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本編
弟の叱責
しおりを挟むドアに体当たりしているのか、ガンガンと鳴る音は一向に止みそうもなかった。
「おいおい。どうすんだよ、これ」
一人の男が未央ちゃんに目線で問いかける。
「そのうち諦めてくれればいいけど・・・」
すると音はピタリと止んだが、すぐに今度はカチャカチャと違う音が鳴り出した。
「え~これやばくね?ピッキングしてんじゃないの?」
チッと舌打ちした未央ちゃんは椅子から立ち上がり男たちに命令した。
「しょうがないわね、迎え撃ちましょう」
その言葉とほぼ同時に鍵がガシャンと開き、ドアが開いた。
男たちはナイフを取り出し、その人物へと襲いかかった。
「あ、開いた。って、えー!」
ドアの向こうからは呑気な声が聞こえてきた。あの声は橘くん!!
縋るような気持ちでドアの方に目を向けると、いるはずの橘くんじゃなく万里くんが飛び出していた。
「リリィ!!!」
男の一人を投げ飛ばし、一目散に私の所へ駆け寄ってきた万里くんは私をギュッと抱きしめた。
「う・・・う゛ぅ・・・」
来てくれた、助けに来てくれたーーー!
溢れる涙が万里くんの姿を隠す。
口に巻かれていた布を取ってもらい、万里くんのカーディガンを掛けられた。
「うっうっ・・・ごわ゛がっだ・・・!」
「うん、もう大丈夫だからね」
優しく頭を撫でられ、安心からか更に涙が溢れて止まらない。
「ヴァーデン様・・・!なぜここに・・・」
未央ちゃんが呆然としながら呟いた言葉に、ピクリと万里くんは反応した。
「そうか・・・お前か、クロエ」
私を抱きしめたまま未央ちゃんに冷たい視線を向けた時
「万ちゃん!後ろ!!!」
橘くんの絶叫と共に万里くんに投げ飛ばされた男が、万里くん目掛けてナイフを振り上げていた。
「このクソガキがぁぁぁぁぁ!!!」
「だめ!ヴァーデン様には手を出さないで!!」
未央ちゃんが叫んだ時、万里くんは私をギュッと抱きしめた。
そのすぐ後男の勢いと、ナイフが刺さった衝撃で私たちの身体はビクリと動いた。
ーーいや、動いたのは万里くんだけだ。
顔を歪ませ、私の頬にゆっくり手を当てた万里くんは心無しか喜んでいるように見えた。
「今度は・・・ちゃんと守れた・・・愛してるよ、リリィ・・・」
万里くんはそれだけ言うとガクリと力が抜け、目を閉じた。
「え・・・やだ、ちょっと。万里くん・・・?」
目の前で起きた事が信じられず、揺すってみても反応はない。
「いやぁぁぁ!ヴァーデン様ぁぁぁ!!」
未央ちゃんの叫びも私の耳には届かなかった。
✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼
その後すぐに警察と救急車が駆けつけ、万里くんは病院へと運ばれていった。
私も念の為にと女性警察官の付き添いの元、病院で診断を受け、右肩の打撲と両手足の軽い擦り傷で済んだ。
これで済んだのもーー全部万里くんのおかげだ。
病院の一室で警察官に「今はまだ動揺しているだろうから」と気を遣って貰い、少し話をしただけだった。
その間私の心はポッカリと穴があいたように無感情だった。
「百合亜!!無事で良かった・・・!」
駆けつけた両親に抱きしめられ、泣いているお母さんを見て初めて心が揺れ動いた。
「お母さん・・・あのね・・・」
「うん・・・」
「万里くんがね・・・私を庇って・・・・・・刺されちゃって・・・」
そこまで言うと私の目からは涙が溢れて止まらなかった。
「死んじゃったらどうしよう・・・・・・!」
お母さんの服をギュッと握り私は大声で泣いた。
万里くんは緊急手術となったけど、幸いにも臓器は傷ついておらず暫く入院となった。
万里くんたち家族も駆けつけており、何を言われるかわからないから両親が変わりに謝ると言ってくれたけど、私はそれを断った。
「この度は・・・私のせいで万里くんがこんな事になってしまい・・・本当に申し訳ありません」
深く頭を下げる私たち親子を菫さんは慌てて止めに入る。
「百合亜ちゃんも被害者なのよ!謝る事ないわ!」
「そうだよ、万里の怪我は百合亜ちゃんのせいじゃない。藤井さんのせいだ」
千万さんもそう言ってくれるけど、私が捕まらなければこんな事にはならなかった。私に責任がないというのは違う気がする。
「でも・・・」
「そうだよ!お前がこんな事になったから兄貴は大怪我をしたんだ!!!!」
万純くんは今にも泣きそうな顔で私に詰め寄った。
「ごめんなさい・・・本当に・・・ごめんなさい」
「謝ったって何も変わらないんだ!もう二度と兄貴に近づくな!!!」
「万純!!!」
「・・・・・・わかりました」
私たちはもう一度深く頭を下げて病院を後にした。
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