30 / 36
第四章 少女冒険者 嵐の前の恋と戦いと
第30話
しおりを挟む
ゼップさんは寄り道を許したが、最強パーティーは僅か5日で帰ってきた。
ハンスさんは、恭しくノルデイッヒのギルドマスターであるトマスさんからの返信の手紙をゼップさんに渡した。
一度、深呼吸をしてから返信の手紙を開いたゼップさんはゆっくりとそれを読み、更に二度三度と読み返してから、大きく頷いた。
「みんな聞いてくれ。わしは直接ノルデイッヒに行って、トマスと直に話すことにした。ついては、わしの護衛をお願いしたい。もちろん、わしから報酬は出す」
「それは僕らをご指名ですか?」
ゼップさんの言葉に、すぐにハンスさんが反応する。
「いや、今回はわしが長期間ロスハイムを不在にする可能性がある。ハンスはクラーラと協力して、ロスハイムのギルドを守ってくれ」
「…… 分かりました。では、ゼップさんが護衛クエストを発注する相手は?」
「6人の臨時編成のパーティーを組んで、そこに護衛してもらいたい。メンバーはわしから指名する」
ゼップさんは、懐からメモを取り出す。どうやら、先にメンバーを選抜していたようだ。
ギルドはしんと静まり返る。ハンスさんに留守の守りを頼む以上、ナターリエさんも留守番の方だろう。なら、誰が行くのだろう?
メモの中身がゆっくりと読みあげられる。
「前衛の中央の戦士。攻撃の要だな。ここは……」
「……」
「クルト」
クルト君が指名された! 思わずクルト君の方を見ると、「え?」という顔をしている。ちょっとー、クルト君! クルト君!
◇◇◇
「クルトッ! 呼ばれたら返事をしろっ!」
ゼップさんが強い口調で言う。
「はっ、はい……]
クルト君は返事はするが、「え? 僕なの?」という表情は変わらない。
擁護すると、「自分なんかまだまだ」という考え方が骨の髄まで染みついている人なのだ。私的にはそこがいいというのもあるのだけれど……
「次に他の前衛っ! 左翼にヨハンッ! 右翼にカールッ!」
「はいっ!」
「はいっ!」
クルト君のことがあったので、次に呼ばれた2人は元気よく返事をする。この二人は夜にクルト君に槍の使い方を教わっている、言わばクルト門下生だ。
「そして、後衛だっ! 第一魔法使いにカトリナッ!」
「はいっ!」
一際、元気な声がギルドを席捲する。自信満々の表情のカトリナちゃん。むむむっ。
「第二》魔法使いにデリアッ!」
「はいっ!」
レベルではカトリナちゃんに及ばないけど、元気の良さでは負けるもんかっ!
チラリとカトリナちゃんの方を覗うと、何とドヤ顔!
