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第3章 変わるもの 変わらないもの

閑話:バルドルの視点から『小さな希望』

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 銀級冒険者になってそろそろ8年。
 ここに至るまではそれなりに順調だったが、多くの冒険者が銀級で一生を終えると言われているように彼は自分もその内の一人だと思っていた。
 何せ銀から金へ上がるには鉄級ダンジョンを10か所、銅級ダンジョンを5カ所、銀級ダンジョンを3カ所踏破しなければならず、銀級3カ所ならプラーントゥ大陸で達成出来るのに鉄級ダンジョンを10か所廻るには5つの大陸を渡り歩かなければならないのだ。
 オセアン大陸やキクノ大陸には、そこへ観光に行く貴族の護衛依頼が割と多く張り出されるから良いが、他の大陸には滅多にない。
 自費で行くにはあまりにも高額だ。
 銀級冒険者の稼ぎが人それぞれとは言え、命の危険すらあるダンジョン攻略のために船代を出せるかと言えば二の足を踏む者が大半で、一方、銀級ダンジョンに潜り素材を売れば船代を稼げるのでないかと勇んで何も出来ずに死んでいく冒険者の何て多いことか。
 銀級冒険者だから銀級ダンジョンが踏破できるわけじゃない。

(あくまで挑戦権を得たに過ぎないのに……勘違いする奴らが大勢いる。俺たちもそうだった)

 無力を思い知らされた。
 だが、その恐ろしさを知っていればこそ次々と踏破していく彼らに憧れた。

(金級冒険者が立つ場所に、いつか自分も並び立てたなら……)

 先は無いと言いながら冒険者を続けていたのは、そんな想像をするくらいには、諦め切れていなかったからだ。




「うおぉっ寒い……」

 起きて窓の外を眺めると、毎年の事だがトゥルヌソルの街が雪に埋もれて真っ白になっている。昨日も朝早くから家の前の雪を掻いて、火魔法で燃やして溶かして綺麗に整えたのにたった一晩で元通りだ。
 今朝も最初の鍛錬は雪かきからだなぁ……と嘆息しつつ部屋を出る。
 と、ばったり顔を合わせたのはクルトだ。

「おはよう」
「おぅ、はよ」

 驚いて変な反応になってしまったが、クルトは特に気にする素振りもなく素通りして暖炉に薪を加える。

「キッチンに珈琲取りに行くけど、いる?」
「ぁ、ああ。もらう」
「ん。朝食はさっきエニスが全員分を取りに行ったから、俺と入れ違いくらいで戻ると思う」
「了解」

 薪にしっかりと火が点るのを確認してからクルトは部屋を出て行った。完全に扉が閉まって、ようやく俺は息を吐く。
 一つ屋根の下はこういうことがあるから気が抜けない。

(焦った……)

 顔は赤くなっていなかっただろうか。


 昨年10月の末から12月の頭まで。
 予定を少し超過して王都までの護衛依頼を終えた彼ら――バルドルパーティの4人は、トゥルヌソルに戻ってすぐに、それまでのクランハウスを解約。
 レイナルドパーティのクランハウスに引っ越した。
 本館と別館4棟からなる大きさにしばし呆然と立ち尽くしたのも、今となっては良い思い出。クルトが先に住んでいた北東の別館3階に、クルト、レン、バルドルパーティの4人という計6人で間借りしている形だ。
 部屋数の不足は、ウーガとドーガ兄弟が主寝室として使われる大きな部屋を共有することで解決。
 水回りの掃除は当番制。
 ただし、最年少のレンはほぼ毎日の本館のキッチンに立って此処で暮らす全員の食事をサポートしているから、こっちの当番からは外した。

「えっ。水回りは俺も使うんですから掃除します」

 それが12歳の子どもの台詞かと思ったが……いや、中身は25歳か。
 どうしても見た目に引き摺られて混乱するが、それは今は置いておく。
 要は、このクランハウスにはパーティメンバーの他に、彼らの家族も同居しているから、基本的には中央館のキッチンで用意した食事を各自で部屋に運んで食べていて、レンは朝5時から起きて朝食を準備し、午後6時を目処に夕飯を作っているのだ。

