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第3章 変わるもの 変わらないもの
69.味方17人
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身支度を整えて朝食。
それから一晩戻らなくても問題ないように部屋を片付けてから装備を身に付けた。
最初は胸当て、それから籠手。
神具「懐中時計」は容量が拡張されているポシェットの腰ベルトに鎖を通してから本体をポケットにしまって不特定多数の目に触れないよう配慮し、同じように腰ベルトに通した専用の武器留めを使って檜の棒を佩く。
ポシェットの中には現金少々と図鑑、ペン、インク、手拭き2枚。縄や煙玉といった万が一に備えた用意の他、竹筒の水筒と非常用の食事なども収納してある。
背中には一泊分の荷物を入れたリュック。
羽靴は紐をしっかりと結び、最後にマントを羽織れば完璧だ。
想定していなかったひと騒動で家を出る時間がぎりぎりになってしまったが遅刻はせずに済むだろう。
リーデン様に見送られて家を出て、宿の受付にいた御主人にも「気を付けてな」と励まされ冒険者ギルドに向かった。
今日出発するのは俺たちだけじゃない。
レイナルド達と合流するホールはとても混雑していた。
「レイナルドパーティ7名、グランツェパーティ6名、バルドルパーティ4名、揃ったのでこれより商門に移動します」
ギルドの職員がそう声を上げ、呼ばれた3つのパーティ総勢17名が移動を開始する。
護衛対象の7組とは門の前で合流するからだ。
それにしても……。
「本当に顔見知りがいっぱいです」
「だろ」
レイナルドが笑う。
それもそのはずで、うちの他に顔馴染みの金級と聞いたらグランツェさんとモーガンさんかなっていう予想も当たってたけど、実際に会ってみたらバルドルさんのパーティがいるし、グランツェさんのパーティには先輩僧侶のセルリーさん――森の地中に錬金工房を持つ地人族の女性僧侶で『僧侶の薬』を商人を介して地方に広げている彼女が条件付きで加わっていた。
「なんかキナ臭いって聞いたから念のためにね。レンくんも一緒だって聞いたし」
「俺ですか?」
「そ。知り合いの方が応援領域を広げやすいでしょ?」
なるほどと思わず手を打ってしまう。
教会で魔法を習っている先生曰く「その効果は術者の感情に左右されて当然」らしいが俺の場合はより顕著に出るみたいで、話題になる応援領域は応援したい人みんなを自分の領域に抱き込んでバフ効果を高めるけど、その中で鼓舞を発動しても効果はそれぞれに異なる。
例えばグランツェなら攻撃力が1.5倍なのに、レイナルドなら2倍になるとか。
明らかに俺自身と相手の親密度が関係して来る。
正式に弟子入りしたわけでもないのに彼女の『僧侶の薬』の製造方法を教えてもらえる立場を得てしまった身としては、彼女への親愛の情が深いことを自覚している。
「ちなみに条件って?」
「今回と、次の王都までの護衛の2回だけって。レイナルドパーティとグランツェパーティが一緒になる間だけの期間限定なの」
「! 次回も一緒なんですか?」
「そ。暇があったらまた薬の精製方法を指導してあげるわ」
「楽しみです!」
嬉しいのがよっぽど正直に顔に出ていたのか、周囲からは温かな視線が注がれてしまった。
そんなわけで、改めて今回のチームを確認。
・レイナルドパーティ 7名
盾役はゲンジャル(装備は盾と剣)。
攻撃役のレイナルド(剣)、ウォーカー(大剣)、アッシュ(棍)、クルト(剣)。
後衛は魔法使いミッシェル(杖)と、僧侶の俺(檜の棒)だ。
クルトが銀級、俺が銅級だけど、他の5人は金級だ。
・グランツェパーティ 6名
盾役のディゼル(盾・斧)。
攻撃役の剣士グランツェ(剣)、剣士モーガン(剣)。
後衛の魔法使いオクティバ(杖)、僧侶のヒユナ(杖)。
ヒユナが銀級、4人が金級で、普段は5人チームだが今回は銀級のセルリーが参加。
僧侶は実力があっても長期間ダンジョンに籠るのを良しとしない人が多いから、金級以上の僧侶はほとんどいないそうだ。
・バルドルパーティ 4名
盾役のバルドル(盾・剣)。
攻撃役のエニス(剣)。
後衛で弓術士のウーガ(弓)と魔法使いのドーガ(杖)、この二人は兄弟だ。
4人全員が銀級で、一緒に依頼を受けるような事はなかったけど、レイナルド達がトゥルヌソルに居ない間は結構な頻度で声を掛けてくれてて、ご飯を一緒に食べたり、5日間や10日間の鉄級依頼を完遂した後にはお祝いまでしてくれた事がある。
諸々の下心があったとしてもレイナルド達が不在の間に励まされたのは事実なので俺個人は仲良しだと思ってる。
(お祝いしてくれる時はギルドの酒場がほとんどだったから、ララさんやシューさんから聞いたのかな?)
だからこそ、このメンバーなんだろうと思う。
総勢17名。
俺が知らないのはグランツェパーティの魔法使いオクティバさんと、僧侶のヒユナさんだけだ。
「クルト、移動中は常にレンについていろ。レンはこれまで付き合いがあまりなかったメンバーを中心に交流を持つといい。おまえの性格じゃ知り合っただけでも危機には応援するだろうけど、何が起きるか判らない現状ではなるべく親しくなっておいた方が良い」
「はい」
「そういえばレンの装備が変わったな。防具屋の主人に相談したのか?」
「マントと靴は一緒に買ったやつだよね」
ゲンジャルとクルトに言われて「そうです」と答え、レイナルドをチラッと見る。
「相談したら銅級冒険者に見える装備を整えてくれました」
「そうか、良かったな」
「鉄級依頼を堅実にこなして来ましたって感じがするわね」
「ええ。護衛対象にとっては見た目も信頼出来るかどうかの理由になるから、そういう意味でもバッチリよ。良い防具屋に当たったわね」
五人は俺の返答を普通に受け取ったようだけどレイナルドだけは違う。
口元を僅かに引き攣らせている。
「……相談したのか」
「しました。レイナルドさんが言ったんじゃないですか」
「あー……いや、確かに言ったけどな」
額を押さえて深々と息を吐く。
自分で相談しろと言ったのに何でそんな青い顔をするんだろう。
「……もう一つの相談もしたのか?」
「もちろん。構わないそうですよ」
「は?」
レイナルドの声が上擦る。
「ばらして良いって、本当に主……おまえの保護者が言ったのか?」
「誰にでもはダメだけどパーティの皆なら、って。俺に嘘を吐き続けるのは無理だって見抜かれてました」
「そ、そうか……」
「ただレイナルドさんは口外出来ないので、俺自身の口で明かしなさいって言われてます」
「あぁ、だろうな……」
俺とレイナルドが話しているのを、ゲンジャル達は怪訝な顔付きで聞いている。
「なんの話だ?」
「大事な話です」
俺がそう答えると、ミッシェルが笑う。
「そうね、雰囲気的にとても大事そうな話だけど……落ち着いて話せる時間をあえて作った方がいい感じ?」
「ああ」
即答したのはレイナルドだ。
びっくりさせてしまうかもしれないという意味では、俺も同意せざるを得ない。
(そういえばリーデン様がレイナルドさんに怒ったっぽかったけど……これも後で落ち着いてからの方がいいのかな?)
