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第2章 新人冒険者の奮闘

57.昇級

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 ランクアップのためにララに案内された席は、受付カウンターから少し離れ、通路を挟んだ先にパーテーションで区切られたスペースだった。
 受付と同様のテーブルと、椅子。
 それから大型の魔導具が複数。
 もしかしたらこの中の一つがタグを切り替えるための道具なのかもしれない。

「ではレンさんはそちらにお座りください」
「はい」
「鉄級依頼はとても順調に終えられたようですね」
「皆さんのおかげです」
「ふふっ。一度も失敗せずに20の依頼を達成するには本人の自己管理がとても重要です。こればかりはご自身の功績を認めてあげてください」
「……はい」

 ララは俺の実際年齢が25歳だと知っているはずなのに、まるで子どもを諭すみたいに言うからなんだか恥ずかしくなってきた。
 決して自分を否定しているわけでは……いや、うん、はい。

「では昇給手続きに入ります。こちらに冒険者のタグをお願いします」

 そう言って手前に押し出されたのは高さが10センチくらいの円筒で、真ん中より低い位置に継ぎ目と思しき線が入っている他には、ちょうどネームタグが差し込めるサイズの穴がある。
 チラと伺ってみるとララの方には滑らかでツヤツヤしている石や、開閉できそうな四角い継ぎ目の端に取っ手が見える。
 何が始まるのかワクワクしながら言われた通りにタグを差し込み、手を引いて待っていると、ツヤツヤの石の上にララさんの手が置かれ、しばらくするとその石が光り出した。
 浮かび上がるそれは魔法陣に似ているけれど、この世界では術式と呼ばれるものだ。

「依頼20件の完了と犯罪歴の無しを確認しましたので昇級作業を継続します」
「お願いします」

 親指の爪くらいの小さな石のようなものが、四角い蓋を開けて投入する。
 これからどうなるんだろうっていう好奇心で覗き込んでいたところ、俺の視線に気付いたらしいララは、それがタグを銅級と見て分かるように加工するための素材だと教えてくれた。
 素材名は鑑定で確認済みだったけど、鑑定スキルは秘密なので初めて知ったふうを装う。

「冒険者登録をする時に、レンさんの血を数滴頂いたのは覚えていらっしゃいますか?」
「覚えてます。風船みたいな水色の玉に手を入れて真ん中の針に指を押し付けたアレですよね」

 見た目は台座のついた水色の玉で、占い師が使っている水晶玉みたいだと思ったのに、触れてみたらあっさりと手が中に入ってものすごく驚いたのだ。
 中央にものすごく細い針があり、ちょっとチクッとする程度だったんだけど玉の中には血が2、3滴飛び散り、しかもそれらがくっついて、薄っぺらなスライドグラスみたいな形で固まった。
 実は、その血で出来た薄っぺらなスライドグラスが冒険者ギルドのネームタグの芯になっているのだ。

「冒険者への新規登録時は全員が鉄級からのスタートなので、その場でフェ―ルという素材で包み込んで完成させますが、昇級には身分証紋による犯罪歴の確認などが必要になるため、この魔導具で加工するんです。先ほど入れた石は、キュイヴルという素材ですよ」

 ふむふむ、いつかはそういう素材の採取も出来たりするのかな……って、考えるだけで楽しくなってくる。
 あ。
 俺がそれで覚えてしまったから、鉄級、銅級って言ってるけど、これにも白金級プラティヌ神銀級ヴレィ・アルジョンみたいにちゃんとロテュスの呼称がある。
 タグをフェ―ルで加工する鉄級フェ―ルン
 キュイヴルで加工する銅級キュイヴルァ
 アルジャンで加工する銀級アルジョン
 オーゥルで加工する金級オーァル
 そして白金級プラティヌのタグを加工する素材は白金プラティンで、神銀級ヴレィ・アルジョンのタグを加工する素材の名前は神銀ヴレィ・アルジャンだ。

(ややこしいから金級オーァルまではこれからも金級で……あ、でもいつかは「言語理解」スキル無しでも会話出来るようになりたいって思うなら慣れるべきだ……)

 んーと悩んでいる間もネームタグの加工は進み、タグを入れている穴の奥の方が光った。

「終わったようです。タグを抜いて下さい」
「はい」

 言われて引き抜くと、さっきまでは地味な灰色だったネームタグが新品の10円玉みたいにキラキラしている。
 刻まれているのは「レン・キノシタ 銅級」の文字。

「うわぁ……」

 銅級だ。
 いよいよ新人を卒業だ!

「昇級おめでとうございます。益々のご活躍をお祈り申し上げます」
「ありがとうございます!」

 思いっきり笑顔で応じたら、ララは面食らったみたいだったけどすぐに表情をやわらげて笑い返してくれた。
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