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第4章 ダンジョン攻略

100.打ち上げと ※後半微エチ

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乾杯ボンソワーレ!」

 お疲れさま、とグラスをぶつけ合い一気に煽る。
 クルト達はお酒、俺はジュース。
 無事にダンジョンを踏破したお祝いだ。

「うんま! この酒、美味い!」
「セルリーさんから弟子の面倒を見てくれた皆さんへの感謝の気持ちだそうです」

 大喜びでグラスを煽るのはウーガだ。
 ダンジョンから戻ったその足で俺は師匠セルリーのところへ素材を届けに行き、お酒を買いに行くというクルトさん達とはクランハウスで集合にしての現在だが、その際に二本の酒瓶を預かった。
 自分はまだ飲めないのが残念だと言ったら、成人した後は甘口のを用意しておく、って。この世界では15歳で成人だけど、自分の感覚ではどうしても20歳なので悩ましいところである。中身だけならとっくに成人済みなんだけどね。

「今日の夕飯は俺たちが屋台でいろいろ仕入れて来たからレンもゆっくり食え」
「明日の数日は朝のことも心配しなくていいからな。ダンジョンから帰って来たらゆっくり休んで体をリセットさせないと、家で寝てんのに3時間で起きちまう」

 エニスとドーガがいろんな惣菜を差し出しながら言う。
 今夜一晩では絶対に無くならないだろう量は明日の朝の分も見越してのことなのだろう。
 と、バルドルが言う。

「それなんだが、あまり間を置かずに銅級キュイヴルァダンジョンに挑んだ方が良いと思うんだが意見を聞きたい。もちろん数日は休むし明日の朝は起きて来なくて良いんだが」
「理由は?」

 エニスが問うと、バルドルは「『界渡りの祝日』だ」と。
 祖先が光りの道を通ってロテュスに移住して来た夜――10月の満月の晩を中心に前後三日間に渡って行われる、この世界の民にとって最も大切な日。
 一日目は移住を決心した祖先が集まった事を祝い、二日目は光の道を繋げてくれた主神に感謝し、三日目は未来への幸福を祈るのが『界渡りの祝日』だ。

「そっか、今年の祝日は5日、6日、7日で早いんだっけ」

 クルトが思い出したように言うと、バルドルは頷く。

「早い連中は9月頭からトゥルヌソルに来てダンジョンを攻略していく」
「テントや食欲を刺激する食事の事を考えると混雑している時期に行くのは避けたいかな」
「それは言えてる」

 クルト、ウーガと続く意見に俺も同感だ。
 周りに常に人気があるのは秘密を抱える身としてはとても落ち着かない。

「俺たち自身の成長ももちろんだが、レンのテントと食事のおかげで体調は悪くないと思う」

 言いながらバルドルが全員の顔を見渡す。
 ダンジョン踏破の達成感に溢れた表情には疲れの色が皆無だ。

「『界渡りの祝日』が過ぎてもダンジョンに挑んでいる連中がいつまで掛かるかは予測が難しいし、恐らくだが、銅級キュイヴルァダンジョンを踏破するのに、俺たち以上の速度が出せるパーティはいないだろう。それなら早めに踏破して次の予定に進む方が良いと思うんだ」
「ん。異議なし」
「同意するよ」

 クルト、エニスが賛成する横で、ウーガ、ドーガ、そして自分も首を縦に振って同意を示す。

「なら、明日はゆっくり休み、2日は買出しと食材の下拵えを全員で。そして3日に出発だ」
「りょーかい」
「うぃー」
「まぁでも今夜はお疲れさん!」
「「乾杯ボンソワーレ!」」

 みんなで再びグラスをぶつけ合った。


 それからは自由だった。
 まさか一撃で魔猪シャルム・サングリアの骨に届くとは思わなかったとか、後頭部にあんなにも深く矢が刺さるとは思わなかったとか。
 俺は何度も「応援領域クラウーズ」を発動していなかったかを確認された。
 事前に今回は力試しだと言われていたのだから使わないように注意していたし、師匠セルリーの指導のおかげで最近はコントロール出来るようになっているから、間違いなく発動していない。
 つまり、彼ら自身の実力。
 いまの彼らは鉄級フェ―ルンダンジョンのボスを数撃で討てるのだ。

「俺ら強くなったんだな!」

 そしてまた乾杯。
 すぐに銅級キュイヴルァダンジョンに行くのだから羽目を外すわけにはいかないのだけど、みんな随分と陽気である。

銅級キュイヴルァダンジョンはどういう予定で行くんですか? また15日間で申告して、……銅だから16階層ごとに帰還?」
「16階層を15日間で進むのは厳しいかもな。20日間くらいが平均じゃないか」
「そっか。階層の面積も鉄級フェ―ルンより広がるんですもんね」
「ああ。だが20日ごとの計画でいくと『界渡りの祝日』をダンジョンで迎えることになる」
「それは……一般的ではないんですか?」

