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第5章 マーへ大陸の陰謀
130.魔石の不思議
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『ご苦労だった。この後も逃げ出す連中がいないとは限らない、引き続き警戒を続けてくれ』
皇帝陛下からのメッセンジャーに了承の返事を返し、船上では監視体制の強化が行われた。もちろん僧侶3人も、最初が俺、次がヒユナさん、そして最後に師匠の順で各班に参加することになった。
その他に冒険者パーティから最初見張りに着いたのはクルトさん、オクティバさん、グランツェさん。
何かあった場合にはすぐに動けるよう、操舵室に隣接する一面ガラス張りの会議室に集合すると、騎士団の分団長や巡回の交代を待つ騎士達も既に何人か集まっていた。
そこで話題になることと言えば、やはりと言うべきかトル国から逃げ出そうとした船を制圧した件で。
「まさか14体の獄鬼に、21人もの協力者がいるとは思いませんでした」
騎士の一人が頭を抱えて言う。
いまも何人もの騎士が隣に浮かんでいる大型船の中にいて監視や尋問を続けているが、獣人族の特徴が耳と尻尾だけという、いわゆる人間寄りの見た目のせいで故郷――マーヘ大陸では虐げられていたという21人は、獄鬼がオセアン大陸を征服した暁にはそちらを好きに分割して支配して良いと言われていたという。
「しかも当初の目的はプラーントゥ大陸だったというではありませんか!」
怒り心頭の様子でデスクに拳を叩きつけたのは見張り班の分団長。
「レン様がいらっしゃらなければ祖国がああなっていたのかと思うと……感謝してもし切れません……!」
最小の大陸なら。
マーヘ大陸よりも小さな土地なら人間寄りの見た目をした獣人族にくれてやってもよかったんだと吐き捨てたのは獄鬼の一人。
しかしプラーントゥ大陸に俺が現れたことで支配どころか立ち入ることすら出来なくなってしまい、仕方なくもう一つの隣、オセアン大陸に狙いを変えたんだとか。そこを足掛かりに行く行くは世界最大規模の国、獅子王が統治するギァリッグ大陸のフォレ国に攻め込むという壮大な計画があったらしい。
「……それって、あまりにも獣人族をバカにしていませんか?」
少なからずイラッとして聞いてみると、クルトさんが「どうかな」と肩を竦める。
「少なくともレンくんがプラーントゥ大陸にいなかったら、今頃はジェイに憑いていた獄鬼の手でトゥルヌソルが大変なことになっていた可能性は否めないし、その後で獄鬼と獣人族が手を組んでいることに気付いたレイナルドさん達がマーヘ大陸に侵入する事もなかったかもしれない」
そんな彼らから情報が送られてこなければプラーントゥ大陸がここまで全面的に俺のバックアップをしてくれることもなく、オセアン大陸は何も知らないままトル国を乗っ取られ、文字通り獄鬼に覆われていたかもしれない。
「君の場合は、そこにいるだけで獄鬼への対応をとても容易にしてくれるから実感し辛いと思うが、いま君の応援領域の範囲内にいなくても獄鬼に対応出来る人が増えているのは、間違いなく君がいろいろと考えて動くと決めたからだよ」
グランツェさんの言葉にクルトさんも大きく頷いてくれた。
「獄鬼との戦闘で、死者どころか怪我人さえ一人もいないなんて、以前なら絶対に考えられなかったよ」
「……そんなに、ですか?」
「そうさ」
「獄鬼には僧侶しか対応できない、僧侶がいれば獄鬼は近付いて来ない。必然的に僧侶のいない土地ばかりが狙われて来たんだからね。そう考えると、わざわざトゥルヌソルに来たアレがよっぽどの怖いもの知らずというか、考え無しだったんだろうけど」
「いや、あれはトゥルヌソルに侵入出来たことを自慢するって声高に叫んでいたから、恐らくあれもマーヘ大陸からの刺客というか、そういう役割を持っていたんだと思うよ」
実際に剣を交えたグランツェがそう教えてくれた。
「それに今回から参戦した魔豹。相当の魔力が必要だから使える冒険者や騎士は限られるけど、俺たちは獄鬼の対抗手段をまた一つ手に入れたと言ってもいいと思う」
「そんなに活躍したんですか?」
「ああ」
バネみたいに飛び跳ねながら次から次へと顔面を潰して回ったとか、投げられた子どもをキャッチしたとか、縄を爪で裂いたという話は既に聞いていたが、グランツェさんは感嘆の息と共に「本当にすごかった。賢かった」と呟く。
いまは魔力が尽きて魔石に戻っている魔豹だが、いままで魔獣・魔物とは敵対しかしてこなかったロテュスの人々にとっては、魔物と協力して戦うという経験そのものがとても衝撃的だったんだろう。
「でも、その賢かったりっていうのは案外レンくんの魔力だったからかもしれません」
ふとクルトさんが言う。