くっそー、今は後塵を拝していますが、追い付いてやりますよ。そのうちに……
「後衛の最後、僧侶のパウラッ!」
「はい……」
うーん。ちょっと元気なかったかな? まあ、私とカトリナちゃんが威勢良すぎるという見解もある。現にゼップさんは特に注意もしない。
「以上の6名に『護衛クエスト』を発注するっ! 出発は明朝。各自準備おこたりなきように」
「はいっ!」
◇◇◇
「ふーん。10年後に僕らに肩を並べそうな有望株で固めてきましたね」
腕組をしてしきりに頷くハンスさん。
「それもあるけどね。もう一つ理由があるようだよ」
そんなハンスさんに声をかけるナターリエさん。
「ほう。何か気づいたの?」
「6人の出身地さ。クルト君はロスハイムだけど、デリアちゃんはノルデイッヒの市民権を持っていた。私の姪のカトリナは郊外のカロッテ村出身。ヨハン君とパウラちゃんはシモーネさんがオーベルタールから『武者修行』のため、送り出してきた子たち。カール君はファスビンダーから自ら希望してここに来たんだよね」
「この辺の各都市、村の出身者を出来るだけ漏れのないよう選抜した。つまりこれは……」
「恐らくゼップさんはノルデイッヒのトマスさんとの会談にこの子たちを立ち会わせるつもりだと思う」
「つまりそれは?」
「今回のことをこの地方全体の将来のことと繋げて見据えているのじゃないかな?」
「ふーむ」
◇◇◇
今回は私とカトリナちゃんが2人で一緒にクエストに参加する初めてのケース。
ギルドの受付はアンナちゃんとメラニーちゃんに託した。この2人、シモーネさんがオーベルタールから『武者修行』のため、送り出してきた子の中でも際立って、会計事務が優秀だ。
私とカトリナちゃん抜きで独り立ちできるようになるチャンスである。それにいざとなれば、クラーラさんがいる。うーん。ロスハイムのギルド、層が厚いね。
かくて、ハンスさんの言うところの『10年後の最強パーティー』はノルデイッヒに向かって出発した。
どうかなとも思ったが、ゼップさんはさすが昔取った杵柄。私たちに負けない健脚。これなら歩く方は心配いらない。
戦闘の方だけど、正直、ロスハイムの周辺にいるような「魔物」や野盗はこのパーティーの敵ではなかった。
私とカトリナちゃん、パウラちゃんは全くもって出番なし。
何でって、前衛の3人は敵を確認するや否や突撃。得物たる槍を振り回すわ、突き刺すわで、あっという間に相手を駆逐する。
少し知恵のある「魔物」や野盗は、向こうの方から近づいてこない。
ハンスさんは、恭しくノルデイッヒのギルドマスターであるトマスさんからの返信の手紙をゼップさんに渡した。
一度、深呼吸をしてから返信の手紙を開いたゼップさんはゆっくりとそれを読み、更に二度三度と読み返してから、大きく頷いた。
「みんな聞いてくれ。わしは直接ノルデイッヒに行って、トマスと直に話すことにした。ついては、わしの護衛をお願いしたい。もちろん、わしから報酬は出す」
「それは僕らをご指名ですか?」
ゼップさんの言葉に、すぐにハンスさんが反応する。
「いや、今回はわしが長期間ロスハイムを不在にする可能性がある。ハンスはクラーラと協力して、ロスハイムのギルドを守ってくれ」
「…… 分かりました。では、ゼップさんが護衛クエストを発注する相手は?」
「6人の臨時編成のパーティーを組んで、そこに護衛してもらいたい。メンバーはわしから指名する」
ゼップさんは、懐からメモを取り出す。どうやら、先にメンバーを選抜していたようだ。
ギルドはしんと静まり返る。ハンスさんに留守の守りを頼む以上、ナターリエさんも留守番の方だろう。なら、誰が行くのだろう?
メモの中身がゆっくりと読みあげられる。
「前衛の中央の戦士。攻撃の要だな。ここは……」
「……」
「クルト」
クルト君が指名された! 思わずクルト君の方を見ると、「え?」という顔をしている。ちょっとー、クルト君! クルト君!
◇◇◇
「クルトッ! 呼ばれたら返事をしろっ!」
ゼップさんが強い口調で言う。
「はっ、はい……]
クルト君は返事はするが、「え? 僕なの?」という表情は変わらない。
擁護すると、「自分なんかまだまだ」という考え方が骨の髄まで染みついている人なのだ。私的にはそこがいいというのもあるのだけれど……
「次に他の前衛っ! 左翼にヨハンッ! 右翼にカールッ!」
「はいっ!」
「はいっ!」
クルト君のことがあったので、次に呼ばれた2人は元気よく返事をする。この二人は夜にクルト君に槍の使い方を教わっている、言わばクルト門下生だ。
「そして、後衛だっ! 第一魔法使いにカトリナッ!」
「はいっ!」
一際、元気な声がギルドを席捲する。自信満々の表情のカトリナちゃん。むむむっ。
「第二》魔法使いにデリアッ!」
「はいっ!」
レベルではカトリナちゃんに及ばないけど、元気の良さでは負けるもんかっ!
