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第5章 マーへ大陸の陰謀

123.言葉を送る術式

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 エニスさん達が城に知らせてくれたおかげで、俺が船に戻った事はすぐに他のメンバーにも伝わり、彼らと一緒に船に戻って来た師匠セルリーは箇条書きにした確認事項を手渡して来て「主神様にお伺いを」と。
 グランツェパーティは俺が休んでいる時しか休む暇がないので、グランツェさんとモーガンさんは娘さんと、オクティバさんとディゼルさんは騎士団と一緒に訓練、ヒユナさんは、最近はとても意欲的に師匠セルリーと一緒に行動をしている気がする。
 今日も助手として城に行っていたそうだ。
 ヒユナさん曰く「レンくんは規格外だから比べようもないけど、セルリーさんは努力次第で到達できる見本みたいな先輩だもの。私もいい加減に成長しないとって思ったの」と。
 精神年齢は俺の方が上なだけに、思わず「成長が楽しみだなぁ」なんて思ってしまった。
 で。
 リーデン様に話を聞けるのは夜なので、俺たちは集まった面々で途中になっていた「遠くの特定の相手にメッセージを届ける術式」について実験を再開した。
 場所は変わらず俺の船室で、参加者はバルドルパーティと俺、クルトさん、師匠セルリー、それからヒユナさん。
 オクティバさんは騎士団との訓練が終わり次第合流予定だ。

「銀級ダンジョンで採れる魔石をギルドで購入出来ないかしら……文官経由なら不審がられない?」
「大掛かりな戦の準備中ですからね。三センチ以上の魔石はいろんな魔導具に仕えますし、さらに鳥型となると……」

 大きさは、術式を加工する関係で3センチ以上。
 5センチあれば尚良いけどさすがに今の時点では高望みが過ぎる。

「自分達で取りに行ければ早いんですけど、……最寄りの銀級ダンジョンって海岸沿いに南下して……陸路で一日かな」
「この船なら半日も掛からないんじゃ?」
「移動時間もそうだけど、俺達じゃ必要な魔石を手に入れるまでの時間が掛かり過ぎる。先にグランツェパーティに確認した方が良いんじゃない?」

 グランツェパーティはそこを踏破済みなので、時間さえあれば一気に下層に転移して魔物を討伐し魔石を持ち帰って来ることも可能だからだ。

「その点はグランツェパーティが合流してから考えましょ。そもそも術式が決まらないと魔石の使い道もないんだし」

 というわけで以前の、ギァリッグ大陸で見つかった電話に似た魔導具の術式と、オセアン大陸で見つかった録音の術式を新たに購入し、ここは要ると残し、この部分は要らないと削って紙に書いた術式を改めて全員で眺める。

「これ、思ったんですけど……録音して相手に届けるなら、この術式の大部分が不要じゃありませんか? 繋ぐ必要はないですもん」
「でも繋ぐ必要はなくても、この部分に特定の相手の情報を入れて、ここに行くっていう条件を満たさせる必要はあるでしょう?」
「ちょっとごめん、それよりこっちだわ。緊急用だと思えば、録音時間がこんなに要らない。せいぜい3……ううん、1分あれば良いと思うのよね」
「そうなると此処もがっつり削れるから、もう少し余裕が……」
「うーん……巧くいきそうな気もするけど、問題は此処よ」

 師匠セルリーが指差すのは相手を特定させるための部分。

「どうやって届けたい相手を指定するのかが難しいわ。その都度変わるでしょう?」
「……とりあえず今は、術式によって固定してしまったらどうでしょうか」
「固定?」

 俺が提案すると、皆がこっちを見た。

「今回の獄鬼ヘルネル討滅戦で、伝令が走っている間に戦況が変わることもあるでしょう? それを防ぐために、とりあえず皇帝陛下、海側の代表者、各軍の代表者、各国の代表者……? 人によっては魔石を大量に持ち歩くことになりそうですけど……あ、そっか。不要で削った部分に、魔石を決まった二人専用の伝書鳩にしたらいいんですよ!」
「でん……なんて?」
「伝書鳩! 此処と誰かを結ぶんじゃなくて、誰かと誰か……例えば俺と師匠セルリー間だけ行き来するように固定しちゃうんです。そしたらこれ一つで魔石が行き来してくれるから、片道の魔石を大量に持ち歩かなくてもよくなりますし、どれが誰宛なのかも間違わなくなると思います!」
「……なるほど?」

