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第1話 幼なじみ

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俺には幼なじみがいる。

可愛くて甘えん坊でちょっといたずら好きなヤキモチ焼きの女の子、というのが彼女の基本ステータスと言ったところだ。

ずっと一緒にいるせいか、周囲からも俺たちは付き合っていると思われているがそんなこともない。

幼なじみなんてだいたいそんなもんだと思う。
でも可愛くて優しい幼なじみがいると聞くだけでみんな俺のことを羨ましいとぼやく。

しかしそんな簡単な話でもない。
彼女にはある特殊パラメータが存在するからだ。

なんと、魔法使いなのだ。

昔から俺が女の子と嬉しそうに話していたら宇宙からやってきた鬼娘よろしく電撃ビリビリを見舞わされるし、理科の授業でアルコールランプがうまくつかなかったらメ○ゾーマの如き火柱を立ててあわや火事になりそうだったり。

鳥は気持ちがよさそうだなと呟いただけなのに、雲の上まで飛ばされたこともある。

とにかくよくわからないが魔法を使うのだ。
それ以外は普通も普通、勉強や運動はむしろ並み以外である。

毎朝俺の家にやってきて勝手に部屋まで上がり込んで起こしてくれるそんな優しい幼なじみがいるせいで、俺は喧騒な日々を送っている…

「いった!」

「えへへ、ヒカルおはよー」

「お、おはようマナ。でもお願いだから朝の電気ショックはやめて…」

「えー、ヒカルのびっくりする顔、私好きなんだもん。だからもっかい、えい」

「いっ!」

ほんわか幼なじみ属性のくせにちょっぴりエスッ気な彼女の名前は来栖《くるす》マナ、同じ学校に通う同い年の女の子。

そしてそんな彼女に朝からビリビリやられている俺は千堂光《せんどうひかる》、平凡なただの男子高校生。

文芸部に所属しているが、実質一名のこの部活でやることなど何もなく、ただ大好きな読書をして放課後を過ごすのが俺の日課である。

それなのにマナのせいで変なトラブルに巻き込まれたりこいつのドジの共犯にされたりと迷惑極まりないのだ。

「あのさ、起こしてくれるならもうちょっと優しくしてくれ…」

「えー、でもお寝坊さんなヒカルがいけないと思うなー」

「いや昨日なんか早起きしてた俺をわざわざ眠らせてから起こしたくせにどの口が言ってるんだよ!」

「むー、じゃあもっかいやろうかなー、ほい」

「うっ」

俺は眠らされた後もう一度きつめの電撃で起こされた…

大体朝はこんな感じである。
なら登校中はどうだ。同じく平和とは言い難い…

マナは見た目は超可愛くて隙が多そうなふわふわ系JKなので登校中もよく声をかけられる。

「B組の来栖さんだよね?俺A組の田中。よかったらライン交換してよ」

基本的に他の男子が苦手なマナは俺の方をチラチラ見てくるのがわかる。
助けてということなのだろうが、勘違いをされるのが面倒な上に連絡先くらいくれてやれと思っている俺は無視する。そして知らんふりを決め込んでカバンから本を取り出す。

「ちょっと、ヒカルー」
「…」
「むぅー、このっ!」
「あっつ!」

俺の本が灰になった…
急な自然発火現象という珍事に驚いてナンパ男は逃げていった。

「何するんだよ!本に謝れ!」
「だって無視するんだもん!」
「連絡先くらい教えてやれよ!」
「やだ…ヒカルのだけで十分だもん…」

急にデレるからキュンとしてしまった…
そう、基本的にこいつは甘えん坊さんなのだ。
何というか…そう懐いた猫のような可愛さを持っている。

「だからって燃やすなよ!はぁ…本だって高いんだぞ」
「ごめんなさい…構ってほしかったんだもん」

マナが上目遣いで俺を見てくる…
ぐっ……いかん可愛いなやっぱり。
見慣れてはいても可愛いものは可愛いのだ。美人は三日で飽きるというが、可愛い子猫を飼って果たして三日で飽きるだろうか?もちろんノーだ。

こいつもそれと同じくらいかわいいもんだからつい許してしまう…

「わかったわかった…あ、麻生さんだ」

俺が見かけたのは学年一の美女と名高い麻生玲子《あそうれいこ》さん。
お金持ちのお嬢様でいつもは車で通学しているのだが、たまに歩いて登校している時があり、その日はみんな彼女の美貌に釘付けになる。(もちろん俺も)

実は俺と麻生さんは顔見知りである。
以前放課後に廊下で何か探し物をしている彼女を見かけて、思い切って声をかけたことがある。
その時に落としたというヘアピンを一緒に探してあげたのが縁で、クラスは違うのに会う度によく話をしてくれるようになったのが俺のささやかな自慢である。

「やっぱ麻生さん綺麗だなぁ。あんな人の彼氏とかに一度でいいからなってみたいもんだよ。」

「玲子ちゃんはみんなの憧れだからねー。ヒカルには高嶺の花過ぎるって」

マナと話しながら麻生さんの方を見ていると、向こうも俺に気がついて声をかけてくれた。

「おはよう、千堂君、来栖さん。今日もお二人仲がいいわね」

「お、おはよう麻生さん。いやぁこいつは勝手についてきてるだけだから。」

麻生さんと話すのはとても緊張する。
女子特有のいい匂いがするし、朝日に映える白い肌と透き通るような目、きつそうな顔立ちだがいつも穏やかな表情で声をかけてくれるし、その澄んだ声はまるで天使の囁きと表現していいほどに心地よい。

「あら、お二人はてっきりお付き合いしてるのかと思ってたわ。」
「俺が?こいつと?ないない、こんなのと付き合ってたら身がもたな、いった!」

まるでスタンガンを当てられたかのような(そんな経験はもちろんないが)痛みがお尻に走った…

「おいマナ、なにするんだよ!」
「ふん、デレデレしてるヒカルなんか嫌いだもん!」

マナが焼いた餅みたいに膨らんでしまった。
しかしこんなのはいつものことなのでまた麻生さんとの会話に戻った。

「ふふ、仲がいいわね」
「いやぁほんとそんなんじゃないよ。麻生さんみたいなきれいな人と俺も登校したいもんだよ」
「あら、うれしいことを言ってくれるわね…きゃっ!」

急に麻生さんがびっくりした声をあげた。
その瞬間、彼女のスカートがめくれ上がった。
「おおー!」と、そのラッキーを喜ぶ男子の声が飛び交った。

急いで手でスカートを戻す麻生さんだったが、顔を赤らめて俺の方をキッと睨んできた。

「み、見た?」
「え、いや…」
「何色だった?」
「…白?」
「バカッ!」

思いきり麻生さんにビンタされて、彼女は走って先に行ってしまった…

「あ、麻生さん…」

ぶたれた痛みよりせっかくの憩いの時間がパーになったことに悲しみつつも、誰の仕業かは明白なのでその元凶を睨みつけた。

「マナ!お前のせいで麻生さんにぶたれたじゃないか!」
「べー、ザマミロ」

機嫌よさそうにいたずらの成功を喜ぶマナはルンルンな足取りで俺の少し前を歩いていった…


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