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第5章 マーへ大陸の陰謀
141.銀級ダンジョン
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どうして獄鬼が人のルールを守るとは思えないからってバルドルパーティが銀級ダンジョンに行く事になるのか。
「もちろんおまえたちもだぞ、レン、クルト」
「へ?」
「金級冒険者になるには銀級ダンジョンを3カ所踏破しなければならないんだ」
「え……っと、言っていることは判るんですが、なんで急に?」
「理由は幾つかあるが、まず一つ目は時間を無駄にしないため。二つ目は今なら俺達が一緒に行けるからだな」
聞けば師匠から昨日聞いた話とも通じていて、鉄級・銅級ダンジョンに比べて銀級ダンジョンは難易度が一気に上がる。
金級は更に跳ね上がり、白金、神銀は言わずもがなだが、今はおいておく。
重要なのは、世界中にある各級ダンジョンで常に多くの冒険者が滞在しているのが銀級だという点だ。
それはつまり、中で遭遇する冒険者が増えるということ。
人が増えれば色々と問題が起きる。
慣れていないどころか初挑戦になる今回は金級のレイナルド達が同行した方が良いと彼らは言うのだ。
「師匠も危ないって言ってましたけど、そんなにですか?」
聞けば、バルドルパーティだけじゃなく足を踏み入れたことのないクルトにまで深く頷かれた。
「なんせ銀級冒険者が多過ぎるからね」
「ああ」
銀級冒険者が多いのは俺も知っている。
世界に散らばっている全冒険者の内、金級以上は約2割。
鉄級・銅級が合わせて2割。
残り6割が銀級冒険者になるが、この6は昇級を目指している1と、昇級を諦めていない1と、そして昇級を諦めて銀級ダンジョンで日銭を稼ぐ4に分かれるている。
そんな細かい数字は初耳だったが、この4が、師匠がいうところの「破落戸」だ。
「目指す1と、諦めていない1は違うんですか?」
「違う。おまえたちは目指す1の方だ。移動手段を確保して大陸を渡り鉄級10カ所、銅級5カ所の踏破が見えている」
「諦めない1は、銀級は踏破出来ても、大陸を渡る手段を得るのに苦労しているタイプだ。金級に上がるためには少なくとも5つの大陸を渡らなければならない。その費用はなかなかに高額だ」
ゲンジャルさんが、レイナルドさんの説明を補うように語る。
それだけを聞くと銀から金への昇級に重要なのは大陸から大陸への移動費のように聞こえるし、実際その一面もあるのだが、そうとばかりも言えない現実があるらしい。
「その辺りは必要になった時にきちんと教えてやる」
レイナルドさんはそう言って話を本題に戻した。
「オセアンはまだ平和だが、プラーントゥ大陸に比べれば他に近い。今後のためにも少し荒い連中に慣れておいた方がいいだろう。特におまえは」
レイナルドさんが言うのは、もちろん俺だ。
「バルドル達にかなり苦労を掛けているみたいだからな。俺たちが同行出来るこの機会に人相手にやらかして警戒心や自衛手段を見直せ」
「はぁい……」
言いたい事は多々あれど実際の銀級ダンジョンを知らないので、いまは素直に頷いておくことにした。
「3つ目の理由は、そこなら万が一の時にすぐに呼び戻すことが出来るからだ」
帝都から船で半日。
レイナルドパーティもグランツェパーティも踏破済みで、連絡担当がいて、しかも船付き。
万が一の際の貴重な戦力になるのは間違いない。
早い話、マーへ大陸が関わっているため国際問題になるから声に出さないだけで、誰も信じていないのだ、獄鬼のことなんて。
「挑む方向で進めて良いなら、この後から準備を開始。船が戻った翌日……31日に移動し、翌日にはメール領内の海岸沿いにある銀級ダンジョン『ソワサント』の攻略を開始するというのでどうだ?」
つまり食材の補充と下拵えをこの後から初めて、31日に移動。
レイナルド達が700個もの魔石を持ち帰った例のダンジョンまで、船なら半日も掛からないから、新年早々の攻略開始になるってことだ。