チラリとカトリナちゃんの方を覗うと、何とドヤ顔!
くっそー、今は後塵を拝していますが、追い付いてやりますよ。そのうちに……
「後衛の最後、僧侶のパウラッ!」
「はい……」
うーん。ちょっと元気なかったかな? まあ、私とカトリナちゃんが威勢良すぎるという見解もある。現にゼップさんは特に注意もしない。
「以上の6名に『護衛クエスト』を発注するっ! 出発は明朝。各自準備おこたりなきように」
「はいっ!」
◇◇◇
「ふーん。10年後に僕らに肩を並べそうな有望株で固めてきましたね」
腕組をしてしきりに頷くハンスさん。
「それもあるけどね。もう一つ理由があるようだよ」
そんなハンスさんに声をかけるナターリエさん。
「ほう。何か気づいたの?」
「6人の出身地さ。クルト君はロスハイムだけど、デリアちゃんはノルデイッヒの市民権を持っていた。私の姪のカトリナは郊外のカロッテ村出身。ヨハン君とパウラちゃんはシモーネさんがオーベルタールから『武者修行』のため、送り出してきた子たち。カール君はファスビンダーから自ら希望してここに来たんだよね」
「この辺の各都市、村の出身者を出来るだけ漏れのないよう選抜した。つまりこれは……」
「恐らくゼップさんはノルデイッヒのトマスさんとの会談にこの子たちを立ち会わせるつもりだと思う」
「つまりそれは?」
「今回のことをこの地方全体の将来のことと繋げて見据えているのじゃないかな?」
「ふーむ」
◇◇◇
今回は私とカトリナちゃんが2人で一緒にクエストに参加する初めてのケース。
ギルドの受付はアンナちゃんとメラニーちゃんに託した。この2人、シモーネさんがオーベルタールから『武者修行』のため、送り出してきた子の中でも際立って、会計事務が優秀だ。
私とカトリナちゃん抜きで独り立ちできるようになるチャンスである。それにいざとなれば、クラーラさんがいる。うーん。ロスハイムのギルド、層が厚いね。
かくて、ハンスさんの言うところの『10年後の最強パーティー』はノルデイッヒに向かって出発した。
どうかなとも思ったが、ゼップさんはさすが昔取った杵柄。私たちに負けない健脚。これなら歩く方は心配いらない。
戦闘の方だけど、正直、ロスハイムの周辺にいるような「魔物」や野盗はこのパーティーの敵ではなかった。
私とカトリナちゃん、パウラちゃんは全くもって出番なし。
何でって、前衛の3人は敵を確認するや否や突撃。得物たる槍を振り回すわ、突き刺すわで、あっという間に相手を駆逐する。
少し知恵のある「魔物」や野盗は、向こうの方から近づいてこない。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
名前を書くとお漏らしさせることが出来るノートを拾ったのでイジメてくる女子に復讐します。ついでにアイドルとかも漏らさせてやりたい放題します
カルラ アンジェリ
ファンタジー
平凡な高校生暁 大地は陰キャな性格も手伝って女子からイジメられていた。
そんな毎日に鬱憤が溜まっていたが相手が女子では暴力でやり返すことも出来ず苦しんでいた大地はある日一冊のノートを拾う。
それはお漏らしノートという物でこれに名前を書くと対象を自在にお漏らしさせることが出来るというのだ。
これを使い主人公はいじめっ子女子たちに復讐を開始する。
更にそれがきっかけで元からあったお漏らしフェチの素養は高まりアイドルも漏らさせていきやりたい放題することに。
ネット上ではこの怪事件が何らかの超常現象の力と話題になりそれを失禁王から略してシンと呼び一部から奉られることになる。
しかしその変態行為を許さない美少女名探偵が現れシンの正体を暴くことを誓い……
これはそんな一人の変態男と美少女名探偵の頭脳戦とお漏らしを楽しむ物語。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる