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第2章 新人冒険者の奮闘
37.もう一つの心配事
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「マジで主神様なのか……」
深い溜息の後にレイナルドが言う。
その姿はいつもの自信満々で頼り甲斐のある男とは似ても似つかず、落ち込んでいるというか、ものすごく不安そうに見える。
「マジかぁ……」
そう呟いたきり、再び黙り込んでしまった彼に苦笑するのはハーマイトシュシュー。
「レン君、レイが復活するまでしばらく掛かりそうだし、何か質問があれば答えるよ」
「質問……」
「こちらは慣れない事ばかりで、迷う事もあるだろう」
「!」
驚くと同時に、さっきの『特記事項』の説明が脳内に蘇る。
「皆さんには俺の、公に出来ないけど隠しちゃいけない事実っていうのが見えているんですね。なんて書いてあるか伺っても良いですか……?」
「例えご本人であっても特記事項の内容は口外出来ません。ですが、レンさんの生まれた場所と、種族と……その、主神様からとても篤い加護を賜っていらっしゃるのだな、と」
「逆に気になりますね、それ」
一体どんな内容が記載されているのだろうか。
たぶん地球からの転移者で、人族じゃなく人間だから獣人の血が混ざってない事も知られたのだろう。
つまり、この人達にはもう嘘を吐かないで済む……?
(嬉しい)
心配してくれる人に正直でいられる。
そしていざと言う時には包み隠さず話して助力を請えるという、安心感。
「冒険者の身分証紋を作って頂く時は嘘をついてすみませんでした」
「いえ、これは致し方のないことです。私達としては、レンさんご自身がどこまでご自分の事を把握しているのかが懸念事項でした」
「この世界の事情に疎いようだったからね。我々が困ったことなんて、どこからどこまでサポートすべきか判断し難かった程度だよ」
「そうだったんですか……あの、俺は俺の事情をちゃんと把握していて、この世界にはトゥルヌソルに来たあの日が初日だったんです。未だに判っていない事も多いので、今後もご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願い致します」
「いえ、こちらこそ」
「ふふっ。レンくんはたまに子どもとは思えない言動をするけれど、もしかして年齢も違うのかな?」
ハーマイトシュシューの確認に、軽く頷く。
「洗礼の儀を受けた直後の年齢にした方が都合が良い、みたいな理由で、若返りました」
「ちなみに若返る前は成人済みか」
ふとレイナルドが加わって来る。
これにも頷いて返す。
「25でした」
「25……そうか……あー……もしかしてそれは、俺が昨日余計なことを言ったせいか?」
「それ? って……ぁっ」
ボンッ、て。
思い出した内容に顔から火が吹き出るかと思った。
しかもそれで三人には伝わったらしくレイナルドには「すまん!」と深々と頭を下げられてしまった。
「どおりで雄の匂いにしては変だと……いや、それにしたってアレだが……」
「そんなに判り易いかい? 私には全く判らないんだが」
「私もです」
「イヌ科の鼻だぞ。しかもそれに特化してるせいで監察官なんて任じられたんだ」
「ふむ」
「それに、おまえ達が何も感じないって事は害意のある奴限定で威嚇するか……もしくは雌相手には必要ないか、だな」
「なるほど」
「それでしたら納得です」
三人が小声で言い合っている内容に、俺はと言えば更に顔の熱が上がって辛い。
いや、もういいんだ。
認めるし!