「一番お世話になっているのに戦闘はからきしで守ってもらってばかりなんですから、これくらい当然です」

 それを本気で言っているのも問題だが、レイナルド曰く「仕事させておいた方があいつ自身が楽そう」らしいので、まぁいい。
 しかし何でも頼り切りは俺たちの気持ちが落ち着かない。
「おまえが全員のために飯を作るなら、俺たちにだって何かさせろ」と凄んで、なんとか掃除当番から外すことに成功したけど、あれでレンの頑固さを思い知ったんだった。


「ぉぁょ……」

 談話室も兼ねたホールで窓の外を眺めていると、ドーガが目を擦りながら部屋から出て来た。
 兄弟の弟の方で、黄色やオレンジなんかの派手な服を着ている事が多い魔法使い。

「はよ。……寝不足か?」
「んー……兄貴がちょっとな」
「大丈夫そうか?」
「あー……うん。いまはぐっすりだし。たぶん環境が変わったのが良かったんだと思うよ、以前より全然マシだもん」
「そうか」
「うん。悪い、トイレ行く」
「おう」

 行って、一番右端の洗面所に入っていく。
 中央館の渡り廊下と繋がる扉から直接つながっている、このホールには六つの扉がある。
 左端が兄弟が共同で使うことにした主寝室で、その隣からエニス、バルドル、クルト、レンの部屋と並び、そして一番右端がバストイレだ。
 東向きの壁は一面が窓で、朝日をこれでもかというくらい室内に取り込んでいる。

「環境が変わった、か」

 バルドルパーティがここに越して来た当初はクルトが一人で居心地悪そうに暮らしていて、個人の寝室以外は生活感のない空虚な場所でしかなかったが、6人で共同生活をするようになってからはホールにも次々と物が増え、2カ月経った現在では随分と雑多な部屋になってしまった。
 倉庫の家具は好きに使えと許可が出たこともあり、6人で食事が出来る大きなテーブルの傍には個々の椅子。
 暖炉や本棚など、自分好みの場所には専用ソファまで置かれている。
 あとは、パーティの貯蓄が貯まったら部屋で好きな時に珈琲を飲めるよう専用の道具くらいは揃えたいところだ。


 ●

 2月の9日、月の日。
 この日も朝から雪が降り積もり、バルドルパーティの4人とクルトは、クランハウス前の雪掻きを終えたその足で、ゲンジャル、ウォーカー両名によってトゥルヌソルの街の中にある鉄級フェ―ルンダンジョン――商門の近くに広がる森の中に入り口を持つ、全30階層の中の第25階層に放り込まれていた。
 ここは、この場の全員が踏破済みだからだ。
 おまけに首から下げさせられた瓶から香る、ちょっと酸っぱい匂いは吸血虫ムスティックを誘き寄せるもの。
 5人は、今まさに虫に襲われて血を吸われまくっていた。

「しっかりと全身に魔力を行き渡らせて皮膚に虫の牙が刺さらないようガードしろ。でないと血がなくなって死ぬぞ」
「くっ……!」
「全身くまなく、隅々までだ! 少しでも隙があれば吸血虫ムスティックはすかさずそこから喰らい付くからな!」
「あー……ウーガがやばいわ」
「退場」
「うあ゛っ!!」

 ゲンジャルの指摘に、ウォーカーが火魔法を放ちウーガを焼く。
 初めての事ではないから誰も心配はしないものの仲間が火だるまにされれば体の芯が冷えていくような感覚に襲われる。
 吸血虫ムスティックは火にひどく弱い。
 焼かれれば一瞬で焼失し、焼けた匂いは何よりの虫除けになるから、見た目は酷いがプスプスしているウーガがこの場では一番安全を確保したことになる。

