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第3章 変わるもの 変わらないもの
86.道中(5)
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「クルトさんに恋人がいるかいないかって話なら、いないので頑張ってください?」
この返答でいいかな、と思いつつ伝えたらバルドルの顔が一瞬で真っ赤になった。
「っ……待て。ちょっと待て」
顔を逸らして何かを堪える仕草をして見せたバルドルはしばらくしてから「……なんでだ?」と疑惑の目を向けてくる。
「そんなに判りやすいのか?」
「そう、ですね。俺には判り易かったです」
「おまえにはってどういう意味だ」
「声を掛けて来る度に「今日は一緒じゃないのか」とか「いま何をしてるんだ」ってクルトさんのことを聞かれたら誰だって気になってるんだなぁくらいは気付くでしょうけど、バルドルさんは俺にしか聞かないでしょう?」
メンバーの様子を知っているのはメンバーで、でもレイナルドパーティは俺とクルト以外は全員が金級。バルドルが気軽に話しかけられる相手ではない。必然的に訊ねられるのは俺だけだった、ただそれだけのことなのだが、本人にとっては衝撃の事実だったらしい。
「そんなに聞いてたか?」
「会うたびに」
「それはないだろ」
「ありますよ」
「……嘘だろ」
「それは俺の台詞ですね」
まさか自覚もなくあんなにクルトのことを気に掛けていたのかとビックリである。
「そんなに気になるならさっさと告白しちゃえば良かったじゃないですか」
「簡単に言うな、春先まではジェイと付き合ってただろうが」
「は?」
「……なんだよ」
思わず聞き返したら睨まれた。でも今のは聞き捨てならない。
「あんな身の毛がよだつような気色悪い獄鬼とクルトさんが付き合ってたわけないじゃないですか」
思わず早口で責めるような言い方をしてしまったが、バルドルは怪訝な顔付きになるだけ。
「……俺はこれでもかってくらい威嚇されてマウント取られていたんだが」
「あの獄鬼、独占欲と執着心の塊だったみたいですもんね」
実際に接したのはクルトと一緒に居た時に近付いて来られたあの一回だけだったから俺自身が本人から聞いたわけじゃないけど、レイナルド達の話を聞く限りは酷く質の悪いタイプだったんだと思う。
「でもクルトさんとは絶対にそういう仲じゃなかったですよ」
「そうなのか……?」
「はい。だってクルトさんの恋愛対象は女性ですし」
「……なんて?」
「聞き返したい気持ちは判ります。俺も聞いた時はちょっとびっくりしました」
俺がそう続けるも、バルドルの衝撃は和らがなかったようで少し呆然とした顔をしている。この半年でこの人が善人なのは実感しているから、本人が頑張るなら応援したいと思うし、ゆっくりと話を聞くのも吝かではないのだが、如何せんいまは見張り番の途中だ。
「バルドルさん。とりあえず今はテントに戻って自分の役目を果たしましょう。王都に着いてからでもよければ時間取りますし」
「……おう、そうしてくれるか」
「はい」
見えて来たテントの灯りを目印に道を分かれて火の傍に戻ると、ウォーカーとミッシェルが俺の頭から足の爪先までをサッと確かめて、微笑う。
「無事に戻って来たな」
「大丈夫ですよ、バルドルさんと一緒でしたし」
「そうなの」
ミッシェルが面白そうに言う。
「レイナルドからレンが親しくしてるって聞いたから反対はしなかったけど、銀級の子たちとどんなきっかけがあって仲良くなったの?」
正直に話すとクルトの様子を知りたがったバルドルから声を掛けられたからだが、そのまま話すのは憚られた。
となると、説明は中略だな。
「鉄級依頼を終えて一人お疲れさん会をしていたら、頑張ってる後輩に奢ってやるって言ってくれたんです」
「へえ」
「それからは結構な頻度で一緒にご飯食べたりしました」
バルドルパーティは平均年齢が20代前半で、最年長のバルドルが27歳。