俺の恋愛対象は男性で、抱いて欲しい側で、ゆくゆくは三つ目の儀式のお世話になることもあるかもしれない。だからって、リーデンに自分を意識しろと言われるのは腹立たしいことこの上ないのだが。
(意識すればするほど狙ってくる奴を牽制するから、なんてさ)
世界の民は見守る対象で、俺のことなんて大神に任せられた客人だとしか思っていないくせに。
思い出してムカムカしていたらレイナルドが何だかとても複雑な視線を寄越してくる。
「しかし……すごいもんだな。俺が煽ったも同然だが、なにをどうしたらそんな術式が組めるんだ」
言われた内容が理解出来ずに首を傾げれば、三人が順番に説明してくれた。
この世界の魔法はすべて術式によって発動する。
魔法使いを名乗る術者は自分の魔力で宙に術式を描いたり、武器である杖の宝石部分に術式を刻むことで発動までの時間を短縮、威力を上げるといった工夫をするそうだ。
つまり俺に害意があったら発動、邪な感情でもって近付いて来るなら威圧、それ以前に強い雄の匂いをぷんぷんさせて牽制してくるくせに俺が大丈夫だと思う相手には無害なこれは、条件の数だけ回路が複雑になり、必要な魔力量も比例して増えていく。
俺の心臓の上に刻まれたこれは、レイナルドに言わせれば相当えげつない仕上がりだそうだ。
「技師が魔導具を作る際にも必須の知識だが、レンはこっちの勉強はまだなのか」
「はい。魔法は教会で習うと聞いて伺ったら初心者は毎週水の日に講義があると言われたので、明日から通うつもりです」
「そうか、なら術式そのものは基礎を押さえれば誰にでも使えると覚えておけ」
「わかりました」
「にしても、よく教会で習うって知ってたな」
「初日にクルトさんが教えてくれましたよ」
言ってから、そういえば彼にもしばらく会っていないことに気付く。
ギルドで目を覚まして一緒に朝ごはんを食べて以来だし、獄鬼の一件で家が吹き飛んだからパーティの皆で相談すると言っていたけれど……。
「クルトさんは、お元気ですか?」
聞くと、ララの表情が曇る。
ハーマイトシュシューは穏やかな笑みを崩さなかったが、レイナルドは軽い息を吐いた。
三者三様の反応に湧き上がってくる不安。
「クルトさんがどうかしたんですか?」
「どう、と言うよりも、どうにもならないって感じだな」
「えっ」
「レイナルドさん」
「他人の事情を勝手に話すのはどうかと思うが、あれだけ噂になってるんだ。どうせその内に耳に入るだろ」
ララが諫めるように声を上げるが、レイナルドは肩を竦めて躱す。
「クルトのパーティは解散した」
「えっ」
「獄鬼に憑かれたメンバーに気付かなかった、トゥルヌソルに連れ込んだ、あとは吹き飛ばされていた家に住んでいた連中からのあれこれが理由でな」
「それって、つまり誹謗中傷とか……?」
「それもあるね」
ハーマイトシュシューも、噂話として聞くよりは自分達から話した方が良いと判断したらしい。
「クルトとジェイ以外は恋人同士だったし、もともと結婚したらパーティを抜けるつもりでいたようだから、予定通りではあるんだよ」
予定通りと言う割には三人の表情は渋い。
「クルトさんは今どうしているんですか……?」
「どうもしない、一人で冒険者を続けている」
「一人で……」
胸の奥の方がざわざわする。
どういうことか尋ねたら、話が長くなるからと言って、薬草採取の指定地域までの移動中にレイナルドが教えてくれることになった。
ギルドマスターと、サブマスターには役職に応じた仕事もあるからだ。
そうして聞いた話を纏めると、僧侶の絶対数が少ない以上は仕方がないことだとみんな判っていても、平和なトゥルヌソルに獄鬼を連れて帰って来たクルトさん達への不審や不満は抑えられず、かなり責められたらしい。
特に家を吹き飛ばされてしまった人達からは賠償を求められ、パーティで支払える分は負担したものの全く足りない。
事情が事情なだけあるので冒険者ギルドが間に入り、賠償金は立て替えたものの、パーティは莫大な借金を背負うことになった。