 どう聞いたらいいのか少しだけ悩んで「一般的」という単語を選んだ。
 バルドルは「いや」と緩く頭を振る。

「ダンジョンで祝日を迎える冒険者も普通にいるぞ。ただ、今年はせっかくの1000年の節目だしな。ダンジョンにいると月が見えないし」
「あ、そっか。月が見えないのは……ちょっともったいないですね」
「だろ」

 満月はどの季節に見上げても綺麗だけど『界渡りの祝日』の月は異世界人の俺から見ても特別だ。獣人族ビーストの彼らにとってはとても大事な日だから尚更である。

(俺個人の都合だと、リーデン様は忙しいから皆と過ごせるダンジョンは歓迎だけど……)

 此方に来た最初の年、12歳のその日はクルトとこの部屋で過ごした。
 去年はこのメンバーで銀級依頼を受けていて、トゥルヌソルより南の僻地に素材採取で赴き、夜は皆で空を見上げながら果実水で乾杯した。
 そして、今年。

「3日に入って、祝日が翌月5日……32泊で銅級キュイヴルァダンジョンを踏破出来ると思うか?」
「えっ」

 エニスがちょっと驚いたように聞き返すけど、クルトは少し考えた後で「アリかも」と。

「いまだって、鉄級フェ―ルンダンジョンだったとはいえ全く疲労を感じていないんだ。あのテントと食事があれば、それほど難易度が変わらず距離が長くなるだけの銅級キュイヴルァダンジョン踏破の世界最速記録も狙えそう……?」
「1000年目の『界渡りの祝日』記念に無茶しようぜって計画で~とか言ったら、管理職員も呆れつつ認めてくれそうじゃん?」

 ウーガが目をキラキラさせながら言う。
 それはたぶん踏破済みの彼ら5人がいるから提案出来る計画に違いない。

「管理職員は、やっぱダメだったって言っておけば不審がられないし」
「でもそのあと行かなかったら……」
「記録されるのはパーティリーダーの名前と人数だけで、俺は踏破済みだ」
「あ……」
「そうゆうこと」

 この世界は街の出入りで必ず身分証紋の照合が行われ、犯罪歴があればすぐに判るようになっている。
 ダンジョンに仲間を置き去りにするとか、そういう罪を犯せば記録されるが、踏破したダンジョンを「しなかった」と偽っても、その目的が他者に不利益を被らせるなどでなければ罪にならない。
 今回の場合は身の安全のためだから問題にならないのだろう。

「本当に間に合わなければ、祝日が過ぎた後に再挑戦すればいいだけだしな」
「でも、掛かった日数は最終的にバレますよね?」
「管理職員にはバレない。銀から金に昇級する時に担当するギルマスかサブマスにはバレるが――」
「二人ともこっちの事情は知っているんだし、大丈夫だろ」
「……じゃあ、やっちゃう?」

 ウーガの期待に満ちた眼差し。

「『1000年目の界渡りの祝日』記念、目指せ最短踏破?」

 ドーガが呆れつつも笑いながら言い。

「素材採取とかは一切出来なくなるから、そのつもりでな」
「でも魔物は狩ろうね。肉は毎日補給しないと」

 エニス、クルト。

「ってわけだが、どうするレン」

 バルドルが俺に決定権を委ねたのは、踏破しなければならないのが俺自身だから。
 だとしても答えは決まっている。

「やります。遊び心も必要だと思います」
「よっしゃ!」
「やるかー!」
「おー!」




 ――という流れで銅級キュイヴルァダンジョンへの踏破計画が完成したら、いよいよ盛り上がりに歯止めが掛からなくなってきて、酒の匂いも強くなる一方だったため、先に部屋に下がる事にした。
 クランハウスの一室から、久々の設置済み扉を開けての帰宅。

「ただいまです」

 リビングのソファに座って仕事をしていたらしいリーデンは「おかえり」と言いながら何か訴えるような視線を向けてくる。
 鉄級フェ―ルンダンジョンの中で「行ってきます」と頬にキスしてから毎回これなので、さすがに察する。
 ソファの後ろに立ち、腰を曲げて彼の右頬にキス。

「ただいま、です」
「おかえり。……そんな嫌な顔をするくらいなら俺からキスするのを許せばいいんだ」
「イヤなわけじゃないです、恥ずかしいだけですから」
「同じだ。素直に俺に任せれば良いものを」
「リーデン様、すぐにく、口に、しようとするから」
「箍を外したのはおまえだぞ」
「うっ……」