主神様がお怒りです、なんて。
歩きながら聞かされても困るよね。
「今回の往復で何もなければ、トゥルヌソルに帰って来てからだ。ギルドで一室借りて、シューとララにも立ち会ってもらう」
「……そこまで、なの?」
「ああ」
「レンくん……どっかの国の王族だったりする?」
「生まれも育ちも庶民ですよ、決まってるじゃないですか」
クルトが緊張した面持ちでおかしなことを言うから思わず笑ってしまうけど、隣のレイナルドは頭を抱えていた。
「庶民だ王族だって問題じゃねぇし……」
「大丈夫か?」
「一気に疲れた」
「……この数分で老けたな」
「くっ……」
レイナルド、ゲンジャル、ウォーカー。
女性二人は顔を見合わせて首を傾げているが、今の第一目的は7組の護衛対象を無事に港町ローザルゴーザまで送り届けて船に乗せること。
「話さなきゃいけない事もありますし、全員で無事に帰って来られるように頑張りましょうね!」
「お、おう」
「そうだね?」
気合を入れる俺に、四方から戸惑い気味の声。
そんなことをやっている間に俺たちは合流地点の広場に到着した。
それから一晩戻らなくても問題ないように部屋を片付けてから装備を身に付けた。
最初は胸当て、それから籠手。
神具「懐中時計」は容量が拡張されているポシェットの腰ベルトに鎖を通してから本体をポケットにしまって不特定多数の目に触れないよう配慮し、同じように腰ベルトに通した専用の武器留めを使って檜の棒を佩く。
ポシェットの中には現金少々と図鑑、ペン、インク、手拭き2枚。縄や煙玉といった万が一に備えた用意の他、竹筒の水筒と非常用の食事なども収納してある。
背中には一泊分の荷物を入れたリュック。
羽靴は紐をしっかりと結び、最後にマントを羽織れば完璧だ。
想定していなかったひと騒動で家を出る時間がぎりぎりになってしまったが遅刻はせずに済むだろう。
リーデン様に見送られて家を出て、宿の受付にいた御主人にも「気を付けてな」と励まされ冒険者ギルドに向かった。
今日出発するのは俺たちだけじゃない。
レイナルド達と合流するホールはとても混雑していた。
「レイナルドパーティ7名、グランツェパーティ6名、バルドルパーティ4名、揃ったのでこれより商門に移動します」
ギルドの職員がそう声を上げ、呼ばれた3つのパーティ総勢17名が移動を開始する。
護衛対象の7組とは門の前で合流するからだ。
それにしても……。
「本当に顔見知りがいっぱいです」
「だろ」
レイナルドが笑う。
それもそのはずで、うちの他に顔馴染みの金級と聞いたらグランツェさんとモーガンさんかなっていう予想も当たってたけど、実際に会ってみたらバルドルさんのパーティがいるし、グランツェさんのパーティには先輩僧侶のセルリーさん――森の地中に錬金工房を持つ地人族の女性僧侶で『僧侶の薬』を商人を介して地方に広げている彼女が条件付きで加わっていた。
「なんかキナ臭いって聞いたから念のためにね。レンくんも一緒だって聞いたし」
「俺ですか?」
「そ。知り合いの方が応援領域を広げやすいでしょ?」
なるほどと思わず手を打ってしまう。
教会で魔法を習っている先生曰く「その効果は術者の感情に左右されて当然」らしいが俺の場合はより顕著に出るみたいで、話題になる応援領域は応援したい人みんなを自分の領域に抱き込んでバフ効果を高めるけど、その中で鼓舞を発動しても効果はそれぞれに異なる。
例えばグランツェなら攻撃力が1.5倍なのに、レイナルドなら2倍になるとか。
明らかに俺自身と相手の親密度が関係して来る。
正式に弟子入りしたわけでもないのに彼女の『僧侶の薬』の製造方法を教えてもらえる立場を得てしまった身としては、彼女への親愛の情が深いことを自覚している。
「ちなみに条件って?」
「今回と、次の王都までの護衛の2回だけって。レイナルドパーティとグランツェパーティが一緒になる間だけの期間限定なの」
「! 次回も一緒なんですか?」
「そ。暇があったらまた薬の精製方法を指導してあげるわ」
「楽しみです!」
嬉しいのがよっぽど正直に顔に出ていたのか、周囲からは温かな視線が注がれてしまった。
そんなわけで、改めて今回のチームを確認。
・レイナルドパーティ 7名
盾役はゲンジャル(装備は盾と剣)。
攻撃役のレイナルド(剣)、ウォーカー(大剣)、アッシュ(棍)、クルト(剣)。
後衛は魔法使いミッシェル(杖)と、僧侶の俺(檜の棒)だ。
クルトが銀級、俺が銅級だけど、他の5人は金級だ。
・グランツェパーティ 6名
盾役のディゼル(盾・斧)。
攻撃役の剣士グランツェ(剣)、剣士モーガン(剣)。
後衛の魔法使いオクティバ(杖)、僧侶のヒユナ(杖)。
ヒユナが銀級、4人が金級で、普段は5人チームだが今回は銀級のセルリーが参加。
僧侶は実力があっても長期間ダンジョンに籠るのを良しとしない人が多いから、金級以上の僧侶はほとんどいないそうだ。
・バルドルパーティ 4名
盾役のバルドル(盾・剣)。
攻撃役のエニス(剣)。
後衛で弓術士のウーガ(弓)と魔法使いのドーガ(杖)、この二人は兄弟だ。
4人全員が銀級で、一緒に依頼を受けるような事はなかったけど、レイナルド達がトゥルヌソルに居ない間は結構な頻度で声を掛けてくれてて、ご飯を一緒に食べたり、5日間や10日間の鉄級依頼を完遂した後にはお祝いまでしてくれた事がある。
諸々の下心があったとしてもレイナルド達が不在の間に励まされたのは事実なので俺個人は仲良しだと思ってる。
(お祝いしてくれる時はギルドの酒場がほとんどだったから、ララさんやシューさんから聞いたのかな?)