結婚を視野に入れていた二組4人は、話合いの末に、これを一緒には背負えないと判断。
パーティを解散し、借金はクルトが一人で背負うことになったそうだ。
「そんな……」
「ひどい、とは言えないな。冒険者なんて一攫千金を狙うのに都合のいい連中の集まりだ。クルトのところは多少の絆があったように見えたが、まぁ……他人からしたら妥当な判断と言える」
悪評が立ったパーティに問題の解決を頼みたい依頼者はいない。
どこに居ても悪意に満ちた目を向けられる。
更に言えば、稼ぐ手段も限られる銀級パーティ。少しでも「同じパーティで巻き込まれただけなのに」という意識があれば、いつか最悪の形で別れる事もあっただろう。
「荷物も綺麗さっぱり吹っ飛んだからな。4人は一昨日までにトゥルヌソルを出たと聞いている」
「だからってクルトさんが一人で背負うなんて……!」
パーティで稼げないのに、クルト一人じゃ益々難しいのは明らかだ。
冒険者ギルドが立て替えた借金は依頼をこなした都度、一定額を支払えばいいと言われているが、クルトとパーティを組んでも良いという人が現状で現れるとは思えないし、銀級がソロで受けられる依頼なんてたかが知れている。
「俺、やっぱりレイナルドさんのパーティには入りません」
「はっ⁈」
「クルトさんと組みます、今から相談して来ます!」
「待て待て、それでクルトを説得できるなら二人でうちに来い」
「えっ?」
「そういう案もあったんだ、クルトには断られたがな」
「断られたんですか?」
「迷惑しか掛けられないって」
「そんな……」
あぁでも自分が同じ状況なら、やっぱり断ったかもしれない。お荷物でしかない自分を他人に背負わせるなんて絶対に嫌だ。
だから理解は出来る。
けど。
「……何か方法はないんでしょうか」
「さてなぁ。こっちとしちゃあ受け入れるぞって言ってあるんだ。あとはクルト次第だろ。でもって、おまえのうちへの加入は決定事項だ、勝手なこと言ってんじゃねぇぞ」
「ごめんなさい!」
頭をわしゃわしゃされて、すぐに謝る。リーデンの言伝があるし、レイナルドの肩書きの件もある。いまさら加入しませんとはならない。
他のメンバーに報告し、顔合わせの席を整えるから、その時に加入申請書にサインをすることになっている。ちなみにパーティに加入した後も成人までは『猿の縄張り』に滞在する事になった。レイナルドたちにもクランハウスがあるが、ダンジョン攻略に向かうと数日に渡って家を空けるからというのがその理由だ。
ダンジョン以外の依頼には連れて行ってくれるらしい。
そうなると神具『住居兼用移動車両』Ex.の件はどう説明すべきか……という問題が出て来るが、レイナルド達と一緒なら普通に野営も頑張れる気はしている。
そんなことを考えつつも、常に心の隅で燻るクルトさんのこと。
二日目の依頼採取も無事に終わったが、俺の心は晴れなかった。
深い溜息の後にレイナルドが言う。
その姿はいつもの自信満々で頼り甲斐のある男とは似ても似つかず、落ち込んでいるというか、ものすごく不安そうに見える。
「マジかぁ……」
そう呟いたきり、再び黙り込んでしまった彼に苦笑するのはハーマイトシュシュー。
「レン君、レイが復活するまでしばらく掛かりそうだし、何か質問があれば答えるよ」
「質問……」
「こちらは慣れない事ばかりで、迷う事もあるだろう」
「!」
驚くと同時に、さっきの『特記事項』の説明が脳内に蘇る。
「皆さんには俺の、公に出来ないけど隠しちゃいけない事実っていうのが見えているんですね。なんて書いてあるか伺っても良いですか……?」
「例えご本人であっても特記事項の内容は口外出来ません。ですが、レンさんの生まれた場所と、種族と……その、主神様からとても篤い加護を賜っていらっしゃるのだな、と」
「逆に気になりますね、それ」
一体どんな内容が記載されているのだろうか。
たぶん地球からの転移者で、人族じゃなく人間だから獣人の血が混ざってない事も知られたのだろう。
つまり、この人達にはもう嘘を吐かないで済む……?