この見た目と同年代の友達を作ろうと思ったらさすがに精神年齢が合わな過ぎると気付いた後だっただけに、彼らと過ごす時間は居心地が良かったし、朝晩をリーデンと一緒に食べていると昼はぼっち飯なのが寂しくて、同席してくれるのが単純に嬉しかったんだ。先輩冒険者の話を聞けるのも勉強になったしね。
「面倒見のいい子達だったのね」
年齢が10も離れると「子」扱いになるんだなぁと二人の反応を見て思いながら、周囲への警戒と、眠気覚ましの会話を続けた。
バルドルとも話した野営時の朝ごはんに関してや、王都までの道中にある町や村のこと。この辺りに出る魔獣の種類。
「この辺はダンジョンも多いから珍しい素材が採れるかもね」
「楽しみです……!」
蓄えてきた知識が役立つ時だと思ったらワクワクしてきた。
――それから王都に到着するまでの、約20日間。
予定より1週間近く遅れたのは途中で野営に飽きた貴族のお嬢様が宿での宿泊を複数回要求したためで、途中からは罪人を乗せた護送馬車、その護衛にあたる憲兵隊、そして此方との連絡役も兼ねたグランツェパーティが王都へ先行するため別行動になってしまった。
「仲間を取り戻しに来るかもしれない」という理由で護送馬車の方が危険度が高かったからだ。
幸いにも護送馬車はほぼ予定通りに王都入りしたし、此方側が獄鬼に襲われるということもなかったが、平穏無事だったわけでもない。
魔獣との戦闘は複数回起きたし、朝晩が冷え込むせいで体調を崩す人も多く、セルリーが用意してくれていた薬はどんどん在庫を減らしていく。途中で素材だけでも蓄えられたら良かったのだが、ただでさえ日程が押しているため素材採取の時間など取れるはずもない。
「僧侶のくせに病気も治せないなんてとんだ役立たずね」
貴族のお嬢様にそう言われてしまえば「申し訳ありません」としか言えないのである。
役立たずと言われたら、いまの俺は確かにその通りだ。だけど落ち込む時間が勿体ないので練習あるのみ。それに……。
「誰のせいで日程が延びて病人が増えると思ってんだ、あぁ?」
「情報を伏せているのは此方だけど『知らない』って怖いわよねぇ」
「僧侶が病気治すだけだと思っているならどんだ勉強不足なんじゃないですかね、あのお嬢様」
ふふふ、あははとにっこりするパーティメンバーの笑顔は作り物めいていて恐ろしく、バルドルパーティは緊張を強いられたようだったが、俺の心は温かかった。
王都に到着する3日前。
護送馬車を送り届けたその足でUターンして来たというグランツェ、モーガン、セルリーと再会・合流した。
「まだこんなところに居たのか」って驚いていたけれど、たぶん全員が心の中で「貴族の護衛なんて……」って考えていたはずだ。
そして、夜。
見張り番の開始時間を遅らせて全員で一つの焚き火を囲みながら王都から齎された情報には全員が眉間に皺を刻むことになった。
「……そんなに獄鬼が入り込んでいるのか」
「違うわ。獄鬼に成りかけの弱い気配が多いって言ってるの」
レイナルドとセルリーが言い合う。
この世界の人たちにとって獄鬼は獄鬼なんだけど、連中の気配が感じ取れて、天敵認定されている僧侶には、人に取り憑く前と後のそれには明確な違いがあるらしい。
らしいって言うのは俺が取り憑く前の獄鬼を知らないからだ。
人に取り憑き、力を蓄えた獄鬼ほど僧侶の神力に反応するから気取られないためにも近付いて来ないだけの知識がある。
一方で取り憑く体を探している状態の獄鬼は、それを得るために人が群れる場所に近付いて来るのだ。
「少し前までならトゥルヌソルの周辺にもいて僧侶が近付くだけで消せる程度の連中よ。でも最近はトゥルヌソルに近付く事すら出来ないから余計に王都に集まっているんだと思う」
「……トゥルヌソルに近付けない、ねぇ」
みんなの視線が俺に集まる。
そうですね、俺の影響で間違いないと思います。
「トゥルヌソルの4.5倍の面積がある王都で、僧侶は半分以下なんだもの。器を見つけたい獄鬼にとっては格好の狩場だわ」
「正確には何人だ?」
「ギルド長の話だと4人。一人は診療所に勤めているそうだ」
「4人か……」
