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第43話 社長になった

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俺たちは海に来ていた。

青い海、白い雲、光る砂浜、そして…

「おい、早くジュースを買ってこい!」
「そっちこそ早くパラソルを立てろグズめ!」

なぜか命先輩と薬師寺さんが一緒にいる…

「いやぁ、風紀委員討伐の打ち上げを海ですることになるとはなぁ」

「あんたらが勝手についてきたんでしょ!?頼むから別行動にしてくれ!」

せっかくのカレンとの海デートがなぜこうなったかは、至極単純である。

電車で出くわした。以上である。

なんでこんなやつらと行動パターンが被らにゃならんのだと自分を責めた。
カレンは薬師寺さんに「帰れ」と言ってずっとキレていた…

そんなこんなだがカレンと海にきたことは間違いない。

「快斗、暑いよう…アイス買って」
「ああ、あんな人たちほっといて買いに行こうか。」

水着姿のカレンは眩しいなんてものじゃない。
この世に舞い降りた妖精のようだ…

ほら、大勢の観光客も泳ぐことを忘れてカレンを見ている。

「隣のガキ、沖に捨てるか?」
「いや、あっちに深くなる場所があるからそこに沈めよう」
「そうだな、ここの海は死体が上がりにくいって話だし」

なんで俺を海に沈めるんですか!?
それにここって死体上がりにくいの?
普通に怖いんだけど!