「魔力は人それぞれで、特にレンくんの魔力は……あの獄鬼除けの魔導具にしても効果が他の人と違い過ぎるから、顕現される魔物にも違いが出ると思った方が良い気がします」
「確かに」
彼の言い分に、グランツェさんも頷く。
「消費魔力が多過ぎて気軽に試そうとは言い難いが……あぁ、でも性格を確認するだけならメッセンジャーでもいいのかな」
「どうでしょう。術式を組み込んでしまっている以上はもうメッセンジャーっていう魔導具に近いのかもしれませんし」
「なるほど、一理あるね」
――そんなことを話しながら、夜が更けていく。
制圧した獄鬼の船では、騎士達の監視のもと、人質にされていた100名近い人々がお腹いっぱいとまではいかなくてもひもじくない程度には食事をとり、温かな布団に包まって眠れたようだと朝になってから聞かされてホッとしたのだけど、実はこの夜に、俺は一つ秘密を抱えることになってしまった。
なんて言ったところでクルトさんやバルドルさんには「通常運転だな」って呆れられそうな内容なんだけど。
見張りを終えて神具『住居兼用移動車両』Ex.に戻ったらリーデン様が既に部屋にいて、トル国から逃げそうとしていた獄鬼を海上で捕まえた事。
本当に王様をはじめ偉そうな貴族が獄鬼に憑かれていた事を報告し、この戦闘で魔豹が活躍した話もしたところ、リーデン様は楽しそうに目を細めた。
「魔力の提供者によって魔物の性格が変わるのではないかという観点は面白いな」
「そうですか?」
「ああ。ダンジョンの魔物は基本的に皆同じだ。冒険者を見掛けたら襲うようになっている」
言い方……と思ったけど、でもそう決まっていると言われたら「なるほどな」って思わざるを得ない。ダンジョンではこちらが先に気付いて巧く避ければ戦闘を回避出来るけど、先に見つかったり、目が合うと問答無用で必ず襲い掛かって来るから。
「ダンジョンの魔力は創造主が定めた「有るべき姿」を保つものだからな。一人一人異なる人々の魔力を注がれれば魔石の変化も多様だろう」
「飼い主に似る、みたいな?」
「ああ。しかしレンの世界の犬や猫のように主人を記憶するのではなく、ダンジョンの魔力が魔物をそうと定めるように、あくまで魔力の主に従うだけだと考えられる。家族のように情を持ち過ぎるのは止めておいた方がいい」
「……喉をごろごろさせたり、頭を擦りつけてきたり……可愛かったです」
「……そうか」
既に遅かったようだと目で語り、リーデン様はぽふりと頭を撫でてくれた。
「ところで、魔石には何を注いだんだ」
「何、ですか?」
「レンは魔力と神力を完全に分けることが出来るようになっただろう。魔力か、神力か、または混ざったものか」
「あー……意識していなかったのでたぶん混ざっていたと思います」
「ふむ。神力を注いだ場合はどうなるのか気にならなかったのか?」
「それは実験済みなんです」
一番最初のハエ足の魔石で顕現実験した時、最初は魔力だけを流すように意識した。
それから特に意識せずに、流れるままに。
この時に特に変化がなかったので神力だけを注いだ場合にはどうなるかが師匠と二人、とても気になったため、試したのだ。
結果、魔石は一瞬で破裂した。
「その後は角兎や牙犬の魔石で試してもダメで、純粋な神力は魔石と相性が悪いんじゃないかってことに」
「それは結論を出すのが早過ぎる」
リーデン様は笑った。
「角兎や牙犬の魔石など1センチにも満たない小粒に神力は重すぎる」
「重い、ですか?」
「どう例えれば良いか……そうだな、電気に例えてみるか。冷房を1時間使うために必要な電力を1,000W、これを魔力とするなら、神力だと100Wくらいで充分過ぎる」
「えっ」
「1ミリの魔石に丁度良く神力を込めるのは俺にも困難だ」
それは例えば小さな針穴に糸を通すようなもので、集中してコントロールしないとすぐに破裂させてしまうという意味だった。
「せめて3センチ……レンの技術力なら魔豹の魔石で試せるのではないか」
「ほっ、え、本当ですか? 試してみていいですかっ?」
「ああ」
興奮して魔石を取り出し、でもコントロールを失うとハエ足の魔石みたいに破裂させてしまう。
深呼吸を繰り返して自分自身を落ち着かせてから神力だけをゆっくりと注いでいく。
と、魔力に比べれば僅かこれだけでと驚くくらいあっという間に発光し、姿形を変えてくるりと回り着地した姿はどんどん大きくなり――。
「ゆっ……ゆきひょ……しろっ……!!」
ソファとサイドテーブルがガタガタと押し退けられる大きさは、体高2メートル、体長4……ううん、5メートル以上あるかもしれない。
動物園や写真で見たユキヒョウよりもずっと白い、ぬいぐるみみたいな真っ白な毛に黒いぶち。
目が薄紫色で、しかも、デカい。
「おっきい……!!」
柄が異なれば神獣白虎だと思ったかもしれない。
いや、ヒョウ柄でも白虎に見えるかもしれない、興奮し過ぎて柄が問題にならなくなってきた。可愛い! もふもふが尊い!