「僧侶の総数を考えると決して少なくはないんだが、な」
「トゥルヌソルに集まり過ぎなのは否めない」
「ああ」
「対策は必要だな」
金級冒険者達とセルリーの遣り取りを、銀級冒険者達と俺は黙って聞いているしかない状況が歯痒い。
役に立てることはないのかな。
なにか、俺にも出来ること……。
「レン」
「っ、はい」
レイナルドに声を掛けられ、慌てて背筋を伸ばす。
「本来なら未成年のおまえに頼むのは間違っているが、セルリーが言うにはおまえの神力の量だと、人に憑く前の獄鬼なら手で払うだけで消せるらしい。本当に問題ないかは確認が必要だが、それが可能なら王都に滞在中は消すのを手伝ってもらいたい。……やってくれるか?」
「そ、はいっ、もちろんです!」
即答すると、セルリーさんは「絶対に大丈夫よ」と俺より自信満々の笑顔。
レイナルドが次に声を掛けたのはクルト達だ。
「クルトとバルドルパーティには、王都滞在中のこいつの面倒を見てもらいたい。バイト代は俺が出す」
「え」
唐突な提案に銀級冒険者5人が驚きの声を上げるが、金級冒険者達にとっては当然の流れだったらしい。
「あの貴族のお嬢ちゃんがレンを役立たずだと思っているなら都合が良い」
「王都には厄介な連中が多いからな。出来ればフードを被せて顔は出さず、僧侶の紋も隠し、普通の新人冒険者を装わせたい」
「レンが変な奴らに絡まれないよう護ってやってくれ」
「……判りました」
バルドルパーティの4人が互いに顔を見合わせて頷き合うのと、クルトの手が俺の背中に添えられるのが一緒。
「絶対に護ります」
「頼む」
その後はグランツェ、モーガン、セルリーがバルドルパーティに加わる形で見張り番のシフトが調整され、これまでと同じように魔獣や盗賊の襲撃に警戒。セルリーが戻ってくれたおかげで病人も癒せるようになり、修行という名目で俺も彼女の指導を受けながら病人の治療を試みるようになった。結果はすぐに出ないけど、病人に対する魔力の扱い方が少しずつだが確実に理解出来るようになったと思う。
休憩時にも薬草や実といった素材を集められるようになり、11月の13日、森の日。
俺たちは王都へ到着したのだった。
この返答でいいかな、と思いつつ伝えたらバルドルの顔が一瞬で真っ赤になった。
「っ……待て。ちょっと待て」
顔を逸らして何かを堪える仕草をして見せたバルドルはしばらくしてから「……なんでだ?」と疑惑の目を向けてくる。
「そんなに判りやすいのか?」
「そう、ですね。俺には判り易かったです」
「おまえにはってどういう意味だ」
「声を掛けて来る度に「今日は一緒じゃないのか」とか「いま何をしてるんだ」ってクルトさんのことを聞かれたら誰だって気になってるんだなぁくらいは気付くでしょうけど、バルドルさんは俺にしか聞かないでしょう?」
メンバーの様子を知っているのはメンバーで、でもレイナルドパーティは俺とクルト以外は全員が金級。バルドルが気軽に話しかけられる相手ではない。必然的に訊ねられるのは俺だけだった、ただそれだけのことなのだが、本人にとっては衝撃の事実だったらしい。
「そんなに聞いてたか?」
「会うたびに」
「それはないだろ」
「ありますよ」
「……嘘だろ」
「それは俺の台詞ですね」
まさか自覚もなくあんなにクルトのことを気に掛けていたのかとビックリである。
「そんなに気になるならさっさと告白しちゃえば良かったじゃないですか」
「簡単に言うな、春先まではジェイと付き合ってただろうが」
「は?」
「……なんだよ」
思わず聞き返したら睨まれた。でも今のは聞き捨てならない。
「あんな身の毛がよだつような気色悪い獄鬼とクルトさんが付き合ってたわけないじゃないですか」
思わず早口で責めるような言い方をしてしまったが、バルドルは怪訝な顔付きになるだけ。
「……俺はこれでもかってくらい威嚇されてマウント取られていたんだが」
「あの獄鬼、独占欲と執着心の塊だったみたいですもんね」
実際に接したのはクルトと一緒に居た時に近付いて来られたあの一回だけだったから俺自身が本人から聞いたわけじゃないけど、レイナルド達の話を聞く限りは酷く質の悪いタイプだったんだと思う。