「ほれほれしっかりと魔力をコントロールしろ! 吸血虫ムスティックに血を吸われて死ぬか、火だるまになるか、全身ガードをものにしてこの特訓を終わりにするかだ!!」

 あんまりな三択に、しかし泣き言をいう者はいない。
 焼けてリタイアさせられたウーガも不甲斐なくて悔し泣く。
 4人になった吸血虫ムスティックとの攻防は、それから20分を経てバルドル一人が立った状態で終了を告げられた。


「そういえばおまえら、今日はレンの食材の買出しを手伝うんだったか」
「くっ……」

 思い出すならもう少し早く思い出して欲しい!
 25階層の地面の上で呼吸荒く寝転がっている五人の心の声は共通していたが、そもそももう3回目になる実習訓練をいまだ達成できない自分が悪いのだ。
 これくらいで買い物すら出来なくなってどうする!
 その一心で無理やり起き上がると、体中が悲鳴を上げた。

「あ゛ー……っ」
「へぇ。バルドルは起き上がれるのか」
「ぃっ、必死っスけどね……!」
「それでも上々だ」

 ウォーカーが褒めると、他の面々も悔しそうに地面で蠢き出す。

「俺だって……っ」
「お。クルトもいけるか」
「くっ……」

 ゲンジャルが興味深そうに見るも、クルトの手足は僅かに前後するだけで思うように動かないのが見て取れた。同時に、その表情が悔しそうに歪む。

「くっそ……半年も先に始めてるのに……っ」

 あぁそういう理由もあるのかと足掻くクルトを見ていると、ウォーカーが怪訝な顔付きになる。

「だからクルトの瓶にはより強い香りを仕込んであるぞ」
「――」

 驚いて目を瞠ったのは言われたクルトだけではない。

「クルトにだけ吸血虫ムスティックより牙の強い暴食虫グーラ・ムスティックが混ざっていたのに気付かなかったのか?」
「まだまだだねぇ。それでも何匹かは撃退してたが」
「……そ、なん……」
「あ」

 起き上がろうとしていたクルトの身体が地面に落ちて、そのまま動かなくなる。
 ショックが大き過ぎて気絶したらしかった。
 そんなクルトを見て笑う金級冒険者は鬼に思えたが、その顔を見てみれば誇らしそうに笑んでいるのが判る。彼らにとってクルトは自分達より半年早く面倒を見ている弟子みたいなもので、その成長を喜んでいるのは間違いない。
 そういう人たちに自分も鍛えられているのだと思うと胸が熱くなった。

「さて、今日はもう戻ろう。レンには俺たちが謝っておく」

 ウォーカーはそう言って気絶したクルトを軽々と抱き上げた。




 クランハウスに戻って来たものの、勝手に部屋に入るのも憚られてホールにあった長椅子に横たえられたクルトは、それからしばらくしても目を覚まさなかった。
 兄弟も、エニスも疲労困憊で部屋で休みたいというが、誰が来るかも判らないホールに意識の無いクルトを一人置いておくのも気が引けて、バルドルは傍に椅子を寄せて傍にいることにした。クルトの顔の方に椅子の背中を向けたのは精一杯の配慮である。
 気付けばバルドルも浅く眠ってしまっていたらしい。
 近付いて来る軽い足音に気付いて目を覚ましたことで、それを自覚した。

(これはレンだな)

 誰かを察して安心する。
 案の定、扉の前で一呼吸置いたレンは音を立てないよう気遣いながらそっと扉を開けてくれる。

「……あ、バルドルさん。起きてたんですね」
「いや、少し寝てたわ」
「起こしちゃいましたか」

 申し訳なさそうな顔をするレンに、バルドルは左右に首を振って笑う。

「大丈夫だ。それより今日は買出しに付き合えなくなってすまなかったな」
「いいえ。ウォーカーさんとゲンジャルさんから事情を聞いて、お二人がそのまま買出しにも付き合ってくれたので問題ないです。今夜はチーズをたっぷり使ったピザを焼きます。血が足りてないと思うのでレバーとほうれん草を使った副菜も準備しますからね」
「まじか。楽しみだな」
「期待していてください」