お正月から初銀級ダンジョン、そして初めてのレイナルドパーティとのダンジョン攻略。ものすごくイベントっぽくて、わくわくする。
こっちの世界に大晦日とか正月という意識はないんだけどね。
「はい」
「おう」
挙手したクルトさんに、レイナルドさん。
「銀級ダンジョンは45階層で、転移陣は10階層ごとだと聞いています。陛下の話では19日までに各大陸の代表者が集まり、翌日から国際会議が始まるというなら、レイナルドさんは参加しなければならないのでは?」
「ああ、その通りだな。だから俺達は交代でつく」
「交代?」
「最初は俺とアッシュが同行して、10階層でゲンジャルとミッシェルに交代。会議が始まった時点で俺は離れるから、時期によって以降のメンバーが変わると思ってくれ」
「いずれにせよ陛下と連絡が取れるよう、メッセンジャーで遣り取り出来るメンバーを船に一人は残しておかないとならないからな」
「なるほど、了解です」
「さて、トゥルヌソルじゃ何日くらいダンジョンに籠っていられた?」
揶揄うように聞いて来たのはゲンジャルさんで、俺とクルトさんはバルドルパーティと顔を見合わせた。グランツェパーティが笑っているのは俺達が銅級ダンジョンをどう踏破したか知っているからだ。
「何日というか、踏破するまで籠っていられますよ?」
「は?」
「この際だし、みんなにもお披露目したら良いんじゃないかな?」
……というわけで、お披露目です。
場所は広いスペースが必要なので俺に用意された特別室。みんなで家具を移動し4メートル四方くらいの場所を確保した。
「さて、何が出てくるのか……」
「どきどきしますね……!」
モーガンさんとヒユナさん。
「女性に優しいテントだなんて楽しみね」
「期待しちゃうわ」
アッシュさんとミッシェルさん。
こうして見るとダンジョンに挑んでいる数少ない女性冒険者がうちは多いのだなと改めて実感する。
天界で開発してもらった『野営用テント』が、彼女たちの快適なダンジョン生活に一役買えるなら俺も嬉しい。
「じゃあ、広げますね」
16人が入るなら師匠の部屋と合わせて17人用、最大の大きさで出してしまってもいいかと、胸元のブローチを外しながら考える。
向日葵を象った自作のそれを床に置き、神力を流し込むこと10秒くらい。
「離れて」
声を掛けて、3、2、1。
ボンッ。
「おおっ……」
ブローチが膨らむみたいにしてあっという間に完成したのは、以前と少し形を変え、前方に雨除けの屋根が広く張り出したモスグリーンのスクエア型のテントである。
「いつもと見た目が違う……」とクルトさん。
「中も変わってますよ」と俺。
「見た目だけなら金を出せば買えるテントのようだが……入るぞ?」
「どうぞ」
警戒した様子のレイナルドさんを促すが、入口の暖簾を手で避けて顔を入れた途端に彼の動きが止まる。
テントの入り口はジッパーで完全に閉じられる外側、夏に活躍する網戸タイプの真ん中、そして手で簡単に払える暖簾タイプの内側という三重構造だ。
いまは暖簾タイプしか行手を遮っていないので入るのは簡単なはずなのに、それでもレイナルドさんは動かない。
「レイ?」
「大丈夫か?」
ゲンジャルさんとグランツェさんが声を掛ける。
心配しているようで、それ以上に好奇心を抑え切れていない表情。
「入るぞ」
レイナルドさんを押し退けるようにして入ろうとした二人だけど、今度はそんな彼らがピシリと固まってしまった。一方、その二人のお陰で再起動したらしいレイナルドさんは頭が痛そうな顔でこっちを睨んできた。
「レン、おまえ……こんなの他の連中に見られたら……」
「他の連中には中は若干広めの空間に見えるだけ。既にトゥルヌソルで確認済みだ」
「な……んだと……?」
バルドルさんの説明にレイナルドさんの声が震える。
「中が見えるのはここにいる16人とセルリーさんだけで、理由はレンがそのメンバーだけを登録済みだから、だってさ」
「登録……」
「それからブローチをテントに変えられるのはレンくんの神力だけだから、万が一盗まれても利用はされません」
