込んだのをひどく驚かれたよね。
もちろんこれはしっかりと保存してくれるテントがあってこそ出来ることだけど、ダンジョン内でちょっと横道に逸れて探検すれば初級の図鑑にも載っている食べられる葉や木の実はとても多い。
面倒臭がらないという条件がつくにしても健康的な食事を摂るのは無理じゃないのだ。……それをしないのもまた獣人らしさだと言われれば納得しかないけれど。
「今朝も美味かったよ、レイナルドさんと交代するね」
「はい。あ、珈琲のお代わりは?」
「いるいるー、ありがと」
神様印の保温ポットに淹れておいた珈琲をウーガさんのカップに注ぎ、スッと差し出されたアッシュさんのカップにもふふって笑いながら注ぐ。
それから、次に食べにくるレイナルドさんのために調理中だった目玉焼きを完成させた。
卵料理一つとってもメンバーの好みは人それぞれ。アッシュさんはスクランブルエッグ、ウーガさんはゆで卵。レイナルドさんは固焼きの目玉焼きに醤油を掛けるのが好きなんだって。
「そこまで気を遣う必要はない」と言われるけど、使い勝手の良いキッチンと、洗浄魔法を使える仲間の協力があるから全く苦にならない。俺自身、料理が好きだし、美味しいと言ってもらえるのがとても嬉しいから。
「おはよ」
「おはようございます」
見張りを終えてから就寝していたメンバーも続々と起床し、朝ごはんを食べにリビングダイニングに。
「後片付けは私がしておくからレンも準備してらっしゃい」
「はい、お願いします!」
朝7時半。
今日も速度重視で探索が始まった。
第15階層から第16階層。
お昼を済ませてから17階層に進んで、しばらく。
「殺気……?」
避けているとは言っても既に何度も魔物と戦闘は経験してきた。魔石や肉、角や牙など売れる素材は回収、レイナルドパーティから借りた収納の魔導具に保管してある。
魔物は、人を見つければ襲うようになっている。
それはリーデン様が言っていた通りで、頻繁に索敵や気配探知を発動して周囲を警戒しておかなければ背後から急に襲われることだって有り得るのだ。俺自身の探知技術はこの2年間でかなり磨かれたと思うけど、対獄鬼ほどの自信はないため、必ず他の誰かと一緒に周囲の警戒をするようにしているわけだが……今日のこれは、何かおかしい。
気圧されるような張り詰めた空気。
なのに何となく場違いなような……巻き込まれ感?
「襲われているのか」
バルドルの呟きを拾って、すぐに地面に目を凝らしたのはエニスだ。
「血だ」
「あっちの方、気配がかなり乱れてる」
指で地面を拭ったエニスが、その先っぽを染めた赤黒い液体に眉を潜めると同時、弓士のウーガが砂浜の向こう、防風林にも見える木々の連なりに鋭い視線を向けた。
「人の気配が6つ、魔物の気配が11……15か? 群れだな」
全員の表情が強張る。
銀級ダンジョンで群れを成して襲ってくる魔物は幾つかある。その中で第16階層という上層で現れるといえばラトンラヴルという名前の、狸かアライグマに似た、見た目だけなら愛嬌がありそうな赤い毛色の魔物だ。地面に穴を掘って暮らしており、上に来た獲物を落として捕らえるのが一般的だ。
大きさは体長1メートルくらいで、重い。
とにかく重くて硬い。
そして10頭前後の群れを成し、火魔法を使いながら長い爪で襲い掛かって来るのだ。
「15は多いが、気付いた以上は冒険者を見殺しには出来ない」
「当然です」
「行こう」
ダンジョン内の規則は大陸によって様々だが危険な状況に陥っているパーティの救援は義務に近い。もちろん戦力が足りなければ被害を大きくするだけなので場合による。
だけど俺達は――。
「今回は俺達も戦力に入れろ」
レイナルドさんが言い、アッシュさんが背負っていた棍を手に取る。
金級の二人がいて目の前の危機を見なかったことにするなんて、出来ない。
「レン、魔豹の魔石は使えるか」
「もちろんです」