「うはぁ……」
震える手で触れた魔物の体は温かくて、ふわんて弾力があって。
なんだかもう感極まってしまって、足から力が抜けてしまいへなへなと座り込んでしまった。
「そこまでか」
リーデン様は面白そうに笑いながら俺の脇を抱えて、位置をずらしたソファの上に座らせてくれた。
「しかしそうか、ロテュスの魔石に神力を込めるとこう変化するのだな」
「知らなかったんですか?」
「私が出来るのは見守ることだけだ」
言い、蟀谷に触れるだけのキスしてくれる。
「おまえのおかげだ。それに、一緒に研究をしている気になれて、とても得をした気分だ」
「そう言ってもらえたら俺も嬉しいですが、……この子は、魔豹以上に一緒に外を歩けませんね」
「止めたておいた方が無難だろう。恐らくおまえの師匠にも出来るとは思うが」
神力の方が省エネだというし、魔力から完全に神力を分離させられる師匠なら確かに可能なんだろうけど……最近の師匠を見ていると驚いた拍子にうっかり心臓が止まってしまいそうでイヤだ。
あぁでも研究熱心なあの人の事だから、俺の知らないところで試して驚くかもしれない。
「注意だけしておきます」
「ん? ああ……?」
不思議そうに頷いているリーデン様に思わず笑ってしまいながら、ともあれ神力による顕現については師匠といつものメンバー以外には秘密にしておこうと固く心に誓ったのだった。
皇帝陛下からのメッセンジャーに了承の返事を返し、船上では監視体制の強化が行われた。もちろん僧侶3人も、最初が俺、次がヒユナさん、そして最後に師匠の順で各班に参加することになった。
その他に冒険者パーティから最初見張りに着いたのはクルトさん、オクティバさん、グランツェさん。
何かあった場合にはすぐに動けるよう、操舵室に隣接する一面ガラス張りの会議室に集合すると、騎士団の分団長や巡回の交代を待つ騎士達も既に何人か集まっていた。
そこで話題になることと言えば、やはりと言うべきかトル国から逃げ出そうとした船を制圧した件で。
「まさか14体の獄鬼に、21人もの協力者がいるとは思いませんでした」
騎士の一人が頭を抱えて言う。
いまも何人もの騎士が隣に浮かんでいる大型船の中にいて監視や尋問を続けているが、獣人族の特徴が耳と尻尾だけという、いわゆる人間寄りの見た目のせいで故郷――マーヘ大陸では虐げられていたという21人は、獄鬼がオセアン大陸を征服した暁にはそちらを好きに分割して支配して良いと言われていたという。
「しかも当初の目的はプラーントゥ大陸だったというではありませんか!」
怒り心頭の様子でデスクに拳を叩きつけたのは見張り班の分団長。
「レン様がいらっしゃらなければ祖国がああなっていたのかと思うと……感謝してもし切れません……!」
最小の大陸なら。
マーヘ大陸よりも小さな土地なら人間寄りの見た目をした獣人族にくれてやってもよかったんだと吐き捨てたのは獄鬼の一人。
しかしプラーントゥ大陸に俺が現れたことで支配どころか立ち入ることすら出来なくなってしまい、仕方なくもう一つの隣、オセアン大陸に狙いを変えたんだとか。そこを足掛かりに行く行くは世界最大規模の国、獅子王が統治するギァリッグ大陸のフォレ国に攻め込むという壮大な計画があったらしい。
「……それって、あまりにも獣人族をバカにしていませんか?」
少なからずイラッとして聞いてみると、クルトさんが「どうかな」と肩を竦める。
「少なくともレンくんがプラーントゥ大陸にいなかったら、今頃はジェイに憑いていた獄鬼の手でトゥルヌソルが大変なことになっていた可能性は否めないし、その後で獄鬼と獣人族が手を組んでいることに気付いたレイナルドさん達がマーヘ大陸に侵入する事もなかったかもしれない」
そんな彼らから情報が送られてこなければプラーントゥ大陸がここまで全面的に俺のバックアップをしてくれることもなく、オセアン大陸は何も知らないままトル国を乗っ取られ、文字通り獄鬼に覆われていたかもしれない。