(嬉しい)
心配してくれる人に正直でいられる。
そしていざと言う時には包み隠さず話して助力を請えるという、安心感。
「冒険者の身分証紋を作って頂く時は嘘をついてすみませんでした」
「いえ、これは致し方のないことです。私達としては、レンさんご自身がどこまでご自分の事を把握しているのかが懸念事項でした」
「この世界の事情に疎いようだったからね。我々が困ったことなんて、どこからどこまでサポートすべきか判断し難かった程度だよ」
「そうだったんですか……あの、俺は俺の事情をちゃんと把握していて、この世界にはトゥルヌソルに来たあの日が初日だったんです。未だに判っていない事も多いので、今後もご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願い致します」
「いえ、こちらこそ」
「ふふっ。レンくんはたまに子どもとは思えない言動をするけれど、もしかして年齢も違うのかな?」
ハーマイトシュシューの確認に、軽く頷く。
「洗礼の儀を受けた直後の年齢にした方が都合が良い、みたいな理由で、若返りました」
「ちなみに若返る前は成人済みか」
ふとレイナルドが加わって来る。
これにも頷いて返す。
「25でした」
「25……そうか……あー……もしかしてそれは、俺が昨日余計なことを言ったせいか?」
「それ? って……ぁっ」
ボンッ、て。
思い出した内容に顔から火が吹き出るかと思った。
しかもそれで三人には伝わったらしくレイナルドには「すまん!」と深々と頭を下げられてしまった。
「どおりで雄の匂いにしては変だと……いや、それにしたってアレだが……」
「そんなに判り易いかい? 私には全く判らないんだが」
「私もです」
「イヌ科の鼻だぞ。しかもそれに特化してるせいで監察官なんて任じられたんだ」
「ふむ」
「それに、おまえ達が何も感じないって事は害意のある奴限定で威嚇するか……もしくは雌相手には必要ないか、だな」
「なるほど」
「それでしたら納得です」
三人が小声で言い合っている内容に、俺はと言えば更に顔の熱が上がって辛い。
いや、もういいんだ。
認めるし!
俺の恋愛対象は男性で、抱いて欲しい側で、ゆくゆくは三つ目の儀式のお世話になることもあるかもしれない。だからって、リーデンに自分を意識しろと言われるのは腹立たしいことこの上ないのだが。
(意識すればするほど狙ってくる奴を牽制するから、なんてさ)
世界の民は見守る対象で、俺のことなんて大神に任せられた客人だとしか思っていないくせに。
思い出してムカムカしていたらレイナルドが何だかとても複雑な視線を寄越してくる。
「しかし……すごいもんだな。俺が煽ったも同然だが、なにをどうしたらそんな術式が組めるんだ」
言われた内容が理解出来ずに首を傾げれば、三人が順番に説明してくれた。
この世界の魔法はすべて術式によって発動する。
魔法使いを名乗る術者は自分の魔力で宙に術式を描いたり、武器である杖の宝石部分に術式を刻むことで発動までの時間を短縮、威力を上げるといった工夫をするそうだ。
つまり俺に害意があったら発動、邪な感情でもって近付いて来るなら威圧、それ以前に強い雄の匂いをぷんぷんさせて牽制してくるくせに俺が大丈夫だと思う相手には無害なこれは、条件の数だけ回路が複雑になり、必要な魔力量も比例して増えていく。
俺の心臓の上に刻まれたこれは、レイナルドに言わせれば相当えげつない仕上がりだそうだ。
「技師が魔導具を作る際にも必須の知識だが、レンはこっちの勉強はまだなのか」
「はい。魔法は教会で習うと聞いて伺ったら初心者は毎週水の日に講義があると言われたので、明日から通うつもりです」
「そうか、なら術式そのものは基礎を押さえれば誰にでも使えると覚えておけ」
「わかりました」
「にしても、よく教会で習うって知ってたな」
「初日にクルトさんが教えてくれましたよ」
言ってから、そういえば彼にもしばらく会っていないことに気付く。
ギルドで目を覚まして一緒に朝ごはんを食べて以来だし、獄鬼の一件で家が吹き飛んだからパーティの皆で相談すると言っていたけれど……。
「クルトさんは、お元気ですか?」
聞くと、ララの表情が曇る。
ハーマイトシュシューは穏やかな笑みを崩さなかったが、レイナルドは軽い息を吐いた。
三者三様の反応に湧き上がってくる不安。
「クルトさんがどうかしたんですか?」
「どう、と言うよりも、どうにもならないって感じだな」
「えっ」
「レイナルドさん」
「他人の事情を勝手に話すのはどうかと思うが、あれだけ噂になってるんだ。どうせその内に耳に入るだろ」