答えるが早いか腰ポシェットから取り出した魔石に普通に魔力を流し体長2、3メ―トルの魔豹3頭を顕現。
「レイナルドとアッシュはレンの護衛。エニスとクルトは兄弟の護衛、兄弟は俺が引きつけた敵を片っ端からやれ」
「了解!」
「レンは負傷者の治療と救出。魔豹には敵の殲滅を」
「判りました」
「行くぞ」
駆けだす。
身体強化をした獣人より3頭の魔豹の方が圧倒的な速さだった。
「ははっ、ありゃあ下層で遭遇する魔豹より早いな」
レイナルドさんが呆れたように笑って言った。
砂浜から戦場となる木々まで約100メートル。木々の向こうで見え難かった光景が露わになり、3頭の魔豹が人に襲い掛かっていた赤いアライグマの首にそれぞれに噛みついて傷ついた冒険者から引き離す。
「うわああっ⁈」
赤いアライグマに続いて魔豹まで現れたことで6人の冒険者パーティは絶望的な表情を浮かべたが――。
「全員生きているか⁈」
バルドルさんが大声を上げたことで目が輝く。
「二人重傷だ!!」
「レン!」
「はいっ」
接敵3メートル。
バルドルさんが盾を構え咆哮する――スキル「威圧」。
俺達でさえ肌を刺すような痛みを感じるそれを容赦なく浴びせられた赤いアライグマたちはクラリと体を傾がせた後で敵意をバルドルさんに集中させる。
その隙を突いて怪我人に駆け寄る俺に気付いた赤いアライグマはレイナルドさんとアッシュさんが対応。
そこにバルドルさんの光魔法が放たれて一定の範囲に降り注ぐ光の剣。
たぶんヘイトを集めるというやつで、他に意識が流れそうだった赤いアライグマを自分の方に引き寄せた。
直後、射かけられる矢と放たれる魔法による風の刃。
攻撃手に気付いて移動を始めた赤いアライグマはクルトさんとエニスさんが相手取る。
「くっ」
ガキンッ、とエニスさんの刃を跳ね返す鉱石みたいな音がする。
「はああああ!!」
対してクルトやレイナルドの剣が通るのは、恐らくそれが魔剣だからだ。
魔豹の牙も通る。
魔法攻撃も効いている。
耐性が高いのは物理攻撃だけなら、何とかなるはず。
「診せてもらいますね」
「頼むっ」
血だらけの冒険者が二人。
一人は腕に深い傷を負った剣士で、男性。精査で確認したら骨や内臓もかなりぐちゃぐちゃだ。
治癒じゃ足りない。
失敗する可能性のある完全治癒よりも上級治癒ポーションの方が確実と判断。
「これを患部に掛けて、残りは飲ませて」
腰ポシェットからそれを取り出して怪我のない人に押し付けたら次はもう一人の負傷者、皮鎧を身に付けた斥候……の人なのかな。血を吐き、腕が変な方向に曲がっているその人を精査した。
病気持ち……違う……背中が爛れてるような……うんー……?
初めての感覚で戸惑うが、一番ひどいのはその背中だ。病気や怪我と違うなら効果があるのは状態異常解除だろうけど、これもポーションの方が確実だ。
さすがに瀕死の人を前にして練習するつもりはない。
『グルルゥァアアアア!!』
「ひぃぁ⁈」
飛び掛かって来る魔豹、悲鳴を上げる事情を知らない冒険者達に「大丈夫、味方ですよ」と声を掛けながら、腰ポシェットから該当する薬を取り出した。
先に治癒。
それから、ポーション。
首の下に腕を通して支えながら薬液を飲ましている内にだんだんと呼吸が落ち着いて来た。
「あぁ……」
もう一人の重傷者も目に見えて回復したのだろう、周囲から上がる安堵の声に、危機に陥っていた人達を助けられたことを実感した。
その間に赤いアライグマも次々と討伐され、残り2。
「エニス、ウーガ、もういい!」
バルドルが声を上げたのとほぼ同時にアッシュさんの棍が一頭の腹を打ち上げ、レイナルドさんの魔剣が首を刎ねた。
直後、残り1頭はクルトさんに真っ二つにされてドーガさんの火魔法で消し炭。
赤いアライグマ15頭の討伐を完了した。
就寝準備を済ませてリーデン様と一緒にベッドに入り、ダンジョンの感想だとかそんな雑談をしている内に寝てしまう。疚しいことは特にない。
ないったらないんです!