クルトさんからも補足されて、レイナルドさんは頭を抱えた。
「……他にもまだ何かあるか?」
レイナルドさんがものすごい警戒して聞いてくるから、俺は悪いと思いつつも笑ってしまった。
「とりあえずみんなで中に入りましょう。説明します」
固まっていたゲンジャルさんとグランツェさんを押し込み、全員に中に入ってもらう。
6人用のテントの時は20畳くらいだったその空間は、いまや帝都ラックのお城の晩餐室くらい広い。目算で60畳かそのくらい……うん、人数に合わせて今までの約3倍だ。
奥に暖炉、山積みにされた薪、ボードゲームなんかが置かれた棚の手前には長椅子を含め10人くらいが座れるソファが円状に並べられ、真ん中には作戦会議にも使える大きなローテーブル。
足元は毛足の長い絨毯でふかふかしていて、大きなクッションが複数個転がっているところを見ると地べたに座るのもアリだ。
何せあのクッションは人をダメにするタイプのそれだもの。
そんなスペースよりも手前の壁沿いには以前からあった高機能のキッチンと、神様印のパントリー。人数が増えた分だけ食器類は増えているけど、もともと容量無制限だった食糧庫の大きさは変わらない。
ただし食事スペースは食卓が3つに増え、椅子も増え、ちゃんと17人が座れるようになっていた。
暖炉一つで端まで温かな不思議空間。
そして入り口横の壁沿いに縦4、横4つずつ並んでいる魔石のボタン。
全部で16個なのは、俺の部屋の分が一つだけ反対側の壁に設置されているからだ。
初日にバルドルさん達に説明したように個室を登録し、ベッドと荷台以外に家具はないけどトイレとシャワー室が完備されている快適空間を自分の目で確認してもらったら、最初は唖然としていた皆も受け入れてくれた。
俺達が銀級ダンジョンに挑んでいる間に金級に行くつもりだったグランツェパーティは、ちょっと考えることにしたらしいけども。
「これを見ちゃったらね」
そう苦笑いしながら呟いたクルトさんは、ほんの少し顔色が悪く見えた。
***
読んで頂きありがとうございます。
レイナルドとバルドルは同じ年齢、同期なので冒険者として喋っている時は敬語ナシです。
「もちろんおまえたちもだぞ、レン、クルト」
「へ?」
「金級冒険者になるには銀級ダンジョンを3カ所踏破しなければならないんだ」
「え……っと、言っていることは判るんですが、なんで急に?」
「理由は幾つかあるが、まず一つ目は時間を無駄にしないため。二つ目は今なら俺達が一緒に行けるからだな」
聞けば師匠から昨日聞いた話とも通じていて、鉄級・銅級ダンジョンに比べて銀級ダンジョンは難易度が一気に上がる。
金級は更に跳ね上がり、白金、神銀は言わずもがなだが、今はおいておく。
重要なのは、世界中にある各級ダンジョンで常に多くの冒険者が滞在しているのが銀級だという点だ。
それはつまり、中で遭遇する冒険者が増えるということ。
人が増えれば色々と問題が起きる。
慣れていないどころか初挑戦になる今回は金級のレイナルド達が同行した方が良いと彼らは言うのだ。
「師匠も危ないって言ってましたけど、そんなにですか?」
聞けば、バルドルパーティだけじゃなく足を踏み入れたことのないクルトにまで深く頷かれた。
「なんせ銀級冒険者が多過ぎるからね」
「ああ」
銀級冒険者が多いのは俺も知っている。
世界に散らばっている全冒険者の内、金級以上は約2割。
鉄級・銅級が合わせて2割。
残り6割が銀級冒険者になるが、この6は昇級を目指している1と、昇級を諦めていない1と、そして昇級を諦めて銀級ダンジョンで日銭を稼ぐ4に分かれるている。
そんな細かい数字は初耳だったが、この4が、師匠がいうところの「破落戸」だ。
「目指す1と、諦めていない1は違うんですか?」
「違う。おまえたちは目指す1の方だ。移動手段を確保して大陸を渡り鉄級10カ所、銅級5カ所の踏破が見えている」
「諦めない1は、銀級は踏破出来ても、大陸を渡る手段を得るのに苦労しているタイプだ。金級に上がるためには少なくとも5つの大陸を渡らなければならない。その費用はなかなかに高額だ」