なんでこんな物騒な人が多いかというのにもちゃんとした?ワケがある。

ここは『落葉海浜公園』。
そうだ、校長が市に寄付をしたお金で建設された観光スポットなのだ。

だから変な人間が集まるのは仕方ないのだが、それでもここは海水浴をするにはとてもいい場所なのだ。

売店も多いし意外と日陰もある。海もきれいだし駐車場も多い。
多くの人が集まるのは納得というわけだが…

売店の旗に書いてある文字にカレンが食いついた。

「ねぇ快斗、あのアイスクリンって何?」

「ああ、昔はアイスクリームをこうやって呼んでたんだ。でも今では牛乳のかわりに鶏卵なんかを使ってるアイスクリーム風の氷菓のことなんだ。」

ちなみに高知県や沖縄県のが有名だそうだ。
俺も昔同じ疑問を親に聞いたことで覚えていただけだが。

「ふーん、食べてみたい!」

「安いしあれにしようか。」

店に行くと…そんな気はどこかでしていたがアンがバイトしていた…

「あのさ…何してるの?」

「転職」

「お前アイスクリームまで作れるの?」

「アイスクリンだ!」

すんません…

「まぁいいや、二つくれよ」

「毎度」

「あ、家庭教師のバイト助かったわありがとうな」

「いつでも言え」

「お金ないんだな…」

「また仕事探す」

「頑張れ…」

アイスを売る世界チャンピオンは、全くオーラがなく人も全然集まっていなそうだが、あれでやっていけるのだろうか…

「あ、美味しい!甘すぎないの好き!」

「さっぱりするなー、あとで先輩らにも買わせようか」

二人で浜辺を散歩していると人集りができていた。

薬師寺さんが無数の女性をナンパしてハーレムを形成している。

そしてその人たちが順番に命先輩のカメラの餌食になっていた…

「薬師寺くん本物だー!サインして—」
「かっこいい!顔ちっちゃい!」

あんなアホな人でも世間ではスーパースターなんだよな…忘れてたわ

「早く撮ってー、なんならもう水着いらないわ」
「今度スタジオで撮影してー、絶対脱ぐから!」

なんでか女たちもノリノリだ…

「はいはい、みんな順番だよー、あ、そこの君、ちょっとだけ脱いでみる?」
「公衆の面前で初対面を脱がすな!!」

目を離したらすぐにこうだ…

「いやあんたら海に何しにきたんですか!?」

「何ってこれをしに来たんだよ。商売さ」

「サラッというな!」

写真を求めて海に来ていた男たちが長蛇の列を作っている…
そして飛ぶように売れていきどんどん金が増えて言っている…

「あの…今どれくらい売れてるんですか?」

「まだまだだよ、ざっと300万くらいだな。」

「いくらが目標値なの!?」

一方でアンの店には誰も来ていない…多分こいつらのせいでもあるよな…

「カレン、こんなやつら放っておいて泳ごうか。」

「うう、私泳げないの…」

え、カナヅチなんだ…

「じゃあ浮き輪とか使う?そこの売店に売ってたし。」

「浮き輪使う!」

そう言って売店で浮き輪を買っていると、すごい視線を感じた…

アンだった…

「なんだよ、浮き輪買ってるだけだろ?」

「よそで金使うな」

「じゃあお前も浮き輪取り扱えよ!」

よっぽど売れてないんだな…

浮き輪を使って二人で海に入った。

「ははは、涼しいな。やっぱり夏は海だよなー」

「快斗、あっち行きたい!」

二人で海を満喫した。
そしてその間に浜辺中の男女を食い物にした先輩方は潤沢な資金を獲得していた。

「おーい二人とも、バーベキューでもやろうぜ」

命先輩が既に火を起こしていた。

「ああ、いいですね。カレンもお肉好きだろ?」
「お肉に罪はないの、食べる!」

薬師寺さんが肉を買ってきてくれた…
のだが何故か水着姿の蓮水さんまで連れてきた…

「なんでインランがいるの」

「あら、小娘の割に派手なの着てるわね。でもスクール水着とかの方がお似合いなんじゃない?」

この二人は完全に水と油だな…

「なんで蓮水さんまで連れてくるんですか…」

「知らんわ、あいつから急に連絡がきてどこにいるか聞いてくるからついだな…」

薬師寺さんも諦めて付き合えばいいのに…

「あ、チェリー!みんなでバーベキューだなんて楽しそうじゃん!私も参加するねー」

以前までならその笑顔を可愛いと思ってしまっていた。
なんでこんな人を振るんだろうとか悩んでしまっていた。

でも今は違う…
さっさと自分の気持ちに素直になれや二人とも!

なぜか五人でバーベキューを始めたのだが、案外このメンバーはバランスが取れていたようだ…

命先輩と蓮水さんが段取りをしてくれて、薬師寺さんもアウトドアが好きなのか道具をたくさん持ってきてくれた。
俺とカレンはひたすら肉を食べた…

「はー食べた食べた。どうするもうひと泳ぎする?」

蓮水さんが誘ってきたが、カレンは頑なに帰るという

「カレン、もう蓮水さんは大丈夫だと思うぞ?だからそんなにツンケンしなくても…」

「快斗、ハスミンと遊びたいんだ」

すごく睨まれたので帰ることにした…
カレンに人の恋愛事情を察するとか無理だよな。

帰ろうとした時に二人が喧嘩をしていたが、もう痴話喧嘩だったので放っておいた…

命先輩は誰かに電話をしていたが…メラニーさんのようだ。

「もしもし、うん今日すごく儲かったから行ってもいい?え?今日はパパがいるからスタジオの方で?わかった!待ってるよメラニー!」

もうこの人にバチが当たらないのなら神様なんていないのだろうな…

「ママ、クソビッチ」

「久々に聞いたけど何も言い返す気になれないな…」

家に帰る途中にリムジンが横に止まった。
高村さんが迎えに来てくれたのか?