ララが諫めるように声を上げるが、レイナルドは肩を竦めて躱す。
「クルトのパーティは解散した」
「えっ」
「獄鬼に憑かれたメンバーに気付かなかった、トゥルヌソルに連れ込んだ、あとは吹き飛ばされていた家に住んでいた連中からのあれこれが理由でな」
「それって、つまり誹謗中傷とか……?」
「それもあるね」
ハーマイトシュシューも、噂話として聞くよりは自分達から話した方が良いと判断したらしい。
「クルトとジェイ以外は恋人同士だったし、もともと結婚したらパーティを抜けるつもりでいたようだから、予定通りではあるんだよ」
予定通りと言う割には三人の表情は渋い。
「クルトさんは今どうしているんですか……?」
「どうもしない、一人で冒険者を続けている」
「一人で……」
胸の奥の方がざわざわする。
どういうことか尋ねたら、話が長くなるからと言って、薬草採取の指定地域までの移動中にレイナルドが教えてくれることになった。
ギルドマスターと、サブマスターには役職に応じた仕事もあるからだ。
そうして聞いた話を纏めると、僧侶の絶対数が少ない以上は仕方がないことだとみんな判っていても、平和なトゥルヌソルに獄鬼を連れて帰って来たクルトさん達への不審や不満は抑えられず、かなり責められたらしい。
特に家を吹き飛ばされてしまった人達からは賠償を求められ、パーティで支払える分は負担したものの全く足りない。
事情が事情なだけあるので冒険者ギルドが間に入り、賠償金は立て替えたものの、パーティは莫大な借金を背負うことになった。
結婚を視野に入れていた二組4人は、話合いの末に、これを一緒には背負えないと判断。
パーティを解散し、借金はクルトが一人で背負うことになったそうだ。
「そんな……」
「ひどい、とは言えないな。冒険者なんて一攫千金を狙うのに都合のいい連中の集まりだ。クルトのところは多少の絆があったように見えたが、まぁ……他人からしたら妥当な判断と言える」
悪評が立ったパーティに問題の解決を頼みたい依頼者はいない。
どこに居ても悪意に満ちた目を向けられる。
更に言えば、稼ぐ手段も限られる銀級パーティ。少しでも「同じパーティで巻き込まれただけなのに」という意識があれば、いつか最悪の形で別れる事もあっただろう。
「荷物も綺麗さっぱり吹っ飛んだからな。4人は一昨日までにトゥルヌソルを出たと聞いている」
「だからってクルトさんが一人で背負うなんて……!」
パーティで稼げないのに、クルト一人じゃ益々難しいのは明らかだ。
冒険者ギルドが立て替えた借金は依頼をこなした都度、一定額を支払えばいいと言われているが、クルトとパーティを組んでも良いという人が現状で現れるとは思えないし、銀級がソロで受けられる依頼なんてたかが知れている。
「俺、やっぱりレイナルドさんのパーティには入りません」
「はっ⁈」
「クルトさんと組みます、今から相談して来ます!」
「待て待て、それでクルトを説得できるなら二人でうちに来い」
「えっ?」
「そういう案もあったんだ、クルトには断られたがな」
「断られたんですか?」
「迷惑しか掛けられないって」
「そんな……」
あぁでも自分が同じ状況なら、やっぱり断ったかもしれない。お荷物でしかない自分を他人に背負わせるなんて絶対に嫌だ。
だから理解は出来る。
けど。
「……何か方法はないんでしょうか」
「さてなぁ。こっちとしちゃあ受け入れるぞって言ってあるんだ。あとはクルト次第だろ。でもって、おまえのうちへの加入は決定事項だ、勝手なこと言ってんじゃねぇぞ」
「ごめんなさい!」
頭をわしゃわしゃされて、すぐに謝る。リーデンの言伝があるし、レイナルドの肩書きの件もある。いまさら加入しませんとはならない。
他のメンバーに報告し、顔合わせの席を整えるから、その時に加入申請書にサインをすることになっている。ちなみにパーティに加入した後も成人までは『猿の縄張り』に滞在する事になった。レイナルドたちにもクランハウスがあるが、ダンジョン攻略に向かうと数日に渡って家を空けるからというのがその理由だ。
ダンジョン以外の依頼には連れて行ってくれるらしい。
そうなると神具『住居兼用移動車両』Ex.の件はどう説明すべきか……という問題が出て来るが、レイナルド達と一緒なら普通に野営も頑張れる気はしている。
そんなことを考えつつも、常に心の隅で燻るクルトさんのこと。
二日目の依頼採取も無事に終わったが、俺の心は晴れなかった。
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