「でもクルトさんとは絶対にそういう仲じゃなかったですよ」
「そうなのか……?」
「はい。だってクルトさんの恋愛対象は女性ですし」
「……なんて?」
「聞き返したい気持ちは判ります。俺も聞いた時はちょっとびっくりしました」
俺がそう続けるも、バルドルの衝撃は和らがなかったようで少し呆然とした顔をしている。この半年でこの人が善人なのは実感しているから、本人が頑張るなら応援したいと思うし、ゆっくりと話を聞くのも吝かではないのだが、如何せんいまは見張り番の途中だ。
「バルドルさん。とりあえず今はテントに戻って自分の役目を果たしましょう。王都に着いてからでもよければ時間取りますし」
「……おう、そうしてくれるか」
「はい」
見えて来たテントの灯りを目印に道を分かれて火の傍に戻ると、ウォーカーとミッシェルが俺の頭から足の爪先までをサッと確かめて、微笑う。
「無事に戻って来たな」
「大丈夫ですよ、バルドルさんと一緒でしたし」
「そうなの」
ミッシェルが面白そうに言う。
「レイナルドからレンが親しくしてるって聞いたから反対はしなかったけど、銀級の子たちとどんなきっかけがあって仲良くなったの?」
正直に話すとクルトの様子を知りたがったバルドルから声を掛けられたからだが、そのまま話すのは憚られた。
となると、説明は中略だな。
「鉄級依頼を終えて一人お疲れさん会をしていたら、頑張ってる後輩に奢ってやるって言ってくれたんです」
「へえ」
「それからは結構な頻度で一緒にご飯食べたりしました」
バルドルパーティは平均年齢が20代前半で、最年長のバルドルが27歳。
この見た目と同年代の友達を作ろうと思ったらさすがに精神年齢が合わな過ぎると気付いた後だっただけに、彼らと過ごす時間は居心地が良かったし、朝晩をリーデンと一緒に食べていると昼はぼっち飯なのが寂しくて、同席してくれるのが単純に嬉しかったんだ。先輩冒険者の話を聞けるのも勉強になったしね。
「面倒見のいい子達だったのね」
年齢が10も離れると「子」扱いになるんだなぁと二人の反応を見て思いながら、周囲への警戒と、眠気覚ましの会話を続けた。
バルドルとも話した野営時の朝ごはんに関してや、王都までの道中にある町や村のこと。この辺りに出る魔獣の種類。
「この辺はダンジョンも多いから珍しい素材が採れるかもね」
「楽しみです……!」
蓄えてきた知識が役立つ時だと思ったらワクワクしてきた。
――それから王都に到着するまでの、約20日間。
予定より1週間近く遅れたのは途中で野営に飽きた貴族のお嬢様が宿での宿泊を複数回要求したためで、途中からは罪人を乗せた護送馬車、その護衛にあたる憲兵隊、そして此方との連絡役も兼ねたグランツェパーティが王都へ先行するため別行動になってしまった。
「仲間を取り戻しに来るかもしれない」という理由で護送馬車の方が危険度が高かったからだ。
幸いにも護送馬車はほぼ予定通りに王都入りしたし、此方側が獄鬼に襲われるということもなかったが、平穏無事だったわけでもない。
魔獣との戦闘は複数回起きたし、朝晩が冷え込むせいで体調を崩す人も多く、セルリーが用意してくれていた薬はどんどん在庫を減らしていく。途中で素材だけでも蓄えられたら良かったのだが、ただでさえ日程が押しているため素材採取の時間など取れるはずもない。
「僧侶のくせに病気も治せないなんてとんだ役立たずね」
貴族のお嬢様にそう言われてしまえば「申し訳ありません」としか言えないのである。
役立たずと言われたら、いまの俺は確かにその通りだ。だけど落ち込む時間が勿体ないので練習あるのみ。それに……。
「誰のせいで日程が延びて病人が増えると思ってんだ、あぁ?」
「情報を伏せているのは此方だけど『知らない』って怖いわよねぇ」
「僧侶が病気治すだけだと思っているならどんだ勉強不足なんじゃないですかね、あのお嬢様」
ふふふ、あははとにっこりするパーティメンバーの笑顔は作り物めいていて恐ろしく、バルドルパーティは緊張を強いられたようだったが、俺の心は温かかった。