「君の場合は、そこにいるだけで獄鬼への対応をとても容易にしてくれるから実感し辛いと思うが、いま君の応援領域の範囲内にいなくても獄鬼に対応出来る人が増えているのは、間違いなく君がいろいろと考えて動くと決めたからだよ」
グランツェさんの言葉にクルトさんも大きく頷いてくれた。
「獄鬼との戦闘で、死者どころか怪我人さえ一人もいないなんて、以前なら絶対に考えられなかったよ」
「……そんなに、ですか?」
「そうさ」
「獄鬼には僧侶しか対応できない、僧侶がいれば獄鬼は近付いて来ない。必然的に僧侶のいない土地ばかりが狙われて来たんだからね。そう考えると、わざわざトゥルヌソルに来たアレがよっぽどの怖いもの知らずというか、考え無しだったんだろうけど」
「いや、あれはトゥルヌソルに侵入出来たことを自慢するって声高に叫んでいたから、恐らくあれもマーヘ大陸からの刺客というか、そういう役割を持っていたんだと思うよ」
実際に剣を交えたグランツェがそう教えてくれた。
「それに今回から参戦した魔豹。相当の魔力が必要だから使える冒険者や騎士は限られるけど、俺たちは獄鬼の対抗手段をまた一つ手に入れたと言ってもいいと思う」
「そんなに活躍したんですか?」
「ああ」
バネみたいに飛び跳ねながら次から次へと顔面を潰して回ったとか、投げられた子どもをキャッチしたとか、縄を爪で裂いたという話は既に聞いていたが、グランツェさんは感嘆の息と共に「本当にすごかった。賢かった」と呟く。
いまは魔力が尽きて魔石に戻っている魔豹だが、いままで魔獣・魔物とは敵対しかしてこなかったロテュスの人々にとっては、魔物と協力して戦うという経験そのものがとても衝撃的だったんだろう。
「でも、その賢かったりっていうのは案外レンくんの魔力だったからかもしれません」
ふとクルトさんが言う。
「魔力は人それぞれで、特にレンくんの魔力は……あの獄鬼除けの魔導具にしても効果が他の人と違い過ぎるから、顕現される魔物にも違いが出ると思った方が良い気がします」
「確かに」
彼の言い分に、グランツェさんも頷く。
「消費魔力が多過ぎて気軽に試そうとは言い難いが……あぁ、でも性格を確認するだけならメッセンジャーでもいいのかな」
「どうでしょう。術式を組み込んでしまっている以上はもうメッセンジャーっていう魔導具に近いのかもしれませんし」
「なるほど、一理あるね」
――そんなことを話しながら、夜が更けていく。
制圧した獄鬼の船では、騎士達の監視のもと、人質にされていた100名近い人々がお腹いっぱいとまではいかなくてもひもじくない程度には食事をとり、温かな布団に包まって眠れたようだと朝になってから聞かされてホッとしたのだけど、実はこの夜に、俺は一つ秘密を抱えることになってしまった。
なんて言ったところでクルトさんやバルドルさんには「通常運転だな」って呆れられそうな内容なんだけど。
見張りを終えて神具『住居兼用移動車両』Ex.に戻ったらリーデン様が既に部屋にいて、トル国から逃げそうとしていた獄鬼を海上で捕まえた事。
本当に王様をはじめ偉そうな貴族が獄鬼に憑かれていた事を報告し、この戦闘で魔豹が活躍した話もしたところ、リーデン様は楽しそうに目を細めた。
「魔力の提供者によって魔物の性格が変わるのではないかという観点は面白いな」
「そうですか?」
「ああ。ダンジョンの魔物は基本的に皆同じだ。冒険者を見掛けたら襲うようになっている」
言い方……と思ったけど、でもそう決まっていると言われたら「なるほどな」って思わざるを得ない。ダンジョンではこちらが先に気付いて巧く避ければ戦闘を回避出来るけど、先に見つかったり、目が合うと問答無用で必ず襲い掛かって来るから。
「ダンジョンの魔力は創造主が定めた「有るべき姿」を保つものだからな。一人一人異なる人々の魔力を注がれれば魔石の変化も多様だろう」
「飼い主に似る、みたいな?」
「ああ。しかしレンの世界の犬や猫のように主人を記憶するのではなく、ダンジョンの魔力が魔物をそうと定めるように、あくまで魔力の主に従うだけだと考えられる。家族のように情を持ち過ぎるのは止めておいた方がいい」
「……喉をごろごろさせたり、頭を擦りつけてきたり……可愛かったです」