 そう言って笑ったレンは、眠っているクルトの傍まで静かに近付き膝を折り、その腕に触れて魔力を流す。

治癒ソワン

 途端、吸血虫ムスティック等に差されて傷だらけだった体が柔らかな光に包まれ、ゆっくりと痛々しい跡を消していく。
 あっという間だった。

「バルドルさんも怪我の治療をしますよ」
「あ、あぁ……」
治癒ソワン

 躊躇なく流される癒しの力。
 僧侶の治療を当たり前に受けられるという環境を改めて実感し、眩暈がした。
 最初は応援領域持ちクラウージュの子どもだと知り興味を持っただけだった。こういう子なら金級オーァル冒険者になるのだろうか、と。
 小さな憧れと、強い嫉妬。
 そんな子どもがクルトと親しくなったと知った当時は、後に獄鬼ヘルネルとして排除された男の言動のせいもあって色々と拗らせていた時期だ。
 しかし冒険者ギルドの酒場で言い合う二人を……泣いているクルトを見たら、それまでの自分が大事に守っていた矜持や、わだかまりが、途端にひどく下らないものに思えたんだ。

(クルトがお人好しで不器用な奴だってこと、知っていたはずなのにな……)

 彼を「好きだ」という資格すら失くしたと思ったが、落ちた心を掬い上げたのもどういうわけかこの僧侶の少年で。 
 近しくなってみたら、まかさの金級パーティに勧誘され。
 更にレンが類稀な僧侶の才能を与えられた異世界人で主神様の嫁候補だって聞かされるし、精神年齢は25歳で俺らの同輩だって秘密の共有者に巻き込まれ、こいつを守るために金級冒険者になれと命じられた。
 人生どうなるかなんて最期まで判らないものなんだ。

「ところでバルドルさん」
「なんだ」
「意識の無いクルトさんに何もしてないでしょうね」
「するかっ」
「えー」
「なんなんだおまえ」
「自分でも知らなかったんですけど、人の恋バナを聞くのって結構好きだったみたいで」
「おう、それなら俺も無責任に楽しめるわ。おまえの話をしてみろコラ」
「あはは。せっかくだから今日はお昼も俺が準備しますね」

 笑って誤魔化しながらキッチンに逃げるレンは、たまに強い……どころじゃなく、手を出したら瞬殺されそうな強烈な圧を放つ事がある。
 邪な目的で変な奴がレンに近付いて来た時が大半だから、主神様の嫁候補だというし、そういう事なんだろうとは思うものの、どこでどう逢瀬を繰り返しているのかは誰も知らない。
 知っているのは、このクランハウスにいる時は夕飯もそこそこに就寝してしまうことと、朝は早い時間から起きているってことくらいだ。

(確かに可愛い顔をしているとは思うが、……まぁ主神様の好みなんざ知ったこっちゃないな)

 好みを気にするならそっちよりもこっちだ。
 まさかクルトの恋愛対象が女性だったとは想定外もいいところである。

(女性ってことは小柄な子が好みなのか……いや、女性が対象の場合の多くは胸部が理由だって聞くしな……)

 バルドルは自分の胸部に視線を落とす。
 筋肉で盛り上がってはいるが、クルトが好ましいと思う盛り上がり方ではないだろう。
 困った。

「……凄い顔して悩んでいるみたいだけど、どうした」
「んー、俺が雌体になったところでクルトの恋愛対象にはならんだろうなぁと……」
「え」
「え?」

 驚いて振り返ったら、上半身を長椅子に起こしたクルトと目が合った。

「……え、っと……」

 どちらともなく外した視線があちこちに泳ぐ。
 赤面してしまうのは仕方がない。
 さてどう話題を転換したものかと悩むバルドルだったが、意外にもクルトから声が掛かる。