そして降りてきたのは…アン?
しかも白いスーツを着てまるでパーティーにでも行くかのような恰好をしていた。

「アン、その恰好どうしたんだ?売店は?それにリムジンに乗るなんて…」

「社長になった」

「は?」

「落葉パーク社長。交代した」

「えええ!?社長になったのか!?いやでもなんでか知らんがよかったじゃないか!」

「フン」

「あ、お前立場が変わったら態度変える奴だな…」

急にアンが偉そうになった…

「今から就任パーティー」

「ああ、それでか…」

「バイト」

「バイト?」

「雇ってやろうか」

「いやほんとに急に社長ぶるなよ!」

リムジンで颯爽とアンが去っていった…
でもよかったな、アン…

寮に戻ると、海で泳ぎ疲れたのかカレンはもうウトウトしていた。

「おいおい、風呂入って寝ないと」

「うーん、眠い…快斗体洗って」
「いやそれは絶対無理だって!」

必死に起こして風呂に入れたが、風呂で寝てないか心配だったので脱衣所前で控えていた。

なんとか出てはきたが寝ぼけているのかパンツで出てきたカレンに必死に服を着させるのはほんと苦労した…

ベッドに連れていくとすぐに寝ていた。

でも、寝顔も可愛いなぁ。
そんなことを思いながら俺も眠りについた。


翌朝


休みの日のカレンはダラダラなので朝は遅かった。

二人でダラダラしたあと居間にいってテレビをつけたら衝撃的なニュースが転がり込んできた…


「えー、人気作家落葉武帝氏が資金援助している落葉パークが、経営不振により倒産が決定いたしました。なお、新社長のアン・ジール氏はこの施設の全株を取得しており…」

もうテレビを見れなかった…

携帯に入ってくるニュースも落葉パーク倒産のことばかりだった。

完全に身代わりにされてんじゃないか…
もう校長と高村さんを殺してもいいと思うぞ…

アンの借金は数百億円に増えた…

「遊園地なくなった…」

「いや、今はアンの心配してやろうよ…」

でもカレンとの思い出の場所だしちょっと残念だな。

そんな時に蓮水さんから電話がきた。

「…出てもいい?」

「…出るだけ、喋ったらダメ」

「いやそれは無理があるって!」

恐る恐る電話に出た。

「やほーチェリー、昨日はお疲れ様!」

「ええ、ところでなんの用ですか?」

「冷たいなー、今日はね、あのおちびに用事なのよ。でも番号知らないからね。」

「蓮水さんがカレンに?」

「ええ、うちの野球部あるでしょ?それがね応援団が足りないから来てくれって言われててね。カレンも来て欲しいってご指名があったから頼もうかなってこと」


ラブ高野球部

謎のベールに包まれる彼らは、なんと昨年までの部員をほとんど退部させて新たに九人の精鋭を青田買いした十人しかいない特殊な野球部だという。万浪は唯一の二年生ながら補欠で、練習では雑用係をさせられているというから驚きだ。(どこの部活に145キロ投げる雑用がいるんだ…)

どこかにあるという専用練習場で日々訓練し、全国制覇間違いなしとの噂だが…

「じゃ伝えたからね。カレンによろしく言っておいて」

電話を切られた…


「インラン、なんて言ってたの?」

「罵倒がすごいな…いや、カレンに野球部の応援にきて欲しいって」

「応援?」

「ああ、チアリーダーしてくれってことかな?」

「チア…わかった!」

そしてお約束のチアコスを俺に披露してきて、俺はカレンと自分のムスコをおさめるのに朝から必死だった…

そして昼過ぎにピザ屋がどうなったのか気になって、ピザを頼んでみた。

すると…アンはやはり来た…

「束の間の天下だったな…」

「昨日は失礼しました」

「なんか切ないな…借金払えるのか?」

「このあとセミナーいく」

「なんの?」

「高級布団売るやつ」

「もう転落人生まっしぐらだよ!また借金増えるからやめよ!?」

なんに手を出そうとしてるんだ…

「他にもある」

「じゃそっちにしとけ」

「浄水器とか売るやつ」

「いや多分それもおんなじようなやつだぞ!?」

「いやここの石鹸食べれるんだ」

「もう入信しちゃってるじゃないか!」

もう何よりもアンが心配な今日この頃であった…

次回 野球部の試合を観て唖然!?

更にカレンと蓮水さんのダブルチアに男たちが黙っていない!

そして水泳部から新たな刺客が…

俺ももちろん色々と堪能します



















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