「……そうか」
既に遅かったようだと目で語り、リーデン様はぽふりと頭を撫でてくれた。
「ところで、魔石には何を注いだんだ」
「何、ですか?」
「レンは魔力と神力を完全に分けることが出来るようになっただろう。魔力か、神力か、または混ざったものか」
「あー……意識していなかったのでたぶん混ざっていたと思います」
「ふむ。神力を注いだ場合はどうなるのか気にならなかったのか?」
「それは実験済みなんです」
一番最初のハエ足の魔石で顕現実験した時、最初は魔力だけを流すように意識した。
それから特に意識せずに、流れるままに。
この時に特に変化がなかったので神力だけを注いだ場合にはどうなるかが師匠と二人、とても気になったため、試したのだ。
結果、魔石は一瞬で破裂した。
「その後は角兎や牙犬の魔石で試してもダメで、純粋な神力は魔石と相性が悪いんじゃないかってことに」
「それは結論を出すのが早過ぎる」
リーデン様は笑った。
「角兎や牙犬の魔石など1センチにも満たない小粒に神力は重すぎる」
「重い、ですか?」
「どう例えれば良いか……そうだな、電気に例えてみるか。冷房を1時間使うために必要な電力を1,000W、これを魔力とするなら、神力だと100Wくらいで充分過ぎる」
「えっ」
「1ミリの魔石に丁度良く神力を込めるのは俺にも困難だ」
それは例えば小さな針穴に糸を通すようなもので、集中してコントロールしないとすぐに破裂させてしまうという意味だった。
「せめて3センチ……レンの技術力なら魔豹の魔石で試せるのではないか」
「ほっ、え、本当ですか? 試してみていいですかっ?」
「ああ」
興奮して魔石を取り出し、でもコントロールを失うとハエ足の魔石みたいに破裂させてしまう。
深呼吸を繰り返して自分自身を落ち着かせてから神力だけをゆっくりと注いでいく。
と、魔力に比べれば僅かこれだけでと驚くくらいあっという間に発光し、姿形を変えてくるりと回り着地した姿はどんどん大きくなり――。
「ゆっ……ゆきひょ……しろっ……!!」
ソファとサイドテーブルがガタガタと押し退けられる大きさは、体高2メートル、体長4……ううん、5メートル以上あるかもしれない。
動物園や写真で見たユキヒョウよりもずっと白い、ぬいぐるみみたいな真っ白な毛に黒いぶち。
目が薄紫色で、しかも、デカい。
「おっきい……!!」
柄が異なれば神獣白虎だと思ったかもしれない。
いや、ヒョウ柄でも白虎に見えるかもしれない、興奮し過ぎて柄が問題にならなくなってきた。可愛い! もふもふが尊い!
「うはぁ……」
震える手で触れた魔物の体は温かくて、ふわんて弾力があって。
なんだかもう感極まってしまって、足から力が抜けてしまいへなへなと座り込んでしまった。
「そこまでか」
リーデン様は面白そうに笑いながら俺の脇を抱えて、位置をずらしたソファの上に座らせてくれた。
「しかしそうか、ロテュスの魔石に神力を込めるとこう変化するのだな」
「知らなかったんですか?」
「私が出来るのは見守ることだけだ」
言い、蟀谷に触れるだけのキスしてくれる。
「おまえのおかげだ。それに、一緒に研究をしている気になれて、とても得をした気分だ」
「そう言ってもらえたら俺も嬉しいですが、……この子は、魔豹以上に一緒に外を歩けませんね」
「止めたておいた方が無難だろう。恐らくおまえの師匠にも出来るとは思うが」
神力の方が省エネだというし、魔力から完全に神力を分離させられる師匠なら確かに可能なんだろうけど……最近の師匠を見ていると驚いた拍子にうっかり心臓が止まってしまいそうでイヤだ。
あぁでも研究熱心なあの人の事だから、俺の知らないところで試して驚くかもしれない。
「注意だけしておきます」
「ん? ああ……?」
不思議そうに頷いているリーデン様に思わず笑ってしまいながら、ともあれ神力による顕現については師匠といつものメンバー以外には秘密にしておこうと固く心に誓ったのだった。
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