だからこそ、このメンバーなんだろうと思う。
総勢17名。
俺が知らないのはグランツェパーティの魔法使いオクティバさんと、僧侶のヒユナさんだけだ。
「クルト、移動中は常にレンについていろ。レンはこれまで付き合いがあまりなかったメンバーを中心に交流を持つといい。おまえの性格じゃ知り合っただけでも危機には応援するだろうけど、何が起きるか判らない現状ではなるべく親しくなっておいた方が良い」
「はい」
「そういえばレンの装備が変わったな。防具屋の主人に相談したのか?」
「マントと靴は一緒に買ったやつだよね」
ゲンジャルとクルトに言われて「そうです」と答え、レイナルドをチラッと見る。
「相談したら銅級冒険者に見える装備を整えてくれました」
「そうか、良かったな」
「鉄級依頼を堅実にこなして来ましたって感じがするわね」
「ええ。護衛対象にとっては見た目も信頼出来るかどうかの理由になるから、そういう意味でもバッチリよ。良い防具屋に当たったわね」
五人は俺の返答を普通に受け取ったようだけどレイナルドだけは違う。
口元を僅かに引き攣らせている。
「……相談したのか」
「しました。レイナルドさんが言ったんじゃないですか」
「あー……いや、確かに言ったけどな」
額を押さえて深々と息を吐く。
自分で相談しろと言ったのに何でそんな青い顔をするんだろう。
「……もう一つの相談もしたのか?」
「もちろん。構わないそうですよ」
「は?」
レイナルドの声が上擦る。
「ばらして良いって、本当に主……おまえの保護者が言ったのか?」
「誰にでもはダメだけどパーティの皆なら、って。俺に嘘を吐き続けるのは無理だって見抜かれてました」
「そ、そうか……」
「ただレイナルドさんは口外出来ないので、俺自身の口で明かしなさいって言われてます」
「あぁ、だろうな……」
俺とレイナルドが話しているのを、ゲンジャル達は怪訝な顔付きで聞いている。
「なんの話だ?」
「大事な話です」
俺がそう答えると、ミッシェルが笑う。
「そうね、雰囲気的にとても大事そうな話だけど……落ち着いて話せる時間をあえて作った方がいい感じ?」
「ああ」
即答したのはレイナルドだ。
びっくりさせてしまうかもしれないという意味では、俺も同意せざるを得ない。
(そういえばリーデン様がレイナルドさんに怒ったっぽかったけど……これも後で落ち着いてからの方がいいのかな?)
主神様がお怒りです、なんて。
歩きながら聞かされても困るよね。
「今回の往復で何もなければ、トゥルヌソルに帰って来てからだ。ギルドで一室借りて、シューとララにも立ち会ってもらう」
「……そこまで、なの?」
「ああ」
「レンくん……どっかの国の王族だったりする?」
「生まれも育ちも庶民ですよ、決まってるじゃないですか」
クルトが緊張した面持ちでおかしなことを言うから思わず笑ってしまうけど、隣のレイナルドは頭を抱えていた。
「庶民だ王族だって問題じゃねぇし……」
「大丈夫か?」
「一気に疲れた」
「……この数分で老けたな」
「くっ……」
レイナルド、ゲンジャル、ウォーカー。
女性二人は顔を見合わせて首を傾げているが、今の第一目的は7組の護衛対象を無事に港町ローザルゴーザまで送り届けて船に乗せること。
「話さなきゃいけない事もありますし、全員で無事に帰って来られるように頑張りましょうね!」
「お、おう」
「そうだね?」
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