 そんなつもりは毛頭なかったのだが俺からキス……キスって言っても頬なのに、それが何故か彼には我慢する必要無しと判断されたらしい。
 成人まで我慢させたいと思うなら俺の方から毎日キスをすること、なんて。

「好きな相手に触れたいと思わない奴がいるものか」

 それは判るけど。
 俺も触りたい、けども!
 ろくな経験もないくせに情報だけはいろいろと入っているせいで、触れたら、その後でどうなるのか考えると正直に言って恐怖しかない。
 しかも相手は神様で、いつだって余裕綽々に揶揄ってくる。

「……リーデン様は慣れているかもしれませんけど」

 少なからずイラッとしたせいで思わず声になって零れた呟きに、リーデンは驚いたような顔をして見せた後で、その目を細めた。

「ひどい誤解だな。俺が何に慣れているって?」
「わっ」

 腕を引かれ、ソファに引っ張り倒されたと思ったら顔が近い。
 そういうところがですけど!

「レン」
「っ」

 耳元に低く囁く声がエロい。思わず叫びそうになる声が留まったのは――。

「レン」
「そ、そういうの!」
「詳しく」
「……っ、俺だって判ってます! リーデン様は神様だし、カッコいいし、意地悪だけど優しいし、モテないわけないですもんね!」
「……褒めているのか怒っているのか、どちらだ」
「怒ってます!」
「ふむ」

 リーデンが強めに息を吐く。
 その表情は少しだけ笑っているように見えた。

「で? 俺の過去の恋人に嫉妬しているのか」
「っ……こんな、外見も中身もこどもの俺なんかよりずっと素敵な人だったんでしょうね⁈」
「さぁな。居たかもしれないが憶えていない」
「覚えてないくらいいっぱいいたんですか!」
「違う。そうじゃない」

 告げる唇が鼻先に触れた。

「記憶がないから判らないという意味だ」
「――」
「何も覚えていない。だが、おまえのおかげで『最愛』という言葉が実在することは思い出した」
「そ、……え?」
「おまえだけだ」

 もう一度、鼻先に。
 それから右の頬。
 眦。
 口の、横。

「うそ、です」

 掠れた声で必死に訴える。

「嘘。だって、ロテュスを見せたい人がいたって言いました」
「ん?」
「この世界はその人のためにって……」
「……ため、なんて言ったか?」

 言われて思い出そうとするけど、はっきりとは無理だ。

「でも見せたい相手はいたって言ってました! それは絶対です!」
「ああ、それは言っただろうが……レン」
「なんですかっ」
「……俺がこの世界を見せたいと願って来たのは過去も現在もただ一人だ。恐らくは未来にも」

 告げる手で頬を包まれた。
 そんな言い方をされたら期待してしまう。

「おまえだけだ」
「っ……」

 繰り返される言葉が告白にしか聞こえない。

「レン。触れて良いか」
「ぁ……だ、めで、す」
「レン」
「だって……だ、って」
「本当に嫌なら抵抗しろ」

 言うが早いか口が重なり俺は呼吸を止めた。
 一度、二度、触れるだけの柔らかなキスに続き、その唇に上唇を食まれて喉の奥から変な声が漏れる。

「……我慢しろというのは正解だったかもしれん」
「ぇ……」

 声が聞こえて来たことで詰まっていた呼吸が再開する。それだけで楽になるけど、軽い酸欠で頭がぼぅっとする。
 
「髪や頬にするのとは違い、これは、止められなくなるな……」
「……!」

 それは色々とヤラシイことを覚えたばかりの10代の台詞なのでは⁈
 俺は全力で拒否ってたから同級生の猥談を小耳にはさんだ程度ですけど! 
 でも。
 でも……っ。

「っは、リーデン様っ、待っ……!」

 塞がれる。
 口と口を重ねるのが。
 唇を唇で揉まれるのがこんなに気持ちいいなんて聞いてない。
 体の中、奥の深いところがゾクリとした。

「……っ」

 リーデンの肩に手を当てて突っ張る。
 離れて欲しい。
 離れたい。

「……イヤで抵抗するなら」
「イヤじゃなっ……違くて……ふ、ぁっ、でも、ダメ、ですっ。で、出るのがっ」 

 焦るあまり思わず口走ってしまった単語に、リーデン様の目が光る。

「出せばいいではないか。おまえが不慣れなのは知っている、幾らでも手伝うぞ」
「違っ、あっ」

 リーデンの手が下腹部に伸びる気配を察して俺は叫ぶ。

「ダメです出るのせーえきじゃないからっ」
「……ん?」
「ぉ、おれ、まだ、なので……っ」

 さすがのリーデンも動きが止まる。
 助かった……のかもしれないけど、恥ずかし過ぎて辛い。

 だから言ったんだよ、この身体はまだ子どもなんだって!!
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