 師匠セルリーが考え込む。

「固定は判ったけど、何で固定する? 何か個人を特定するもの……」
「個人を特定……」
「身分証紋なら……」

 ぽつりとヒユナが言う。

「これなら、絶対に同じものはありません」
「ぁ……あれだっ、レイナルドさんとパーティを組むってなった時にララさんがくれた紙!」
「え?」
「パーティを組む時にサインするでしょ? あの時に最後に印鑑みたいにして証紋を当てたんです! あの時、このタグの証紋とは明らかに大きさが変わってました、大きく出来るなら小さくも出来るんじゃ⁈」
「それなら契約書とかに使われている特殊な術式ね。あれは国の管理になるから……」
「文官に聞いてきます!」

 ヒユナが急いで部屋を出ていく。
 それから師匠セルリーは手早くギァリッグ大陸から購入した電話に似た魔導具の術式から改めて「繋ぐ」部分を専用の紙に書き写し、清書。
 戦場の伝令に使うなら3分は録音出来た方が良いかもしれないと言い、そこを拡げた。
 ヒユナが戻って来た時には文官と一緒に大臣さんも現れてちょっと驚いたけれど、ものすごく興味津々って顔をしていたのでそのまま見学してもらう。
 しかも未加工で2.5センチくらいの、プラーントゥ大陸の銀級アルジョンダンジョンで入手出来るという樹の魔物の魔石まで提供してくれた。
 皆の顔が期待に緩む。
 それと同時に、ドキドキして来る。
 大臣さんの許可を得た捺印用の術式を、こちらの要望通り魔石に刻める大きさ……認印の半分くらいの大きさで写してもらって、俺と、師匠セルリーの紋を当てて魔力を流す。
 特殊な紙の上で述式に組み込まれ、繋がった俺と師匠セルリーの身分証紋。

「……さて、どうなるかしら」

 師匠セルリーは笑いながら言うけど、その表情は強張っていた。
 無理もない。
 これが初めての試みだ。

「……やるわよ」
「お願いしますっ」

 師匠セルリーは、これも弟子に教える技の一つだと言いながら、紙に清書された術式と魔石の合成を見せてくれた。
 合成には合成の術式があり、合成の術式に魔力を流す事で上に置かれた魔石と述式が一体化する。

「小刀とかで魔石に直接刻むんじゃなくてホッとしました」
「そんなんだったら世界から魔導具師がいなくなるぞ」

 バルドルさんと小声で言い合う間にも合成は成功。
 使い終わった紙の上にコロンと転がる2.5センチくらいの淡い緑色の魔石。

「……試してもいいかしら」
「もちろんです」
「お願いします」

 師匠セルリーに、皆が注目する。
 魔力を込めると、その姿は樹の魔物……地球で言うなら背丈1メートルくらいのトレントかな。そんな姿を象った。

「成功を願うわ」

 ただ一言の、録音。
 魔力を止めると、トレントはゆっくりと、亀みたいにゆっくりとした足取りで、俺の方に……!
 皆が息を呑んで見守る中、トレントは確かに俺の前で止まった。
 手を伸ばし、触れ、魔力を流すと――。

『成功を願うわ』

 セルリーの声でしゃべった。
 トレントが、確かに。

「……!」
「やった……⁉」

 大騒ぎになる船室で、しかし師匠セルリーの「まだよ! まだ調べなければいけない事がたくさんあるわっ」の声で、魔石が魔物に変化した時と同様に様々なケースを想定した実験が始まった。
 例えば証紋を刻んだ当人以外が魔力を流すとどうなるのか。
 答えは魔石が魔力を受け付けなかった。
 メッセージを届けられる距離はどれくらいだろうか。
 これは、船内の何処に移動してもちゃんと見つけて届けてくれたが、あまり離れすぎると時間が掛かるし、トレントの速度では先に魔力が尽きて魔石に戻ってしまうこともあった。

「やっぱり重要なのは速度と、魔石に込められる魔力量……!!」

 ついでにトレントだと目撃された時に魔物の氾濫シャルム・イノンダシオンを疑われて騒ぎになるという意見で、魔獣の形を思い浮かべようとしたのだが、木の形をした魔獣というのがまったく思い浮かばなくて断念した。
 結論。
 木の魔物はメッセンジャーには向いていない。

「切実に鳥の魔石が欲しいわ! それも銀級以上で速度の出る子……!」

 全員共通の強い要望を受け、大臣さんは意気揚々と城に向かった。
 お供は師匠セルリー、ヒユナさん、それから文官さん全員。帰って来た彼らがムエット……地球でいうところのカモメによく似ていて、これの魔物版が銀級アルジョンダンジョンで出現するらしく、魔の鴎ムエダグットの魔石を7つも持って帰ってきたことからも彼らが優位に交渉してきたのは明らかだった。
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