ゲンジャルさんが、レイナルドさんの説明を補うように語る。
それだけを聞くと銀から金への昇級に重要なのは大陸から大陸への移動費のように聞こえるし、実際その一面もあるのだが、そうとばかりも言えない現実があるらしい。
「その辺りは必要になった時にきちんと教えてやる」
レイナルドさんはそう言って話を本題に戻した。
「オセアンはまだ平和だが、プラーントゥ大陸に比べれば他に近い。今後のためにも少し荒い連中に慣れておいた方がいいだろう。特におまえは」
レイナルドさんが言うのは、もちろん俺だ。
「バルドル達にかなり苦労を掛けているみたいだからな。俺たちが同行出来るこの機会に人相手にやらかして警戒心や自衛手段を見直せ」
「はぁい……」
言いたい事は多々あれど実際の銀級ダンジョンを知らないので、いまは素直に頷いておくことにした。
「3つ目の理由は、そこなら万が一の時にすぐに呼び戻すことが出来るからだ」
帝都から船で半日。
レイナルドパーティもグランツェパーティも踏破済みで、連絡担当がいて、しかも船付き。
万が一の際の貴重な戦力になるのは間違いない。
早い話、マーへ大陸が関わっているため国際問題になるから声に出さないだけで、誰も信じていないのだ、獄鬼のことなんて。
「挑む方向で進めて良いなら、この後から準備を開始。船が戻った翌日……31日に移動し、翌日にはメール領内の海岸沿いにある銀級ダンジョン『ソワサント』の攻略を開始するというのでどうだ?」
つまり食材の補充と下拵えをこの後から初めて、31日に移動。
レイナルド達が700個もの魔石を持ち帰った例のダンジョンまで、船なら半日も掛からないから、新年早々の攻略開始になるってことだ。
お正月から初銀級ダンジョン、そして初めてのレイナルドパーティとのダンジョン攻略。ものすごくイベントっぽくて、わくわくする。
こっちの世界に大晦日とか正月という意識はないんだけどね。
「はい」
「おう」
挙手したクルトさんに、レイナルドさん。
「銀級ダンジョンは45階層で、転移陣は10階層ごとだと聞いています。陛下の話では19日までに各大陸の代表者が集まり、翌日から国際会議が始まるというなら、レイナルドさんは参加しなければならないのでは?」
「ああ、その通りだな。だから俺達は交代でつく」
「交代?」
「最初は俺とアッシュが同行して、10階層でゲンジャルとミッシェルに交代。会議が始まった時点で俺は離れるから、時期によって以降のメンバーが変わると思ってくれ」
「いずれにせよ陛下と連絡が取れるよう、メッセンジャーで遣り取り出来るメンバーを船に一人は残しておかないとならないからな」
「なるほど、了解です」
「さて、トゥルヌソルじゃ何日くらいダンジョンに籠っていられた?」
揶揄うように聞いて来たのはゲンジャルさんで、俺とクルトさんはバルドルパーティと顔を見合わせた。グランツェパーティが笑っているのは俺達が銅級ダンジョンをどう踏破したか知っているからだ。
「何日というか、踏破するまで籠っていられますよ?」
「は?」
「この際だし、みんなにもお披露目したら良いんじゃないかな?」
……というわけで、お披露目です。
場所は広いスペースが必要なので俺に用意された特別室。みんなで家具を移動し4メートル四方くらいの場所を確保した。
「さて、何が出てくるのか……」
「どきどきしますね……!」
モーガンさんとヒユナさん。
「女性に優しいテントだなんて楽しみね」
「期待しちゃうわ」
アッシュさんとミッシェルさん。
こうして見るとダンジョンに挑んでいる数少ない女性冒険者がうちは多いのだなと改めて実感する。
天界で開発してもらった『野営用テント』が、彼女たちの快適なダンジョン生活に一役買えるなら俺も嬉しい。
「じゃあ、広げますね」
16人が入るなら師匠の部屋と合わせて17人用、最大の大きさで出してしまってもいいかと、胸元のブローチを外しながら考える。
向日葵を象った自作のそれを床に置き、神力を流し込むこと10秒くらい。
「離れて」
声を掛けて、3、2、1。
ボンッ。