起床は朝5時。
隣で眠っているリーデン様を起こしてから身支度を整え、神具『住居兼用移動車両』Ex.とダンジョンを行き来しながら珈琲を淹れて配り、朝食、弁当を完成させ、7時半を目処に全員が準備を整えたら出発だ。
人為的な危険が減ると思われる第40階層を越えるまでは速度重視。なるべく魔物は避けるという意見で一致しているため、気配感知をフル活用。
700個もの魔石を持ち帰って来た人達がいるおかげで、今回はそれも必要ないからだ。
お昼は歩きながら、または丁度いい場所があれば休憩がてら済ませて、午後は引き続き前進。ダンジョン内は春でも外は12月という真冬の空なので5時を過ぎるとすっかり暗くなってしまうため、その前にテントを顕現して夕飯準備に取り掛かる。
交代で食事を取り、翌日の仕込みを終えて9時前に部屋へ……というのが、他のパーティに遭遇しなかった今日までの日課だ。
銀級ダンジョン攻略を開始してから6日目――1月の7日、第15階層で迎えた朝。
「これは、ホント……踏破まで余裕で篭っていられるわ」
昨夜は見張りがお休みでぐっすり眠れたらしいアッシュさんがダンジョンにあるまじきツヤツヤの顔で感心したように呟く。
ちなみに夜間の見張り役は夜番(9時~12時)、深夜番(12時~3時)、朝番(3時~6時)の三交代制だ。
「水魔法で体の汚れや血の匂いは落とせても、一週間もすれば体の節々が痛くなったり、地上に帰りたいって思うようになるものなのに……むしろ地上より調子が良い気がするの」
「さすがにそれは言い過ぎでしょう」
思わず笑ってしまった俺に、同じ朝食の席に付いていたウーガさんが「そうでもないよ」と。
朝番だったウーガさんとレイナルドさんは順番に朝ごはんだ。
「レンが栄養バランスがどうのこうのって、一日三食いろいろと摂らせている効果だと思う」
「それは、だって、みんな放っておいたらお肉しか食べないから」
焼いて塩胡椒で食べるのが一番楽だと真顔で言われて血の気が引いたのはもう随分前の話だ。
野菜や豆類を下拵えして持ち込んだのをひどく驚かれたよね。
もちろんこれはしっかりと保存してくれるテントがあってこそ出来ることだけど、ダンジョン内でちょっと横道に逸れて探検すれば初級の図鑑にも載っている食べられる葉や木の実はとても多い。
面倒臭がらないという条件がつくにしても健康的な食事を摂るのは無理じゃないのだ。……それをしないのもまた獣人らしさだと言われれば納得しかないけれど。
「今朝も美味かったよ、レイナルドさんと交代するね」
「はい。あ、珈琲のお代わりは?」
「いるいるー、ありがと」
神様印の保温ポットに淹れておいた珈琲をウーガさんのカップに注ぎ、スッと差し出されたアッシュさんのカップにもふふって笑いながら注ぐ。
それから、次に食べにくるレイナルドさんのために調理中だった目玉焼きを完成させた。
卵料理一つとってもメンバーの好みは人それぞれ。アッシュさんはスクランブルエッグ、ウーガさんはゆで卵。レイナルドさんは固焼きの目玉焼きに醤油を掛けるのが好きなんだって。
「そこまで気を遣う必要はない」と言われるけど、使い勝手の良いキッチンと、洗浄魔法を使える仲間の協力があるから全く苦にならない。俺自身、料理が好きだし、美味しいと言ってもらえるのがとても嬉しいから。
「おはよ」
「おはようございます」
見張りを終えてから就寝していたメンバーも続々と起床し、朝ごはんを食べにリビングダイニングに。
「後片付けは私がしておくからレンも準備してらっしゃい」
「はい、お願いします!」
朝7時半。
今日も速度重視で探索が始まった。
第15階層から第16階層。
お昼を済ませてから17階層に進んで、しばらく。
「殺気……?」
避けているとは言っても既に何度も魔物と戦闘は経験してきた。魔石や肉、角や牙など売れる素材は回収、レイナルドパーティから借りた収納の魔導具に保管してある。
魔物は、人を見つければ襲うようになっている。
それはリーデン様が言っていた通りで、頻繁に索敵や気配探知を発動して周囲を警戒しておかなければ背後から急に襲われることだって有り得るのだ。俺自身の探知技術はこの2年間でかなり磨かれたと思うけど、対獄鬼ほどの自信はないため、必ず他の誰かと一緒に周囲の警戒をするようにしているわけだが……今日のこれは、何かおかしい。
気圧されるような張り詰めた空気。
なのに何となく場違いなような……巻き込まれ感?