王都に到着する3日前。
護送馬車を送り届けたその足でUターンして来たというグランツェ、モーガン、セルリーと再会・合流した。
「まだこんなところに居たのか」って驚いていたけれど、たぶん全員が心の中で「貴族の護衛なんて……」って考えていたはずだ。
そして、夜。
見張り番の開始時間を遅らせて全員で一つの焚き火を囲みながら王都から齎された情報には全員が眉間に皺を刻むことになった。
「……そんなに獄鬼が入り込んでいるのか」
「違うわ。獄鬼に成りかけの弱い気配が多いって言ってるの」
レイナルドとセルリーが言い合う。
この世界の人たちにとって獄鬼は獄鬼なんだけど、連中の気配が感じ取れて、天敵認定されている僧侶には、人に取り憑く前と後のそれには明確な違いがあるらしい。
らしいって言うのは俺が取り憑く前の獄鬼を知らないからだ。
人に取り憑き、力を蓄えた獄鬼ほど僧侶の神力に反応するから気取られないためにも近付いて来ないだけの知識がある。
一方で取り憑く体を探している状態の獄鬼は、それを得るために人が群れる場所に近付いて来るのだ。
「少し前までならトゥルヌソルの周辺にもいて僧侶が近付くだけで消せる程度の連中よ。でも最近はトゥルヌソルに近付く事すら出来ないから余計に王都に集まっているんだと思う」
「……トゥルヌソルに近付けない、ねぇ」
みんなの視線が俺に集まる。
そうですね、俺の影響で間違いないと思います。
「トゥルヌソルの4.5倍の面積がある王都で、僧侶は半分以下なんだもの。器を見つけたい獄鬼にとっては格好の狩場だわ」
「正確には何人だ?」
「ギルド長の話だと4人。一人は診療所に勤めているそうだ」
「4人か……」
「僧侶の総数を考えると決して少なくはないんだが、な」
「トゥルヌソルに集まり過ぎなのは否めない」
「ああ」
「対策は必要だな」
金級冒険者達とセルリーの遣り取りを、銀級冒険者達と俺は黙って聞いているしかない状況が歯痒い。
役に立てることはないのかな。
なにか、俺にも出来ること……。
「レン」
「っ、はい」
レイナルドに声を掛けられ、慌てて背筋を伸ばす。
「本来なら未成年のおまえに頼むのは間違っているが、セルリーが言うにはおまえの神力の量だと、人に憑く前の獄鬼なら手で払うだけで消せるらしい。本当に問題ないかは確認が必要だが、それが可能なら王都に滞在中は消すのを手伝ってもらいたい。……やってくれるか?」
「そ、はいっ、もちろんです!」
即答すると、セルリーさんは「絶対に大丈夫よ」と俺より自信満々の笑顔。
レイナルドが次に声を掛けたのはクルト達だ。
「クルトとバルドルパーティには、王都滞在中のこいつの面倒を見てもらいたい。バイト代は俺が出す」
「え」
唐突な提案に銀級冒険者5人が驚きの声を上げるが、金級冒険者達にとっては当然の流れだったらしい。
「あの貴族のお嬢ちゃんがレンを役立たずだと思っているなら都合が良い」
「王都には厄介な連中が多いからな。出来ればフードを被せて顔は出さず、僧侶の紋も隠し、普通の新人冒険者を装わせたい」
「レンが変な奴らに絡まれないよう護ってやってくれ」
「……判りました」
バルドルパーティの4人が互いに顔を見合わせて頷き合うのと、クルトの手が俺の背中に添えられるのが一緒。
「絶対に護ります」
「頼む」
その後はグランツェ、モーガン、セルリーがバルドルパーティに加わる形で見張り番のシフトが調整され、これまでと同じように魔獣や盗賊の襲撃に警戒。セルリーが戻ってくれたおかげで病人も癒せるようになり、修行という名目で俺も彼女の指導を受けながら病人の治療を試みるようになった。結果はすぐに出ないけど、病人に対する魔力の扱い方が少しずつだが確実に理解出来るようになったと思う。
休憩時にも薬草や実といった素材を集められるようになり、11月の13日、森の日。
俺たちは王都へ到着したのだった。
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