「……っていうか、バルドルが雌体になんの? 俺のために?」
「そりゃあ……好きな奴と一緒に居られる方法を探るのは基本だからな。おまえの理想が家族を持つ事ならそうなるだろうが、……その、なんだ。胸部のコレが好みなら無理だが」

 自分の手を胸部に置き、膨らむような動作をして見せる。
『雌雄別の儀』で性別を変えたところで男の胸部は膨らまない。出産すると母乳が出るという話は聞くが、それだって片手で収まらないなんて大きさにはならないのだ。

「ふ……ふはっ」
「……そんなおかしなことを言ったか?」
「いや……でも、そういう口説かれ方をしたのは初めてだな、って」
「モテ自慢か」
「どっちかというと不幸自慢だよ。今まで本当にロクなのが近付いて来たことなくて、恋愛なんて面倒になったというか……テルア達とチーム組んでからは、かなり守ってもらっていたんだよ。……まぁ、ジェイのこともあって、今はこうだけど」
「あー……まぁそこはジェイに感謝しておけば」
「感謝?」
「あいつがクソな真似したおかげでレンがおまえのネームタグを拾ったんだろ」

 あいつの言動を肯定する気なんてまったくないが、あの一件から周囲が羨むほどクルトの状況が好転したことは間違いない。

「……そうだね。そう考えるとジェイのおかげか」
「いや、やっぱあいつの存在は消去の方向で」
「急にどうしたのさ」
「あの野郎、事あるごとに自分の方がクルトに近いってマウント取ってきやがったことを思い出した。ムカつく、っかーっ最後にぶっ飛ばしたかった!」
「は……」

 クルトは呆気に取られたように固まり、……唐突に、笑った。

「ははっ、あははは!」

 眦の涙を拭うくらい笑われて少なからず傷つくが、でも。

「……よかった」
「え?」
「俺にもおまえを笑わせられた」
「……っ」
「おぉ……」

 笑わせられた上に、赤面までさせられた。
 自分の言動でクルトの感情に触れられることが、こんなにも嬉しい。

「あー……あのさ、もうあれだし、本音言うと好きなんだが」
「……うん」
「ん。でも恋愛が面倒だってクルトが言うなら押し付ける気はないし、仲間としてこれからもよろしくで構わないんだ。ただ、……その、発情期に適当な相手を見つけるつもりなら俺を頼って欲しいというか」
「っ、なんでそれ……」

 驚愕の表情で見返されたバルドルは「すまん」と頭を下げた。
 ただ、これもジェイがマウントを取るために言って来た話で、当時の自分は嫉妬心を刺激されて非常に大変だったのだ。
 いまの時代、祖先にはあったという発情期がある種族は珍しい。
 イヌ科シアンネコ科シャではまず聞かないし、ウマ科シュヴァルクマ科ウルスも然り。
 だが、祖先が捕食される側の場合は先祖返りで体に変調を来す子孫がいることは周知の事実で、リス科エキュルイユはその出現率が高い。

「あいつ、そんな嘘まで流してたのか……」
「嘘……その嘘でかなり嫉妬させられたんだが……」
「まったくの無駄だね。適当な相手なんて探した事もないし」
「え。でも」
「ないってば」

 じゃあどうしてんの。
 発情期があるっていうのがそもそも嘘なのか?
 首を傾げていたら、クルトは大きな溜息をつく。

「発情期なんて年に一回、一週間くらいの短い間だし、一人でどうとでもやり過ごすに決まってる」
「ぁ、そう、か」

 なんて誤解をしていたのかと自己嫌悪に陥りそうになったところで、再びクルトの溜息。

「でも、今年は発情期が来るとレンくんの目標達成に差し障るから何とかしたい、かなぁ……」
「……うん?」
「……適当な相手を探す気はないけど……まぁ、頼りたいって思える相手がいたら助かる、かな。そう思えるようになったら、だけど」
「……え?」

 赤い顔でそっぽを向いたクルトと。
 赤い顔でクルトの言葉を噛み砕くバルドルの、熱い鼓動。

 それは攻防開始の合図、……かも? 
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