「襲われているのか」
バルドルの呟きを拾って、すぐに地面に目を凝らしたのはエニスだ。
「血だ」
「あっちの方、気配がかなり乱れてる」
指で地面を拭ったエニスが、その先っぽを染めた赤黒い液体に眉を潜めると同時、弓士のウーガが砂浜の向こう、防風林にも見える木々の連なりに鋭い視線を向けた。
「人の気配が6つ、魔物の気配が11……15か? 群れだな」
全員の表情が強張る。
銀級ダンジョンで群れを成して襲ってくる魔物は幾つかある。その中で第16階層という上層で現れるといえばラトンラヴルという名前の、狸かアライグマに似た、見た目だけなら愛嬌がありそうな赤い毛色の魔物だ。地面に穴を掘って暮らしており、上に来た獲物を落として捕らえるのが一般的だ。
大きさは体長1メートルくらいで、重い。
とにかく重くて硬い。
そして10頭前後の群れを成し、火魔法を使いながら長い爪で襲い掛かって来るのだ。
「15は多いが、気付いた以上は冒険者を見殺しには出来ない」
「当然です」
「行こう」
ダンジョン内の規則は大陸によって様々だが危険な状況に陥っているパーティの救援は義務に近い。もちろん戦力が足りなければ被害を大きくするだけなので場合による。
だけど俺達は――。
「今回は俺達も戦力に入れろ」
レイナルドさんが言い、アッシュさんが背負っていた棍を手に取る。
金級の二人がいて目の前の危機を見なかったことにするなんて、出来ない。
「レン、魔豹の魔石は使えるか」
「もちろんです」
答えるが早いか腰ポシェットから取り出した魔石に普通に魔力を流し体長2、3メ―トルの魔豹3頭を顕現。
「レイナルドとアッシュはレンの護衛。エニスとクルトは兄弟の護衛、兄弟は俺が引きつけた敵を片っ端からやれ」
「了解!」
「レンは負傷者の治療と救出。魔豹には敵の殲滅を」
「判りました」
「行くぞ」
駆けだす。
身体強化をした獣人より3頭の魔豹の方が圧倒的な速さだった。
「ははっ、ありゃあ下層で遭遇する魔豹より早いな」
レイナルドさんが呆れたように笑って言った。
砂浜から戦場となる木々まで約100メートル。木々の向こうで見え難かった光景が露わになり、3頭の魔豹が人に襲い掛かっていた赤いアライグマの首にそれぞれに噛みついて傷ついた冒険者から引き離す。
「うわああっ⁈」
赤いアライグマに続いて魔豹まで現れたことで6人の冒険者パーティは絶望的な表情を浮かべたが――。
「全員生きているか⁈」
バルドルさんが大声を上げたことで目が輝く。
「二人重傷だ!!」
「レン!」
「はいっ」
接敵3メートル。
バルドルさんが盾を構え咆哮する――スキル「威圧」。
俺達でさえ肌を刺すような痛みを感じるそれを容赦なく浴びせられた赤いアライグマたちはクラリと体を傾がせた後で敵意をバルドルさんに集中させる。
その隙を突いて怪我人に駆け寄る俺に気付いた赤いアライグマはレイナルドさんとアッシュさんが対応。
そこにバルドルさんの光魔法が放たれて一定の範囲に降り注ぐ光の剣。
たぶんヘイトを集めるというやつで、他に意識が流れそうだった赤いアライグマを自分の方に引き寄せた。
直後、射かけられる矢と放たれる魔法による風の刃。
攻撃手に気付いて移動を始めた赤いアライグマはクルトさんとエニスさんが相手取る。
「くっ」
ガキンッ、とエニスさんの刃を跳ね返す鉱石みたいな音がする。
「はああああ!!」
対してクルトやレイナルドの剣が通るのは、恐らくそれが魔剣だからだ。
魔豹の牙も通る。
魔法攻撃も効いている。
耐性が高いのは物理攻撃だけなら、何とかなるはず。
「診せてもらいますね」
「頼むっ」
血だらけの冒険者が二人。
一人は腕に深い傷を負った剣士で、男性。精査で確認したら骨や内臓もかなりぐちゃぐちゃだ。
治癒じゃ足りない。
失敗する可能性のある完全治癒よりも上級治癒ポーションの方が確実と判断。
「これを患部に掛けて、残りは飲ませて」
腰ポシェットからそれを取り出して怪我のない人に押し付けたら次はもう一人の負傷者、皮鎧を身に付けた斥候……の人なのかな。血を吐き、腕が変な方向に曲がっているその人を精査した。
病気持ち……違う……背中が爛れてるような……うんー……?
初めての感覚で戸惑うが、一番ひどいのはその背中だ。病気や怪我と違うなら効果があるのは状態異常解除だろうけど、これもポーションの方が確実だ。
さすがに瀕死の人を前にして練習するつもりはない。
『グルルゥァアアアア!!』
「ひぃぁ⁈」
飛び掛かって来る魔豹、悲鳴を上げる事情を知らない冒険者達に「大丈夫、味方ですよ」と声を掛けながら、腰ポシェットから該当する薬を取り出した。
先に治癒。
それから、ポーション。
首の下に腕を通して支えながら薬液を飲ましている内にだんだんと呼吸が落ち着いて来た。
「あぁ……」
もう一人の重傷者も目に見えて回復したのだろう、周囲から上がる安堵の声に、危機に陥っていた人達を助けられたことを実感した。
その間に赤いアライグマも次々と討伐され、残り2。
「エニス、ウーガ、もういい!」
バルドルが声を上げたのとほぼ同時にアッシュさんの棍が一頭の腹を打ち上げ、レイナルドさんの魔剣が首を刎ねた。
直後、残り1頭はクルトさんに真っ二つにされてドーガさんの火魔法で消し炭。
赤いアライグマ15頭の討伐を完了した。
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