「おおっ……」
ブローチが膨らむみたいにしてあっという間に完成したのは、以前と少し形を変え、前方に雨除けの屋根が広く張り出したモスグリーンのスクエア型のテントである。
「いつもと見た目が違う……」とクルトさん。
「中も変わってますよ」と俺。
「見た目だけなら金を出せば買えるテントのようだが……入るぞ?」
「どうぞ」
警戒した様子のレイナルドさんを促すが、入口の暖簾を手で避けて顔を入れた途端に彼の動きが止まる。
テントの入り口はジッパーで完全に閉じられる外側、夏に活躍する網戸タイプの真ん中、そして手で簡単に払える暖簾タイプの内側という三重構造だ。
いまは暖簾タイプしか行手を遮っていないので入るのは簡単なはずなのに、それでもレイナルドさんは動かない。
「レイ?」
「大丈夫か?」
ゲンジャルさんとグランツェさんが声を掛ける。
心配しているようで、それ以上に好奇心を抑え切れていない表情。
「入るぞ」
レイナルドさんを押し退けるようにして入ろうとした二人だけど、今度はそんな彼らがピシリと固まってしまった。一方、その二人のお陰で再起動したらしいレイナルドさんは頭が痛そうな顔でこっちを睨んできた。
「レン、おまえ……こんなの他の連中に見られたら……」
「他の連中には中は若干広めの空間に見えるだけ。既にトゥルヌソルで確認済みだ」
「な……んだと……?」
バルドルさんの説明にレイナルドさんの声が震える。
「中が見えるのはここにいる16人とセルリーさんだけで、理由はレンがそのメンバーだけを登録済みだから、だってさ」
「登録……」
「それからブローチをテントに変えられるのはレンくんの神力だけだから、万が一盗まれても利用はされません」
クルトさんからも補足されて、レイナルドさんは頭を抱えた。
「……他にもまだ何かあるか?」
レイナルドさんがものすごい警戒して聞いてくるから、俺は悪いと思いつつも笑ってしまった。
「とりあえずみんなで中に入りましょう。説明します」
固まっていたゲンジャルさんとグランツェさんを押し込み、全員に中に入ってもらう。
6人用のテントの時は20畳くらいだったその空間は、いまや帝都ラックのお城の晩餐室くらい広い。目算で60畳かそのくらい……うん、人数に合わせて今までの約3倍だ。
奥に暖炉、山積みにされた薪、ボードゲームなんかが置かれた棚の手前には長椅子を含め10人くらいが座れるソファが円状に並べられ、真ん中には作戦会議にも使える大きなローテーブル。
足元は毛足の長い絨毯でふかふかしていて、大きなクッションが複数個転がっているところを見ると地べたに座るのもアリだ。
何せあのクッションは人をダメにするタイプのそれだもの。
そんなスペースよりも手前の壁沿いには以前からあった高機能のキッチンと、神様印のパントリー。人数が増えた分だけ食器類は増えているけど、もともと容量無制限だった食糧庫の大きさは変わらない。
ただし食事スペースは食卓が3つに増え、椅子も増え、ちゃんと17人が座れるようになっていた。
暖炉一つで端まで温かな不思議空間。
そして入り口横の壁沿いに縦4、横4つずつ並んでいる魔石のボタン。
全部で16個なのは、俺の部屋の分が一つだけ反対側の壁に設置されているからだ。
初日にバルドルさん達に説明したように個室を登録し、ベッドと荷台以外に家具はないけどトイレとシャワー室が完備されている快適空間を自分の目で確認してもらったら、最初は唖然としていた皆も受け入れてくれた。
俺達が銀級ダンジョンに挑んでいる間に金級に行くつもりだったグランツェパーティは、ちょっと考えることにしたらしいけども。
「これを見ちゃったらね」
そう苦笑いしながら呟いたクルトさんは、ほんの少し顔色が悪く見えた。
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レイナルドとバルドルは同じ年齢、同期なので冒険者として喋っている時は敬語ナシです。
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